FULL CONFESSION(全告白) 40

GEN TAKAHASHI
2023/10/22

基本的に映画作家・GEN TAKAHASHIの作文。

第40回 『相棒』の闇 ③


誰が得をするか?

 本稿、前回までの①②を読んだ映画・映像業界スタッフや、一般の『相棒』ファンの方、また名は明かせないが東映社員の方からも、本稿への賛同、応援メッセージが届いている。
 でも私はインフルエンサーではないし、一介の売れない映画屋なので、世間で話題になるような反響を呼ぶわけもない。
 では、なぜ私がこの問題を告発するのか?前回までにも理由を述べたが、少し違った角度から説明しておきたい。

 私が本稿を公開したことで、映画業界での友人のひとりが「これを告発することで、映画人としての君の、何かの助けになるのか?この業界が黒いことは、みんな知っているじゃないか」とのメッセージをくれた。
 だが「みんな知っている」のは、私を含めた業界の内側にいる人間だけだ。彼も映画人だから「今更、こんなことを暴露してなんになる」と思ったのだろう。私は彼に反論とまではいかないが、少し詳しく理由を返信した。すると彼は納得してくれて「それなら案外、東映も協力するんじゃないか?」との追伸を送ってくれた。

 映画・映像制作業界のスタッフの給料が安くて、残業代ナシの過重労働が当たり前だというのは、そのとおりだ。もちろん「そのとおり」とは肯定する意味ではない。
 日本では、多くの映像制作現場のスタッフが、安い給料なのに残業代もナシ、休みもナシの過重労働を余儀なくされている。だが、そこで働くスタッフは、アームのような違法契約や誓約書を書かされてはいない。

 私が強調したいことは、本稿で私が告発したアームのような「半グレ」同然の犯罪行為でスタッフを働かせているケースなどは、「ブラックで当たり前」の日本映画業界歴38年(今年で39年目)の私でさえ、初めて知った悪性の高さだという事実である。
 実際、ベテランのスタッフや、名は言えないが誰でも知っている大女優さんも「撮影所の中に、こんなひどい会社があるとは」と、本稿を読んで驚いていた。

 ついでに明かすと、かの2大週刊誌も、本件について私を取材している。「文春」と「新潮」である。
 どちらも、私の話を聞いた出版業界の人からの紹介で会い、1誌が「出版社として、水谷豊氏と商流上の関係があるから、この件は水谷氏自身の問題ではないが『相棒』は扱いにくい」との編集長判断で、記事化は見送られることになった。担当記者は非常に乗り気だったこともあって、わざわざ謝罪の電話までくれた。記者も会社の人間である以上、こういうことはよくある話だ。
 もう1誌はスタンバイ状態だったのだが、私が無断で先に公開したので、掲載はそのまま見送りとなったはずだ。担当記者は怒ったかもしれない。
 これには理由があって、同誌編集部の会議で、本稿に登場する違法人材派遣会社・アームの社員からの「記事化の許諾を待ちましょう」という結果になったからだ。

 だが、私が本稿①②で写真を公開した、アームの不法行為の証拠である「誓約書」を私に提供してくれたスタッフは、すでに私の連絡に応答しない状況になっていた。
 もしかしたら、本稿での告発を知ったアームの人事部長で元映画監督・草刈や東映TVPから、監視されているかもしれないし、最悪の場合はさらに脅迫されているかもしれないと考えるのは、アームの凶悪さからしても飛躍ではなかろう。
 だから週刊誌には悪かったが、私としては、早い方が良いとの自己責任で『相棒22』放送開始当日に、本稿記事を公開したのである。
 本稿は、連絡が途絶えている東映撮影所スタッフたちにも送信しているから、アームの不法行為を私に証言したことで、なんらかの報復をされたときの防御方法を、この記事を通じて、当該の被害スタッフらに伝達する目的もあった。

 だから、この告発は「誰が得をするか?」などという程度の低い問題ではない。
 音信不通となった本件スタッフたちにしても、私が暴走していると思っているかもしれないが、自分から「アームを辞めたい」と私に相談したからには、本稿告発の行方を見守っている可能性もある。
 もしも、そのスタッフらが「余計なことを」と私を恨むなら、「どうぞ、そのまま不当な奴隷労働を続けてアームの資金源になってやれよ」と言いたい。

 少なくとも私は、『相棒』を自らの申し出で降板し、本来なら半年先まで続いた高額な月額報酬(具体的な数字は最終回で明かす)をも捨てているので、得するどころか大損したにきまっている。

違法のオンパレード

 前置きが長くなったが、今回の本題に入る。
 繰り返すが、アーム(というか人事部長・草刈)がスタッフに書かせた「誓約書」は明らかに違法私文書で、社員に対してこれを合意させたことは労基法ならびに強要罪ほか、刑法に反する不法行為である疑いが極めて強い。
 具体的にどの法令に違反しているかを一覧にすれば以下のようになる。

労働基準法16条 賠償予定の禁止
労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額の予定をする契約を締結することを禁止する。
※アームは「誓約書」8項で「入社後1年未満で退社することになった場合は、貴社(アーム)が育成費用で被った損失金を払い、貸室賃貸借書に基づき違約金を払うことを約束いたします」と記載している。明白な法令違反だ。こんな契約をさせる会社は、もはやカタギではない。

刑法223条 強要罪
不法労働契約に合意する誓約書に署名させた強要罪

※捜査によっては脅迫罪もあり得る

さらに
派遣労働者法違反
同法第31条の2 待遇に関する事項の説明 違反
同法第33条   派遣労働者に係る雇用制限の禁止 違反
同法第34条   就業条件の明示 違反
同法第34条の2 労働者派遣に関する料金の額の明示 違反

 
ならびに
労働基準法違反
同法第32条 法規労働時間 違反
同法第37条 時間外、休日及び深夜の割増賃金 違反
同法第39条 年次有給休暇付与義務 違反

 
 もちろん、私は法律家ではないし労基署職員でもないので、詳細な部分については法律構成が違ってくる余地もある。
  しかし、これだけの違法条文が並んだ「社員契約の誓約書」など、見たこともない。これが、人気ドラマ『相棒』に主要スタッフを送り込んでいる人材派遣会社アームが恒常的に行っている不法行為の実態だ。

どちらがウソをついている?

 8月23日、私は『相棒』からの降板を告げるために、東映TVPライン・プロデューサ―の山崎と、最後の晩餐ならぬ最後の面談を、東映東京撮影所・本館2階の会議室で行った。
 そこで私は、問題のアーム「誓約書」について、山崎に質問をした。すでに証拠の写真を保有していたが、山崎がなんと答えるかを確認する目的からだ。
 私は談笑を演じながら「噂で聞いたけど、アームは1年で辞めたら違約金を払えなんていう誓約書を書かせるらしいじゃないか」というと、山崎は、失笑しながらこう答えた。

山崎
「ああ、それは2世代前(2年前)までの話で、いまはないです。改善してます。以前に誓約書を書かせた社員たちには、アームから「違約金とかの契約条項は無効だからね」と口頭で通知して改善したと、アームから聞いてます」

 何度もいうが、そもそも「契約条項」だの「改善」などという話ではなく、アームの既遂犯罪のことを言っているのだが、山崎には、アームの不法行為の重大さがまったく理解できていないようだった。
 山崎の話は、あくまでも「アームから改善したと聞いている」ということだった。
 そこで私は、2年前(2021年)以後にアームに入社した社員スタッフに確認をした。そのときのLINEの記録が以下である。


「おはようございます。先日のアームの誓約書の件ですが、藤田社長か「草刈氏」に「あの誓約書(1年以内に辞めたら違約金等)は無効になったからね」と通知されましたか?今年になってから。」

スタッフ
「いや、自分は聞いてないですね」

 このLINEでのやりとりは、私と山崎との最後の面談から2日後のものだが、相手は「誓約書」が廃止されたはずの、2021年以降にアーム社員となった人物だ。存在しない違法「誓約書」に署名できるはずがない。

 つまり、山崎の話がウソか、アームが山崎に虚偽報告をしていたかのどちらかになる。

疑惑の東映TVP

 では、アームが「誓約書は廃止しました」と東映TVPに嘘をついていたのか?

 本稿①で述べたように、私は東映TVPを信じたい気持ちの方が強い。しかし、過去の山崎のメールには、疑惑を持たざるを得ない部分があった。
 本稿①冒頭に述べたとおり、私は就労2カ月目の8月末で『相棒』を降板したが、実は最初の7月末で降板する意向を山崎に告げていた。 
 それは、すでに仕事を始めていた私自身に対して、アームからも東映TVPからも、なんらの契約書面が送られてこなかったからだ。
 
 ただ、この業界では、制作実務が先行して、報酬交渉や契約手続きがあとになるということは珍しくない(それが当業界の根本的な問題なのだが、ハリウッドでもよくある話だ)。
 特に撮影所での制作は、誰かの紹介で初めて入れる種類の仕事だから、人間関係ありきとなる。東映での仕事が初めてのスタッフでも「まあ、報酬はこんな額になるんだろうな」という、業界での相場観(前回②参照)をあらかじめ共有しているから、余程のことでもない限り「口約束」で済ませている業界ではある。
 法律実務においても、「契約」とは、契約書という紙切れがなければ成立しないわけではない。「口約束」も法律上、契約と認められるケースは普通にある。

 しかし、今回の『相棒』は私にとって初めての東映TVPとの仕事だったし、第一、派遣元はアームのはずが報酬額を提示せず、派遣先の東映TVPが私と金額交渉をして決定しているのだから、最初からおかしい。
 それで私は「契約書がないのは、どういう理由か?」というメールを山崎に送り、返答がなければ7月末で降りる旨を告げていたのである。

 この私の意向に対する、山崎の返信が以下だ。

山崎(メール抜粋)
「いまのところ、口頭のみで進めてしまっているのが現実です。
契約手続きの整備されていない状況については、弊社の喫緊の課題として、確立する作業を開始しているところです。
今回の不備に関してはどうかご容赦いただきたく、伏してお詫び申しあげます。
どうか、今後ともお力添えのほど、よろしくお願い申し上げます」

 このときは、私はまだ問題の「誓約書」を知らなかったので、山崎の誠意を認めて、とりあえず、簡単な条件を相互確認したメールだけで、それ以上は言及しなかった。
 すでにスタートしていた『相棒』で、ライン・プロデューサ―の山崎が忙殺されているだろうことも容易に想像できたので、事後対応で良しとしたのである。

 だが、いまになって読み返してみると、山崎のこのメールには、不可解な点がある。
弊社の喫緊の課題として、確立する作業を開始しているところです」
 えーと?東映TVPでの「喫緊」が、どれくらいの緊急性のことを意味するのか、私には想像もつかないが、2年前にアームの違法「誓約書」を廃止したというからには、そうするしかないマズイ事態があったはずで、それが労働契約に関する問題であったことは想像できる。

 それなら、東映TVPとしての、派遣労働者に対する労働契約の整備状況や、その実施についても見直され、スタッフの労働契約問題は、とっくに改善されていて当然ではないだろうか?労働契約問題は、アーム側だけに義務がある話ではないのだから。
 本稿②に既述のとおり、東映は『相棒』も担当したことがある元東映社員女性からも、2年前に、セクハラと過重労働による残業代未払い問題を告発されて、マスメディアに書かれている。

 それが、いまになっても、「契約書はないのか?」と私に聞かれてから「弊社の喫緊の課題として、契約手続きを確立する作業を始めたところ」などと答えているのだから、「喫緊」どころか、東映TVPは「契約手続きの整備」などやる気もなく、すべての契約を「口頭」でやっていると開き直っているのと同じではないか。
 水谷豊氏との出演契約も、社外から入っている撮影などの技術会社との契約も「口約束」なのか?そんなはずはないだろう。企業として、きちんとした契約書は「相手を選んで」締結しているはずだ。

 要するに、アームの人材に関してだけ、契約書が存在していないのではないか?
 その理由は、アームと東映TVPの法律上の立場や、責任の所在を曖昧にしておきたいという、両社の思惑だろう。すべては慢性的に不足しているスタッフを掴まえるためだ。
 どう考えても東映TVPが、アームの不法行為を知らないはずがない。山崎は「あの誓約書は、2年前になくなったと聞いています」などといったが「聞いた」だけでどうするんだ?なぜ、明確に「廃止されました」と言えない?
 また、なぜ派遣先事業者の東映TVPが、私の報酬を決めて、その銀行振込だけはアームがやっているのか?という、不可解な役割分担についても、結局、アーム社長・藤田氏も、山崎も明確に答えなかった。

さらに疑惑の、元映画監督・草刈の呆れた言い訳

 ただ、おもしろいことに、アーム「人事部長」で元映画監督・草刈だけは、私の質問に明確に答えていた。


「どうして、派遣先の山崎が私のギャラを交渉するんですか?私の派遣元はアームでしょう?」

草刈
「藤田(アーム社長)は、映画とか業界事情がなにもわからない人間だから、山崎に決めさせた方が早いから。それで決まった金額が、東映TVPからアームに払われて、アームが手数料と税金を引いて、振込しますので」

 何をいっているんだ、こいつは?と、私は内心で唖然としながら、草刈の説明を聞いていた。

 百歩譲って、そのやり方が適法だとしても(完全に違法だが)、それならそれで「アームが派遣した労働者の報酬は、派遣先の東映TVP山崎が決定し、その金額に応じた派遣手数料を加算した金額を、東映TVPがアームに支払い、アームが手数料と税を差し引いて労働者に振込入金する」とした、労働契約書を私に渡せばよかろう。
 だが、書面の交付は一切ない。実質的には、東映TVPとアームによる共同不法行為となる疑いが強い現状のままなのだ。
 
 続いて私は、草刈に「東映撮影所の事情や業界のことなら、先輩(草刈)が一番詳しいんだから、先輩がスタッフのギャラ交渉をやったらいいのに」といった。実際にも、それが派遣元であるアームの義務だ。
 ところが、草刈はとんでもないことを口走った。

草刈
「そこまで、おれがやったら、身体が辛いから」

「この野郎、何か隠してやがるな」と、私が最初に確信したのが、これら草刈による「明確だがデタラメ」な説明を聞いたときだったのである。 
 なにも隠していないなら、法学部卒で仮にも人材派遣会社の「人事部長」だという草刈は、基礎的な労働関連法さえ知らないということになる。
 だが、いくら草刈が無知だとしても、あの「誓約書」が違法だということくらいは承知のはずだ。だから、書面の写しを社員に渡さない(まあ、渡しても渡さなくても無効だが)。

 では、そもそも「映画・ドラマ制作のことを何も知らない」社長が経営する不法人材派遣業者・株式会社アームとは、いったい、どういう会社なのだろうか?

次回、『相棒』の闇 ④に続く
(たぶん⑤くらいまであるんじゃねえか?笑)

 

 
 

 


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