FULL CONFESSION(全告白) 38
GEN TAKAHASHI
2023/10/18
基本的に映画作家・GEN TAKAHASHIの作文。
第38回『相棒』の闇 ①
はじめにーなぜ私は告発するのか?
本日、2023年10月18日(水)21時から、テレビ朝日で『相棒 season 22』というテレビドラマが放送開始となった。
水谷豊主演の、国民的人気を誇る長寿ドラマだ。今年で22年目になるという。水谷豊氏の高齢もあって、今作がシリーズの最終章になるとの噂も出ている。
さて私は、今回の新シリーズ「season 22」の第1話から4話まで、主要スタッフのひとりとして関わっていた。
このドラマは、業界でいう「2クール」という半年間の放送になるので、撮影も来年2月まで続くことになる。だが私は、今回の新シリーズの撮影開始から、わずか2カ月で自分から降板した。
理由は、本作ドラマ制作の現場となっている「東映東京撮影所」の裏側に「相棒の闇」とでも言うべき、不法労働契約問題があることを知ったからだ。私には、ずるいことをやっている企業の仕事でカネをもらう趣味はない。
それに不法労働契約というと、そう大した法令違反ではないと思われるかもしれない。ドラマに限らず映画やテレビの仕事では、長時間にわたる撮影で休日もないことなどは珍しくはなく、仰々しく「闇」などと書くなよというかもしれないが、私が本稿で明らかにする「相棒の闇」は、それほど単純な問題ではない。
本稿の主旨を先に述べると、ドラマ『相棒』の制作現場となっている東映東京撮影所にスタッフを派遣している「株式会社アーム」という、謎の人材派遣会社による、労働基準法違反、派遣労働者法違反、若いスタッフに違法な誓約書を書かせて社員にするという強要罪についての問題を告発し、同社と長年の癒着関係にある東映グループの体質改善を訴えることにある。
第一、『相棒』は警察官が活躍する話だ。水谷豊氏が演じる主人公・杉下右京が犯罪を暴いて、犯人に説教する勧善懲悪のストーリーで高視聴率を誇っている。そのドラマが、長年にわたって刑法に違反する不法行為のもとで制作されていたとなれば、ファンと社会を裏切る、いや、主演俳優・水谷豊氏をも裏切る大罪というべきだろう。
ここで明かしておくが、私はすでに、信頼できる東映執行部社員を通じて、東映法務部および東映法律顧問(MTI総合法律事務所/六本木ヒルズ森タワー)とも面談のうえ、本件「相棒の闇」問題を共有している(もっとも東映がコーポレート・ガバナンスに基づいて、本件問題の解決に向けて誠実に対応するかどうかは今後の東映次第だが)。
つまり本稿は、ドラマ『相棒』についての、事実無根の誹謗中傷ではなく、東映本社もテレビ朝日も、おそらくは承知していない、東映東京撮影所の裏に隠れている不法行為を告発する公益通報である。
その端緒が、たまたま私が参加した『相棒』新シリーズであったことから「相棒の闇」と表題したが、本稿は『相棒』に限らない「株式会社東映テレビ・プロダクション(以下、東映TVP)」のドラマ制作すべてにかかわる、労働法違反、人権侵害被害についての報告である。
無論、この問題は『相棒』の提供スポンサーとして名を連ねる、後述の優良企業にも飛び火することも危惧される、極めて重大な事態である。
新たな試み
始まりは本年6月だった。
今年後半に予定していた私の映画が、脚本の改稿や主演俳優のスケジュール調整で来春になったところで、業界の知人を通じて、東映TVPで人手を探しているとの話をもらった。
それで大泉学園(東京都練馬区)にある東映東京撮影所に行って話を聞くことになった。私は、38年前の19歳のとき(昭和59年)に、この撮影所から映画人としてのスタートを切った。
ウィキペディアでの私の来歴に掲載されているが、私の祖父・薮下泰司(日本初の長編カラーアニメ映画『白蛇伝』監督)が東映動画(現・東映アニメーション)の創立メンバーで監督兼取締役製作部長という役職でもあったから、この撮影所は私には特別な場所でもある(昔は実写映画の撮影所の向かいに東映動画があった)。
話を聞いてみると、東映TVPが「人手を探している」とは、助監督や制作部として働く若手の人材を急募しているということだった。
助監督という仕事は一般人でも想像できると思うが、制作部というパートがどんな仕事をするのか、普通の人はご存じないだろう。制作部とは、たとえばロケ場所を探して撮影許可を得たり、ロケ弁や宿泊先を手配したり、スケジュールを組み立てるチーフ助監督と一緒に、複雑なパズルのような撮影予定を作って、キャスト・スタッフ全員に配ったりする、身の回りのお世話係といって良い。
トラブルを回避しながら円滑な現場を推進する、むしろ他のどのパートよりも重要な役割を担っていて、プロデューサーというのは、制作部での下積みを経ていなければ務まらない。
さて、私は2020年3月から脳梗塞患者で、見た目は普通だが右半身の全部が麻痺した状態のままなので、肉体労働の助監督や制作部としては、ほとんど役に立たない。普通なら「まあ、頼める仕事はないですね」と終了になるところだ。
だが、今作シリーズの『相棒』では、もの凄くおもしろい試みをやろうとしていたライン・プロデューサーがいた。仮に「山崎」としておこう。ライン・プロデューサーというのは、現場となる撮影所で現場の動きをチェックする、いわば、プロデューサー直属の部下だ。
この山崎が、私に提案したものは「テキスト・アートディレクター」という仕事だった。
ドラマの劇中に出てくる架空の新聞記事やニュース番組、架空の社名、警察の捜査資料から、殺人事件の死体解剖書など、あらゆる文字情報(テキスト)を管轄し、執筆もするという、ドラマ全体を演出する作品の監督と連携する、新しいパートとして、山崎が着想したものだ。
「テキスト・アートディレクター」という造語は、「文字情報の創造性を監督する」という意味で、私の20年来の友人で、米国人女性映画監督・大神田リキのアイディアから命名された。ちなみに、彼女も昔『相棒』のスタッフとして働いたことがある。
こうして『相棒』ライン・プロデューサ―山崎と私は「テキスト・アートディレクター」を略称・TADと呼んで、現場に定着させようと計画した。
ともあれ、『相棒』新シリーズの4話までは、私と東映の契約で、番組最後のクレジットタイトルに「テキスト・アートディレクター 高橋玄」と表記されることになっている。
この新たな試みについて、山崎は「これは働き方改革の一環として発想したんです」と私に語った。このことは、後に大きな意味を持つことになる。
映像制作業界のどの現場でも、劇中に出てくる新聞記事や架空の捜査資料などの原稿は、すべて助監督が書いている。助監督は、撮影が終わってヘロヘロになって自宅に帰っても、次の撮影のためにこうした原稿を書かなければならない。それでも翌日に撮影があれば、下っ端として一番早く集合場所に行かなきゃならない。寝不足だ。
事実、助監督たちが休みの日には、遊びに行く気力も体力もなく、ひたすら寝ているのが普通である。撮影所で働くスタッフほど映画を観ていない理由のひとつでもある。自分の時間がないのだ。こうなるとクリエイティヴではなく、単なる作業でしかない。
こうした矛盾と、末端スタッフたちの残業の負荷を削減する目的から、山崎は「テキスト・アートディレクター」という試みを考えたのである。
私が、自分の専門外であるテレビドラマ『相棒』の仕事を受けたのは、業界初となる、この新たな試みを提案されたことが最大の理由だ。私は、映画企業に雇われるテレビドラマ監督と違って、自社で映画を作っているから、無理して東映に雇ってくれと懇願する立場にはない(私の監督作は、ぜひとも、U-NEXTやAmazon等の配信でご覧ください=ここは宣伝)。
不法労働契約を強要
ところが、この『相棒』の撮影準備中に、私は驚きの事実を知ることになった。
それは、東映東京撮影所内にある人材派遣会社・株式会社アーム(以下「アーム」)が、不法労働契約によって新入社員を縛りつけ、『相棒』で働かせていることだった。アームは、一般の人材派遣会社とは異なり、東映撮影所専門にスタッフを派遣する小規模な法人だが、実態は100%違法な人材派遣業者だ。
この事実は『相棒』今作シリーズのスタッフとの話から判明した。雑談の中で「君は最終的に監督を目指しているのか?」と聞いた私に、歳若いアーム社員スタッフは「自分はフリーランスになりたいんです」という。
それなら会社(アーム)を辞めればいいだけだろうと言うと、その社員は「こういう契約になっていて、いま辞めたら違約金を払わされるので」というではないか。この若き社員は、労働基準法にまったくの無知であったばかりか、そもそも「辞めるならカネを払え」などという社員契約が、社会で通用するはずがないことさえ知らないようだ。
「それが本当なら、100%のブラック企業だ。その契約書は持っているか?」と私が尋ねると、若いスタッフは、アームが作成した不法労働契約の「誓約書」を撮った写真を私に送ってくれた。それがこれだ。
これは新入社員契約をしたスタッフが、機転を利かせて、署名する前に撮影しておいたものだ。なにか不審さを感じたのかもしれない。案の定、アームは労働契約書も、この誓約書の写しも一切の書面を交付しなかった。
これが人気ドラマ『相棒』で働く一部のスタッフが置かれた状況であることを、改めて考えて頂きたい。
制作の東映やテレビ朝日、日産自動車やキューピーなど、同番組を提供している国際的なスポンサー企業は、この問題を「大したことではない」と言えるのだろうか?
特に上掲「誓約書」の「6」「8」「9」は、奴隷契約といっていい、刑事訴訟法上の強要罪となる疑いが極めて強い内容だ。
アームはこうした悪質な誓約を、まだ右も左も判らないながらも東映撮影所に大志を抱く若者たちに強要し、心理的に「逃げられないように」拘束していたのである。勿論、このような契約は元から無効だから、何人(なんびと)も従う義務がない。
なぜアームがそのようなことをするか?それは人材派遣によって、東映TVPから派遣手数料を得られるからであり、派遣したスタッフがすぐに辞めては、アームに対する東映の評価が低くなるからだろうと想像できる。
現役映画監督の私にも平然と不法契約
ちなみに、私は東映TVPの山崎から仕事の提案と説明を受けて賛同し、『相棒』の主要スタッフを引き受けることになったわけだが、私の雇用元はアームである。
前述した「東映撮影所で人手を探している」との話を私に持って来た業界の知人も「人材派遣会社」であるアームの人間だったのである。
つまり、私は人材派遣会社であるアームと契約し、私が派遣される仕事場が東映TVP制作の『相棒』ということになる。
この場合、私の報酬金額は派遣元であるアームと私が交渉して決める。そのうえで仕事の指揮命令は、派遣先の東映TVPが行う。
これは労働者派遣業法に定められている法令で、本件の場合、人材派遣会社であるアームは、報酬(労働賃金)や契約期間などの労働条件を記載した「就業条件明示書」を私に交付する義務がある。社員契約の場合は「労働条件通知書」となる。
ところが、アームからは就業条件明示書はおろか、仕事が始まる1週間前になっても報酬の金額さえ提示されなかった。
東映グループは、こんなデタラメな人材派遣会社でスタッフを調達しているのか?
私は『相棒』が始まる前から、明らかにおかしい東映専門の人材派遣業者・アームを大いに疑っていたので不法行為の証拠を集めることにした。
まずアーム代表の藤田高弘氏に電話をして、その会話を録取。藤田氏は、自らを人材派遣会社だと名乗りながら「報酬の金額を早く決めてくれと東映に言ってるんですが」などと言っている。あり得ない話だ。私が法律を知らないとでも思っているのか、もしかしたら藤田氏自身が法律を知らないまま人材派遣業をやっている可能性さえある、堂々たる不法行為ぶりである。
私は詳しいことは知らないふりをしながら、次に派遣先である東映TVPの山崎を相手に、報酬金額の交渉をすることにした。
なぜか?山崎が「報酬金額などの条件は派遣元のアームさんとの話になりますよ」と言えば、東映に問題はないが、もし山崎が私の報酬条件を切り出したら、東映TVPとアームの共同不法行為が成立するからである。
果たして『相棒』の仕事が始まる3日前になって、派遣先の東映TVP・山崎は私に電話をしてきて、こう言った「高橋さんの報酬ですが月額○○万円でご提示させて頂けないでしょうか?」。
人気テレビドラマ『相棒』を制作している、東映TVPもブラック企業であることが判明した瞬間だった。
次回、『相棒』の闇 ②に続く
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