(社説)辺野古代執行 何が公益かが問われる

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 自治体の権限を奪う「代執行」は、地方の自己決定権の否定につながる。国は回避策を真剣に考える局面だ。

 米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、国が工事の設計変更を県に代わり承認する代執行に向けた訴訟が30日、福岡高裁那覇支部で始まる。

 先月の最高裁判決で、県が承認する義務が確定したが、玉城デニー知事が承認しないため国が提訴した。国が代執行に踏み切れば初となる。

 たしかに国の業務を自治体が担う法定受託事務の場合、大臣が代執行できる規定が地方自治法にある。ただ、(1)他の方法での是正が困難(2)著しく公益を害する――という要件を満たすことが必要だ。

 (1)については、対話に背を向け続けてきた国の姿勢が、厳しく問われよう。

 設計変更申請が出る前の19年6月以降、県が国に求めた対話の要請は10回を超える。復帰50年の昨年5月には知事が岸田首相に会い、10月には官房長官に集中協議を提案。防衛相や沖縄・北方担当相にも要望を重ねた。これらに正面から応じず「他に方法がない」となぜいい切れるのか。

 (2)について国側は「国の安全保障と普天間飛行場の固定化の回避」を「公益上の重大な課題」とし、不承認は「外交・防衛上の不利益」だと指摘する。一方の県は、工事が延びており、「普天間の危険性の早期除去」を図るとする根拠は崩れたとし、投票者の7割以上が反対した県民投票などから「県民の民意」こそが公益だと反論する。

 何が公益にあたるのか。地元の視点を抜きに決めつけることは無理がある。

 民主的な行政の確保を掲げる同法の趣旨に照らし、本来、代執行には抑制的であるべきだ。だからこそ同法は厳しい要件に加え、事前に国が司法の判断を求める規定を設けている。その可否は裁判所が厳格に審査すべきだ。

 国のおこす代執行訴訟は現行制度下で2回目。15年にはやはり辺野古を巡り、当時の知事の「埋め立て承認取り消し」の撤回を求めた。この時は裁判所の勧告で和解が成立したが、結局は和解後も対話は進展せず、争いが続いた。

 旧制度下では1995年、当時の知事が、民有地を米軍に使わせるために地主に代わって署名するのを拒否。訴訟を経て、国が土地の使用手続きを進めた。公益をたてに基地使用を強いたこの時の国の姿勢は、今もかわらない。

 自治の理念に背く代執行は民主主義の根本をも否定しかねない。ごり押しをやめるよう、改めて国に求める。

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