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サクヤ
罪には罰を - サクヤの小説 - pixiv
罪には罰を - サクヤの小説 - pixiv
20,742文字
罪には罰を
何でも大丈夫な方のみ読んでください!!

皆さんリオセスリ来ましたか!?弊ワットきました!!!1凸したくて毎日毎日探索探索任務任務宝箱宝箱はいずこ!!!??って狂わされてます!!!

書けばきたのでまた勢いで書いたんですけど長い!!!!!!!因みに書きたかったところ2割くらいしか書けてない!!!!!

ところで皆さんボイス聞きました!?私は宝箱ボイスの主なきもの〜のやつが好きすぎてずっとリオセスリで宝箱開けてます!!!!!!!いいよね!!!!

あと1凸したら伝説任務やるんだって何故か自分に誓ってしまったのでまだ伝説任務やってないんですけど!!!!!!気になってます!!!!!!なのでまだリオセスリにわか?にわかです!!!言ってる意味よく分かりません!!!!!
ちょっと今荒ぶってるので正気に戻ったら消すかもしれませんがとりあえず上げちゃいます!!誤字脱字多い可能性大!!です!!!

あとみんなの名前はフランス語で花言葉もとにしてます!主人公だけ大きな幸福って意味のフランス語らしいです!!!

次は!!!砂糖過多な話書きたいですね!!!!!!でもまず1凸したいです!!!!!!
あと伝説任務やりたいです!!!!!!
荒ぶって申し訳ない!!!!
メロピデ要塞で働きたい!!!!!!!!!!!
んでもってシグウィンちゃんの実装楽しみですね!!!!!!!!!
続きを読む
1081481114
2023年10月28日 08:25


祖父が亡くなった。
身体が丈夫な人じゃなかったのに、長年の過労が祟っての病死だった。

つい先日まで祖父が座っていたロッキングチェアにストンと座れば、ずっと愛用していたそれは小さな音をたて、揺籠のようにゆったりと揺れる。

テーブルの上にあるレコードプレイヤーの針は下りていない。シンとした空気が耳を焼くようだった。

薄いカーテンの向こう側は明るく、暗い部屋に僅かな陽射しを送り込んでくる。


普段よりもずっと広く感じる静かな部屋を見渡して、深く、深く息を吐いた。体の力を抜いて背もたれに寄り掛かれば、ギッと低い音が鳴った。

この椅子、こんなに古かったんだな…。

祖父が椅子に座る時にはいつも心地の良い音楽が部屋を豊かにしていたし、何より2人で談笑する空間では、椅子の軋む音など気にもならなかったから。


ゆっくりと目を瞑れば、祖父と話した最後の会話が鮮明に思い返された。






「お祖父様、いま、なんて…?」

「ベア、私の可愛い孫娘……いいかい?よくお聞き。お前の父親は生きているんだ」

「え、で、でもお母様もお父様も亡くなったって…」

私が3歳の頃、母は亡くなったと聞いた。父はそれより前に亡くなっていて、家族は祖父と私の二人だけだった。ずっと祖父が私を育ててくれていたのだ。

「そう、お前の母、つまり私の大切な娘は亡くなっている。だが、父親の方は今も生きているだろう」

ベッドの上で横たわったまま、祖父は重い息を一つ吐いて、動揺する私の手をソッと握りしめた。酷く、弱々しい力だ。昔よりもシワが増え、筋肉が衰えた手は私の手よりも柔らかく感じる。だけど、温かい手だ。私をずっと慈しみ育ててくれた大好きな手だ。


「私は昔、愚かな事をしてしまった。家族を大切にしたいと思っていた。いや、していると勘違いしていたのだ」

まるで神様に懺悔をする罪人のように、祖父は縋るような、落ち着かない様子で宙を見つめる。

「娘が生まれてすぐ、私は妻を病で失った。その病は決して治らないものではなかった。けれど、治療のためには莫大な金銭が必要だった」

祖父のアイスブルーの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。

「その頃の私には、妻を助ける為の財産もなく……妻は、その生涯を終えてしまった。美しい人だった。優しい人だった。愛しい、人だった」

握られた祖父の手に、ぎゅっと力がこもる。

「それから私は、もう二度と家族を失わない為に、娘を失わない為に、モラを稼ぐことにした。愚かな私は、モラさえあればきっと娘を…モーヴを幸せに育てることが出来ると思い込んでしまったんだ」


緩く細められた瞳からは止めどなく涙が溢れている。震える祖父の手にはいっぱいいっぱいの力が入っているのだろう。私は何と返したらいいのかも分からず、祖父の手をぎゅうと握り返す事しか出来なかった。

「モーヴは孤独だった。モラを稼ごうと必死だった私は、最も大切な宝物であった筈の彼女を置き去りにして、仕事仕事と家を出てばかり…いったいあの子と何を話しただろう?思い出の一つでも作ろうとした事があっただろうか?」


それは私の知っている祖父からは考えられない過去だった。
だって祖父は苦手なりに食事を作ってくれた。
毎日たくさんのお話をしてくれた。
何度だって私の我儘を聞いてくれたし、色んなところへ私を連れて行ってくれた。
いつも笑って私を愛おしそうに見つめてくれる祖父に、そんな過去があったなんて知りもしなかった。


後悔に打ちひしがれた祖父の声は、震えていた。いつも柔らかい声で話す人だった。温かな人だった。
だから、この話だってこんな、本人から直接語られなければありえないと信じる事はなかっただろう。


「そんな私だったから、モーヴの変化に気がつけなかったのだ。ある日仕事から帰ると、あの子は家から姿を消していたよ。その時になってようやく、私はあの子をきちんと見れていなかった事に気がついた……でも、あまりにも遅すぎたのだ。そう思い返すには、私とあの子の距離は離れ過ぎていた」


ひくりと、喉が渇いた気がした。ぞわりと、嫌な予感が足元から這い上がってくるような心地だった。


「持てるすべてを使いモーヴを探した。しかし、あの子を見つけた時、あの子の横にはあの男がいた」


ゆらりと、祖父の瞳が過去に遡り焦燥に揺れる。


「あの男は、モーヴを好いていたようだった。そしてまた、あの子も………始めはそれでも構わないと思ったのだ。あの子が幸せを見つけられたなら、それで良いのでは、と」


けれどと言葉を続ける祖父は、繋いでいる手とは逆方向の手で涙を拭い、目頭をグッと揉むようにして目を瞑った。


「モーヴが愛した男は、裏社会でもタチが悪く手のつけられないような男だったんだ」


ベア、と祖父に名前を呼ばれる。


「お前の母は、お前を産んでからその事実に気が付いたようだった。モーヴはお前を心から愛していた。もちろん、私もだ。それだけは、何があろうと忘れないでくれ」


祖父の瞳が力強く私を見つめる。チリチリと何か、いや、誰かの眼差しと祖父の視線が被さるような、記憶の奥底にある誰かと、祖父の姿が重なって見えた気がした。

アイスブルーの、優しい瞳をした綺麗な女性だ。私に手を伸ばしている。涙がこぼれ落ちる。悲しそうに、だけど決意のこもったその目が、私を見つめている。
女性の唇が動く。愛していると、大好きよと、額に一つ、キスを落とされた気がした。


「ベア?ベア?大丈夫かい?」

「、ぇ、あ、う、うん…」

「すまない、急にこんな話を聞いてさぞ困惑しているだろう。だけど、全てを伝えておかねばならない。大切なことなんだ」

「だ、大丈夫だよ、お祖父様…ちゃんと、聞けるよ」

「ありがとう。お前は本当に強い子だね…さすが、モーヴの子だ。あの子もまた、強かった。私よりも遥かにね」


そう言う祖父の表情には、後悔が刻まれていた。


「あの日、大雨の日だ。私の元にモーヴが尋ねて来た。月も出ていない、新月の夜だった。あの子は私にお前を預けに来たのだと言った。あの男と縁を切りに行くと…そうして、今度は家族3人で暮らそうと……ああ、こんな、こんな私をゆるすと言ってくれた。家族だと、愛していると。そうして優しいあの子は、お前にキスを一つ授けて雨の降る夜道を駆けて行った」

「、」

「それが、あの子と話す事が出来た最後の日だ」


ザァザァと雨など降っていない筈なのに、耳元で豪雨のような雨音が鳴っている。


「それから数日して、あの子は私の元へ帰って来た。…小さな瓶一つ分、遺骨となって私の元へ帰って来たのだ……!!あんな、、あの子がっ、まだ、幼い頃に抱えたあの時よりも、ずっとずっと、軽かった…!軽かったのだ…!!」


祖父がベッドの上で蹲るように顔を伏せ、悲痛の叫びを口にした。震える祖父の背に手を回す。喉の奥からカッと熱が這い上がってくるような、目の奥がズキズキと痛くなるような感覚が襲って来て、それから漸く自分が涙を流している事に気がついた。

祖父も、私も、涙は止まる事を知らず、唇から嗚呼が漏れ出る。


「骨壷を持って来たあの男はっ、!!手に入らない物は壊す主義なのだと…!!態々私に言いに来たっ!ぞんざいにあの子の入った瓶を放り投げ!!見合った姿になれば来ると言っていた……!!!」


何という屈辱だろうか。最愛の娘を言外に殺めたと言った男は、幼いお前の姿を見て、自分に見合う成長をすればお前を迎えに来ると言ったのだ!!


震える祖父の声は悲しみだけではなく、耐え難い憤りを表していた。


ベア、と再び名前を呼ばれる。
祖父は涙を拭う事もせず、縋るように私の手を握りしめ、搾り出すように言葉を発した。


「どうか逃げて欲しい。あの男はきっとお前を迎えにやって来る。ベア、お前はモーヴにそっくりだ。違う所など、瞳の色くらいだろう。ならばあの男は間違いなく私の死後、それを嗅ぎつけお前を連れ去りに来るだろう。戸籍状、あいつは父親だ。まだ未成年であるお前が拒否した所で、この国の法律がお前をあの男と共に在るべきだと判断してしまう」

だから、どうか。

「あの男の手の届かぬ所へ、逃げて欲しい」


振り絞るような、祖父の力がこもった手のひらをゆっくりと握り返して、きっと。と返す。きっと逃げるから。大丈夫だよ、安心してと。


祖父は私の言葉を聞いて酷く安堵し、そのあとは二人で温かな紅茶を飲み、私の知らなかった母の話や、祖父の後悔、それから、今まで過ごした思い出の話をした。

穏やかな時間だった。

それから3日ほどして、祖父は緩やかに息を引き取った。祖父の願い通り、葬式は親しい間柄の人たちだけで行われた。
祖父と仲が良かった隣家のおじさまも、近くの時計店を営むおばさまも、年が近く幼い頃から仲が良かった近所のお姉さんも、ひっそりと静けさの詰まった我が家に訪れ、祖父の死を悼んでくれた。


祖父は優しい人だった。
祖父は温かな人だった。
たとえ過去に過ちを犯してしまったのだとしても、後悔が尽きぬ心残りがあったのだとしても、少しでも穏やかに、幸せに、眠りについて欲しかった。




だから、嘘をついた。





ギッと音をたててロッキングチェアから立ち上がる。
普段は縛っている髪を下ろして、それから淡いピンクのワンピースに袖を通す。普段から祖父にお転婆さんだと称される私は、滅多にスカートやワンピースを着ないけれど。
母が好んで着ていたというワンピースを着て、母が好んでいた色を身に纏う。

カタリと鏡の前に立つ。私の瞳はまるで灼熱の炎のように赤く燃えている。母と違うそれは、怒りと憎悪に歪んでいた。

一つ息を吐く。大丈夫だ、出来る筈。ゆっくりと深呼吸をして、鏡を覗く。怒りも憎しみもすべてを隠して、表情を薄める。少し困ったように眉尻を意識して下げる。
髪もストレートにクシで解いて、緩やかに口元に笑みを浮かべる。

ああ、これでいい筈だ。

祖父から聞いた母の特徴をしっかりと思い出しながら、反映していく。


今だけはこの、歪んだ感情を隠さなくてはいけない。


祖父には逃げると言ったけれど、でも。
思い出してしまったんだ。幼い私を抱く、優しい温もりも。愛も。全部、全部。



「ごめんね、お祖父様」


逃げるだなんて、冗談じゃないと思った。
私のこの瞳が、父親と同じ色で。私のこの身に、同じ血が流れていると思うと、虫唾が走るような気分だった。


祖父が最後に教えてくれた、父親の名前。オーティと呼ばれるその男の特徴を思い返して、グッと手を握りしめる。


赦せるものか。私の家族を苦しめて、今ものうのうと生きている男のことなど。どうして赦せるというのだ。

迎えに来ると言うならば、来てみろ。お前を地獄の底へ叩き落としてやる。


クソッタレめ。


内心で口汚く罵り声を上げて、表面には笑みを張り付ける。ワンピースのポケットの中へ無造作にそれを突っ込む。祖父から過去を聞いたその日、いつの間にかポケットの中に入っていたそれは、神の目と呼ばれるもので。それはじんわりと、赤く熱を帯びているような気がした。


















ガチャリとドアが開く。私以外に鍵を持っている人なんていない筈の家のドアだ。
ヒラリとワンピースの裾を返して、ドアの向こうから現れた男を、そおっと下から見つめる。


ねえ、どう?私はお母さまそっくりに見えてる?


なんて、心の中で呟きながら表には出さずに同じ赤色をした瞳を見た。

僅かに見開かれた男の目に、不安そうに首を傾げる。
何も知らない、少女のように。


「あの…?あなたは…?」


柔らかい声を意識して尋ねれば、男の赤い瞳が少し目尻を下げ、想像よりも整った容姿をしていたその顔に笑みを浮かべてニコリと笑いかけてきた。


「やあ、可愛らしいお嬢さん。はじめまして。驚くかもしれないけれど、僕は君の父親なんだ」


人当たりの良さそうな態度を取り繕った男、オーティに私は頬を林檎のように染めて、驚いたような、照れたような表情をする。
それから控えめに、お父様?と囁く。


それに対して男がドロリとした熱を赤色に込めた事に気が付きながら、嘯く。

「わたし、お父様がいたのね…!」


一人は寂しかったの、なんて。とんだ茶番を呟いて、男の差し出した手のひらをそぉっと恥ずかしげに繋ぐ。

ああ、キモチワルイ。

にこやかに笑う男の後ろには、3人の男たちが立っていた。緩いシャツ姿の男に比べて3人はカッチリめのスーツを着ている。まるで番犬だ。

そんな3人に軽く怯えたような素振りをしてオーティの腰元に纏わりつき、身を寄せて隠れるようにする。

そう。突如不幸が訪れ天涯孤独となった少女が、突然与えられた父親という存在を純粋に信じきっているかのように。


そんな私を見て更に笑みを深めたオーティは、スルリと私の肩に手を置き、あやすように話しかけてきた。


「大丈夫だよ、彼らは僕の部下だからね。今日から僕らは家族になるんだ。心配せず、着いておいで?」

「家族…!はいっ、お父様!」


花が綻ぶように、嬉しそうに微笑めば男は満足気な顔をする。
それから、手を肩から腰の方に回して抱き寄せてきた。

「お父様は少し慣れないな…よかったらオーティと呼んでくれるかい?」

明らかに娘へと向ける熱情ではない視線に、こンのど変態が!と言いたくなるのをグッと堪えて、照れたようにはにかみながら男の名前を呼ぶ。

「はい、、えっと、オーティ、さま?」

「ああ、いいね。君の名前はベア、で合っていたかな?」

「はい、合っています」

「ふふ、可愛い名前だね。僕は事情があって君が産まれていたことを知らされていなかったんだ。寂しい思いをさせたね、すまない」

「そんな!わたし、オーティ様が迎えに来てくださってとても、とても嬉しいです!」

これからは、ずっと一緒にいてくださいますか?
遠慮がちに、けれど期待を込めた目を向けてお願いをすれば、オーティはヒョイと私を抱え込むように抱き上げて、チュッと頬にリップ音を鳴らした。

「もちろんさ、僕の天使ちゃん」

「ひゃわ、オ、オーティさまっ!?」

カアッと顔を真っ赤にすれば、その反応に気を良くしたオーティが私を抱いたまま歩くことにしたらしい。

実際顔が赤くなったのは怒りと嫌悪からなのだが、初心は反応をしておけば勝手に勘違いされるのでバレる心配はなさそうだった。


ご機嫌なオーティに、恥ずかしさから話題を逸らしてますといった態度を見せながら尋ねる。


「え、えと、あの、オーティ様?部下の方たちがいらっしゃるということは、お仕事中でしたの?」

「ん、ああ。コイツらは普段から僕の身の回りの事もしてるから、仕事中ではないかな?サングラスをかけているのがヴェロニクで、髪を縛ってる方がジョンだ。それから後ろのオールバックにしてる奴が新入りでね。ええと、なんて言ったか?」


ヴェロニクとジョンと呼ばれた二人の男たちが軽くこちらに視線を渡してきたので、にこりと微笑み返しておく。
それからその少し後ろを着いてきているのは、オールバックよりも目の下の傷やシャツからのぞく首元の傷跡の方が目立つ、ガタイの良い男だった。

男はオーティに促されるも、何も話さないでいる。少し垂れ目がちの瞳は祖父と似たアイスブルーだ。


「ああ、そういや話せないんだったな……ベアは気にせず、あれとかそれと呼べばいいよ。僕もそうする」

「え、で、でも…」

「いいんだよ、ベアは僕の名前を覚えてくれればね」


にこりと笑うオーティの目には、歪んだ熱情が隠しきれずに漏れ出ていた。
最低だな、コイツ。そんなことを思いつつも気が付かないフリをして従順に、はい、オーティ様と返しておく。
それだけで満足気にするこの男が、私の祖父を苦しめ母を殺めたのだと思うと酷く汚い気持ちになりそうだった。

































「え、オ、オーティ様…これって…」


信じられない気持ちでいっぱいだった。あれからオーティと暮らし始めて1週間ほど経った頃、机の上に置いてあった雑誌の表紙を見て思わず呆然としてしまった。

表紙にはデカデカと
イモーテル・アスフォデル、実の娘を殺害か!?
と書かれており、なんでと驚きつつも雑誌を捲れば書かれてあるのは事実無根の内容ばかり。

違法薬物の密輸に加担していたと思われるモーヴ・アスフォデル氏は13年前に失踪していたが、その実の父親であるイモーテル氏の家に遺骨があったことが判明!
罪に加担した娘の存在が事業に悪影響を及ぼすと考え、殺害していた可能性が出てきた。
また、モーヴ氏には一人娘がおり、その子を監禁していた疑いも出ている。
実の父親であるオーティ氏にその出生を知らせる事もなく、孫娘であるベア氏を自宅に監禁し、実父に会わせないようにしていたか!?
オーティ氏、実の娘ベア氏と感動の対面!オーティ氏の優しさにベア氏も心を開いている様子。
家族と暮らせる幸せについてオーティ氏語る!!


軽く読んだだけでも出鱈目もいいとこな内容だ。亡くなった祖父や母を悪人に仕立て上げ、オーティにとってのみ良いように書かれているソレは明らかにオーティの息がかかった記者が書いたものだろう。

必死に怒りを堪えながら記事を書いた人の名前を見れば、そこにはプロンタンという人物の名前が書かれていた。
そこでハッとする。オーティに気に入られる動きをしながらその裏の顔を知るために少しずつ情報を引き出している際に出てきた人物の名前だった。

記者の中にもオーティと繋がっている人がいるなんて、一体どこまで腐ってるんだと僅かに顔を歪める。



「ああ、ベア。見てしまったんだね?」

可哀想に、なんて思ってもないことを言いながらオーティが私を抱き込む。
頬に唇を寄せ、まるで恋人を慰めるかのように髪をすきながら囁く。

「君の祖父や母親は酷い人だったんだ。でも大丈夫、ぼくがいるからね。君を一人にはしない。ね?そうだろう?」

この男が何をしたいのかなんて分かっていた。
私を自分に依存させ、好きにしたいのだろう。

だけど、これは、あんまりにも巫山戯ている。
死者を冒涜し、濡れ衣を着せるなんて何処までクズ野郎なんだ。

本当は今すぐこの雑誌を破ってしまいたい。ポケットの中に入っている神の目の力を使ってでも、この男を消し去ってやりたい。

でも、まだだ。まだコイツを追い詰める為の決定的な証拠が掴めていない。
ここで私が騒いだところで祖父や母の汚名は消えないし、善人のように書かれているオーティが死んでも、やはり罪人の身内は罪人かと、更に祖父と母の名を汚してしまう事になるだろう。


怒りも悔しさも全部抑えて、ポロポロと涙をこぼす。それから、オーティに縋るように抱き付いて甘えるようにその胸元に頭を寄せる。

そうすればオーティは高揚とした笑みで私にキスの雨を降らした。


早く、早く証拠を見付けないと。

でないと、私の身の内から溢れ出る炎がこの男を燃やし尽くしてしまいそうだ。

































それは偶然だった。オーティが仕事で不在の間、証拠をかき集めようと動いていた時だった。

ドダァンッという激しい音と共にガチャンと何かが割れるような音がドアの向こう、廊下の奥から響いてきた。

何事かと思いつつ怯えたフリをしながらちょこんとドアを開ければ、そこには割れた花瓶と地面に押し付けられている新入りと呼ばれていたあの傷だらけのオールバックの男と、そんな男に馬乗りになりながら目を釣り上げているジョンと呼ばれていたオーティの部下がいた。


「何故お前がここにいる?新入りは今日、お休みの筈だろう?」

「、」

ジョンが床にオールバックの男の頭をグググと押さえつける。その時チラリと見えたあのアイスブルーの瞳に、私は咄嗟に身体が動いてしまった。


「ぁ、あのっ!」

私の震えた声にジョンがゆっくりとこちらを向く。アイスブルーの瞳もこちらを見ているようだったが、目は合わせない。

「おや、お嬢様じゃないですか。今コイツを躾けしている最中でしてね。見苦しい所をお見せ出来ませんので、どうか部屋へとお戻りになってくださいますか?」

丁寧な言葉が並べられているが、言いたいことは邪魔だから引っ込んでろと言いたいのだろう。私はオーティのお気に入りという事で自由を許され、部下の人たちからは丁寧に扱われてはいるが、そこにあるのは全てオーティへの畏怖や忠誠からだ。故に不届きものがいる今、優先されるべき対象は私ではなく新入りと呼ばれる男の方なのだろう。

だけど。



「ぁの、違うんです」

「はい?何がですか?」


多少の面倒くささを含んだ声色のジョンが、視線を私に固定する。
私はちまちまと2人のそばに行き、床に倒れたままの新入りを心配しているかの様に膝をついて肩に手を当てる。それからジョンと目を合わせた。


「じ,実はわたし、この人に頼み事をしていたんです」

だからお屋敷に来たのはその為だと思うの。


オロオロと困ったような申し訳なさそうな顔を作ってジョンを見れば、クイッと片眉を上げられる。どうやら続きを促しているらしい。


「あのね、私、オーティ様にお手紙を書きたくて、それでこの人に便箋を買ってきて欲しいってお願いしたの」

「便箋…?何も手紙を書かなくとも、オーティ様は貴女と毎日たっぷりお会いになっているでしょうに」

「分かっているの、でも、いつもオーティ様には良くして頂いてるから、お礼を伝えたくて…直接は、その、恥ずかしいから……」

照れくさそうに頬を染めれば、ジョンはそれだけで納得した様子だった。何ならオーティ様に感謝をするのは良い事でしょうなんて言って頷いてすらいる。

「それならば新入り、便箋はどこだ?早くお嬢様にお渡ししろ」

漸く新入りの上から退いたジョンは、便箋を出せと告げる。
そんなジョンに新入りは相変わらずの沈黙を保ったまま、懐からスッと小さな花柄の便箋を私に手渡した。

パチリと、あのアイスブルーと目が合う。サッと視線を逸らして、便箋を手にしてお礼を言い、2人を残して与えられた自室へと向かう。


花柄のこの便箋は、たまたま私が持っていた私物の一つだった。これは祖父に買ってもらって、でも使い所が分からず取っておいた思い出の品だ。
先ほどジョンと目を合わせている時に、新入りの男の人の胸元に滑り込ませたのだが。

ホッと息を吐く。上手くいってよかった。


ああ、でも。花柄の便箋を見て小さく息を吐く。大切な思い出の品だけれど、あんなクソ野郎に差し出すには勿体なさすぎる物だけれど。ああ言ってしまったからにはもうオーティの耳にこの件は伝わっているだろう。仕方がない、この便箋に書くしかないか…。

何故あの男を助けたのかは分からない。けど、あのアイスブルーの瞳があまりにも、真っ直ぐで。朧げに思い出した母のあの、強い意思を宿した眼差しとそっくりだったから。
とても、よく、似ていたから。
だから手助けしてしまったのかもしれない…。



























ああ、遂にだ。

震える手で文章をなぞる。日付は3日後だった。会場場所は……うん、ここならば昔祖父に連れて行ってもらったことがある。おそらく走っていけば間に合うだろう。
カタリと私はオーティの部屋にあった、スケジュールの書かれた宝石箱のような外観をしたノートを閉じて、漸く、漸く訪れたチャンスに胸を高鳴らせた。


ある程度の証拠は集まった。
あとは、決定的な何かが必要かだった。祖父と母の汚名を払拭できる確かなものが。

そしてその何かは、きっとこの会場で手に入る。

猶予は3日ある。その間にことを進めなければならない。オーティやその部下たちには気付かれてはいけない。慎重に、動かねば。


ポケットの中の神の目を、服の上からソッと撫でる。
まだ一度も使ったことはないけれど、何故だか上手く使いこなせる自信があった。
今の私にとって1番の武器になる存在だ。どこに耳や目があるのか分からない今、演技を崩すことは出来ない。けれど、このオーティが主催する特別なオークションでは。

私もこの偽りの仮面を外し、漸く肩の荷を下ろせる事になるだろう。

あの男と暮らして1ヶ月、思っていたよりもずっと警戒を解かれるのが早かった。それだけ私には母の面影があり、私を通してあの日手に入れることが出来なかった母の姿を見ているのだろう。

なんて、滑稽なんだろうか。


オーティ、楽しみにしていて欲しい。貴方が重要視しているこの特別なオークションは、確かに貴方にとっても特別な日になるということを。
どうか、どうか、楽しんで欲しいと思う。


私が、貴方の積み上げて来た汚い人生を滅茶苦茶にするその瞬間を。




炎が、揺らめている。
私の身さえも焼き尽くしてしまいそうなそれは、轟々と暗い音をたてて燃えているのだ。

あの男を、燃やしてしまえと囁く悪魔の声のように。

































「レ・テネーブル会?」


海の底にあるメロピデ要塞にある一室。公爵の執務室で、ぴょこりと可愛らしい耳を跳ねさせた少女がオウム返しのようにその名前を尋ねる。

カツリと重たそうなブーツを鳴らし、重厚なコートを肩にかけた男がトポトポと琥珀色の透き通った紅茶を2つのティーカップに注ぎながら、ああ、と一つ頷く。


「かなり前から上で悪さをしている連中でな。最近はその規模もかなりのものらしい」

とぷんと、ティーカップの水面が小さく揺れる。注ぎ終えたそれをテーブルに2つ静かに置くと、男と少女は長いソファに腰を下ろした。


「そこに公爵が行くのかしら?」

「ハッ、さすが看護師長。勘がいいな」


愉しそうに笑い声を漏らした男、公爵はスッと紅茶に口をつける。そんな男を見て看護師長と呼ばれた少女は呆れたような顔をする。


「ヌヴィレットさんも承諾してる。俺がいない間、悪さをしない奴らがいないとも限らないんでな、暫くクロリンデさんを雇ってある。あとの事は頼めるか?」


それが信頼故の言葉だと察している少女は、プンプンと怒ったようにしながらも、男の提案に頷く。


「もう、しょうがないわね!どうせ言っても無駄だと思うけど、大きな怪我はしないでね」

「ま、善処するさ」

「公爵〜!!」


怒る看護師長に、出来ない約束はしないんでねと小さく笑う公爵の目は、海の上にいる愚か者たちを獲物として捉えていた。

















そんなやり取りをしてから暫く、公爵リオセスリは軽い変装のつもりで髪をワックスでかき上げ、愛想などは取り払った無表情のまま、レ・テネーブル会に上手く潜入していた。元々公爵リオセスリの姿を上で知る者は少ないのだ。名だけは広まっているようだが。

傷だらけの無愛想で話せない、暴力関係が得意な社会不適合者。そんな体を装って入り込んだ組織では、腕っぷしの強さと話せないという点を買われて組織のボスである男のボディーガードのような扱いで近づくことが出来た。

話せなければ情報を漏らす心配もないしな。

暫く組織に入って分かった事だが、ヌヴィレットたちと話していた内容以上に、組織は異常性を含んでいた。

疑われれば殺される。ボスであるオーティという男は、人を殺した事をなかった事にするのが、いやに手慣れた男だったのだ。

こりゃ情報関係にもオーティの息がかかった奴がいるな。
リオセスリは冷めた目でおそらく自分の目付役であろう男、ジョンをチラリと見た。

オーティのボディーガード役として扱われてはいるが、この短い期間で信頼を得る事は流石に出来ていない。大抵組織内で動く時はこのジョンという男か、ヴェロニクという男のどちらかが張り付いていた。

この二人はオーティから信頼を唯一勝ち取っている男たちらしい。どちら側もオーティに心酔しきっているような素振りが見える一方で、残忍性も兼ね備えていた。

虫唾が走るな。
内心でため息を吐きながらも、中々決定的な尻尾を出さないオーティという慎重な男にリオセスリは少しばかり疲労を覚えながらも、静かにチャンスを待つ事にした。



だが、そのチャンスは意外な形ですぐに現れた。



ベア・アスフォデル。まだ年若い少女だ。
つい数日前に唯一の家族である祖父を亡くしたというこの少女は、正真正銘オーティと血の繋がった娘らしい。

残酷な男ではあるが、このベアという少女の前でのみオーティはその残忍性を隠し、まるで恋する1人の男のように少女と接していた。

純粋無垢な少女。酷い男に目をつけられてしまった可哀想な被害者。

リオセスリはすぐさま助けてやれないこの状況のもどかしさに、焦燥を覚えていた。
このまま放っておけば、少女は男によって酷い目に合うことは分かりきっていた。だから、少し事を急いでしまったのだ。




グッと後ろ首辺りを圧迫され、リオセスリはジョンと呼ばれる男に地面へと倒されていた。

珍しくその日休みをもらったリオセスリは、オーティの屋敷へと入り込んでいた。今日は重要な会談があるらしく、オーティはいつもの部下2人だけを連れて外へと出ていったのだ。

今ならばベアという少女を逃がせるかもしれない。
それは殆ど博打のような賭けだったのだが、どうやら賭けには負けてしまったらしい。
オーティと共に出た筈のジョンが突如現れたのだ。

正直この男の拘束から逃れることも、逆にのしてしまう事さえもリオセスリにとって簡単な事であったが。
ここまで上部に接触する事が出来た今、出来ればそれはしたくはなかった。
何か上手く躱せる方法はないかと考えていた時だった。



「ぁ、あのっ!」


冷えた廊下に震えた少女の声が小さく響いた。

緊張したように戸惑いを含んだ様子で少女が怖々とジョンを見ている。


「おや、お嬢様じゃないですか。今コイツを躾けしている最中でしてね。見苦しい所をお見せ出来ませんので、どうか部屋へとお戻りになってくださいますか?」


ジョンの話し方は丁寧なものではあったが、言いたいことは邪魔だから引っ込んでろといった意味であった。
しかしこの純粋な少女にはその意図は伝わらないだろう。リオセスリはそう思っていた。

だが、


「ぁの、違うんです」

「はい?何がですか?」


少女は怯えた様子のまま自分たちの元へ寄ってきたかと思うと、すぐ横に膝をついて座り込み、そっとその華奢な手をリオセスリの肩へと当てた。
まるで自分を庇うような行動に、若干の戸惑いが起こる。

続けて話された内容に、リオセスリは驚いた表情が表に出ないように咄嗟に自制を強める事となった。


「じ、実はわたし、この人に頼み事をしていたんです…!だからお屋敷に来たのはその為だと思うのっ」


オロオロと困ったような、申し訳なさそうな顔をする少女にリオセスリは内心動揺でいっぱいだった。


「あのね、私、オーティ様にお手紙を書きたくて、それでこの人に便箋を買ってきて欲しいってお願いしたの」

「便箋…?何も手紙を書かなくとも、オーティ様は貴女と毎日たっぷりお会いになっているでしょうに」

「分かっているの、でも、いつもオーティ様には良くして頂いてるから、お礼を伝えたくて…直接は、その、恥ずかしいから……」


そう言って照れくさそうに頬を染める少女と、納得した様子でオーティ様に感謝をするのは良い事でしょうと返しているジョン。

そしてそんな会話と並行してスルリと肩に置かれていた少女の手が静かに動き、リオセスリの懐に何かを差し入れた。

あまりの手慣れた鮮やかな手つきにリオセスリは驚愕しながらも、なんとか反応を返さずに留まる。



「それならば新入り、便箋はどこだ?早くお嬢様にお渡ししろ」


リオセスリの上から退いたジョンが、便箋を出せと告げる。その様子から少女の話をすっかりと信じていることは明白だった。


僅かな沈黙の後、リオセスリは先程少女が自分の懐に入れたそれをスッと取り出した。
小さな花柄が描かれている便箋だ。

パチリと、少女の透き通った赤色の瞳と視線がかち合う。

が、すぐさま少女は目を逸らすと、嬉しそうな様子でお礼を告げ、便箋を抱いてドアの向こうへと小走りで消えていった。


隣に立つジョンが、勘違いして悪かったな。などと言ってくるのを適当に頷き返しながら、リオセスリは内心の動揺を悟られないようにするのでいっぱいだった。


走り去っていった少女の姿は、間違いなくオーティへの手紙を書くことを楽しみにしている可愛らしい、いじらしげな女の子の姿そのものだった。
先ほどの一連の動きを見たリオセスリすらも、そう感じてしまう程に。


ごくりと、小さく息をのんだ。

リオセスリは今まで見ていた少女の印象を思い返しながらも、これは少し調べ直す必要がありそうだと認識を改める事にした。




























イモーテル・アスフォデル。有名な事業家で、現在は一人娘であったモーヴ・アスフォデルを殺害したのではないのかと嫌疑が噂されている。

モーヴ・アスフォデル。こちらは薬物の密輸に関わり13年前に失踪している。現在は父親であるイモーテルに殺害されたと噂されている。

そしてベア・アスフォデル。祖父が亡くなり天涯孤独になったかと思われたが、実は父親が生きており現在はその父親オーティと共に暮らしている。



これが通常の方法でリオセスリが得られた情報だった。



あまりにも、出来すぎている。
まるで映画のようなお話に、リオセスリは手にしていた資料の束をテーブルの片隅に放り投げた。

そしてもう一つ資料を手にする。

こちらは、リオセスリ独自のルートで得た情報だ。





イモーテル・アスフォデルは娘を愛していた。かつて愛妻家であった彼は病で妻を亡くし、その事がトラウマとなり娘の為に仕事に精を出していたらしい。周囲からの評価も高く、情に厚い人間だった。
自宅から娘の遺骨は確かに発見されたが、13年前に小さな葬式が行われており、それは周囲の人たちも参加しているとの事。娘の死因は分からないものの、裏社会に巻き込まれてしまった事が原因ではないかと噂されている。
またイモーテルは当時は捜査依頼を出しているが、何故か捜査を行なってもらえず、何度か嘆願書も出しているときたもんだ。

つまりイモーテル・アスフォデルに噂されている内容は事実無根であり、彼は善性に優れた被害者といった方が正しそうだ。

おそらく彼が自ら大々的に動く事が出来なったのは、守り育てるべき存在がいたからだろう。



また、その娘であるモーヴ・アスフォデル。
彼女は16歳の頃に家を出ており、その際にオーティと出会ったと予測されている。16歳、つまり現在のベア・アスフォデルと同じ年齢の頃か。

17歳で妊娠し、18歳で出産。その3年後、彼女は突然父親の元へ訪れ娘を預けたとされている。
最後に目撃されたのはオーティと共に屋敷へ入る姿、か。
おそらくここで殺害されたのだろう。

現在のベアへの執着を見て何故オーティがモーヴを殺したのかは分からないが、モーヴが犯罪に加担したことはなさそうだった。

これもまた、モーヴ・アスフォデルに噂されている違法薬物の密輸に関しての件は払拭された訳だ。



そして最後は、ベア・アスフォデル。幼い頃に母を亡くし、祖父に育てられていた。素直で明るく、少しばかりお転婆な所がある少女だったようだ。
周囲からの評価も高く、リオセスリが現在知っている姿よりもずっと活発的であるようだった。

祖父の死が原因で内向的になったというのも勿論考えられる。
だが、おそらく違うだろう。


ベア・アスフォデルは何らかの目的があって演技をしている。それがリオセスリが出した答えだった。



果たして彼女が何をしようとしているのか。リオセスリは自分を庇った時の赤い瞳を思い返して、小さく息を吐いた。

上手く隠していたが、揺れるあの感情には見覚えがあったからだ。
バカなことをしでかさなければいいが。

そう呟いたらリオセスリの瞳もまた、小さく揺れていた。
































「レディース&ジェントルメン!!今宵は最上級の物から、珍しいものまで沢山の商品をご用意しております!さあ!是非このオークションを楽しまれて行ってください!!」



ついに、オークションが始まった。
闇市のようなそこは、司会者の言う通りたくさんのモノが用意されている。
美術品も、違法性のある物も、命でさえも、ここでは商品になるのだ。


私はオーティの屋敷から抜け出し、会場へと来ていた。
屋敷にいた人たちは全員気絶させてきたが、オーティにバレるのも時間の問題だろう。

長く伸びた髪を上の方で縛り、神の目をくくり付けた。
大丈夫、心の準備は出来ている。
私の心はあの日からずっと、燃えているから。







「それでは一つ目の商品から行きましょう!買い手の方はプレートを上げて意思表示を!!では……、おい?商品を持ってこい!お客様を待たせるな!」


会場の人たちに渡されているいくつかのプレート。それを使って競りが始まるのだが、舞台の上には商品がいつになっても運ばれてこない。
開催者であるオーティは特別席に座りながらもその異変に片眉を上げた。


司会者が怒鳴り声を上げながらお客様を待たせるとは!と舞台の裏に足を進める。一拍、怒鳴り声がピタリと止んだ。

リオセスリは座席に座るオーティの少し後ろに控えながらも僅かに見えたその姿ハッとした。その後すぐにオーティたちも声を上げたので、気がついたらしい。

コツコツと舞台袖から歩いてきたのは一人の少女の姿、それはベアだった。ガタリとオーティが席から立ち上がる。それは信じられないものを見るかのような目だ。

会場の客たちは消えた司会者に興味などなく、突然現れた少女に目が釘付けだった。

サラリと長い髪が揺れる。少し気弱そうな少女の瞳は宝石のように美しいアイスブルーだ。長い睫毛が白い肌に影を落とす。淡い桃色のドレスは彼女の為に存在しているに違いない。
そこにいたのはまるで妖精のように美しい人だった。大人と少女の間を揺れる、魅惑の人。

ほぅ、と。シンとした会場から見惚れたような吐息が漏れた。それからすぐさま、競りが始まる。
興奮したような大声が、一千、二千、と超えて行き、遂には億まで飛び出した。

オーティは自分の立場も忘れたかのように狼狽えていた。何故なら舞台の上にいたのは正しく、自分が愛し、求めた人だったから。

手に入らないのならばと殺めたのだ。自分のものになったと思っていた。
だがどうだ、舞台の上に彼女はいる。
己の手の内ではない、あの日あの時のままの、美しい自分の最愛が、己の手を離れて立っているのだ。


それも、他者に値段を付けられながら。


オーティは我慢ならなかった。それは僕のものだと、声を荒げた。しかし、熱狂した競の最中にその声は響かない。誰も彼もがオーティではなく少女に夢中になっていた。

あの少女を手に入れたい。自分のそばに置き、自分の物として扱うのだ。

ここまで最上級の商品が競売にかけられるなんて、思ってもみなかったと。会場の客たちは無心になって価格を釣り上げていく。
それは何とも、浅ましい光景だった。


リオセスリの目には瞳の色は違えど、少女の姿がベアとして映っていた。しかし、オーティが僅かに漏らした名前は、モーヴの名だった。

それだけでリオセスリは何が起こっているのかを理解した。
オーティの目には、自ら殺めた愛する人が映っているのだ。
舞台の上をフワリと飛び跳ね、ヒラリと揺れるワンピースの裾が妖精の羽のようだった。

そうして、ゆうるりと流れるようにアイスブルーの彼女の瞳がオーティを捕らえる。
柔らかく微笑む彼女は、小さく囁いた。イカれた人間たちの集まる熱狂した空間で、聞こえる筈もないこの距離で、オーティは耳元で囁かれていると錯覚した。


もうあなたのわたしじゃないのよ


それは、オーティを狂わせるのに充分な一言でもあった。フラリと立ち上がったオーティは、狼狽える部下を残して舞台へと上がる。
会場の客たちはその姿を捉えると邪魔だと声を上げかけたが、それが主催者であるオーティだと気づいてとどまった。

あれだけ騒がしかった空間が再び静けさに襲われる。

フラフラとオーティは少女の前へと歩いていく。
ヒラリヒラリと踊るように会場を魅せていた少女が、オーティの前に立つ。ふわりと、花のように綻んだ笑みをみせる。

オーティは焦点が合わない危うい目で、酷い執着心を放った目で、少女を見つめて告げる。


「モーヴ、君は僕のモーヴだ」


微笑んだまま動かない少女にオーティが手を伸ばす。


「でも、貴方は私を殺したじゃない」


天使のような囁き方で、少女はとんでもないこと告げた。
それが聞こえた会場の人たちは、ザワリと大きく騒めくが、最早オーティの耳にも目にも入ってこなかった。

あるのはただ、愛した女の姿だけ。


「ああ、すまないモーヴ。怒っているのかい?でもあれは仕方なかったんだ。君が僕のモノにならないなんて、別れたいなんて言うから」

でもきっと、君なら許してくれるだろう?

微笑む少女にオーティは夢見がちな高揚した表情で身勝手さを暴露していく。


「だってほら、君は僕を愛しているからここに現れたんだろう?まるで夢のようだ。また君を手に入れる事が出来るなんて」


「でもわたし、イケナイコトをしていたみたいだし、貴方に相応しくないんじゃないかしら?」


鈴のように愛らしい声が悲しげに揺れる。困ったように微笑むその姿が、オーティは一等好きだった。


「まさかそんな!君が僕に相応しくないだって?ありえない!君はいつだって清らからだ。僕の悪さに協力した事もなかったし、気が付いてすらいなかっただろう?」


大袈裟に反応するオーティに、少女はそうかしら?と不安そうに返す。
そうして、伸ばされたオーティの手をスルリと解いた。

悪さだなんて、そんな可愛い言葉で片付けられるような悪事では済まない癖に、オーティは離れて行こうとする彼女を引き戻したくて、慌てたように言葉を重ねていく。


「もしかして君の遺骨をイモーテルに渡したことを怒っているのかい?あれは本当に悪いことをしたね。でも君を殺すことで僕は君を手に入れた!その残り滓くらいは君の父親に与えてやろうと思ったんだ!」


優しさからなんだよ、なんて。再び伸ばしたオーティの手は、バチンと弾かれた。

他でもない、少女自身の手によって。



「残り滓だなんて酷い言い草ね」



リオセスリは、轟々と燃え盛る炎の音を聞いた気がした。それと同時に弾かれたように走り出す。
いつの間にかオーティの手に握られていたソレに気がついたからだ。



「ああ、モーヴ。まさかまた、君は僕を拒絶するのかい?ああ、ああ、なんて事だ。君が僕を拒絶する事なんてあってはならないんだ。早く、早く、早く、僕のモノにしなければ!!」


取り憑かれたようにボソボソと早口で話し始めたオーティは、そう言って手に持っていたナイフを振り翳した。
会場に悲鳴が上がる。
振り下ろされるナイフを、少女がジッと見つめていた。



ガシャンッ。

重たい音が会場に響く。
少女は、無事だった。リオセスリの拳から放たれた氷はナイフを凍てつかせ、舞台袖まで勢いよくそれを吹っ飛ばした。


「お前!!!!!!邪魔を!!!!!」


弾かれたようにオーティがリオセスリを睨みつける。冷え切ったリオセスリの目を見て、オーティは漸くハッとした。会場の人々は、オーティを恐ろしい異物を見るような目で見つめている。
もはや取り繕う事が出来ない程の失態を犯したオーティに、ジョンとヴェロニクも絶句していた。




「残念だったね、ぜーんぶバレちゃって」


それはこの場に似つかわしくない程の明るい声だった。
狼狽えたようにオーティが振り返る。そこには、モーヴの姿はなかった。
ベアだ。ベアがそこにはいた。自分と同じ赤い瞳を持つ少女。


「色変えの薬か…!!」


それはオーティが裏で販売している違法薬物の一つであった。瞳や髪の色を一時的に変えることの出来る薬だ。副作用があり、正規では販売できないそれをオーティは取り扱っていた。


ベアは今までの姿がまるで幻だったかのようにウンザリとした表情をして、軽蔑の目をオーティに向ける。

釣り上がった眉も、燃えるような赤い瞳も、怒りに満ちたような表情も、どれもオーティの知るモーヴやベアの姿ではなかった。



「これ、何だかわかる?」


ベアがポケットから取り出したのは一つの小さな鍵だった。なんてことのない普通の鍵だ。
だがオーティはそれを見ると顔色をサッと悪くさせた。


「何故それを…!?」


バッと奪い返そうと手を伸ばしてきたオーティを軽やかに避けたベアは、にんまりと笑う。


「密輸売買ルートに違法薬物精製ルート、それから失踪者のリストに人身売買のリスト表。ああ、そういえばこんなのもあったかな?

虚偽の情報伝達とその関係者の名簿」


ギラリとベアの視線が会場のVIP席にいた男に向く。


「ね、プロンタンさん?」


視線の先にいた男は、狼狽えたように息を呑む。
リオセスリは一瞬思考してから、アスフォデル家の噂話のきっかけとなった情報雑誌の記者が、確かそんな名前をしていた筈だと思い出した。


「なぜ、何故なんだいベア?私は君に良くしてやっただろう?なのに何故こんなことを?」


震えたようにオーティが心底困惑したような表情でベアを見つめる。それには流石のリオセスリもドン引きだった。まさかこの男、何故こんな目にあってるのか理解できてないとでも言うのか?

ベアの大きな目がスゥと細められる。リオセスリはその瞳に、燃え盛る怒りと耐え難い悲しみを見た。


「なぜ?なぜって?アンタがそれを理解出来ないことくらい、予想はできてた。でも、それがこんなに腹が立つ事だとは思ってもみなかったよ。私はね、ずっと」


ずっと、アンタを地獄に堕としてやりたかった。


それは、間違いなくベアの心の底からの言葉だろう。


「アンタはお母様を殺した犯罪者だ!アンタはお祖父様を苦しめた最低野郎だ!アンタなんかの血が私の体にも流れていると思うと、気がおかしくなりそうだ!」

それは悲痛な少女の叫びでもあった。


「お祖父様は優しい人だった、アンタなんかに苦しめられていい人じゃなかった!お母様は温かい人だった!アンタなんかが手をかけていい人じゃなかった!私の家族を奪ってのうのうと生きてるアンタが心底憎いよ!!」


燃え盛る炎の瞳が、オーティをつらぬく。
だが、ここへ来て始めてオーティが笑みを浮かべた。嫌な笑みだった。



「はは、ははは!そうか、そうか!やはりお前は僕の娘だよ。僕が憎い?そうだろう。ならば僕を殺すといい。君のその手が、僕の血に濡れる…ああ、最高に素敵じゃないか!」


イカれてやがる。リオセスリは眉を顰めてオーティを見た。
それから、ベアの方にも視線を向ける。彼女の精神状態が心配だった。


「アンタを、殺す…?」


ベアの瞳がゆらゆらと揺れていた。
咄嗟にリオセスリはベアを抱き抱えて、とにかくこの場から離してやりたかった。そうして、力いっぱい抱きしめてやりたかった。あんなやつを見るなと、違えてくれるなと、そう言ってやりたかった。

だけど、それよりも早くベアは動いた。


ダンッッ!!という激しい音と共に一瞬でオーティは地面に倒され、その上に馬乗りになったベアの右手は、オーティの顔の真横である地面に強く打ち付けてられていた。
チリチリと肌を焼くような熱風がその場を巻き上げている。右手の当たっている地面は焼けこげたような跡があり、しかしそれはオーティを傷付けはしなかった。


フゥと、深い息をベアが吐き出した。


「アンタは殺さない。殺してなんかやらない。傷だってつけない。私はアンタとは違うし、同じになんてならない。アンタはこれからずっと一人で生きるの。誰もアンタを愛したりなんかしない。簡単にラクになろうとなんてしないで。

これから一生その罪を背負って、不幸に生きろ」


ベアの言葉に、オーティは今度こそ表情を青ざめさせた。



会場の外が騒がしくなる。どうやらベアは警備隊を呼んでいたらしい。
リオセスリは潜入した割に結局手を出せなかったな、なんて思いながらもどこか安堵していた。




彼女の手が罪に染まらなくて良かったと、心から思った。




















あれから数週間、リオセスリは非常に忙しかった。検挙された人たちの数を思い返せば仕方なのない事であったが、ため息を吐かずにはいられない程だ。


しかしこれもあと少しの間だ。
今日からはヌヴィレットさんが手配してくれた助っ人が来てくれる予定なのだ。

何でもヌヴィレットさん曰く、この件について非常に詳しく、仕事も迅速で信頼もおける優秀な人材らしい。
俺よりも先に裁判などで忙しくなっていたヌヴィレットさんの手伝いをしたという人物らしいので、正直期待している。


ただ、彼女は新人でありまだ年若いため気にかけてあげて欲しいと続け様に伝えられた内容だけが少し腑に落ちなかったが。

まあ正規のルートで法廷の仕事に就いたからには、マトモな人間である筈だろう。

そろそろ噂の大型新人でも迎えに行こうかねと、リオセスリがゆっくりと執務室から出て水の上へと繋がる通路を歩いていく。


まさかその先に待つ大型新人が、とんでもなく見覚えのある赤い瞳の彼女だとはつゆ知らずに。


罪には罰を
何でも大丈夫な方のみ読んでください!!

皆さんリオセスリ来ましたか!?弊ワットきました!!!1凸したくて毎日毎日探索探索任務任務宝箱宝箱はいずこ!!!??って狂わされてます!!!

書けばきたのでまた勢いで書いたんですけど長い!!!!!!!因みに書きたかったところ2割くらいしか書けてない!!!!!

ところで皆さんボイス聞きました!?私は宝箱ボイスの主なきもの〜のやつが好きすぎてずっとリオセスリで宝箱開けてます!!!!!!!いいよね!!!!

あと1凸したら伝説任務やるんだって何故か自分に誓ってしまったのでまだ伝説任務やってないんですけど!!!!!!気になってます!!!!!!なのでまだリオセスリにわか?にわかです!!!言ってる意味よく分かりません!!!!!
ちょっと今荒ぶってるので正気に戻ったら消すかもしれませんがとりあえず上げちゃいます!!誤字脱字多い可能性大!!です!!!

あとみんなの名前はフランス語で花言葉もとにしてます!主人公だけ大きな幸福って意味のフランス語らしいです!!!

次は!!!砂糖過多な話書きたいですね!!!!!!でもまず1凸したいです!!!!!!
あと伝説任務やりたいです!!!!!!
荒ぶって申し訳ない!!!!
メロピデ要塞で働きたい!!!!!!!!!!!
んでもってシグウィンちゃんの実装楽しみですね!!!!!!!!!
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1081481114
2023年10月28日 08:25
サクヤ
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