Desire.



自分のことをどうしようもないエロ野郎だとは思うけど、でもやりたいものは仕方ない。


あいつを見ると触りたいし
あいつの顔を見るとキスしたいと思う。



あの唇は凶悪なくらい色っぽいし、首筋は噛んでくれと誘っているように見える。

「おまえって全身で誘ってるんだよな」

いつだったかそう言ったら「そんなの…キミが勝手にそう思っているだけだ」と睨まれ
てしまった。


確かにそうかも。

こういうのは本能で、おれなんてヤりたい盛りのお年頃だから、おれのものだと思う体
を見ると反射的にもうしたくてしたくてたまらなくなっているだけなのかもしれない。


でも…それでも。 それだけでない何かがあるといつも思う。





「なあ…おれ舐めたい」

地方での仕事の帰り、グリーン車の二階で座っていたら、ふいに衝動が襲ってきた。

向かいの席にけだる気に座るあいつの顔をぼんやりと見て、それからこんな時間まで
着っぱなしのくせにほとんど着くずれていないスーツの胸の辺りからウエストにかけて
をながめていたら、ふいに降ってわいたように体の奥で熱が起こったのだ。


「おまえの舐めて…飲みたい」
「ばっ」


少しうとうとしかかっていた塔矢は、最初おれの言ったことがわからなかったらしく、きょ
とんとしてそれから真っ赤になった。


「何バカなこと言ってるんだキミはっ!」
「えー?別に何もバカなことなんか言ってないよ。今この二階、おれたちしかいないしさ、
もうこんな時間じゃ、たぶん乗り込んでくるヤツもいないしさ」


こんな夜中に走り抜ける特急電車を外からいちいちじっと見つめているヤツもきっといな
いだろうと思う。


「だからって…検札が来るだろう?」
「来ないじゃん。もう一時間も誰も乗り込んで来ないし。新しい客が来ないのに、車掌もわ
ざわざ来ないって」


新幹線じゃないからうるさい車内販売も来ないしさと言うと、塔矢はそれでも嫌だと首を
横に振った。


「こんな…電車の車内でだなんて…」
「変態みたい?」


尋ねると、かっと顔が赤く染まった。

「いいじゃん変態でも。おれ、どうしても今、おまえの舐めたい気分なんだって」

折角の一泊旅行だったのに、今回めずらしく部屋が別になってしまった。

隙を見てキスをしたり、体に触ったりはしたものの、することは出来なくてかなり欲求不満
になったのだ。


触りたい、抱きしめたい、思う存分に食らいたい。

「なんかさ、おまえ分がすごーく不足しちゃってんの。今すぐ摂らないとおれ死ぬかも」
「キミはどうしてそういう無茶苦茶ばかり…」


自分でも不思議で仕方ない。
だって今、ひどく体は疲れていて、本当は東京に着くまで僅かな時間でも眠っていたいと
思うのに、でも気持ちはしたくてしたくてたまらないのだから。


「おまえは何もしなくていいから、させて?」

そっと膝に手を置くと、あいつの足がびくっと震えた。

「いや…だ」
「マジでなんにもしなくていいよ。別のこと考えてたっていいから」
「そんなこと…出来るわけないだろう」


そっと指を這わせて、チャックの上を撫でると、思いがけず強ばりがあるのがわかった。

「違…」

顔を上げ、目が合った瞬間、あいつは真っ赤な顔のまま、困り切ったように言うので愛
しくてたまらなくなった。


「うん…そうだな。違うな」

疲れてるからタってんだよと、確かそういうの疲れマラって言うんだよなと言ったら、あい
つは更に赤くなってしまった。


「いいじゃん。おれは単にけだものだけど、おまえは単に疲れてるだけで、その疲れを
とってあげるって言ってるだけなんだから」
「そんな―上手いことばかり言って」


どうしてキミはそういうふうにぼくに何も言えなくさせるんだろうと言いながら、塔矢はも
う抵抗しなかった。


座席から下りて、ひざまずくようにズボンのチャックをゆっくりと下ろし、中ですっかりと
立ち上がっていたモノを引きずり出す。


「―っ」

脱がすわけではなく、そのモノだけを出されて塔矢は少し狼狽したようだった。

「なっ…ちょっと進藤っ」
「なに?」
「こういうのは…」
「こういうのは?」
「い…」
「イイ?」


笑いを含んで目を見ると、あいつは泣きそうな顔になってそのまま顔を背けた。

「すげぇ、元気♪」

寒いのか少しだけ震えている塔矢のモノをそっと口に含むと、ああと切ないため息
が頭上から降った。


帰る間際、汗だけ流してと入った温泉の湯の匂いがまだ肌には残っていて、それが
全身を思い出させてたまらなくキた。


のど元までくるかと思うくらい、先端から根元までをすっぽり口の中に納め、しばらく
中で舌だけを動かす。


だんだんと強ばりを増すそれを唇をすぼめたまま、今度は先端までくわえてもどり、
それからカリを軽く噛むようにして外すと「うっ」と塔矢が声をかみ殺した。


「気持ち…いい?」

だまってふるりと首を振る。

でも感じているのは顔を見ればわかるので、おれは再びモノをくわえた。今度は先の
方だけをくびれを舌でなぞるようにして舐める。


何度も何度も舐めていると、先端から少し苦味のある液が溢れ出した。

「あっ…う」

他に誰もいないというのに、それでももし誰かに聞かれたらとでも思うのだろうか、塔矢
は椅子に背を押しつけるようにして、必死で声をかみ殺している。


「あっ、ああっ」

じゅっと溢れ出した汁を吸い、それから上から下まで舌で包み込むようにして大きく舐めた。

そのまま裏側をしつこく舐めて、それから膨らみの一つを口にほおばる。

飴を舐めるようにゆっくりと舌でころがしたら、ひっと小さな悲鳴が上がり、先端からまた液
が溢れ出すのが見えた。


「すげ…感じてんじゃん」
「進藤…あまり焦らさないように…して」


切ない声で懇願するように言い、塔矢は苦しそうに指でネクタイを緩めた。

「なんで?まだ時間あるし、せっかくだから長く気持ちよくさせてやるよ」
「そんなこと…しなくて…いい」


本当はおれもわかっている。こんなふうに誰かにいつ見られるかもという状況でするのは
嫌なのだ。


それを更に焦らしなかなかイカせてもらえないとくると、塔矢のような潔癖な人間には絶え
られないことなんだろう。


(でも…だからイジメたくなっちゃうんだけど)

耐えるこいつの顔に燃える。
耐えて、耐えかねて吐き出す息に欲情する。
切ない声と、訴えるような目と、こぼされる涙がおれをいつも凶暴にさせる。


もっと、もっと汚してやりたい。

最愛で、何よりも大切にしたくて、守りたくて、大好きで。
なのに時にそれに逆らうようなことを考えてしまうのは何故だろうかと思う。


「苦し…進藤…もう」

ズボンの狭い窓から出されたそれは、下着が食い込み、窮屈でとても苦しそうだった。

したたった液が布地を汚し、ちゃんと脱がせてやればよかったかなと少しだけかわい
そうな気持ちになる。


「進藤…お願い…」

まだしつこく口の中で膨らみを弄ぶおれに、あいつはとうとう座っていられなくて崩れる
とおれの背中にしがみついた。


「進藤っ…ああっ」

イカセテ。

もうイカセテと、譫言のように言われ、背に爪をたてられて、もう許してやるかと思った。
まだ全然おれは足りていないけれど、これ以上やったら塔矢が壊れる。


「ん…じゃあ」

イカせてあげるとモノを口に含もうとした時、かくっと軽い震動が起こった。

気がつくと電車は止っていて、ちらりと写るホームの人影にはっとする。どうやら行為
に夢中になっているうちに次の駅に着いたらしい。


「…うっ」

さすがに止っている時に続ける気にはなれなくて、握ったまま緩く指でしごいていると、
突然、物音と共にドアが開いた。


ぱっとはじかれたようにあいつが起きあがり、おれも慌てて座席に座る。

今まで誰も乗り込んで来なかったのに、出張の帰りだろうか? 会社員風の男が一
人、二階席に上がってきたのだった。


「あー」

貸し切り状態だったのにと残念に思いながら目で見ていると、男はおれたちを通り越
して、反対側の出入り口のすぐ側に座った。程なく車掌が来て、切符を確かめると立
ち去って行った。


それだけで、今までの空気がすっかり変わってしまったような気がした。

(困ったな)

これでは愛撫を続けることが出来ない。いくらおれでも人に見られながらなんてそこま
で変態な嗜好は持ち合わせてはいなかったから。


「塔矢、どうする?」

問いかけても赤い顔で俯くばかりで、塔矢は返事をしない。
ただ苦しそうに上着の裾で前を隠しながら、顔を窓ガラスに押しつけている。


寸前まで高まったそれは、仕舞うには敏感になりすぎて、どうにも出来なくなってしま
ったらしい。


「…大丈夫?」

おれも男だからこういう状態がどれだけ辛いのかよくわかる。

再びゆっくりと走り出した電車の中、かわいそうなことをしてしまったなと、肩で息をし
ているあいつにそっと触れると、剥き出しの電線でも触ったかのようにあいつは身を
震わせた。


「とう…」

ごめんなと言おうとした時に、唐突にぽつりと塔矢が言った。

「…て」
「えっ?」


かすれた声が聞き取りにくくて尋ねると、塔矢は俯いたまま苦しそうにもう一度言
った。


「続き…を…して…欲しい」

言いながら、みるみる首筋が酔ったような真っ赤に染まっていく。

「進藤…お願…い」

はらりと押さえていたスーツの前を開けて、塔矢はそれでも恥ずかしくておれの顔
が見られないのだろう。


窓の方を向いたまま、余程苦しいのだろう、一筋涙をこぼした。

「ごめん…」

プライドの高いこいつが、自分からこんなことを言う。
どれだけ屈辱で辛いことだろうかと思ったら切なくて、愛しくてたまらなくなった。


「ごめん、おれが我が儘言ったから」

大丈夫、最後までやってあげるからと、ちらりと遠い席を見ながら、でもおれは答え
た。


「ちゃんと気持ちよくしてやるよ」

再び座席の前に跪き、おれはそっとあいつのモノに指をかけた。
もう待ちきれないのだろう、液を溢れさせたそれはおれの指に歓喜したように震え、
固さを増した。


「舐めて…」

泣くような切ない声だった。

「…ん」

「ごめ…進藤…本当に…ごめ…ん」

なぜ謝るんだとそう思った瞬間に、欲望とかそういうものを通り越して、強烈に愛しい
と思った。


気持ちよくさせてやりたい。
気持ちよくイカせてやりたい。
こいつを少しでもよくさせてやりたい。


さっきまでの自分の欲望を昇華させるためではなくて、今度は純粋にそう思っておれ
はあいつのを舐めた。


口に含み、くびれを扱き、どんどん荒くなる息に痺れるような幸福を覚えた。

「ごめん…な、おれ優しくなくて。これからはもっと」

もっと優しくするからと、含みながら言うとあいつは「大丈夫」と言った。
けれど言ったその声がアノ声のようになってしまって、慌てて唇をきつく噛みしめた。


「はぁ…あっ」

車内はレールの音でうるさいけれど静かで、離れているとはいえ、聞こえてしまうの
ではないかと不安になった。


「あっ、ああっ、進藤っ」

じゅっ、じゅっと根元までこぼれる液を唇で吸い、そのまま舐め上げるとため息が
こぼれる。


「進藤っ、進藤っ」

押さえているつもりで、塔矢の声はどんどん大きくなっていて、でもおれはもうそれ
を止めようとは思わなくなっていた。


もっと
もっと
気持ちよくさせたい。


もっと
もっと
声をあげさせてやりたい。



快感の波に揺られるように、塔矢の上半身もおれの上で激しく波打っている。

(誰に聞かれたってかまうもんか、誰に見られたって別に…)


「進藤っ…ああっ」

愛しくて、愛しくて、愛しくて。
口の中で夢中で貪っていたら、一度大きくあいつのモノは膨らんで、それからおれ
の中で苦くはじけた。


熱く、勢いよく、あいつの味が口中に広がって、それからがくりと背中の上にあい
つの体の重みがかかったのだった。


「…る」

最初は何を言っているのかわからなかったけれど、やがてそれは「愛している」と
塔矢が言っているのだとわかった。


「すごく…気持ちがよかった」と、こくりと喉の奥に全て飲み込んだ、おまえを味わ
ったおれの方がもっと何百倍も気持ちよかったのにと思いながら顔を上げた。


「塔矢」

(愛してる)

潤んだ目を見ていたら、切ないような気持ちになった。
おれはこいつを抱きたくてたまらないけれど、それは体の衝動なんかじゃないん
だと、まだ汚れの残るあいつのモノを優しく舐めてやりながら思った。


好きだから抱きたいんだ。
愛してるから抱きたいんだ。
そんな簡単なことが今初めてわかった。


「おれも…愛してる」

まだ赤い頬を挟むようにしてキスをすると、それからおれたちは見つめ合い、幸せ
な気持ちで笑ったのだった。






「…聞かれたかな」

お互いに汚れを拭き、服装を整えていると塔矢がふいに不安そうな顔になってお
れに囁いた。


「さあ…聞こえたかもしんないけどわかんねぇ」

目線が辿るのは椅子の上に微かに見える髪の毛で、あの客は果たしておれたち
の声を聞いただろうかと思った。


レールの音でまぎれたとは思うけれど、最後は結構大きな声をあげていたような気
がするので、もしかしなくても何をしているか気がつかれてしまったかもしれない。


「いいじゃん、向こうに先に下りてもらってさ、それからおれたち下りれば顔見られな
いし」


もし気がつかれてたとしても、もうたぶん会うことが無い人だしさと笑うと、キミは気楽
でいいなとため息をつかれてしまった。


「なんだよ、そんな一々シリアスになってたらやってけないだろ、おれたち」
「…うん、まあ…そうだけど」


でもこれからは外でするのは控えようと言うので、渋々それに頷いた。


東京―。

下りなければいけないその駅で、おれたちは例の客が降りるのを妙に緊張した気持
ちで待った。


顔を見られたら嫌だなとあいつが言うので、少し身を屈めて、でもいくら待っても目の
前の黒い髪は下りる様子が無い。


「どうする?」

終点だし、このままいつまで乗っていても仕方ないので思い切って立ち上がる。

「出よう」

それでも微動だにしない前方の席にふと気がついて、おれはためらうあいつの手を
引くと歩いて行った。


「進藤…」
「しっ」


ドアのすぐ横の席。怖々とのぞいた先では赤ら顔をした男がスーツを着崩して微か
ないびきをかいていた。


「…寝てるね」

入ってきた時には気がつかなかったけれど、ぷんと酒臭いことからかなり酔って乗
り込んできたのだとわかった。


「こんなんだったら、座って一秒で寝たな」
「…そうだね」


おれたちが何をしているのかも気がつく間もなく寝てしまったんだろうと思ったらお
かしくてたまらなくなった。


「下りよう」
「起こさないの?」
「いいよ、気持ちよさそうだし」


どうせ駅員が起こすだろうからと、そのままにして電車を下りる。
手をつないだまましばらく歩き、でも我慢できなくなって二人で顔を見合わせて笑った。


「やっぱ…しようよ」
「え?」
「外でもさ、おれしたい」


いつでもおまえが欲しくなった時にしたいし、おまえがおれを欲しくなった時にもしたい
と。


「懲りないな…キミは」

あんなふうに酔ったオヤジが乗っている時だけにするからさと、言うとあいつは軽くお
れを睨み、でも嫌だとは言わなかったのだった。





※別名、えろえろ電車(爆)ここの所エロづいていてなんですが(^^;
2004.11.25 しょうこ