日本で弾圧されたキリスト教は、ふるさとでは弾圧する側だった...キリシタンとユダヤ教徒の〈隠れの思想〉
ニューズウィーク日本版 / 2023年9月6日 10時55分
弱き者や裏切り者とみられてきた彼らの〈隠れの思想〉にこそ、世俗の精神を推し進める力学があると小岸氏はいう。
〈改宗と「隠れ」という、社会的には屈辱的に見える現象の中にこそ、近代の合理的・世俗的な思考の鉱脈が走っている〉とし、理性や合理主義を重んじた哲学者スピノザをあげた。
ポルトガルからオランダに逃れたマラーノの両親から生まれたスピノザは、ユダヤ人共同体とも決別し、キリスト教にも改宗せず汎神論の立場を取った。
民主主義や政教分離、信教の自由といった近代的価値観の形成に大きな影響を与えた哲学がマラーノを母体に生まれたとすれば、〈隠れ〉のDNAはもはや近代人に内在しているともいえる。
職場や地域や家庭、さらには政治や宗教の場といった個人が属する多様な場面でそれぞれに適切な自分を使い分ける私たちはすでに、何重もの〈隠れ〉を実践しているのかもしれない。
日本二十六聖人殉教記念碑がにぎやかな現代都市にある歴史モニュメントだとわかったのは、現地を訪れた収穫であった。
21世紀にあって宗教やイデオロギーに凝り固まることや、非合理的なものに全人格を傾けてしまう没入は、人類が乗り越えてきた過去への退行でしかない。理性や知性をかなぐり捨てて得る利益は何もないはずだ。
本稿を書くに当たって小岸氏が昨年8月23日、84歳で亡くなられていたことを知った。不思議な因縁を感じる。〈隠れの思想〉は今こそ光が当たるべきテーマであろう。
坂本英彰(Hideaki Sakamoto)
1963年和歌山県生まれ。同志社大学文学部卒。1989年、産経新聞社入社。社会部、文化部、外信部などを経て2023年から大阪本社編集委員。2001年に米コロンビア大学大学院に留学、政治学を専攻し修士号取得。歴史や神話関係の記事多数。2022年1月から『わたつみの国語り』を大阪本社版とウェブ版で連載。
『隠れユダヤ教徒と隠れキリシタン』
小岸昭[著]
人文書院[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
この記事に関連するニュース
-
イスラエル・パレスチナ「結局どちらの言い分が正しいのか」…現代のパレスチナ人の一部はおそらく、イスラエルが対立するユダヤ人の子孫だという皮肉
集英社オンライン / 2023年10月23日 17時1分
-
イスラエル、なぜ「3つの宗教の聖地」となったのか 戦禍が絶えない理由を地理から紐解いてみる
東洋経済オンライン / 2023年10月18日 10時30分
-
あなたのキリスト教観が180度変わる! 類書皆無の宗教論『キリスト教の本質 「不在の神」はいかにして生まれたか』発売
PR TIMES / 2023年10月10日 16時45分
-
明智光秀の娘ゆえ「女城」に幽閉…石田三成の人質になることを拒み、死を選んだガラシャ夫人の壮絶な人生
プレジデントオンライン / 2023年10月7日 8時15分
-
なぜ欧米人は「日本人の多くは無神論者」に驚くのか…無神論者が世界中のどの宗教より危険視される理由
プレジデントオンライン / 2023年9月28日 17時15分
トピックスRSS
ランキング
-
1緊迫続くガザ地区 「子どもたちをよろしく」日本の友人へ託した悲痛な思い かつての“日常”ほど遠く…
日テレNEWS NNN / 2023年10月24日 21時18分
-
2「地下トンネルに連れて行かれた」ハマスから解放のイスラエル人・女性が会見…いまも200人以上が人質か
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2023年10月24日 18時42分
-
3アウディーイウカ攻撃に失敗したロシア軍、兵力追加投入…ウクライナは地雷敷設で「要塞化」
読売新聞 / 2023年10月24日 0時56分
-
4ガザ地上侵攻先送り意向と報道 イスラエル、人質解放交渉巡り
共同通信 / 2023年10月24日 23時59分
-
5中国、2か月動静不明の国防相を解任…また重要閣僚が1年もたない異常事態
読売新聞 / 2023年10月24日 22時6分