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日本で弾圧されたキリスト教は、ふるさとでは弾圧する側だった...キリシタンとユダヤ教徒の〈隠れの思想〉

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月6日 10時55分

コロンブスによる「新大陸発見」の年として有名な1492年は、イベリア半島からイスラム勢力を駆逐したレコンキスタ(再征服)の完了年でもある。

「宗教浄化」の矛先は次に1000年以上も共存してきた内なる異教徒であるユダヤ人に向かい、同年、ユダヤ教徒をスペインから追放する命令が発せられた。

コロンブスに資金を援助した裕福なユダヤ商人にも容赦はなかった。15万人がスペインをあとにして12万人がポルトガルに流れ込んだとされるが、同国もスペイン王家との婚姻で間もなく追放宣告を発した。

進退窮まったユダヤ教徒が棄教を誓って洗礼を受け、このとき史上最大のマラーノ化が起きたという。

改宗したユダヤ教徒は本心から改宗していないのだとの疑いにさらされ続けた。たしかにキリスト教会に通いながらも、豚肉を食べない、金曜の日没から土曜の日没までの安息日に火を使わないといったユダヤの戒律を守った改宗者は多かった。

密告が奨励された。スペインで15世紀後半、ポルトガルで16世紀前半に始まった異端審問制度は、19世紀前半まで続いた。

1549年に日本にキリスト教を伝えたザビエルもリスボンで、異端者を生きたまま焼く処刑に立ち会い、派遣先のインド・ゴアでは異端審問所の設置を求めて後に実現している。

植民地にもマラーノは多かったのだ。〈ザビエルがポルトガル・カトリックの残酷な恐怖政治に深くかかわっていたことは、疑いない〉と小岸氏はいう。

絶対的な正義があることを疑わない人間の気高さと残忍さの両方をザビエルは備えているように思う。私たちはこの人物の後者の面には目を向けようとしてこなかった。

遠藤周作は『沈黙』で主人公の司祭ロドリゴに「転び」を説く人物として、拷問で棄教したポルトガル出身の実在の人物フェレイラ師を登場させた。

イエズス会の重職にあり不屈の信念にあふれた人物の棄教は衝撃をもって欧州に伝わり、教え子であったロドリゴらが日本潜入を決意したのだった。

二十六聖人記念碑 筆者撮影 

フェレイラは『沈黙』では魂を捨てた敗残者のように描かれるが、ラテン語、スペイン語と日本語に通じ、天文学や医学などを日本人に伝えた棄教後の人生を小岸氏は高く評価した。

またカトリック教会に恥辱を与えたフェレイラの「転び」に、〈神の栄光よりも現世肯定を選ぶ〉マラーノ的な精神の活動を認めている。     

生き続けることを重んじたマラーノや隠れキリシタンは宗教に殉じて身を亡ぼすことは選ばなかった。宗教を自らに取り込む〈二重生活〉を実践した。

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