オンプレミスとクラウドの連携――第3回:クラウド/オンプレミス連携をよりシンプルにする方法
作成者:遠井 麻里子 投稿日:2014年9月29日
こんにちは、SAPジャパンの遠井です。「オンプレミスとクラウドの連携」と題した本連載では、これまで2回にわたってオンプレミスとクラウド連携における基本的な考え方と、それを実現するための技術ポイントについてご紹介してきました。3回目の今回は、アプリケーションだけでなくミドルウェアそのものをクラウド化して、クラウド/オンプレミス連携をよりシンプルにする方法についてご説明していきたいと思います。
ハイブリッド構成のメリットを迅速&安価に提供
既存のオンプレミス環境にあるERPやCRMなどのデータを、クラウドに連携させるためには、これまで説明してきたように複雑なアプリケーションの統合が必要となります。そのため、従来はオンプレミス環境でミドルウェアを用意し、統合を行ってきました。しかし、これではクラウドのスピード感が損なわれてしまいます。そこで、SAPが提供しているのが、ミドルウェア自体をクラウドサービスとして提供するSAP HANA Cloud Integrationです。
SAP HANA Cloud Integrationは、クラウドとオンプレミス間をクラウド上のミドルウェアでつなぐインテグレーションツールとして、煩雑な連携の作り込み作業とコストを解消し、ハイブリット構成のメリットだけを手軽にかつスピーディに提供するものです。
参考:SAP HANA Cloud Integration – Connect cloud and enterprise applications
https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=cnn6P_LLdYM
SAP HANA Cloud Integrationが提供する機能
SAP HANA Cloud Integrationは、クラウドアプリケーションとオンプレミスを仲介するマルチテナンシーのミドルウェアです。このSAP HANA Cloud Integration、現状では3つの機能がリリース済となっています。
- Process Integration機能:いわゆるプロセス連携の機能です。イベントドリブンでリアルタイムにクラウド上のアプリケーションにワークフローを飛ばします。
- Data Integration機能:クラウドアプリケーションでオンプレミス側のデータを利用する際に、バッチで大量のデータを転送する機能です。従来オンプレミス用ではSAP Data Servicesという製品がありましたが、そのクラウド版と考えるとわかりやすいでしょう。
- Prepackaged Integration Flow機能:オンプレミスとクラウド上のアプリケーションの連携を容易にするため、技術的な設定をあらかじめパッケージ化した機能です。
プロセス管理と大量データ転送の2つの機能
ここではSAP HANA Cloud Integrationの機能を詳しく見ていくことにしましょう。SAP HANA Cloud Integrationは、メッセージベースのProcess IntegrationとETLベースのData Integrationの2つの機能を提供しています。大きく分けて、前者はプロセス管理、後者は大量のデータをバルクで転送するサービスです。
Process Integration機能
図2の左半分(緑色)が、Process Integration機能です。たとえば、オンプレミス側でキックした処理をプロセス連携によってクラウド上のアプリケーションで稼動させることが可能となります。トリガーとなるのはアプリケーションイベントで、リアルタイムもしくはほぼリアルタイムで動かすことができるようになります。また、メッセージの前後関係も管理できます。このProcess Integration機能の活用例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 現場の営業スタッフが新たな案件の登録に際して、最新の製品価格を知りたい場合、SAP Cloud for SalesとSAP ERPを連携させて、クラウド側にあるSAP Cloud for Salesの画面からリクエストすることで、オンプレミス のSAP ERP内にある最新価格をリアルタイムで照会することが可能になります。
- 営業スタッフがiPadなどから直接、お客様の前で見積を取得したり、セールスオーダーをSAP ERPに作成したりできるようになります。SAP Cloud for Salesから見積作成をリクエストすると、即座にERP側で見積作成・PDF化のプロセスが実行され、結果がSAP Cloud for Salesに返されます。これにより、訪問先のお客様の目の前にいながら見積の確認が可能になります。その後、さらにSAP Cloud for SalesからERPにセールスオーダーを作成するリクエストをすれば、ヘッダー情報がSAP Cloud for Salesに返されます。
Data Integration機能
図2の右半分(ベージュ色)が、Data Integration機能です。この機能は、たとえばマスターデータをオンプレミスからクラウドへまとめて転送したいといった大量データ転送、いわゆるバルク転送に利用されます。このData Integration機能で想定されるのは、以下のようなケースです
サプライチェーンのデータを統合・分析し、需給計画の策定や調整を支援するために開発された、SAPのクラウドアプリケーションであるSAP Sales and Operations Planning powered by SAP HANAを使うために、オンプレミス側にあるさまざまな形式の大量データ(ERPのデータベース内のデータやSAP以外のデータ、フラットファイルなど)をクラウドに転送する必要があります。SAP HANA Cloud IntegrationのData Integration機能を使えば、オンプレミス側からクラウド側に確実に迅速にデータを転送できるようになります。一度、設定してしまえば、差分のローディングは自動的に行われるようになります。
Process IntegrationとData Integrationの2つの機能は、これまでもオンプレミスで提供されてきたSAP Process IntegrationおよびSAP Data Servicesとよく似ています。しかし、SAP HANA Cloud Integrationはこれらの機能をそのまま転用したものではありません。オンプレミスやSAP HANA Enterprise Cloud(*)に構築されたSAPのアプリケーションとSAPのクラウドアプリケーションの連携、そして、将来的にはSAPのクラウドアプリケーションとNon-SAPのクラウドアプリケーションの連携に特化した、まったく新しいミドルウェア機能としてゼロベースで開発されています。
SAP HANA Enterprise Cloudとは、SAPが世界の主要地域に開設したデータセンター上で運用するマネージドクラウドサービスのことです。日本では2014年4月から東京と大阪のデータセンターが開設されました。
クラウド/オンプレミス 連携にかかる工数を最小化するiFlow
クラウドとオンプレミスの連携に開発工数がかかっては、せっかくの「手軽に始められる」というクラウドのメリットが台無しです。そこで、クラウドとオンプレミスの連携をする際の煩雑な作業を最小化するためにPrepackaged Integrated Flow(iFlow)が開発されました。
iFlowは、マッピング、APIおよびアダプター設定を含む、事前にパッケージ化された統合コンテンツを提供することによって、クラウドとオンプレミスの連携工数を最低限に抑制してくれます。
iFlowはユーザーのスキルに応じて、WebベースとEclipseベースの2種類のユーザーインターフェース(UI)を提供しています。WebベースのUIを使えば、開発経験のない方でも簡単にマッピング作業が可能です。
一方、社内に開発技術者がいる場合は、EclipseベースのUIを利用してiFlowにオリジナルの機能を追加したり、新たに機能開発を行うといった作り込みをしたりすることが可能です。
SAP HANA Cloud Integrationを利用するためのランドスケープ構成としては、まずオンプレミス側のファイアウォール内にあるサーバーにSAP HANA Cloud Integration Agentをインストールする必要があります。対応OSは、現在のところWindowsかLinuxの2種類です。
なお、一部のクラウドアプリケーションでは、オンプレミス側のERPにAdd-inアプリケーションをインストールする必要がありますが、いずれの場合も最低限の工数で導入が可能な点は、SAP HANA Cloud Integrationの大きなアドバンテージといえます。
実際の画面遷移
すでにSAPでは自社の業務にSAP HANA Cloud Integrationを用いて構築した、オンプレミスアプリケーションとクラウドアプリケーション両方を使ったハイブリッド構成によるソリューションを活用しています。以下のスクリーンショットは、社内で私たちが利用している調達システムです。このシステムでは、オンプレミスの電子調達システムであるSAP SRMとクラウドベースの調達・購買ソリューションAribaとを連携させています。実際の調達プロセスはSAP SRMとAribaの間を行き来しますが、エンドユーザーに対しては、スピーディでストレスを感じさせないユーザービリティを実現しています。
SAP SRMから購入を行おうとすると、SAML認証によるログオン画面が表示され、ログオン後はAribaの画面が切り替わる。この動きはシームレスに連携されていて、ユーザー側には単一のソリューションを利用しているようなエクスペリエンスが提供される。
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SAPのクラウドアプリケーションをご検討の際には、クラウド/オンプレミス連携を効率化し、アプリケーションの導入~運用を容易にするSAP HANA Cloud Integrationの活用をぜひご検討ください。
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