デフレ完全脱却へ税収増を還元、「一時的措置」-首相が所信演説
萩原ゆき-
経済対策で「過去に例のない大胆な取り組み」-所得減税も念頭
-
ガソリン・電気・ガス料金の激変緩和措置を来年春まで継続へ
岸田文雄首相は23日の所信表明演説で、急激な物価高による国民の負担を軽減するため、総合経済対策の一環として税収増の国民への還元策を実施すると述べた。「デフレ完全脱却のための一時的緩和措置」としている。与党に検討を指示した所得減税などが念頭にある。
衆院本会議での演説で、岸田首相は今春闘の賃上げなどにより、「日本経済は、30年ぶりの変革を果たすまたとないチャンスを迎えている」と指摘。「このチャンスをつかみ取る」ために、「過去に例のない大胆な取り組みに踏み込む決意」を示した。
その上で、「国民への還元」として、「急激な物価高に対して賃金上昇が十分に追いつかない現状を踏まえ、国民の努力によってもたらされた成長による税収の増収分の一部を公正かつ適正に還元し、物価高による国民の負担を緩和する」と表明した。
新型コロナ禍を経て経済活動の正常化が進む中、消費者物価は1年半にわたり日本銀行の2%目標を上回る水準が続いている。今春闘では30年ぶり高水準の賃上げを達成したが、実質賃金は前年を下回ったまま。物価高への国民の強い不満が内閣支持率低迷の背景にある。減税など還元策の後押しで本格的なデフレ脱却につなげられるか、岸田首相の経済財政運営は正念場を迎えている。
演説で岸田首相は、「何よりも経済に重点を置いていく」とも強調。年末までとしているガソリン補助金、電気、ガス料金の激変緩和措置を来年春まで継続する方針も明らかにした。地方自治体が低所得者向けに実施してきた1世帯あたり3万円を目安とした給付金の財源となる交付金の枠組みについても、「追加的に拡大する」と述べた。
現役世代に恩恵
岸田首相は20日、自民、公明両党に対し、税収増の還元策として所得税減税も検討するよう指示した。自民党の宮沢洋一税制調査会長は同日夜、所得減税のうち一定額を差し引く「定額」であれば納税者に均等に効果が及ぶと指摘。減税期間は、1年とするのが「常識的だ」との見解も示した。自民、公明両党は26日にも政策懇談会を開いた上で、減税に関しては与党の税制調査会を中心に具体策の議論を始める。
第一生命経済研究所の星野卓也・経済調査部主任エコノミストは、政府はこれまで実施してきた低所得者向け給付の対象者には高齢の年金受給者も多く、「現役世代に政策の恩恵が届いていなかった」と指摘。所得減税を組み合わせることで幅広い層に届く新たな負担軽減の形を模索しているのだろうと語った。「定額減税」が導入された場合、3年程度の時限措置であれば、財政への影響は1-2兆円程度に収まるとの見方を示した。
岸田政権はこれまで、「物価高から国民を守る」との方針を掲げ、ガソリン価格抑制に毎月3000億円余を投入してきたほか、低所得世帯に対し、1世帯当たり3万円を給付する支援措置(2023年度)を地方自治体を通じて実施した。
人気取りのバラマキ
好調な企業収益などを背景に、2022年度の税収は過去最高の71.1兆円に上る。法人税や所得税が上向いたほか、物価高の影響で消費税収も伸びた。消費税は1989年の導入以来最も多く、所得税収を上回る規模となっている。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは5日付けのリポートで、国の予算で歳出額は歳入額を大幅に上回っており、税収の上振れは財政赤字を穴埋めし、新規国債発行を減らすことに使うのが筋だと指摘。減税の検討については「国民の人気取りのバラマキ的な政策が強まっていると言えるのではないか」と述べた。
政府は過去の経済対策でも、 所得減税を行っている。1990年代には橋本龍太郎内閣で「定額減税」を行ったが、2008年の世界金融危機以降の対策では、対象者に直接支援が届く「給付金」が主流となっている。
木内氏は20日のリポートでは、減税による経済効果について、仮に5兆円分の所得減税を恒久措置として実施するのであれば、実質国内総生産(GDP)を1年間で0.25%押し上げると試算。時限措置の場合は効果は0.12%程度になるとして、「財政環境を一段と悪化させる一方、経済効果は限定的」だと指摘した。
他の発言
- ライドシェアの課題に取り組む、地域交通の担い手不足に対応
- 治療薬のさらなる研究開発を進める-認知症対策
- 中国とは首脳レベルでも対話を進める-日本産水産物の輸入停止は即時撤廃求める
- 行財政改革を含めた財源調達の見通し、景気や賃上げの動向などを踏まえて判断-防衛増税実施時期
関連記事