自動車の運転免許証を取得する際には、全員が受ける学科試験。文章問題に◯と×で答える二者択一式だが、一部の問題文は「難しすぎる」とネット上でたびたび話題になる。学科試験の問題文は誰がどうやって作成するのか、調べた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
運転免許証(普通免許)を取得するには住民票の登録地にある運転免許試験場で、学科試験と技能試験に合格しなければならない。自動車教習所を卒業した場合は試験場での技能試験が免除されるが、学科試験は必ず受けなければならない。免許を取得した多くの人は地元の免許センターといった試験場で、学科試験を受験した記憶があるはず。

学科試験は基本的な交通ルールに関する文章問題90問と、イラストを使った問題5問に◯と×の二択で答える。道路交通法施行規則第25条で「自動車等の運転に必要な知識についての免許試験の合格基準は、90%以上の成績であること」と定められ、合格するには知識と理解力が求められる。
▼「疑心暗鬼になる」問題も
問題文の多くは基本的な交通ルールを学び、理解していれば解けるが、中には思わず首をかしげるようなものもあるとされる。ネット上でたびたび話題になる問題の一部を挙げる。
①「夜間の道路は危険なので気を付けて運転しなければならない」

答え:×(夜間以外も気を付けて運転しなければならないから)
②「赤信号では必ず停車しなければならない」

答え:×(救急車やパトカーといった緊急車両はその限りではないから)
③「公道を普通自動車で運転する際には必ずシートベルトを装着する必要がある」

答え:×(普通自動車でない大型、中型自動車でもシートベルトをしなくてはならないから)
④「制限速度30km/hの道路では、その制限速度を超えて走行してはいけない」

答え:×(非常時はその限りではないから)
確かに、深く考えずに答えると間違えてしまいそうな問題文だ。警察庁に上記の問題と解答を示して確認したが「各道府県警で実施されている学科試験において、どのような問題が出題されているかは把握していない」との回答だった。試験場で過去に出された問題は公開されておらず、教習所での効果測定でも同様の文章問題が出される。教習所での出題だった可能性も否定できないが、ネット上では「何回も受けてようやく合格した」「考えれば考えるほど疑心暗鬼になってしまう」「ここまで理不尽だったかは覚えてないけど…死ぬほどあるあると思えてしまった」「まさに裏の裏の裏まで読む心理戦のよう」といった共感の声が寄せられた。似たような問題は存在したのかもしれない。
車の運転は自分自身はもちろん、他者の命に関わるため、厳しい試験になるのは理解できる。学科試験の問題はどの機関がどういった手順で作成しているのだろうか。

▼警察庁の例題を基に出題
島根県警運転免許課によると、問題文の元は警察庁が学科試験問題例として各道府県警向けに公開している。各道府県の公安委員会の警察職員が、例題を参考に地域の実情を加味して試験用の問題を作成し、出題するという。路面電車がある地域では路面電車に関する問題が多く出たり、紛らわしい表現はあらためたりと、地域ごとに違う問題が出される。
運転免許課の督永正城管理官は「問題はその都度、更新し、しっかり学科を学んだ人はほとんどが受かる難易度になっている」と話した。島根県だけでなく、多くの試験場では特に違和感のない、解きやすい問題文のようだ。
問題の元を作成している警察庁に取材すると、さらに詳しく分かった。問題は道路交通法により、国家公安委員会が作成した「交通の方法に関する教則」の内容から出題するよう決まっている。教則を元に例題を作成し、教則が改正されるたびに随時、例題を見直しているという。

警察庁では以前から問題作成の際、受験者の理解度を高めることに留意しているといい、各道府県警本部長に向けた、2021年6月付の庁運転免許課長の通達には「(各道府県の)運転免許試験担当課長は問題の正誤や問題文が分かりづらくならないよう審査すること」とあらためて明記された。通達では問題を少なくとも5年程度で全面的に更新することも求めている。先に紹介したネット上で話題の分かりにくい問題は、かなり昔に出されたものが記憶に残っていた可能性がある。
警察庁運転免許課の担当者は「受験者の規範意識向上のため、交通ルールの内容のみならず、ルールの意義を問うような問題を積極的に作成することを(各道府県警に)指示している。問題例については引き続き、安全運転に必要なルールや交通マナーが身につくものになるよう留意していく」とコメントした。
一見「難しすぎる」「理不尽」と感じるような問題も、自分と他人の身を守るための交通ルールを正確に定着させたいという、出題者の意図が背景にあるからかもしれない。大学や専門学校が夏休みに入り、これから教習所や試験場で学科試験に挑戦する学生が多くなる。最近の問題文は上で挙げたもののように分かりづらくならないよう留意されているはずなので、安心して受験してほしい。