魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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気付けばUA(ユニークアクセス)が12万を超えていました。ありがとうございます。
そういえば、何やら最近職業差別だとかの言葉狩りで「狂う」という漢字や「サイコパス」「メンヘラ」などいくつかの言葉が使えなくなりつつあるらしいですね。正直そんな言葉が使えなくなったらこの作品書けなくなりそうなのでめっちゃやめて欲しい。敵への煽りでめちゃくちゃ言うだろうから。

というわけで、九校戦七日目です。




第二十二話

九校戦七日目。確か今日は、スバルと光井のミラージ・バット。……そして、俺のモノリス・コード予選だ。

 

腹ごしらえを十全に終えた俺は、選手待機の控え室の重苦しい空気の中でも平然と端末を弄っていた。

 

「……比企谷。僕の邪魔だけはするなよ」

 

「誰に向かって物言ってやがんだ。功を急いて負けた日には半殺しにしてやるよ」

 

森なんとかの皮肉(?)に対して真っ向から脅しを返す。ミラージ・バットに関しては……ま、大丈夫だろ。予選程度、スバルと光井なら余裕で突破できる。

 

「……さて、そろそろか」

 

今日は合計四戦する。明日の決勝で上位四校でのリーグ戦だからな、この程度はさっさと終わらせて次に行くに限る。

そうして俺たちは、第一戦目のフィールドへと向かうのだった。

 

 

 

一戦目、対戦校は……確か第六高校だったか。ステージは『岩場』。仮面ライダーの戦闘シーンや決闘場でよく見られる採石場のようなフィールドであり、視界を遮る障害物が多いので潜伏がしやすいものの、裏を返せばクリアリングが難しいというデメリットが存在する厄介な戦場だ。

今回のフォーメーションとしては森なんとかが『攻撃(オフェンス)』、俺が『防衛(ディフェンス)』。残った一人が適時切り替えの『遊撃(ゲリラ)』を担う。精々楽させてくれるといいんだがな。

 

そして、試合開始のブザーが鳴り響いた──────その瞬間。

 

「ッ!」

 

「お、おい!」

 

「……バカが」

 

俺の優勝や達也による女子側の好成績も相まったのだろう。森なんとかは、最もやってはならない手を打ってしまった。

打ち合わせの際に互いの得意分野を確認したが、その時にアイツは『クイック・ドロウ』と『ドロウレス』によるスピードを得手としていると自身を評していた。

つまりそれは咄嗟の対応力が必要となる『防衛』において最も活きる能力であり──────まかり間違ってもとまでは言わないが、攻撃で活きやすいわけではない。

そして達也から聞いたところ、百家支流であるアイツの実家の職務は『要人警護』。つまり端から『対象を守ること』が命題であり、『相手を討ち取ること』は得手でもなんでもないのだ。

 

「……おい」

 

「……何だ?」

 

チームメイトに声をかける。視界には単騎で突撃したことでまんまと一対三のアウェーに持ち込まれてしまった森崎の姿が。

 

「……あのバカシメるついでに勝ってくる。一応全員ぶっ飛ばすが、念の為防衛頼んだ」

 

「えっ?ちょ、おい!」

 

すぐさま自己加速術式を行使、敵陣へと突貫する。相手も気付いて対処を試みるが──────

 

「『侵気楼(ミラージュ・インヴェイド)』」

 

『侵気楼』で視界を狂わせる。狙いを定められない攻撃など恐るるに足らない。そして岩を盾に森なんとかの元にたどり着き、担ぐ。これで回収完了だ。すぐさま撤退し、また別の岩の陰にまで移動。……ここまで下がれば大丈夫か。『侵気楼』、解除。

 

「っ、比企谷!お前が居なくたって──────」

 

「うるせぇよ」

 

ゴチャゴチャうるさいバカの顔面に蹴りを入れて黙らせる。この競技は『敵プレイヤーへの直接攻撃』は禁止されてるが……『味方への直接攻撃』は禁止されてないからな。この蹴りもセーフだ。俺は顔面蹴り飛ばされて地面に転がる度し難い阿呆の頭を踏みつけ、踏みにじりながら言い放つ。

 

「テメェはテメェの出来ること、出来ねぇことも理解出来ねぇのか。羽もねぇのに空を飛ぼうとする幼稚園児じゃねえんだぞ」

 

「あ、がっ……」

 

何かほざいてる阿呆を踏みつける足に更に力を込める。

 

「良いか、テメェの腐った容量の少ねぇ脳みそによーく刻んでおけ。この世で一番強いのは腕っ節が最強な奴でも世界一賢い奴でもねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。それすらも出来てねぇテメェがいたって何の役にも立たねぇよ。今からでもクビにして、テメェが見下してる雑草二科生を迎え入れた方が百倍マシだ」

 

そこまで言った後、俺はようやく足を退ける。咳き込むこいつを尻目に一言。

 

「そこで見てろ。そして頭冷やして考え直せ。今のテメェに何が出来るか、そして今のテメェには何が出来ないのか。それが出来ねぇなら、一生そこで腐って死ね」

 

全く、ムカつくことこの上ない。ササッと瞬殺するか。

 

「……」

 

「っ、行け!」

 

相手選手が魔法を行使する。加重、減速、硬化……俺をその場に留めるためだけに、3人の魔法師が互いに互いを邪魔することのないように発動する。俺の身体が加重魔法により重くなり、減速により動きが鈍くなった上で硬化により足を地面に縫い付けられる。

なるほど、的確なコンビネーションだ。上手く行けば……まあ、基本的にあんまり動かない十文字先輩や会長ならともかく剣士でもあるからこそよく動く渡辺先輩であればもしかしたら、くらいの良いコンボだ。

 

「だが──────今の俺は、ちょっとばかし機嫌が悪い」

 

硬化魔法を俺の足に適用されたものと同じ範囲で行使し、干渉力による上からの暴力で殴り殺す。すぐさま解除すると、固定されていた足は自由を取り戻した。そして次は自己加速術式を行使。減速と加重の二つの錘で縛られ──────()()()()、その二つの影響を受けてなお殺しきれない速度で駆け抜ける。

 

「「なっ!?」」

 

ミドルソード型CAD『小通連』を接近と同時に振るい、3人の手にあったCADを叩き落とす。勿論硬化魔法による刀身の延長を行い、ルールに抵触しないようにしてな。更に『侵気楼』で強制的に死角を生み出し、そこに転がり込む。

 

「──────終わりだ」

 

 

 

 

 

 

──────『原初の咆哮(プリミティブ・ロアー)』。

 

「GRRRRRRRRRRRRRRUUUUUUUUUOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAaaAaAAAaaAッッッ!!!!!」

 

それは猛獣を越えた、魔獣の咆哮。聴く者全ての『根源的・本能的な恐怖の感情』に作用する、厄災の喚叫である。『ただビビらせるだけ』などと思ってはいけない。受ければ『死の恐怖』すらも幻視し、受けた者の心をへし折りにかかる。人間が不快感を覚える低周波や不協和音を混ぜに混ぜ込んだ最悪の音を増幅、拡散する一撃だ。そんな代物を警戒不可の死角から、間近で受けてしまった対戦相手。一体どうなるかと言うと。

 

『──────六高、選手三名意識消失。勝者、第一高校』

 

あまりの恐怖に気絶するって訳だ。……げ、ビビり散らかした挙句小便漏らしてやがるこいつ。汚ねぇ。

 

 

 

はい、試合を終えて控え室の天幕に帰ってきました。そんな俺たち3人を出迎えたのは……市原先輩のお説教だった。

 

「……理解していますか。貴方のソレで全国で失神した視聴者が多数発生、観客席にも失神した方が大勢いて被害甚大なんですよ」

 

「……はい」

 

「よろしい。では二度と使わないでください」

 

「いやそれはちょっと保証出来ねぇっす」

 

「……」

 

「……なるべく使わないようにします」

 

「よろしい」

 

そして、市原先輩のお説教はバカに向いた。さて、ゲームでもしyうっわぁ。めっちゃ連絡来てる。えっと……達也に深雪に雫にエリカにレオに。内容は……さっきの『原初の咆哮』に対しての苦情かこれ。え、これ全部そうなの?……エリカのどうなってんだろ。

 

『殺す』

 

「ヒュッ…」

 

怖。……レオのは。

 

『お前後で覚えとけよ』

 

泣きそうになってきた。他にも『せめて事前に報告しろ』*1『凍らせますね』*2『後でお説教』*3などなど。先輩方からも苦言を呈されている。……帰りたくねぇ。『市原先輩にしこたま怒られたんで勘弁してください』、と。あ、秒で返信来た。

 

『却下』

 

泣いた。そんな、絶叫して大量に失神患者発生させただけじゃないか。……普通に悪いな。ごめんちゃい。

 

「……まあ、あまり長々と説教をしてこの後のモチベーションを削ぐのも逆効果です。一先ずこの辺りにしておきましょう。では」

 

そう言って天幕から立ち去る市原先輩。マジで顔に表情が出ないパッと見怖いんだよな。音である程度わかるから良いけど。

 

「……自分に出来ること、出来ないこと……か」

 

俺がさっき言ったことを反芻してんな。……ここは放置しとくか。

そしてしばし時間が経ち、二戦目の時間になった。

今回の相手は四高。フィールドは『市街地』。本来ならば雑踏に溢れる空間だが、まあ都合上無人都市だ。俺の探知になんの影響もないから有難い。ルール上、オフィスの備品などの使用は『殺傷性ランクB以上』にならなければ問題ないので、俺たちは作戦会議をすることに。

 

「ビルの中スタートか」

 

「しかもかなりの上層階……守りやすい陣地ではあるぞ」

 

「……」

 

まだ考え込んでいる森なんとか。一回意識こっちに戻すか。

 

「おい」

 

「っ!?……なんだ、比企谷か。どうした」

 

「お前が防御に回るか攻撃に回るか、今回はどうする?」

 

「……良いのか?」

 

何を聞いてんだこいつは。

 

「俺がムカついてたのは『苦手な部分を苦手なままにこなそう』としてたからだ。テメェが苦手な部分を得意な分野で補ってどうにかしようってんならそれは寧ろ高く評価するべきだろ」

 

「……一先ず、今回は防御に回らせてくれ。攻撃は頼んだ」

 

「あいよ。となると……そうだな、さっき辺りを調べてみたが、色々と良いもん見つけたぜ」

 

「良いもの?」

 

「じゃーん」

 

俺がそう言って見せたのは、梱包用のロープだった。

 

「……それで何をするんだよ」

 

「お前、『ホーム・アローン』って観たことある?」

 

 

 

 

 

暫く色々と細工して、開始時間5分前になった。下手な要塞よりも性格悪い罠を沢山作ってやったぜ。

 

「人の心ないぞこいつ」

 

「人間性に問題があるだろ」

 

「ひっでぇ言い草」

 

わざと何も無い空っぽの部屋の防御を厳重にして『この部屋にモノリスがあるんだ!』って思わせるようにしたり、扉の金属部分に静電気を帯電させて触れたら『バチンッ!』と行くようにしたり廊下にワイヤートラップを山ほど仕掛けただけだろ。ルールには違反してない。ちなみにブラフ部屋に入ると空気弾が雨あられの如く降り注ぐように時限・条件式の魔法式を組んでおいた。

 

「これに振動とかで周囲から見えないようにすれば、マジの不可視トラップの出来上がりだ」

 

「こいつ敵にならなくて良かったな……」

 

「本当にな」

 

「訴えたら勝てっかなこれ」

 

いや本当に。

 

そして、試合開始まで残り十秒。

 

十。

 

九。

 

八。

 

七。

 

六。

 

五。

 

四。

 

──────ビルの上空に、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

上空に展開された魔法式がビルに叩きつけられる。……確か、『破城槌』だったか。建物に行使した場合、その殺傷性ランクはAにまで跳ね上がるという『モノリス・コード』のルールでは余裕で禁止となる魔法。僕、森崎駿は──────動けない体を他所に、呑気にそんなことを考えていた。

走馬灯のように意識だけが加速している。砕ける天井も、落ち始める瓦礫も、ゆっくりと動くように錯視している。そのまま押し潰されてしまうと思った瞬間、先程の言葉が脳裏に過ぎった。

 

『今のテメェに何が出来るか、そして今のテメェに何が出来ないか』

 

十師族である三巨頭にも不遜な態度を取り、同時にそれを許されるほどの実力を持つ一般の家の出のあの男、比企谷八幡。先程の試合でも、僕を散々に蹴り飛ばしてから僕が為す術なく捕らえられたあの三重の拘束を打ち破り勝利を収めた。……正直あの時の音は死ぬほど怖かったが。父さんに死ぬほどしごかれた時よりも怖かった。本能に訴えかける恐怖だった。

……話が逸れた。今の僕に何が出来て何が出来ないのか。そして、僕の目標・目的を思考しろ。

僕の、僕たちの最終目標は『モノリス・コードの優勝』。では、そのために今の僕は何が出来るのか。

全員をビルから脱出させる──────無理だ。後2年ほど鍛錬すれば可能性はあるが、少なくとも今の未熟な僕には出来ない。

『破城槌』を止める──────無理だ。僕の干渉力では単純に届かないし、仮に止められたとしても破壊された瓦礫が僕らを襲ってゲームオーバーだ。

考えろ考えろ考えろ。負けの目があってもいい。ただ、勝ちの目だけは潰すな。

──────これしか、ないか。

僕ともう一人を犠牲に、今この場にいる最強を生かす。問題ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、『森崎家(うち)』の得意分野だ。

僕はCADの照準補助機能を使用せずに魔法の範囲・照準を定義する技術『ドロウレス』とCADを使用した魔法の高速展開を行う技術『クイック・ドロウ』を使用。

行使する魔法はプロセスを組んだ移動魔法。側の窓ガラスをぶち破る勢いで加速プロセスを組み、対象を指定する。その対象は……『氷倒し』で十師族を降した、現時点で『新人最強』に最も近い男。

 

「──────比企谷ぁっ!!!」

 

僕は、魔法を行使した。

 

 

 

 

 

「──────比企谷ぁっ!!!」

 

あいつの叫び声と共に、俺の身体が慣性を無視して吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ先はビルの窓ガラス。『モノリス・コード』用のユニフォームである装甲付きスーツを纏っていた俺はビルの窓ガラスを容易く突き破り、空中に投げ出された。

 

「っ、森崎!」

 

そして、俺を安全な外へと放り出した森崎は──────崩れゆくビルに、飲み込まれていった。

 

「──────っ!」

 

思考を止めるな。すぐさま慣性制御の魔法と減速魔法により落下速度を軽減、ゆっくりと地面へと向かう。地上5mほどのところで解除、地面に降り立つとすぐさま崩壊したビルへと向かった。

 

「……」

 

聞き取れ、鼓動の音を。呼吸の音を。……そこか!

俺は魔法を行使、移動魔法により瓦礫を退かし邪魔な鉄筋をねじ曲げることで森崎らへの直通ルートを作り出す。

 

「森崎!」

 

5分ほど退かし続けて、2人を見つけ出した。

手足がありえない方向へと曲がり、血を流し、息も絶え絶えな姿で。2人はそこに居た。

 

「……っ、救護班を呼べ!さっさとしろ!でないと殺すぞ!」

 

俺は大会委員をそう怒鳴りつけ、森崎たちに今この場で施せる応急処置を行う。やることはこの前の渡辺先輩と一緒だ。だがあん時と違うのは怪我の度合い。なので下手な治療は行わず、音による痛みの緩和のみを行う。

『痛覚を麻痺させる音』『眠らせる音』『ごく軽度の筋弛緩を引き起こす音』を組み合わせて歌う。今回は2人を纏めて対象に取るからあの時よりもキツいが……この程度、ついさっき助けられたのに比べりゃ些細な必要経費だ!

 

そうして、暫く──────時間を忘れて歌い続けていたから何分ほどか分からない。恐らく5分程──────歌っていると、救護班が駆けつけて2人を搬送していった。俺はそれを見て、ようやく肩の力が抜けたのだった。

 

 

 

──────第一高校、『破城槌』による正体不明の事故。選手2名が重傷を負った。

*1
by達也

*2
by深雪

*3
by雫




オリジナル魔法

原初の咆哮(プリミティブ・ロアー)
比企谷八幡が行使する振動・放出系魔法。
と言ってもその性質はシンプルであり、簡単に言えば『音波の増幅』。要はデケェ音をもっともっとデカくする。それだけの魔法。
しかしそれを零崎曲識に師事したことで音使いとしての技術を継承した比企谷八幡が使えば話は大きく変わってくる。
八幡が放った『本能的な恐怖を呼び覚ます音』を増幅することで、一定範囲内の全てを『純粋な恐怖で捩じ伏せる』。これの対処は魔法では不可能であり、これまた『純粋な精神力』で打ち勝つしか方法はない。一高の面々であれば達也と克人が戦闘続行可能なラインで耐えられる程度。深雪に真由美や摩利、服部と桐原、レオやエリカ、幹比古が気絶こそしないものの戦闘続行は困難な程度。雫やほのか、美月にあずさの場合は普通に意識を刈り取られる。
ただし、録音したものなどの機械越しである場合や単純に遠い場合は効果が薄くなる。

というわけで今回は森崎くん回でした。多分次回も最初のうちは森崎くん回になります。

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