魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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どうも、作者です。
前回につけられた感想で本作が日刊ランキングに載っていたことを知りました。感想を送ってくれた方が確認した段階では40位だったようなのですが、自分が確認した時には31位、その後ふと見たら19位まで上がってました。寝起きに感想でそれを知ってビビってベッドから転げ落ちました。情けない生き物め。
……こんなイロモノ二次創作がこの評価を貰って本当にいいんだろうかとか今更ながらビビってます。まあ貰ったものは仕方ないのでこれからも設定練り練りしてのんびり書いていきます。そう言ったものの嬉しかったので爆速で書きました。

さて、話は変わって今回は新人戦二日目後編。アイス・ピラーズ・ブレイク予選最終戦である八幡vs葉山です。かつての因縁を二人はどうするのか。そして二人はどんな戦いを見せるのか。それではどうぞ。


第十九話

 

「……比企谷。改めて、久しぶりだな」

 

「そうだな。お互い……あんま変わってねーか。4ヶ月で変わるようなソレじゃねぇもんな」

 

暫しの沈黙。中学の時のグループカースト最上位である葉山と、グループカースト最底辺の俺。本来交わるはずのない平行線であり、殺し名と呪い名のような対極の対極の対極。そして、戯言遣いと人間失格のような鏡の向こう側の存在。

 

「……葉山」

 

「……何だ?」

 

「俺ァ別に去年の一件についてはお前や雪ノ下に対しては何とも思っちゃいねぇ。寧ろ由比ヶ浜を止めてくれて感謝してる」

 

「……流石に、結衣の行動は目に余ったからね。当然さ」

 

「そうかよ。……でも、その様子だとやっぱ負い目はあるようだな」

 

「……やっぱりバレるか。ああそうだ。俺は君に負い目がある。……そして、憧れも」

 

「……憧れ、ねぇ」

 

俺と葉山との関係に一番縁遠い代物だと思ってたんだが。

 

「ああ。中学二年のあの日。君を知ってから、俺は君が羨ましかった。『皆の葉山隼人』という鍍金の王冠に縛られて誰か一人の為に動くことも、自らを擲つことも許されなかった俺にとって。誰か一人の為に、自らを迷いなく擲つことが出来る比企谷は憧れだった。羨望だった。嫉妬だった。憎悪だった。……『こう在りたかった』という、理想だった」

 

「……また随分と迷惑な話だな」

 

一方的すぎて。

 

「全くだ。俺だって君の立場になってみると嫌なことこの上ない。……だからこそ、改めて言っておきたかった。この後の試合──────俺は、全力をもって君に立ち向かう」

 

「……そうか。ならば俺はそれに応えよう。お前の全身全霊を、真正面から受け止めて……その上で、ぶっ潰してやる」

 

どちらが示し合わせることなく、拳を突き出しグータッチ。今の俺たちにこれ以上の冗長な文句は要らない。もうすぐ戦いが始まるんだ。一文字でも過剰になれば稀代の一戦であろうと凡百の泥仕合と変わらなくなる。

 

さあ、男子アイス・ピラーズ・ブレイク新人戦予選最終戦を始めようか。

 

 

 

 

「……始まるぞ」

 

女子アイス・ピラーズ・ブレイク新人戦予選を終えた深雪たち。彼女らはそのまま観客席へと移動し、レオ達と合流して男子予選最終戦である八幡の試合を見に来ていた。

 

「はい、お兄様。……八幡さんは勝てるのでしょうか」

 

「……相手は葉山家。十師族の一つである二木家の分家出身の人間だ。生半可な実力では太刀打ち出来ないだろう」

 

八幡の勝利は容易ではないと言う達也。しかしその言動とは裏腹に、思考の中ではあることを考えていた。

 

「(……だが、それは相手が『生半可な実力』であればの話。深雪を下し一高の実技首席を勝ち取る程の力を持つ八幡であれば、話は大きく変わってくる。この一戦……先手を取った側が試合を動かすだろう)」

 

……その予想は、ただ一点を除けば当たりだった。

 

「あ、比企谷」

 

雫が指差した先。入場口から八幡が現れ、櫓へと移動する。……異常に気付いたのは、レオだった。

 

「……ん?なぁ、八幡の奴少し変じゃないか?」

 

「……変?レオ、何がどう変なんだ?」

 

「……八幡のやつ、さっきまでの二試合はクソ不真面目だったんだよ。アイツ音楽家として有名でファンもいるからってことで、出てきた時の歓声に手ェ振ったりファンサしてヘラヘラしてたんだけど……なんか、今は妙に静かなんだよ」

 

確かに、八幡は静かに櫓の上で佇んでいた。

 

「……相手が二十八家の分家だから緊張してるとかじゃないのか?」

 

「分家どころか十師族本家の人間アホ呼ばわりして張り倒すアイツが?冗談だろ?」

 

「……」

 

返す言葉もない達也だった。

そして、反対側の入場口から葉山が現れる。

 

「……やあ、比企谷」

 

「よう、葉山。遅れてきやがって」

 

「宮本武蔵気取りさ」

 

「じゃあ俺は佐々木小次郎ってか?いやそれだと俺負けんじゃねぇか」

 

「その通りに負けてくれても良いんだよ?」

 

「冗談じゃねぇ。ゲロ吐くくらいぶっ飛ばしてやる」

 

軽口を叩き合う二人。同族であり天敵。対極であり同一。交差する平行線。そんな筋違いの見当(検討)違いな矛盾を抱えた二人は、街角で久しぶりに会った友人と話すかのような気軽さでその時を待つ。

──────そして。

試合が始まった。

 

「──────行くぞ、比企谷ァッ!!!」

 

「──────来いよ、葉山」

 

八幡が展開したのは『圏空』。最()の盾を以て葉山隼人の覚悟を受け止める。

葉山が展開したのは加速・移動・収束の三系統を用いた複合系統魔法『徹甲撃』。最高(罪業)の矛を以て比企谷八幡の決意を打ち破る。

 

渾身にして全力。今まで出したことのないほどの力を振り絞り、史上最速で展開した魔法式。その速度に関しては一条将輝をも上回っていたほどの、高速を越えた超速展開。それを見ていた二高の選手の誰もが葉山隼人の勝利を確信するほどだった。──────しかし。

 

「……っ!」

 

比企谷八幡はその先を行く。裏技を行使し、葉山隼人より先に自らの氷柱に二重の保護を展開する。その速度は超速をも越える神速。時間にして、人間の魔法行使速度の限界点をも越えた『99ms』*1で『圏空』を行使し、葉山の魔法干渉を弾き飛ばす。

 

「……どうした。こんなもんか?」

 

「まさかっ!」

 

そう言いながら、葉山は再度魔法を行使する。今度は速度重視ではなく、干渉力を極限まで高めた一撃を。

 

「そう来るか。だが俺のコレはそう簡単に貫けるほど甘くない」

 

葉山から噴き上がる想子を見て、八幡もまた『圏空』の出力を引き上げる。と言っても八幡は想子の保有量に優れている訳ではない。『術式解体(グラム・デモリッション)』など以ての外である。では何故無系統故に消費の大きい『圏空』を維持するか。それは八幡の『耳』を利用した能力に由来する。

 

「……なるほど、そういうことか」

 

「達也、何が『そういうこと』なんだい?」

 

観客席で達也が呟く。その言葉に幹比古が反応すると、達也が説明を始める。

 

「アイツは耳が良くてな。魔法式などを音として知覚する特殊な耳を持っている。それを利用して、『術式の無駄を極限まで無くしている』」

 

これを読んでいる読者の一部に分かるように言えば五条悟の六眼のようなものである。八幡にとって下手に視認するよりも多くの情報を得られる聴覚を介して想子と魔法式を知覚することで、余剰分や無駄を削ぎ落とす。

 

「(……俺の仮想魔法演算領域ではどう足掻いても不可能な領域か。想子の精密制御に関しては贔屓目を抜きにしても最強クラスだ。最低でもB……いや、Aランクにも届きうるな。……感情が昂ると無差別に周囲を凍らせかける深雪にもこの制御を見習って欲しいんだが。今度想子制御を深雪に教えるように八幡に掛け合ってみるか?)」

 

『再成』と『分解』を持たず、『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』のみを持って生まれていたならば可能だったであろう。達也がそう考えてしまうほどには、一切の無駄のない芸術の如き魔法運用であった。ちょっと兄としての感情も混じっているが。

 

「……まさか、俺が人の魔法を羨むことになるとはな」

 

なお、生まれ持った魔法である『分解』と『再成』に限定すれば想子の消費を抑えながらの使用も出来たりする。達也自身の想子保有量の問題で多少抑えたところで誤差の範囲だが。10発も撃てば勝てる戦いに持ち込んだ弾数が100から120発になるようなものなので。節約せずともオーバーキル。

 

それはそうとして、八幡と葉山の激突は熾烈を極めていた。

葉山が消費を度外視して出力を上げれば、八幡は『圏空』の範囲を縮小して再定義、その分強度を上げることで消費量をそのままに、氷柱の幾つかを犠牲に強力な攻撃を凌ぎ切る。

永遠のようで一瞬の、互いに自らの持ちうる技術全てを込めた最小規模の大戦争。

『この美しい戦いが永遠に続いて欲しい』、観客の誰もがそう思ってしまうほどの芸術戦。

しかし、永遠というものはこの世に存在しない。

この世に存在するありとあらゆる物には必ず終わりが存在する。

……それは、この戦いにおいても例外ではなかった。

 

「……ぐっ」

 

葉山が、息を激しく切らしながら膝をつく。……決着だった。

勝敗を分けた決め手は燃費の差だった。最大限の出力を最低限の消費で展開し続けた八幡と、その鉄壁の防御を打ち砕くために消費量を引き上げ続けた葉山。

例え想子保有量が葉山の方が多くとも……消費の差によって、因縁の戦いは決した。

 

「……俺の、勝ちだな」

 

対する八幡もまた、疲労困憊であった。

葉山の陣地の氷柱はまだ十二本全て残っているものの、それを全て破壊するだけの想子はまだ残っている。……いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()

節約していたとはいえ消費の大きい無系統魔法を行使し続けたことで、八幡の持つ想子の8割が消費された。これ以上の維持は魔法師生命に関わるほど、と言えるほどに。

 

「……そうだな、俺の負けだ。さあ、俺の氷柱を全部ぶっ壊せ!」

 

「ああ──────『術式装填(インストール)人見(ひとみ)』」

 

そう呟くと、八幡と葉山の髪が何かに引かれるかのように動く。

 

「これは……静電気?……っ!?」

 

残った想子を絞り出し、危険域一歩手前の力を引き出す八幡。

 

「目には目を」

 

「歯には歯を」

 

 

 

「悪には、厳正の閃電を!!!」

 

放出系統魔法による『電気』が溢れ出し、葉山の陣地の氷柱にまとわりつく。

 

「『高熱電流(アークテンション)』ッ!!!!!」

 

電力を引き上げ極限まで温度を引き上げ、全てを灼き尽くす『高熱電流(アークテンション)』。一切焼却の雷撃が氷柱を襲い──────

 

 

 

後には、何も残らなかった。

比企谷八幡、決勝進出。

 

 

 

 

 

「ぐえー……疲れたンゴ」

 

一昔前のネットスラングを交えた言葉を吐きながら、疲労困憊で天幕内の椅子に座り込み凭れ掛かる。いやマジで疲れた。私服に着替えたからこーやってダラーっとしてられるのが有難い。

 

「接戦だったな。大丈夫か」

 

「あー……今日はもう一歩も動きたくねー。想子も枯渇寸前まで使ったし身体が重い。達也、運んで」

 

「断る」

 

「ですよねー……」

 

脱力で椅子から滑り落ち、地面に転がる。あっひんやりしてて気持ちいい。

 

「そーいや女子の方はどうなったんだよ」

 

「ん?ああ。一高からの出場選手……深雪と雫、明智の三人が決勝進出した。運営からの提案で三人同率優勝にして決勝リーグを行わないのはどうかと言われたが……明智が棄権して3位に、残った深雪と雫で決勝戦をすることになった」

 

「なるほどねー……明日の俺の試合はどうなってたっけか」

 

「三高の一条、後はまた別の高校の生徒とのリーグ戦だ」

 

「順番は?」

 

「初戦と最終戦。最終戦がお前と一条だな」

 

「なるほど、大トリって訳か」

 

……そろそろ起こさないと本格的に眠気でやられそうだ。

 

「……よっ、と」

 

「……一条相手に勝ち目はあるのか」

 

「なるようになるさ」

 

とりあえず……部屋の備え付けのシャワー浴びて寝よ。飯食ってられる覚醒状態じゃねぇし今この状態で温泉入ったら多分溺死する。

 

結論から言うと夕飯すっぽかして午後5時から十二時間寝てた。

*1
ミリ秒。99msは"0.099秒"




比企谷八幡
実はもし温泉入ってたら温泉で寝こけてマジで溺死していた。

葉山隼人
負けたくせにめちゃくちゃ清々しい顔で帰ってきたから二高の面々は何も言えなかった。

作者
実は、19歳にもなって大真面目に時間旅行理論を分析したことがある。



オリジナル魔法
『徹甲撃』
葉山隼人が使用した複合系統魔法。『収束』により物体に硬化魔法を施した上で加速と移動により操作、硬化魔法により強度を引き上げられた物体を撃ち出しぶつけることで破壊する。

術式装填(インストール)人見(ひとみ)
比企谷八幡が使用した放出魔法。元ネタは『CØDE:BREAKER』に登場するキャラクター『人見(ひとみ)』の異能『電力』。使用する際は自己暗示とテンション上げを兼ねて、人見の台詞である『目には目を、歯には歯を、悪には厳正の閃電を』を叫ぶ。原作で人見が使用した『空中放電(フラッシュオーバー)』や『高熱電流(アークテンション)』を再現して行使するのだが、使用者である八幡曰く『使ってて楽しいけどキャラクターの退場タイミングのせいで技が少ないから再現感は微妙。ただ使ってて強くて楽しい』とのこと。

空中放電(フラッシュオーバー)
指定範囲内に電流の網を広げ、そこから雷レベルの電撃を放つ。

高熱電流(アークテンション)
電力を調整、発熱させた上でその温度を高めることで対象を焼き払う。八幡が使うソレの温度限界は通常の雷撃の瞬間最大温度と同じ30000℃。

どうも作者です。
本作の八幡の魔法師としてのコンセプトは『究極のテクニックタイプ』です。司波達也がその高い想子保有量と『術式解体』、その他裏技でどうにかする『力と技のゴリラ』なら八幡は力こそそんなにない代わりに技術で全てどうにかする『アルティメットテクニックゴリラ』です。ほなゴリ押し至上主義の『力のゴリラ』呼ばなアカンな……そうしたらやっと1号2号V3が揃う。昭和ライダーかよ。なおこの二人に並んで力のゴリラ名乗るには十文字先輩くらいの火力は欲しい模様。せめて該当者が存在する枠を寄越せ。
今回は新人戦二日目後編なんですが……4500文字はちょっと少ない気がする。感覚の麻痺か。1万越えが多いとどうしても短く感じるんですよね。平均7000字だと……うん。
一先ず比企谷八幡の過去の因縁、葉山隼人編は完全にケリが着きました。というかほとんど着いてたのを念入りに後片付けしたようなもの。後は九校戦中にケリが着きそうな方と全く着かなさそうな方です。
次回は新人戦三日目、ほのかのバトル・ボード決勝と深雪vs雫のアイス・ピラーズ・ブレイク決勝、そして八幡と一条によるアイス・ピラーズ・ブレイク決勝です。

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