魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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九校戦4日目、新人戦初日前編です。


第十六話

「……で、何で俺は連れてこられたんですかねェ!?」

 

「だって暇でしょ?」

 

「諦めてください、比企谷君。会長は割と暴君の気がありますので」

 

「それは知ってます」

 

「ちょっと2人とも!?」

 

「はっはっは、あっやばい肋が……

 

「「わーっ!?!?!?」」

 

九校戦4日目。新人戦初日である今日、俺は深雪たちと試合を観戦しようと思っていたのだが……突如現れた生徒会長に拉致され、アイツらとは別の場所で観戦する羽目になっていた。俺と生徒会長の漫才じみた掛け合いに昨日大怪我したばかりのはずなのに生観戦しに来た渡辺先輩は噴き出して怪我に響いてるし。何だここ地獄か?とりあえず鎮痛の音使うか。

 

「~~♪……はぁ、びっくりした。次怪我に響くようなことしたら殴りますからね、会長で」

 

「え、私でなの?私をでも私がでもなくて私でなの?」

 

「えっ?はい」

 

「流石に真由美で殴られるのは勘弁願いたいな」

 

「ですね」

 

「ツッコミ私しかいないの?達也くん助けて?」

 

相当な無茶ぶりである。達也不在だし。

 

「……で、結局何で俺が連れてこられたんスか」

 

「無理やり連れてきても罪悪感がさほど湧かないから?」

 

「一応確認なんですけど会長って前歯全部叩き割られても気にしない人間だったりします?」

 

「気にしないわけなくない?」

 

「安心しろ比企谷、代わりに今日の飯代は真由美が出すとのことだ」

 

「えっマジ?じゃあアホ先輩、ホットドッグ7つとコーラ大至急買ってこいさっさとしろ5分以内な」

 

「加速度的に後輩の敬語が消えていく……」

 

「最初からそんなに無かったろ」

 

「ですね」

 

実際初めからないし。

 

「よーし、八幡くんには年上への敬意の払い方を教えた方がいいわね」

 

「無駄に歳食ってるだけの奴に敬意が払われると思ったら大間違いだぜロリ巨乳」

 

「殺そ」

 

「やれるもんならやってみろやバーーーーーカ」

 

「ガキの喧嘩か?これ」

 

「似たようなものです」

 

その後、渡辺先輩と市原先輩のとりなしで何とか喧嘩をやめた俺たち。一先ず二人で人数分のコーラとホットドッグ7つを買ってきて、間食をしながら話し始めた。

 

「んじゃ改めて、結局何で俺が呼ばれたんです?ふざけたら今度こそ折りますからね」

 

「……ここに来る際の一件と、昨日の摩利のことでね。達也くんは今日は選手のCADの調整で手いっぱいだし、深雪さんを呼ぶと達也くんが必然的に来そうで。生徒会や風紀委員の一年生組にも一応連絡はしておきたいけど、2人が実質手が空いてない形になるから八幡くんを呼んだ形ね。拉致は私たちの横暴感を出して無関係な第三者から下手に勘繰られないようにするためよ」

 

「……なるほど。で、俺は今回談合した内容を達也と深雪に伝えろと」

 

「そう。八幡くん、『それをバラしたら面白くなる』なら容赦も躊躇もなくバラすけど『バラしたら不味いことになる』ことなら口は堅いでしょ?」

 

「うーん、否定できない」

 

他人の秘密バラし云々は前科あるからな。

 

「ただはっきり言って現状で分かってることも全然ないから、基本的には単純に使いっ走りね」

 

「……」スッ

 

「やめて!?拳を構えないで!?」

 

拳を下ろした。

 

「じゃ、音の結界を張るとしますか」

 

俺はそう言って、ピアノアプリを起動。通常よりもやや特殊な音の結界を展開する。

 

「……これは?」

 

「範囲外に音が漏れないように一定範囲を基準に音を相殺する結界です。魔法じゃないんでそういうのにはひっかかりませんし、本来のを少し改造して『九校戦の試合内容』だけは素通りするようにしてあるので『静か過ぎて周囲から違和感を持たれる』なんてこともありません」

 

「……何でもありね。それじゃあ、始めましょうか」

 

 

 

「まず俺と達也の見解ですが、まず間違いなく今回の2つの事件は首謀者が同一でしょう。というかこれで首謀者が別だったらやってられるか。あ、スピード・シューティング始まりましたね」

 

「そうね。雫さんは……この様子だと、CADに細工はされてなさそうね。緊張こそしてるけどパフォーマンスに支障の出るほどじゃない、いい塩梅の緊張よ」

 

「まア昨日の今日で手ェ出すバカはいないでしょ。出してたら出してたで最低でも俺と達也と深雪で犯人に襲撃かけますが」

 

「約束された"死"だな……理論一位二位の二人と実技一位二位の二人が同時に来るんだろう?私でも相手したくない」

 

それはそう。そうこうしていると試合が始まり、クレーが射出される。そしてそのクレーが有効エリアの範囲内に入った瞬間……クレーは粉砕された。

そして矢継ぎ早に射出されたクレーは有効エリアの中心あたりで破壊され、その次に同時に射出された2つのクレーはそれぞれエリアの両端あたりで残骸となった。

 

「うわ、豪快ね」

 

「……もしかして、有効エリア全域が魔法領域なのか?」

 

「はい。有効エリア内に幾つか設置した『震源』から、固形物に振動を与える仮想の波動を発生させています。震源を中心とした球に入り込むと、振動が対象物の中で現実化。標的を破壊するという仕組みです」

 

達也から聞いていたであろう、北山の魔法の詳細を市原先輩が説明する。俺もそん時いたし、説明手伝うか。

 

「有効エリアは一辺15mの立方体なんで……今回は一辺10mの立方体を想定、そっから各頂点と中心に震源を設定してたか。各ポイントをナンバリングして、展開した起動式の変数に番号を突っ込むだけで対応した震源から波動が撒き散らされますね」

 

「余計な力を使い過ぎじゃないか?ピンポイントで使った方が魔法力を温存できると思うが……」

 

「『震源をナンバリングしてる』ってところに何か仕掛けがありそうね」

 

「っすね。そもそも震源を動かさないんで一回展開したら後の演算が必要ないんすよ。予め展開して、発動時に番号ぶち込めばそれで終わりです」

 

「そして、この魔法は威力や持続時間を考える必要がありません。制御も何もないので、持ちうる演算領域を魔法の発動そのものにのみ使えます。連続発動もそう難しい話ではないでしょう」

 

そうして俺と先輩による説明が終わったあたりで、丁度北山の試合が終了。撃ち漏らしなしのパーフェクトゲームだった。

 

「魔法名称は『能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)』。司波君のオリジナル魔法だそうです。詰め込んでいるものが多く、起動式も大きいため北山さんのような処理能力に秀でた魔法師でなければ使えません」

 

「私の魔法とは逆の発想ね……どうやったらこんなの思いつくのかしら」

 

そう呟く会長の隣で、北山が使っていた魔法を目の当たりにした渡辺先輩は興味津々な様子で口を開いた。

 

「しかし、面白いな……自身を中心とした円を想定し、その円周上に震源を設置すれば有効な能動防壁(アクティブ・シールド)になるかもしれん。そうなると持続時間が問題になるが、そこは術者の腕でどうにか出来る部分か……良し、早速今夜にでもあいつをとっ捕まえて私のCADにインストールさせるか!」

 

「エンジニアの邪魔せんでくださいよ渡辺先輩……達也ほどの腕はないですが、俺も術式のインストールくらいの最低限は出来るんで。まあ細かい調整までは出来ないんでそこだけ達也にやってもらってください」

 

「む、そうか。それじゃあお願いしよう」

 

俺は達也の苦労を減らしながら、肝心の一番面倒なの部分だけ押し付けることに成功した。

 

 

 

その後。

 

「クレーの破片でクレーを破壊……ようやるわそんなもん」

 

「確か、『数学的連鎖(アリスマティック・チェイン)』だったかしら。見たもの全てを数式化出来る桁違いの演算能力により可能としている、これまた規格外の魔法よ」

 

……『ハイスクールD×D』に登場するキャラクター『アジュカ・ベルゼブブ』の『覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)』みたいなもんか。少なくとも俺には無理だな。数学苦手だし。

 

「北山さん以外にもパーフェクト……厳しい戦いになるかしら」

 

「『クリムゾン・プリンス』に『カーディナル・ジョージ』、『エクレール・アイリ』に留まらず……今年からは大変ね」

 

「何、『嗜好が100年前(クリームonプティング)』に『末端冷え性(カーディガン常備)』、『死にかけ(ヘルヘイム待機)』?何、三高って老人ホームなの?」

 

「お前耳どうなってんだ」

 

褒められても硫酸銅水溶液くらいしか出ないぞ。何でそんなもん出るんだよ。

 

「で、老人ホームが何だって?」

 

「いや老人ホームは関係ないわよ。一条家の次期当主に加重コードを発見した天才、『雷光(エクレール)』を異名に持つ一色家の令嬢よ」

 

「渡辺先輩、簡単に説明してください」

 

「超強い超賢い超速い」

 

「おっけ完璧に理解したわ」

 

あ、会長の胃に穴が開いた気配が。逃げよ。

 

「すんません、コーラ飲みすぎたんでトイレ行ってきます」

 

そう言い残して俺はその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

「……あら、貴方」

 

用を足し、真由美らの元へと戻ろうとしていた八幡。その最中、2人の少女と鉢合わせた。呼びかけられた八幡だったが──────

 

「……」

 

普通にスルーした。なんなら早足で立ち去ろうとした。

 

「ちょっと、そこの貴方!」

 

「……あ、俺?」

 

ようやく止まった。

 

「他に誰がいるのよ……」

 

「や、俺に見えない誰かが見えてる不思議ちゃんかなって思って……」

 

八幡の返答に頭を抱える金髪の少女。それはそうとして、気を取り直したのかその金髪の少女が自己紹介を行う。

 

「こ、こほん……私は第三高校一年、一色愛梨。そして同じく第三高校の四十九院沓子よ」

 

そう言うと、愛梨と共にいた青い髪の少女、沓子が頭を下げる。

 

「第一高校一年、比企谷八幡」

 

八幡が端的にそう返すと、愛梨は少しの間考え込み……嘲るかのように言い放った。

 

「ああ、貴方が。……『一般』の方ですのね。九校戦の選手になれる程度には腕が立つようですが、私たち三高には敵いませんわ。まあ、精々試合を頑張ってくださいな」

 

その言葉に、八幡は──────

 

「はっ、腰巾着引き連れてねぇと挑発も出来ねぇ雑魚が粋がってんじゃねぇぞ」

 

真っ向から混じり気ない暴言で返した。

そもそも十師族の娘であり学校の先輩である真由美にタメ口をききボケ呼ばわりして舐め腐っているこの男が、今更同い年の二十八家の娘程度にビビる訳がなかった。

 

「な、ななな……!」

 

「え、ジョイ○ン?」

 

全然違う。

 

「あ、貴方……私が誰だか分かった上で言っているの?」

 

「一色愛梨だって自己紹介してたろ。若年性アルツハイマーはまずいぞ。……ん、一色愛梨?」

 

その名前を思い返して、八幡はふと先程ちょっと聞いたことのある単語であることを思い出した。

 

「ええ、私が一色──────」

 

「お前があの『ヘルヘイム待機』か!」

 

「ヘルヘイム待機!?!?!?」

 

「くふっ」

 

沓子が僅かに吹き出した。

 

「え、違うの?」

 

「違うわよ!私は『エクレール・アイリ』こと、一色愛梨!」

 

「え、『デスゲーム開始』?」

 

「耳どうなってるのよ!?!?」

 

「……!」

 

必死に口抑えて笑いこらえながらも爆笑して転げ回る沓子。控えめに言って地獄絵図である。『エクレール・アイリ』と『ヘルヘイム待機』と『デスゲーム開始』、母音は全く同じで韻が踏めている分余計にタチが悪い。なおそのタチが悪い奴こと八幡は『会長にも耳どうなってんだって言われたなー……二十八家とかってツッコミも似た感じになんのかな』とか思っていた。

 

「ひ、ひー……ふふっ」

 

「何笑ってるのよ沓子!」

 

「い、いや、すまぬ愛梨。じゃが面白くてのう……ぶふっ」

 

話がとっ散らかり尽くしてしまったため、閑話休題。たっぷり5分ほどかけて落ち着いた3人であった。

 

 

 

「……してお主、確か比企谷八幡と言ったな」

 

「のじゃロリとはまた業の深いキャラしてんね」

 

「キャラちゃうわ」

 

また脱線しそうになっている。

 

「いかんいかん、こやつの調子に乗せられては話が進まん。で、比企谷八幡よ。おぬしは確か……『モノリス・コード』と『氷倒し』に出場するんじゃったな」

 

「あ?あー……そっか、出場者の名簿は他校にも入るんだったな。アホ会長が前に名簿見てたし」

 

「七草の娘をアホ呼ばわりできるのは後にも先にもお主だけじゃろうな……まあよい。こちらからはその2つの新人戦は一条が出るが……勝算はあるのかのう」

 

「敵チームにバラす奴がいるかよ」

 

「そこをなんとかならんかの。ほら、わし美少女じゃし」

 

「……これ答えないと逃げさせてくれないやつ?」

 

「大魔王ならぬ、美少女からはにげられない!ってやつじゃな」

 

そう言ってからからと笑う沓子にため息をつき……渋々八幡は口を開いた。

 

「ダイスを振るか振らないか、出目次第だな」

 

「ほう。ガイウス・ユリウス・カエサル気取りかの」

 

「あそこまで自信過剰じゃないさ。振ろうが振るまいが、結果は否が応でも出るんだよ」

 

「夢か現か霞か霧か、はたまた影か幻か。雲のように掴みどころのない男じゃの」

 

「掴みどころが欲しいのか?なら手すりでも顔面に取り付けて出直してやろうか」

 

「見所は間違いなくあるようじゃな」

 

詩的、比喩、迂遠、言葉の綾。あらゆる直接的でない単語を用いて舌戦を繰り広げる2人。しかし、戦況は間違いなく沓子有利であった。何せ沓子からすれば八幡のやり口を察せれば勝ち。一方八幡は沓子の目的こそ察しているため『負けない立ち回り』こそ出来ても、自分の勝利条件が初めから存在しない故に『勝つための立ち回り』がそもそも許されていないのだ。攻めることのみを許された沓子と、攻めることのみを許されなかった八幡。引き分けと敗北はあっても、八幡に勝利はなかった。

 

「して、本当に一般人なのか?」

 

「お前らみたいないい所の家出身じゃねぇよ。犯した犯罪も信号無視程度、ごく普通のどこにでもいる音楽家さ」

 

「おぬしがありふれておったらこの世は瞬く間に滅ぶじゃろうな」

 

「はは、違いねぇ」

 

「なんじゃおぬし面白いのう。どうじゃ、『四十九院(うち)』に婿入りとかしてみんか。後ろ盾は欲しいじゃろ?」

 

「生憎俺は自由を愛する『自由主義者(リベラリスト)』でね」

 

「『無政府主義者(アナーキスト)』の間違いじゃないかの」

 

「テメェこの野郎。ま、そうでなくても空を自由に飛ぶものを鳥かごに収めておこうなんざ烏滸がましいと思わないか?」

 

「大鷲気取りか?」

 

「俺としちゃドラゴンの方がいいな。かっこいいし」

 

「自由と力の象徴か。悪くないのう」

 

「顎には触れられたくないがな」

 

「古来よりドラゴンの顎と持ち物には手を出さんのが慣わしであるからな」

 

「獅子なんざ後からいくらでも付いてくるが、ドラゴンは生憎生まれ持ったものに左右されるからな。一生大事にするぜ」

 

「北欧の悪龍にならんといいな」

 

「俺としちゃなるならせめてブリテンの赤い龍になりたいもんだ。邪龍ならせめてゾロアスターの三つ首龍」

 

「ありゃ水神でもあるじゃろ。人の身を外れるつもりか?」

 

「それを人の身を過ぎた魔法(もん)をガキのチャンバラのように振り回す奴が言うのは皮肉かな」

 

「違いない」

 

そう言って互いに言葉を切り、喋り続けて乾いた喉を近くの自販機で水を購入し一口飲むことで潤す。愛梨は完璧に置いてきぼりにされていた。

 

「で、結局どんなことをするんじゃ?」

 

「俺は音楽家っつったろ?エンターテイナーがステージに出る前に観客にネタばらししたら顰蹙どころじゃねぇっての」

 

「それもそうじゃの。それならば此度は諦めるとするか」

 

そう言って、沓子は愛梨の手を取ってその場を去ろうとして──────何かを思いついたかのように、八幡の元に戻ってきた。

 

「ンだよ」

 

「いや、話していて面白かったからの。連絡先を交換したくてな」

 

「……それくらいならいいが。九校戦終わるまでは何聞いても返事しねぇからな」

 

「よい」

 

そして連絡先を交換し、改めて沓子たちはその場を去るのだった。

 

「……途中からついていく側逆転してたな」

 

そう呟いた八幡であった。

 

「……とりあえず一色愛梨(あの女)ムカつくから里美にテコ入れしてぶっ飛ばしてもらお」

 

 

 

 

 

「……沓子、どういうつもり?」

 

観客席へと歩みを進める中、愛梨が沓子へと問いかける。

 

「というと?」

 

「あの男との会話よ。手の内を探ろうとしていたみたいだけど、結局何も分からなかったじゃない」

 

「ん?いや、ある程度分かったことはあるぞ?」

 

「えっ?」

 

沓子の言葉に驚く愛梨。

 

「……ダイス云々は?」

 

「大昔のローマ皇帝ガイウス・ユリウス・カエサルの言葉『賽は投げられた』じゃな。振ろうが振るまいが結果は出ると言っておるから……『勝つかもしれないし負けるかもしれない、はたまたどちらかが出なくて不戦勝になるかも』ということじゃ」

 

「掴みどころは?」

 

「あれはそのまんまじゃ。あやつ、口が上手くての。相手が取ろうと思える程度の餌をぶら下げて、こちらが下手に食いつけば釣り上げられていただろうよ。与えていい部分と与えてはいけない部分の線引きをはっきりと付けておるわ」

 

「……ドラゴン」

 

「古くから獅子は勇気の象徴と謳われていた。それに対してドラゴンは力と自由の象徴じゃ。なんせ最強じゃからの、誰にも従う道理などない。顎や持ち物も龍関係じゃ。顎は龍の逆鱗。持ち物に関しては……北欧の黄金の守護龍(ファヴニール)しかりギリシアの林檎の百頭龍(ラードーン)しかり、龍は得てして自らの定めた宝物を守るものとされている。つまり……『怒りを買ったら潰す』ってことじゃな。いやあ、軽く脅されては流石に敵わんの」

 

「……結局、あの男はどんな奴なの?」

 

()()()()

 

「……は?」

 

「何もわからん。考えても無駄じゃ。比企谷との話の中で言ったように、奴は夢現にして霞、霧幻にして影。雲のような男じゃ。天衣無縫、傍若無人。奴のあり方を理解しようとすればするほど深みに嵌る。なんなら気の向くままに動いておるだけで、自分自身でも自身のあり方など理解しておらんかもな。それならばいっそ自然に構え、奴の繰り出す手に柔軟に対処するしかこちらができることはない。一条や吉祥寺の性格を考えれば天敵もいいところじゃ。あやつに比企谷のことを教えるのは愚策だろうよ」

 

「……勝ち目は?」

 

「せめてもの救いは比企谷本人にやる気がさほどないことよ。じゃが、あやつがもし本気になれば──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

三高(こちら)に、勝ち目はない」





おまけ
三巨頭のお悩み相談

「む……比企谷」

「あ、十文字先輩。こんにちは」

ある平日。放課後に偶然鉢合わせた克人と八幡は、なんとなくの流れで駄弁っていた。

「……そうだ、比企谷。すまないが、ひとつ相談に乗って貰えないだろうか」

「相談っすか?……俺なんかで良けりゃ」

「感謝する。それで、内容なんだが……まず質問だ。俺は……怖いか?」

「へ?」

いきなりの脈絡の死んだ質問にやや困る八幡。数秒黙り込み……口を開いた。

「うーん……まあ人によるとは思いますけど。俺は先輩のこと怖いとは思ってないっすよ?」

「そうか。俺には弟妹がいるのだが……この前、自宅で夜中に鉢合わせた際……何というか、泣かれてしまってな」

「あー……まあ先輩って、失礼ながらデカいしゴツいし彫りの深い顔してるしで全体的に不意にかち合うとビビる見た目はしてますね」

「……自覚はしている。学内でも七草や渡辺が下級生から慕われているのを見かけるのだが、俺は……決して無いわけでは無いが遠巻きにされることが多いんだ」

要約すると、『めっちゃ怖がられてるのをどうにかしたい』ということだった。

「なるほど。うーん……先輩から聞こえる音も力強いっすからね。ダンプカーとかブルドーザーとか除雪(ラッセル)車みてぇな音しますもん。しかも道路じゃなくて線路用の」

「『一騎当千』を掲げる十文字家の次期当主としては褒め言葉だが……一人の人間としては中々に辛い言葉だな」

「あ、すみません」

ジュースを飲む八幡とコーヒーを飲む克人。結構アンバランスそうで実は意外と合う二人だった。なお一科の上級生を張り倒し十師族である真由美を舐め腐る傍若無人な様だけでなく、克人にも気軽に接する様を見られた八幡は『狙撃妖精姫(エルフィン・スナイパー)』『鉄壁』に次いで『一高の暴君』などという不名誉な異名を付けられてしまったのは言うまでもない。

「……要は『皆から親しみを持ってもらいたい』ってことっすよね?」

「うむ」

「うーん……まず、親しみを持ってもらうには三つの要素のどれかが必要なんすよ。『外見』『雰囲気』『特徴』っす」

「まず外見なんですが……すんません諦めてください。来世に期待です。んで雰囲気も山岳どころか山脈の擬人化みたいな感じなんで……残った『特徴』でどうにかするしかないです」

「……そうか」

落ち込む克人。八幡は慌てて克人を宥めると、話を続ける。

「ここで質問なんですけど、先輩って好物とか苦手なものってあります?」

「……甘味が好きだ。逆に苦味の強いものは苦手だな」

「え、でもコーヒー……あこれ加糖のコーヒーか!?

よく見ると克人の手にあったのはジョ○ジアのエメラルド○ウンテンであった。八幡は雰囲気もあって完全に無糖のコーヒーだと思い込んでいた。

「まさか先輩が甘党だったとは……あ、じゃあ今度ここの食堂で一緒に飯食いましょうよ。あそこのチョコレートパフェめっちゃ美味いっすよ。パフェ食って甘党なのが周知されたら少しは距離縮まりそうですし」

「そうなのか。前々から気になっていたが、中々食べる機会に恵まれなくてな。丁度いい、では今度相伴に与るとしよう」

数日後、食堂にて一人一つずつチョコレートパフェを美味しそうに食べる八幡と克人の姿が──────!

「あ、先輩。マックスコーヒーって知ってます?」



克人と周囲の距離が縮まった!
克人と八幡が甘党繋がりで仲良くなった!
克人にマックスコーヒーが布教された!



三年生らと八幡のお互いの認識

八幡→真由美
話しやすさは三巨頭の中で一番。如何せんポンコツムーブが多いので尊敬度は一番下だが、好感度等は何だかんだで一番高い。頼まれ事があれば嫌がりながらも手を貸す。

真由美→八幡
クソ生意気大魔神系後輩。面倒事を呼び込むタイプの後輩(達也)と割と存在そのものが面倒事なタイプの後輩(八幡)、どちらがより厄介なのか。それは誰にも分からない。間違いないのはどちらも等しく可愛い後輩であるということ。周囲が自分の我儘に対して従順であったりとつまらなかったため、何だかんだでいい感じに言い返してくれるおかげで気楽に接せる八幡への友好度は高い。

八幡→摩利
行動を共にする時間は一番多い。立場上直属の上司であるため、風紀委員の部屋の散らかり具合などで辟易することも多いが、真由美を揶揄う時など息の合う場面もまた多い。頼み事に関しては秒で逃げるが最終的に手を貸す。

摩利→八幡
口の悪い方の後輩。風紀委員長と風紀委員の関係であり、八幡の万能性の高さもあって面倒事は大体八幡に押し付けている。書類系なら達也、荒事なら八幡にという流れは風紀委員会の中でしっかり確立されてしまった。来年どうすんだよ。ノリも割と合うので一年生の中では一番可愛がっている。

八幡→克人
見た目からしても音からしてもやっべぇくらい強い先輩。尊敬度は一番上。一緒になった時は音が概念ごとどっか行ったのかってくらい静かになり、居合わせた者が居づらくなり逃げ出す程だが本人としては割と居心地がいい。

克人→八幡
あまり交流が多いわけではないが、真由美や摩利からちょくちょく話を聞いている後輩。一緒になると耳が痛くなるほどにお互い黙りこくってしまうので苦手意識を持たれていないかだけが唯一の気がかり。

八幡→鈴音
良い先輩。単純に生徒会会計と下っ端風紀委員ということで、他の3人と比べて一対一(サシ)で話す機会が全然ないので人柄があんまり掴めていない。それはそうとして真由美に振り回される者同士で互いにあまり知らないなりにそこそこ交流はある。

鈴音→八幡
あまりいなかったタイプの後輩。真由美に振り回されている側としては真由美が周りに被害の出ない範囲で困らせられている様はちょっとスカッとしている。ただそれはそうとして人間性などはどうかと思っている。



一色愛梨の秘密
実は一つ下に同姓の従姉妹がいる。千葉に住んでいるらしい。

四十九院沓子
割と作者の好みなのでヒロイン候補。そのため今回は強めに絡んでもらった。


というわけで新人戦初日でした。流石にこのまま初日のイベントを全部こなすと長くなりすぎるので二つに分けさせていただきました。
ヒロイン候補に関しては作者が考えてる分で4人ほどいるんですが……どうしようか。最悪ハーレムルートに入ることになっても八幡に戦略級魔法でも持たせれば魔法科世界の情勢とか見ても血を絶やさないようにとか後ろ盾になる代わりにーとかの政治的な理由を出せばどうにか出来るんですよね。後は作者の技量次第です。……一番不安な部分だな?

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