ジャニーズ問題で注目、新浪サントリー社長の凄絶パワハラを元部下が告発 「携帯を投げつけ部下が骨折」「月に3回は携帯を壊していた」
サントリーHD社長で経済同友会代表幹事、新浪剛史氏(64)の履歴書に書かれていないのは、「4回の結婚歴」だけではなかった。携帯電話を投げつけ、相手を骨折させるようなひどい「パワハラ加害」常習者だったのだ。そんな男が、どの口で「人権」を語るのか――。
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新浪氏には、「海の男の血」が流れている。
新浪氏のことを好意的に取り上げた「AERA」(2023年10月2日号)の記事によれば、「新浪」の家系をたどると愛知県の三河湾にいた海賊に行き当たるらしい。また、新浪氏の父親は、荒くれものが集まる横浜の港湾荷役会社に職を得ていた。ある時その会社の作業員を巻き込んだ「出入り」、すなわちけんかがあったが、それを見た新浪少年は、
〈怖がるどころか、声を出して笑っていた〉
そうしたことから、「海の男の血」こそがビジネスパーソンとしての「源流」だと新浪氏は考えているという。しかし、残念ながらこの記事には重要な点が抜け落ちている。新浪氏の荒ぶる「海の男の血」は、実は、人知れず多くの犠牲者を生み出していたのである。
“給料泥棒”と人格否定発言
慶應大学経済学部出身の新浪氏が三菱商事を経てローソンの社長に就いたのは02年のこと。同社の立て直しに成功した後の14年には、請われてサントリーの社長に就任した。
「ローソン社長時代の新浪さんはとにかくパワハラがひどかった」
と、ローソンの元社員。
「すぐ怒鳴る、襟元をつかんで罵倒する、といったことは日常茶飯事。“クビだ!”“給料泥棒!”などの人格否定の暴言、恫喝がひどく、耐え切れずに辞めた幹部が何人もいます」
新浪氏といえば、ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏の性加害問題を巡って厳しい発言を繰り返してきたことで注目を集めている。企業がジャニーズのタレントを広告に起用することについては、
「チャイルドアビューズ(子供への虐待)を企業として認めることになる」
さらに、タレントが出演するテレビ番組のスポンサー契約を見直すことも「あり得る」と断言。スポーツ紙には「新浪ショック」の文字が躍った。
「人権」について語る資格があるのか
また、9月29日に日本記者クラブで行われた会見でもジャニーズ問題に関する質問に対して、
「欧米のスタンダードだと、その会社そのものが立ち行くことは難しくなる。ニューヨーク・タイムズをはじめ、いろんなところから、日本は変わった国ですね、というネガティブな反応があります」
として、こう指摘した。
「海外で批判されるからということではなくて、自分の企業が持っている自らの行動規範の中では人権は大変重要であり、そういった意味で今回明確になった。ジャニー氏の行いは決して許されるものではないと」
無論、ジャニー氏の行為が許されざるものであったことは疑いの余地がない。しかし果たして、新浪氏に「人権」をうんぬんする資格があるのかどうか。ローソン社長時代の行状をもう少し詳しく見ていこう。
携帯を投げつけられ骨折
「新浪さんが社長に就任した当時、ローソンでは携帯電話を全社員に1台ずつ、取締役には2台持たせていました。その中で新浪さんは一人で3台の携帯を持っていたのですが……」
と、ローソンの元幹部。
「会議の場で、売り上げの数字などが思ったように伸びていないとの報告があると、新浪さんは自分の携帯をその部署の担当者に投げつけるのです。私自身、そういう場面を何回も見たことがあります。新浪さんは若手社員にはそういった姿を見せず、部長職以上が参加する会議で携帯を投げる。ある幹部は、携帯を投げられたせいで上半身の骨が折れてしまったと言っていましたよ」
携帯を投げつけ、上半身を骨折させる。これはパワハラどころの話ではなく、傷害事件である。被害者の「人権」がないがしろにされていることは指摘するまでもあるまい。
「ウチはドコモの携帯を使っていたのですが、壊れた携帯を修理に出すと、ドコモの担当者は“携帯は電話をかけるもので投げつけるものじゃないんですよ……”と嘆いていました。平均すると月に3回は携帯を壊していたので、一度、修理費用がどれくらいかかっているのか新浪さんに見せよう、という話になった。旗振り役を担ってくれたのは、新浪さんのことをバカにしている、三菱商事時代の新浪さんの先輩でした」
“受け止めろ! 携帯が壊れるだろう!”
それが奏功したのか、2カ月ほど「携帯投げつけ」はストップした。しかし、
「また我慢できずに携帯を投げ始めた。その時に新浪さんが言ったセリフが“よけるな! 受け止めろ! 携帯が壊れるだろう!”だったそうです。当初はPHSだったのですが、これは投げるとアンテナの部分が壊れる。折り畳み式携帯の時代になると、折り畳み部分が割れたりしていました。相当強い力で投げていたのでしょう」
ローソン社長時代の終盤には、
「スマホになりましたが、投げつけられたものは画面がバキバキに割れていた。新浪さんは3台持っていたので、1台くらいは壊れてもいいと思っていたのでしょうか。周囲の社員は携帯が投げられるたびに、また修理代で1万円が飛んでいく、と思っていました」
社長が幹部に携帯を投げつけ、「よけるな!」と言い放つ会議。異様の一言だ。
「投げた携帯はいつも秘書が拾っていました。新浪さんは、投げて壊した携帯からSIMカードを抜いて別の携帯に差し入れて使うということをやっていたので、彼のデスクにはSIMカードを携帯から取り出すためのクリップがいつも置いてありました」
ストレスで尿が出ないように…
新浪氏による「パワハラ加害」の事例は他にもある。
「運営本部のある幹部は、来る日も来る日も新浪に“前年比売り上げ何%上げるって言っただろう!”などと数字について詰められていました。会議の時は必ず、電話でも毎日のようにプレッシャーをかけられていました」
そう明かすのは、ローソンの元役員。
「ある時、その幹部とトイレで一緒になると、一体いつまでトイレにいるのかっていうくらい長い時間いるので聞いてみたら“尿が出ない”と。別の日にもトイレであさっての方を向いてトローンとした目でボーッとしていたので声をかけたら、“いや、ストレスで……”と言っていました。連日新浪に詰められたせいで精神的に参って排泄障害になってしまったのです」
新浪氏の「パワハラ加害」の被害者たるこの幹部氏は、ある地方の店舗を束ねるスーパーバイザーを務めていた時、店で泥棒を捕まえて新聞に載った。それを見た新浪氏が幹部として登用したという。
「この幹部は課長、部長、役員、とトントン拍子で出世しました。でも彼は新浪が社長になってから一気に老けましたし、排泄障害のせいで腎臓を悪くしたのか、一時期顔がドス黒くなっていました。ただし、新浪がいなくなってからは“尿の出が良くなった”とホッとしていましたよ」(同)
新浪氏によるパワハラを耐え忍べば、出世の道が開ける。一方のジャニーズ事務所でも、ジャニー氏のセクハラを我慢しなければスターになることはできない。奇妙な類似点である。
「担当者がいない」
本誌(「週刊新潮」)10月5日号でも、新浪氏のパワハラ気質がひどく、ローソン幹部クラスでのあだ名が“荒波”であったことなどについてお伝えした。記事掲載前、新浪氏にはサントリーを通じ、パワハラの件も含めて取材申し込みをしたが、期日になっても「担当者がいない」を繰り返して取材から“逃げた”。サントリーのような日本を代表する大企業が、別会社時代の行為とはいえ、社長の「パワハラ」について問われて何も回答しないなど、信じ難い対応である。他の会社の「ガバナンス」を心配している場合ではないのではないか。
改めて新浪氏の「携帯投げつけ」などのパワハラについてサントリーを通じて取材を申し込んだところ、ローソン幹部への「携帯投げつけ」が日常化していたことや、骨折した幹部やストレスで排泄障害になってしまった役員がいたのではないか、といった問いに、
「事実無根です」
とした上で、
「貴社の取材依頼書に記載されている質問には、多分に事実に反する内容が含まれており、(中略)貴社の記事において虚偽の事実が掲載されたこと等により、弊社又は弊社の代表取締役社長である新浪剛史個人の名誉が棄損された場合には、直ちに刑事及び民事上の法的措置を講じる所存です」
と、裁判をチラつかせるのだ。
社長によるひどいパワハラ、すなわち人権侵害について問われているのに、こんな回答で大丈夫だろうか。これではジャニーズ事務所同様、海外では“ネガティブな反応”となるのではなかろうか。
“あんたが言うな”
その言葉が飛び出した、日本記者クラブで行われた会見で、新浪氏はジャニー氏の性加害について改めて触れただけではなく、
「国民皆保険ではなくて、民間がこの分野を担っていったらどうかと思います」
と提案し、物議を醸す事態となっている。
「新浪さんは新自由主義が全盛だった時代にアメリカに留学しているのでそれに基づいた考え方が色濃い。が、今では環境問題や格差など、その弊害を指摘する声の方が多い。そんな中、新自由主議の象徴のような“国民健康保険民営化”に触れるとは、何らかの思い入れがあるのでしょう」(全国紙経済部記者)
新浪氏の下で働きたくない、と考えてローソンを辞めたという元管理職は、
「新浪の言うことってすごく薄っぺらなんですよ。ジャニーズへの発言についても、“どの口で言うんだ”“あんたが言うな”と思いますね」
“辞めてもらってもいいんだぞー!”
この元管理職も新浪氏から怒鳴られたことがある。
「ある地方を統括する立場になったばかりの頃、数字が悪かったので、部下に対して“遊んでないで一生懸命頑張らないとダメだ”といった話をした。するとその翌日、新浪から“ちょっと来い!”と呼び出されました。急いで出先から引き返し、新浪の車に乗り込むと、そこでいきなり怒鳴られました。“お前は自分を何様だと思ってるんだー!”“辞めてもらってもいいんだぞー!”と」
元管理職は何が原因で怒鳴られているのか分からず困惑するしかなかった。しばらくしてようやく分かったのは、元管理職が“ひどいことを言った”とある若手社員が新浪氏に通報した、という事実だった。
「私が“お前らさぼってんじゃねぇ、休まず働け!”と叱責した、と話が誇張されて伝わっていました。そういう誤った情報を元に怒鳴ったり怒ったりすることはよくありました。新浪は若手の意見を聞く自分、というのをよくアピールしていて、“何かあったら何でも言ってきてくれ”と若手によく話していました」
社長案件
もちろん若手の女性社員にも気を使っており、
「新浪は飲み会の席などで女性に対して、酒に酔ったふりをして“一発やらせろ”とよく言うのですが、社内の若手には絶対に言わない。社内だと幹部クラスの女性、社外だと若い女性に言うこともあるし、仕事で関係のあった女性キャスターにも“一発やらせろ”というセクハラ発言を言われている人がいるでしょう」(先の元役員)
本誌10月5日号では新浪氏の4度の「結婚歴」についてもご紹介した。1回目の相手は三菱商事の同僚、2回目は大手航空会社のCA、3回目は巨大学校法人グループのご令嬢、4回目はローソン社長時代の秘書だ。
「学校法人のご令嬢が相手だった時は社内でも結構大変でした」
ローソン元幹部(前出)がそう述懐する。
「その学校法人グループには予備校も含まれていました。その予備校の都内の校舎の1階に、通常の4倍くらいのコストをかけて出店したり、全国の他の校舎の中やその近辺に出店しろ、という普通ではあり得ないようなあからさまな社長案件がありました」
「海の男の血」をたぎらせたオピニオンリーダーが、ローソンで創り上げていた「王国」。その陰で踏みにじられたあまたの「パワハラ被害者」たち――。新浪氏は他企業の不祥事に口出ししている暇があるなら、自らが歩んできた道を今一度振り返りつつ、「人権」というものを考え直してみる必要があるのではないか。
「週刊新潮」2023年10月12日号 掲載