一介のサラリーマンからプロ経営者に上りつめた

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 サントリーHD社長、経済同友会トップとしての発言の影響力は絶大だった。新浪剛史氏(64)が「性加害問題」を激しく非難して以降、加速したジャニーズ離れ。一声で他企業の動向を決した財界の大物、新浪氏とは何者なのか。その書かれざる履歴書をひもとく。

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 サントリーHDの新浪剛史社長は、物言う財界人である。

 2014年からは内閣府経済財政諮問会議の民間議員を務め、今年春、経済同友会の代表幹事に就任した新浪氏。2年前には、従来型の日本の雇用モデルから脱却する必要性を訴え、「45歳定年制」を提言して物議を醸した。また今年春には、政府の少子化対策に関連して、「結婚していなければならない(社会の)制度で本当にいいのかどうか」と結婚前提の社会制度に疑問を投げかけた。そして、新浪氏の影響力を満天下に知らしめることになったのが、ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐる発言だ。

一介のサラリーマンからプロ経営者に上りつめた

「新浪ショック」

 9月7日にジャニーズ事務所が開いた会見について、

「調査の内容や対応が不十分で、真摯に反省しているかどうか疑わしい」

 と批判した上、企業がジャニーズのタレントを広告に起用することに関してもこう断じたのだ。

「チャイルドアビューズ(子供への虐待)を企業として認めることになる」

新浪氏を納得させられなかった記者会見

 また、朝日新聞のインタビューでは、ジャニーズのタレントが出演するテレビ番組のスポンサー契約を見直すことも「あり得る」と明言。一連の言動が企業の「ジャニーズ離れ」を決定付けたことは明らかで、スポーツ紙には「新浪ショック」の文字も躍った。そうした逆風を受け、ジャニーズ事務所が社名変更せざるを得ないところまで追いつめられていることはご承知の通りである。

「新浪氏の発言の影響力が大きい理由としては、彼が経営者として優れており、その存在感が突出していることが挙げられます」

 インフィニティ チーフ・エコノミストの田代秀敏氏はそう語る。

「ローソンは元々ダイエーの傘下にありましたが、新浪氏が勤めていた三菱商事が買収した。そして、その立て直しを任された新浪氏は三菱商事を辞めてローソンの社長に就任。着実に店舗数を増やしていって、セブン-イレブンとローソンはどこに行ってもあるよね、という状態にまで持っていきました」

同族企業にとって「理想のサラリーマン経営者」

 新浪氏がローソンの社長に就いたのは02年。立て直しに成功した後の14年には、請われてサントリーの社長に就任した。

「サントリーは典型的な同族企業で、創業家が4代目まで社長を務めた後、5代目として新浪氏に白羽の矢が立ったわけです。株主である創業家が力を持っているこういう企業の社長は普通はやりたくないと考える人が多いものですが、彼は“大企業病にかかっているサントリーを立て直せるのは自分しかいない”ということで乗り込んでいくのです」

 そう話す田代氏によると、新浪氏はサントリーのような同族企業にとって「理想のサラリーマン経営者」だという。

「彼が社長になってからサントリーの高級ウイスキーが世界的ブランドになるなど、非常に成功しているといえます。しかし、彼には会社の株を集めて乗っ取るような野心はなく、創業家の次期社長候補もきちんと育ててくれる。創業家にとっては、会社を立て直してくれるけど乗っ取られる危険がない、最高の人材です」

 世間では批判を浴びた「45歳定年制」も大企業の創業家側から見ると、

「“よくぞ言ってくれた”という感じでしょうね。創業家からすれば会社にしがみついて定年までいることしか考えていないくせに給料が高い45歳以上の人材なんていらない、出て行ってほしい、というのが本音ですからね。ただ、それを言うと批判を浴びることを分かっているので普通の人は言わない。しかし新浪氏は創業家の意向を忖度して、自分が悪役になってあえて発言するのです」

パフォーマーとしての影響力

 全国紙の経済部記者はこんな見方。

「新浪さんはゼロからイチを生み出すのではなく、誰かが発明したものを拡声器で宣伝するのがうまい人、という印象です。実際、45歳定年制にしても、元々は東大の教授が言っていたことの改変で、新浪さんのオリジナルではありません」

 経済財政諮問会議における議論でも同様の側面が見られるといい、

「例えば安倍晋三元首相はリフレ派で、金融政策をこうするんだ、という信念がありました。しかし、新浪さんにはそういう意思はない。諮問会議の議題の資料は官僚が作成していますが、彼ら事務方が主張してほしいと考えていることをうまく言うのが新浪さん。だから役人に重宝されるのです」

 新浪氏の発言は強い信念から発せられているものではなく、周りの「空気を読んで」ということなのか。

「ジャニーズへの発言にしても、企業が明言するのが難しい局面で、新浪さんがパッと意思表示したら決断しやすくなる。じゃあウチも、と。この状況でジャニーズのタレントを使うことは人権意識の強い海外の常識からみるとまずいんじゃないかという議論は元々ありましたが、新浪さんが発言したことで他の企業も追随した。パフォーマーとしての影響力は甚大です」(同)

出世できた理由とは?

 信念はないが空気は読める男、新浪剛史。その人格はいかに形作られたのか。

 新浪氏は神奈川県横浜市の出身。両親と弟の4人家族で、その弟は現在、東京女子医大教授で心臓外科医を務めている。横浜港で荷役の会社に勤めていた父親について新浪氏は、〈いつも酒と海の匂いがした〉(「文藝春秋」17年3月号)と振り返っている。

 地元の中学校時代からバスケットボールを始め、横浜翠嵐(すいらん)高校在学時には国体の代表に選ばれたこともあるスタープレーヤーだった。その後、慶應大学経済学部に進み、就職先として三菱商事を選んだのは、「一番人気のある会社だから」との理由である。現在までとんとん拍子で「スーパーサラリーマン」の階段を駆け上がってきた新浪氏だが、やはり強い信念を持ってスタートラインに立っていたわけではなかったわけだ。そんな彼が出世できたのは、

「本当に偉い人に気に入られてかわいがられるのです。10歳上くらいの先輩には生意気だ、と言われてよく思われないのですが」

 と、三菱商事出身の経済評論家、山崎元(はじめ)氏は言う。

「彼は隙を見せることを厭わず、大きな理想を語ったりするのですが、そういうところが、偉い人からすると、俺の若い頃に似ている、無茶もするし危なっかしいところもあるが、若い頃俺もそうだった、といった印象を抱かせるようです」

不可解なほど触れられない「妻」

 無論、出世を勝ち取るにあたり、人知れず努力したことも間違いない。そんな新浪氏の成功譚は多くの雑誌などで取り上げられ、第三者が好意的に取り上げた著作も世に出ている。だがそれらの資料の中には、彼が父母や弟について言及した部分はあるものの、「妻」に関しては不可解なほど全く触れられていない。先述した通り、彼は今年春、結婚制度に疑問を投げかける発言をしている。その背景を探る意味でも以下、知られざる「結婚歴」に触れながら彼の歩みをたどってみたい。

1人目、2人目の妻

「新浪氏に4度の結婚歴があることは彼の周囲ではわりに知られています。ただし、全員と入籍したかは分からず、内縁関係のまま別れてしまった相手もいるかもしれません」

 と、新浪氏の知人の一人。

「最初の結婚は三菱商事に入社してからそれほどたっていない頃だったと思います。相手は同じ三菱商事の同僚。しっかりしていて感じの良い人だったので、比較的早く別れることになったと聞いて、別れちゃうのか、と思ったのは覚えています」

 新浪氏が社内留学制度を使って米ハーバード大に留学したのは29歳の時。2年でMBA(経営学修士)を取り、帰国している。

「新浪氏が1人目と結婚・離婚したのは留学の前で、留学を終えて帰国してから2人目と結婚しているはずです。2人目の相手は大手航空会社のCAです。彼が30代の時ですね。ただし、しばらくしてその人とも別れることになった。別れる時、お金をたくさん払わなければならなかった、と聞いたことがあります」(同)

巨大学校法人グループの令嬢と…

 3人目の相手は、九州にある巨大学校法人グループのご令嬢。ここでは仮に京子さんとしておくが、年は新浪氏より20ほど下だ。

「00年か01年ごろ、ホテルで親族が集まるパーティーがあり、京子が新浪さんを連れて来て、あいさつしたことがあります。京子と交際中で、ゆくゆく結婚するかも、と言っていました」(京子さんの親族)

 ちなみに新浪氏は00年に三菱商事のローソンプロジェクト統括室長となり、02年にローソンの顧問を経て社長に就任。一方の京子さんは、00年当時は青山学院大学の4年生。その後、東京大学大学院に進んでいる。

「京子が新浪さんと結婚したとは聞いていましたが、式は挙げていないはずです。学校法人グループの総長だった京子の父には、京子を含めて3人娘がいます。京子以外の二人の娘は婿養子を取りましたが、京子の場合、新浪さんの姓が変わっていなかったので、籍は入れていなかったのかもしれません。ただ、京子の父は新浪さんをいたく気に入り、学校法人に迎え入れようとしていました」(同)

“義父”が強制わいせつで逮捕

 京子さんの父親について、“総長だった”と過去形で書いたのは、07年、その総長が強制わいせつ事件で逮捕され、立場を追われることになったからだ。翌年開かれた判決公判で裁判長は、学校法人の20代の女性職員二人に対する起訴事実を全て認定。一人はエレベーターに引っ張り込まれて胸や下半身を触られた他、受験志望者が乗るバスの中でも体を触られている。もう一人はやはりエレベーター内で下半身をなでまわされており、裁判長は「被告は抵抗や抗議をしにくい女性職員の立場を十分認識していた」と指摘、有罪判決が確定している。なお、事件発覚後に設置された第三者委員会は、セクハラ被害を申し出ていた女性職員48人に聞き取りをしたというから、刑事事件にまで発展した二人のケースは氷山の一角に過ぎなかったわけである。

“子どもに会いにくくなる”

 ローソンの元社員は、

「新浪さんがローソンに来てわりと早い段階で学校法人の娘と結婚した、という話は出回っていました。後に、その女性の父親がわいせつ事件で逮捕された時も社内にはうわさが流れました」

 さる財界関係者は、

「新浪さんはその3人目の妻をパーティーなどにも連れて来ていて、友人たちに“3人目の妻”として紹介していた記憶があります」

 と、述懐する。

「奇麗な方で、若くてシャキッとしていて、気の強そうな人、という印象です。その人との間には子供もいたはずです。彼女と別れた後、“子供は妻が連れて行くから子供に会いにくくなる”と寂しそうに言っていたことがあったそうです」

 この財界関係者は新浪氏の4人目の妻についても聞いたことがあるという。

「4人目の人は、3人目の人と別れてしばらくたってから、という印象です。数年前、新浪さんの父親の体調が悪くなった時、新しい彼女がいて、その人が父親の世話もしてくれる、と周囲に話していました。その人が4人目の奥さんですね。新浪さんが女性にモテるので監視の目は厳しいようですが、いろいろとサポートしてくれる人のようです」

パワハラ気質も

 ローソン元社員(前出)は、

「新浪さんはローソン時代に気に入った女性を秘書にして、その人と結婚した、と聞いています。その人が4人目の奥さんでしょう」

 3人目の妻の実父による事件などについてサントリーを通じて新浪氏に取材を申し込んだが、期日までに回答はなかった。

 先のローソン元社員の話。

「ローソン社長時代の新浪さんの幹部クラスでのあだ名は“荒波”でした。直情型ですぐにブチ切れて人を怒鳴りつけるなどのパワハラ気質がひどかったからです。秘書にした女性社員と結婚する、といった女性関係も含めて、“どの口が人権なんて言うの?”と思っているローソン関係者は多い」

 コンプライアンスに触れるようなパワハラがなかったかどうか。他企業をうんぬんする前に、まずご自身の過去を調べてみてはどうか。

「週刊新潮」2023年10月5日号 掲載