「PFAS素手で扱った」静岡市清水区の化学工場元従業員 米法人、80年代に健康懸念を指摘

2023.10.16

 発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)に関し、河川や水路、地下水の含有率調査の方針を打ち出した静岡市で、2013年までPFASの一種で毒性が強いとされるPFOAを使用していた清水区の化学工場元従業員の男性(76)が15日までに取材に応じ、「素手で扱っていた」と証言した。男性は2年ほど前に舌がんと診断され闘病中だが原因は不明。一方、工場を当時運営していた会社は1980年代初頭に、出資する米国の法人から安全性についての健康上の懸念を指摘されていたことが新たに分かった。
 男性が高卒後の65年から2007年まで勤務していたのは、三保半島にある現在の三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場。1963年の創業から米デュポン社系で、たびたび社名を変更し18年に現社名になった。
 男性によると、1965~77年の約12年間、ビニール手袋を付けず、素手でステンレス製のスコップを握りPFASを扱っていた。1万種類以上あるとされるPFASの中でも2021年に製造・輸入が原則禁止された、PFOA(社内では「C―8」の名で通称)を用い、「テフロン」の呼称のフッ素樹脂を製造していた。「皮膚に付いたこともあったと思うがヒリヒリする感覚はなかった」と男性。3交代勤務だったが、当時は健康に異常を訴える人はいなかった。
 男性は「現在まで会社から危険性は告げられていない」と話す。しかし、米国でPFASの健康被害を追究してきたロバート・ビロット弁護士によると、米政府から入手したデュポン社の文書では、2008~10年に清水工場の従業員24人に対して血液検査が行われ、米国で健康リスクがあるとされる指標の3~418倍となる、血漿(けっしょう)1ミリリットル当たりPFOAを69~8370ナノグラムを検出した。
 ビロット弁護士は、血液検査から約30年前の1981年9月15日、デュポン社側から三井フロロケミカル清水工場(当時)の工場長に宛てた文書も静岡新聞社に提供した。同文書によると、PFOAを口から吸い込んだネズミの先天性欠損が見つかったため、デュポン社が米国で全ての妊婦をPFOAの暴露の可能性がある仕事から外したとして同工場に健康上の懸念を指摘し、12検体ほどの従業員の血液を米国に送るよう要請していたことが明らかになった。

人体への影響は未解明
 PFASを巡っては環境省は7月、2025年度以降に血中濃度調査を全国に拡大する方針を示した。ただ、政府の公式見解では、いまだ人体に与えるメカニズムは解明されておらず、対策の歩みはまだ十分進んでいないのが実態だ。
 同省と国の専門家会議が作成した23年7月時点の「PFOS、PFOAに関するQ&A集」には、「どの血中濃度でどんな健康影響が個人に生じるかは明らかでない。基準を定めることも、血液検査の結果のみで健康影響を把握することも困難」などとある。
 一方、諸外国では血中濃度の基準を定めている例もあり、米国の学術機関には血漿1ミリリットル中20ナノグラムを超えた状態が続くと、健康リスクが高まるなどとしているケースもある。
 15日までに静岡新聞社の取材に応じた三井・ケマーズフロロプロダクツ総務法務部の担当者は、2008~10年に実施された血液検査について「デュポン社の要請に基づき実施された。結果は対象社員へ報告した。訴訟は起きていない」とする。工場敷地外への流出などについては「調査を行っていないのでコメントできない」と回答した。
 同社清水工場のある三保半島の住民によると、同工場付近では地下数十メートル程度から井戸水が採取されていて、野菜栽培などに使う人も多いという。

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