異世界モノ

登録日:2016/08/17 (水) 13:40:42
更新日:2023/09/18 Mon 15:53:47
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異世界モノとは、狭義やアニヲタなどの認識上は「読者のいる地球とは別の世界に移行する主人公の物語」を指す。



●目次

【概要】

字面に反し、狭義の「異世界モノ」には
「読者・視聴者が感情移入できる様な現代地球に近い価値観・思考回路・視点を持っているキャラが比較的少なく、
別の常識が支配する異世界そのもの『のみ』の日常と戦いをひたすら描く」作品は含まれない。
それは「ハイ・ファンタジー」という別分類に入るらしい。


ジャンルにおいて、広義の意味での「異世界」は文字通り「異なる世界」であり、
ファンタジーとしての別世界や、量子論などを用いてパラレルワールドとして説明したり、
「惑星冒険もの」「仮想空間(データ世界)」なども含まれて述べられることもある。


元の広義の「異世界モノ」はジャンル横断的な概念だが、狭義の「異世界モノ」という言葉はライトノベルや「小説家になろう」といった小説投稿サイトに2010年代ごろから雨後の筍のように増えた下記のような特徴を持つ形式を指して発祥した。
  • 現代の日本(と言っても作品世界ではあるが)に住む人物が、異なる環境を持つ世界へ転移/転生する
  • その世界では転移した人物の持つ(現代日本では評価されない、または当たり前の)特技が珍重されている
また、例外もあるが転生する先はジークジオン編(SDガンダム外伝)大貝獣物語のようにファンタジー(あるいはRPG(ロールプレイングゲーム)的な)世界に召喚されるものが主流。細かな差異はあってもおおよそテンプレートな世界観が多いことも「(狭義の)異世界モノ」と言われる理由となっている。

ここでは広義の概念的意味も含めて記述する。


【異世界モノの特徴】

◆ジャンル

惑星冒険もの

ALDNOAH.ZEROの元ネタである「火星のプリンセス」(1917)は
「南軍の騎兵隊大尉ジョン・カーターの意識が火星に転移して、現地の火星人と戦ったり、王女のデジャー・ソリスとラブロマンスしたりする」という物語。
場所は同じ太陽系内の惑星だが、性質はファンタジー異世界転移モノと極めて類似していると言える。
また「低重力惑星ゆえに無双できる」という、下記のMARやドラえもんのネタの祖先でもある。

ちなみにwikipedia本家では上記は「惑星冒険もの」と呼称されていると記載があり
剣と魔法のファンタジーとは細かく識別されている一方、初期の路線(つまり元来の惑星冒険もの)を模倣したものが
「剣と魔法」をもじった「剣と惑星もの」、「ホースオペラもの」をもじった、
「スペースオペラもの」というサブジャンルとして呼ばれるようになっていったなど、「剣と魔法のファンタジー」との類似性も指摘されている。

SFジャンルにおいてはヘンリー・ライダー・ハガードの小説に代表されるような白人が秘境などを冒険したり現地人のリーダーとなったりするものがあるが、これも秘境を異世界と見做したものであろう。また、後述のようにタイムスリップして過去の世界で無双するような展開もある意味異世界モノの一種である。

仮想空間

ソードアート・オンラインの作中の多くの描写はゲームの世界で、この世界は現実の人間が作成したプログラムである。しかしログアウト不能のデスゲーム化したことで登場人物にとっての
生活空間と生存のすべてはゲーム世界のそれが担うことになり、ゲームでありながら遊びではなくなっている。
昨今は、この路線を延長し、「現実世界には絶対に戻れなくなり、仮想空間がその人の現実になる」といった、胡蝶の夢の如き導入をするものも多い。
またバーチャル三部作のように、どんでん返しとして「仮想空間、だったはずが……」というケースもある。

そうした「仮想空間と現実との境目が曖昧になる」という性質のSF要素を含む作品は、1984年のウィリアム・ギブスンの小説「ニューロマンサー」に端を発する「サイバーパンク」と呼ばれるSFジャンルの派生と見ることもできるかもしれない。
ニューロマンサーは体内に機械を埋め込むことが日常的に行われるようになった未来が描かれており、倫理観が時代の変遷とともに変化しうることを暗に示している。
こうした仮想空間も、それが実現可能な世界を生きる人にとってもただの生活の一部、もっと言えば「本当の現実世界」として受け入れられているのかもしれない。

ただ、上記のような意味合いではなく異世界ものの構文を含むような作品やパートもある。
例えば上に挙げたSAOも、デスゲームではない後半のアリシゼーション編において《アンダーワールド》と呼ばれる高度な感情すら有したAIたちが住む世界へ主人公がダイブしており、地球上には存在しない種類の樹を切り倒して剣にしたりゴブリンをスレイしたりAIの友達と遊んだりその友達の為に戦ったりしている。

これは下記にある「環境」と「人」を含んでおり、異世界性(前述のニ要素を含んでいるという意味)があるパートと言える。
また同じく作品の主幹要素とはなっていないものの、なろう作品ではシャンフロも異世界性が高いゲームを含んだ作品となっている。

シャンフロはSAOで言う所のGGOやALOなどのように表題と別のゲームが作中多数描写されており、そちらに異世界性はほぼない。
そうした要素はメインタイトルであるシャンフロが殆ど担い、高度な演算機構によって発生した高レベルの感情と知性を有したAIをゲーム世界内に生活させ、主人公の砲台になったり楽しく殺し合ったりヘタレていたり色々している。

ただ主幹要素ではないと言ったように、シャンフロの場合はSAOの別タイトルのようにそれだけで単行本になるレベルで他ゲーの描写量が多いため「VRゲー探訪もの」としての側面を持っていたりするが、
表題作や作中プレイヤーが最初に始めたワンタイトルのみでアリシ編やシャンフロ本体のような設定=人間並みの高度知性のあるAIや歴史を長く詳細にシミュレートされた別世界レベルのゲーム世界を持つ、があるゲームが劇中で遊ばれている場合、ある程度異世界物と構文が近くなる部分がある。
(書籍化タイトルでは「Only Sense Online」「骸骨魔術師のプレイ日記」後者は表題=ゲームタイトルではない、など)

とはいえ平和裏にログアウトが可能な類の普通の日常生活の中にゲームがある場合と、前述のようにガチのログアウト不能系でデスゲなど命の危険を含む要素が盛り盛りの場合とでは描写の重心も変わってくる。
そのためあくまでゲームはゲームというような風味が強い作品は異世界モノ「構文を含む」だけであり、純異世界モノとは言えない。
シャンフロは(多分恋愛特性とかが)レジギガスとか作者に言われるヒロインちゃんとリアルデートしたり試験問題解いたりしていて、日帰りでも異世界は命が危なくて現実なんだ的な要素もないし、VRゲーではそれに代わってよくあるデスゲ要素も特段ないのである。

純粋にゲーム異世界への意識転移を起こしている作品というと、例えばオーバーロード(小説)は、
主人公が愛したゲームのサ終をゲーム内で迎えようとしたが強制ログアウトが発生せず
それどころか所属ギルドのNPCが自律的に動き出してありえないレベルで高度に言葉を発し始めるなどする、という始まりとなっている。
ログ・ホライズンは、画面の前でプレイ中にゲーム世界に……という展開なので、VRMMOものにおける
意識電脳化後の転移・転生すなわち「境界線の曖昧化」とはまた違っている。どちらかというとふしぎ遊戯寄りか?



この世と地続きでない世界

ゼロの使い魔の主人公・平賀才人は現代日本の出身だが、魔法の力によって異世界に召喚されている。
またこの素晴らしい世界に祝福を!において見ず知らずの他人を助けようとして死亡した主人公・佐藤和真は死後の世界で女神アクアと契約し、異世界へ転移させてもらっている。

このような場合異世界は単に主人公の知らない世界というだけでなく、元の世界の技術では行ったり見たりすることができない世界という意味合いも付与される。

後述する小説家になろうなどの小説サイトで一般に「異世界転移」「異世界転生」と呼ばれるジャンルは狭義には現代の地球から来た主人公とこうした異世界(多くはゲームに出てくるような西洋風の世界)との関わりを描いているものである。

このような異世界は多くの場合中世の西洋のいずれかの国、あるいは西洋と言われて思いつくイメージがベースになって作られている場合が多く、小説投稿サイト「小説家になろう」にこうした世界観の小説の投稿が多いことから「ナーロッパ」などと揶揄されることがある。ヨーロッパほどではないもののいい感じにエキゾチズムを感じられるという点では日本や中国なども同様にモデルになるケースがあり、特に中国は大規模なスケールで描くことができる点などから女主人公が后妃となってライバルを蹴落とし、皇帝と恋仲になる「中国後宮もの」が転生(転移)要素のあるなしに関わらず根強い人気を誇っている。漫画においては「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」のように世界が変わっても地名の一部が共有されている場合がある。

悪役令嬢

「悪役令嬢」と呼ばれる作品ジャンルは、死後、元いた世界で嗜んでいた創作物(小説・漫画・ゲームなど)の世界の悪役である貴族や皇族の女性に転生した人物が、後に前世の記憶を取り戻し、前世で獲得した知識を元に、
  • 本来のヒロインとなる女性を蹴落として、王子などのメインとなる人物のパートナーになる*1
  • 恋愛はともかく、悲劇的な結末を回避するため奮闘する
  • 原作を壊さないよう「原作通りの悪役」を演じつつなんとか水面下でバッドエンドを回避しようとする
  • 自分以外の恋愛模様を観察して楽しむ
  • 自分の推しと結ばれるよう努力する
  • 筋書きを無視して第二の人生を自由に生きようとする
  • 本人ではなく使用人や血縁の人物に転生した場合は悪役令嬢を更正させてハッピーエンドに導く
といったタイプの話のことを指す。
その話の特性上、転生する人物のほぼ全てが女性であるが、男女を逆転もしくはBL的にアレンジした「悪役令モノ」などの派生型がある。
創作物の世界がテーマとなるために、後述のような人工言語などの複雑な世界観を作る必要がないのも特徴の一つ。
もっとも小説家になろうで異世界転生・異世界転移作品がランキングで隔離された後は、現地人主人公による転生・逆行例が増加傾向にある。
必ずしも転生・転移・憑依・逆行といった要素を採用している訳では無く、舞台も異世界では無く現実と大差無い現代だったり、主人公が悪役令嬢に憧れる作品もある。

なお、本来主人公であるはずの女性は蹴落とすにあたって良心の呵責を生じないよう悪人として描かれたり、その逆で敵対関係を解消して良い関係を築く例もあるなど振り幅が大きく、悪役令嬢と同じ世界からの転生者である場合も多い。

似たようなジャンルに「逆行もの」がある。こちらは異世界に行くわけではない。

クロスオーバー

一部の作品の企画や二次創作のジャンルにおいて、他作品同士の世界観が重なり合い、一方の作品のキャラクターがもう一方の作品へ移動するものがしばしばある。
現代の商業作品の場合は両方の作品を立てるようにして作られているが、二次創作の場合、単に好みのキャラに好みの世界観で活躍してほしいという願望で作られているものなどは、片方の作品のキャラだけが活躍する無双系になっているものもある。

◆異世界=異環境≒活躍・無双?

異なる環境であるという事は、それをネタにしてキャラクターを活躍させやすいという点はある。

例えば異世界モノのネタの一部には「現代知識無双」というものがある。
これはファンタジー系異世界に現代の技術などの知識を持ち込み、主人公が崇められるというもの。
2010年代後半では、「異世界食堂」など、料理漫画との融合させた作品も多くみられた。

なろう系に多く見られると言われており、元々ネット小説であったGATEの原作や、
ラノベではノーゲーム・ノーライフにネタにされている記述があったりする。


こういう風にみられると、近代で発達したジャンルのようにも思われるが、
「もし○○が別の場所にいたら…」というコロンブスの卵的な発想は、多くの創作の題材として登場してきている。
「異世界モノ」と「無双(活躍)」はジャンルとしての関連性が古くからあり、小さくないものであると言える。



近年の「なろう系」と言われるものの特徴としては、インターネットの登場によって、それほど作品に練りこみがなくても小説の発表が容易になり、
「主人公が好き放題する舞台装置以上の世界観の練り込みが少ない」「世界観がテンプレート化している」ことが特徴といえる。
後述の「JIN-仁-」や「信長のシェフ」等のタイムスリップ物は時代考証や世界観の設定などにそれなりに専門的な知識が求められるが、まったく架空の異世界を舞台にしてしまえばそういった労力をすべてスキップできてしまうからである。

知識・技術で活躍

1889年にマーク・トウェインが「アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー」という作品に書いている。
本作は(小説が書かれた当時の)現代アメリカ人技師が昔のイギリスで知識無双という物語である。
新スタートレック」でそのトウェインが24世紀の世界を目の当たりにしたのは皮肉だろうか

最近の日本で言うと医者が幕末頃にタイムスリップする「JIN-仁-」や料理人が戦国に行く「信長のシェフ」も構造的には類似している。
まあ彼らは割とお上につかまったり無茶振りされたりするが……。
イギリスでは「アウトランダー」という作品も大体同じで、1945年に看護婦だった主人公が1743年スコットランドに転移する。
そして権力者に「能力利用したろ!」と軟禁食らったり。

ドラえもん本編にはのび太が「マッチやラジオを原始時代に持ち込んで崇められよう」と「過去に戻る」エピソードがあり、
仮想戦記にも「戦争の推移の知識を持ち込んで〜」といったものがある。
これらは過去改変モノやタイムスリップモノと識別されるが、前述のように「異世界での現代知識無双」との相違点は?と言えばガワの部分が結構大きく、
前述の「火星のプリンセス」にも野蛮な火星人に主人公が知性で優位に立つシーンがある。

こうしたものは映画の世界では「白人酋長モノ」と称されるらしい。
これは技術レベルが低い(という設定の)「ジャングル奥地などの未開の蛮族」に銃など「文明の利器」を見せて神や偉人と崇められ酋長に……という物語である。

なおそうしたのとは別に、新井素子の『扉をあけて』や雑賀礼史の『召喚教師リアルバウトハイスクール』等の様に「現代人ながら異能者」なんてキャラが異世界に移動するケースもある。
平和な現在では生かしづらかった異能や戦闘力も、異世界でなら…と言った発想からだろうか。
アニメ『聖戦士ダンバイン』の様に「転移の条件=異能の適性」というシンプルなケースもある。

また、「なろう系」成立以前、新世紀エヴァンゲリオンの頃のweb上の二次創作のジャンルの中に、
視聴者が登場人物に転生し、その知識で理不尽な出来事を回避 という設定のものが多数あったこととの関連を指摘する説もある。
前述の「悪役令嬢」タイプの創作物(なにも宮廷恋愛モノに限らないが)においては原作を体験している点で主人公にアドバンテージがあり、特に二次創作(所謂オリ主ss)においては「原作知識」と呼ばれるタグも存在する。

物資・補給で活躍

異世界と現実世界の往復が容易い場合、上手く現実世界の物資を利用すれば異世界で大金を得ることができる。

スレイヤーズ」でおなじみ神坂一の異世界モノ「日帰りクエスト」は秀逸にここに目をつけている。
ある日突然異世界に呼び出されたごく普通の女子高生、村瀬エリ。
大した使命や運命などど言うものもなくお試しで呼び出された事に激怒した彼女は自分を呼び出した魔法使いに単なるデジタル腕時計をプレゼントし「下手に外すと爆発するから(大ウソ)毎週日曜日指定の時間に呼び出して」と脅迫する。
その異世界では戦争中で塩や香辛料が不足していた。持ってくればいくらでも金貨で買ってやる、と言われてエリは「本気であっちとこっちの交易でもしてやろーかしら」とほくそ笑む。
もっとも、彼女はある程度現実的な性格だったので「女子高生が大量の金貨を現金に換金していたら色々マズイ」事に気がついて物語の後半では金貨は異世界でしか使っていない。

「異世界Cマート繁盛記」でも現実世界の商品を異世界に持ち込んで商売する男の姿が描かれる。
人生に嫌気がさしていた男がある日異世界と行き来する手段を獲得し、現地人に親切にされたことから恩返しのために採算度外視の商売を始めることを決意。現実世界で商品を仕入れ、異世界に行って売る生活を始める。
こちらの世界でも塩が不足しており、男が最初に持ち込んだ商品も塩であった。後に塩不足が原因の戦争が起きそうだと聞いた際は方々を駆けずり回って10トンの塩を入手して異世界に運び*2、現地で仲良くなった商人に卸すことで見事戦争を回避に導いている。
この作品では異世界で金貨や銀貨を砂金と交換し、それを現実世界の質屋で換金している。もっとも本人はあくまで恩返しのために商売をしているので稼ぐ気はほぼ無く、仕入れに必要なだけ手に入れば十分だが。

異世界のお宝をリアルマネーに変えるのは中々難しいようだ。

ちなみになろうから書籍化されたタイトルでは「スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした」
では文面通り、主人公は異世界の敵対する人間国家から奪った財貨をアフリカらしき闇の市場へ流している。

この項において重要なのは取引相手の黒人で、彼は旧型戦車と交換可能なほどの財貨を主人公から渡されながら、
それが元で逮捕されスキルが使用不能になるといった流れはない。

また夢枕獏原作「荒野に獣慟哭す」は異世界ものではない。
が、コミカライズ版の描写であるが「政府政策に反対するゲリラの活動資金がジャングル内にある遺跡の黄金類である」と語られている。

つまりどこから出てきているか分からないような金塊・貴金属工芸品が闇ルートで捌かれ、
政府筋と対立する存在の武器や食料といったものに化けることが見逃されている設定である。

このことから考えると、ダンジョン等異世界の出入口が日本のように公や治安が強い国家のご家庭裏庭などに固定されているタイプはキツいが、
「個人の」魔力・スキルに依拠するタイプならば、治安やワイロの通りがすごくアレな土地にいってしまえば……。
地球でもある程度魔法やスキルが運用できるならば、なおのこと確実にそうしたヤバイ筋と話も可能であろう。


環境の違いで元から無双できる

知識や技術を用いないパターンとしては、安西信行の漫画MARには「メルヘン世界の方が低重力なので主人公が強い」という描写が序盤にある。
(前述の通り「火星のプリンセス」に同じ)

同じネタはドラえもん本編にもあり、短編「行け!ノビタマン」・映画『宇宙開拓史』では行った先の星が低重力だったため、銃弾がポップコーン並にもろく、ドラえもんやのび太の肉体強度はスーパーマン状態であった(もっとも、129.3馬力という怪力を誇り、大爆発をモロに受けても身体が原型を留めているほど頑丈なドラえもんは、本来なら地球上でも同様の活躍が出来るはずだが)。

また『魔法騎士レイアース』・『ブレイブ・ストーリー』等の様に「異世界から来た人間しか使えない力がある」とされることもよくある。
但し上に例として挙げた作品等では背景にとんでもない裏事情があり、単なる「無双」・「勇者もの」にはなっていないが。
(「火星のプリンセス」でも重力の違いのみでなく、火星人の間で使われている読心術に関して、
 「主人公は火星人から学んだ読心術で他人の心を読めるが、他の火星人は地球人である主人公の心をうまく読めない」という優位性を持っていた)

変則的な例では『魔法使いハウルと火の悪魔』のハウルとサリマンがおり、彼らは魔法のない「ウェールズ」の出身ながら異世界で魔術師をしていた。
そのため主人公のソフィーが「ウェールズ」を訪れる逆パターンが描かれた。

苦難も多い

もっとも異なる環境で主人公のスキルが活かされる場があるからといって、それは主人公無双を簡単に許すという意味でもない。

前述のSAOで言うと、主人公は本人の実力自体が高くユニークスキルも持ち活躍はするがそれでも死線と隣り合わせ。一番チート(文字通り)な人物には翻弄されている。それ以降もやっぱりチートな連中に苦戦続きで心身ともズタボロにされることが多い。というか本人にチート感は全くない
ドラえもんでは本編の実銃弾こそポップコーン扱いだったが、宇宙開拓史で光線銃を用いるプロの殺し屋ギラーミンには一切雑魚描写がない。
平和な現代日本では役に立たない銃スキルを活用するのび太も、ドリームガンとドラミの補助があった本編における西部の話と違ってこのシーンは無双ではなくガチの撃ち合いである。
現代兵器を持ち込んで・・・の場合は、『戦国自衛隊』のように補給問題が触れられることも多くなってきただろうか。
多勢やその世界における強者を相手に無双できるカタルシスと、その力が絶対ではないという緊張感が物語の面白さを生むともいえる。


白人酋長モノにも「日食を予言して太陽を神と見る蛮族をビビらせる」というネタに「え?日食?知ってるけど」(マヤ文明並の計算力)という作品もあるとか。

コネチカット・ヤンキーなど黎明期の作品が普通に無双している(マーリンが敵になったりはするが)事を考えると、
むしろ近年こそ「単純に活躍させるだけじゃなあ」という意見を持つ読者と、それに対応したギミックや反応を考える作者が増えた時代ではないだろうかと思われる。

この素晴らしい世界に祝福を!」など、いかにも「なろう系」のようなゲーム世界的な異世界に主人公が行くものの、
日常生活から大変な目にあるという、苦労を描くことでパロディにした作品もある。

「活躍」というファクターの重要性

活躍というのは、実は物語論的にもとても”重要”な事でもある。
何故かと言えばカタルシスというものは物語に欠かせない要素であり、主人公を主人公たらしめる側面も持っているからだ。

下記サバイバルの項にはウガウガ言ってる奴だらけファンタジーという「ねーよ」「少数派すぎだろ」という”無茶苦茶な例”を提示してみたが、
これと同じ事として、「活躍」というファクターを欠いた作品のあらすじを書いてみるとこうなる。

主人公は中世風異世界に転移してしまった!だが、料理知識で活躍したりもせずいきなり村を襲ってきた賊軍に捕まり他の村人ともども奴隷商人に売り飛ばされ奴隷として炭鉱での強制労働に苦しみ抜いた挙げ句、ある日突然落盤事故に遭い誰からも省みられず無惨な死を遂げるのであった……

編集会議「…こんなん読んで面白いのは描いたお前か、世界に何人居るか知らない同類くらいだろ。ひとりでブログにでも書いてろ(原稿ポイー」

主人公が貶められたがどん底から苦難を乗り越え這いあがっていく、というシチュエーションの作品にはむしろ売れているというか
アニメ化まで行ったなろうでも有名な部類の作品がある。流行り(2020年前後)のジャンルでは「追放もの」でざまぁするという作品も
構造上はある程度近く、主人公が何らかの形で貶められる、という点までは一緒。その後、スローライフするかのし上がって見返すかは分岐。

だがこういう編集会議を通りそうもないあらすじみたいな作品は……実在することはする。なおアニメ化?書籍化?……(目線を逸らす)....まぁブログや執筆サイトを片っ端から探せば出てくるよいずれ。
少なくとも追放ざまぁ系のような「カタルシスのある」=「主人公が何らかの形で活躍・救済される」作品と違って、主流とは到底言い難いレベルの数しか存在していない。

なので、地球でいじめられっ子の主人公が偶然異世界で上流階級の優しいお姉さまに拾われておねショタしたり取って付けたチート能力授けられて高名だけどちょっぴり残念な美少女たちに囲まれてやれやれとスカしたりしても許そう。
どんなに外野が「まーたテンプレかよ」などと叩こうと、少なくとも名もなき現地人に余計いじめられてうつ病になって自殺しましたー、ちゃんちゃん。なんてしみったれた転落物語よりは確実に需要があるから皆こぞって書くし企業だって予算をかけてメディアミックスするのだから。


一応ネットには「僧侶「ひのきのぼう……?」」という「追放あり、ざまぁなし、主人公は虐げられ世界からは評価されない」
かつ”名作”とされる作品がある。
実際、検索上位の作品まとめブログのコメント欄には何年ものあいだちょくちょくコメントがつくほどである。

が……「主人公の僧侶♂は偉業を成し遂げている」し本人視点ではあるが「報われている」。
またこの作品、描写されていない事で不満コメントが出るポイントがある。

ラストシーン、僧侶は報われたと思いながら姿が消える。が、記憶を消されていた勇者♀は最後まで主人公に執着しているしキスしている。
つまり、僧侶の記憶を消して結婚しようとまで考えていた賢者♂にとっては地獄めいた状況である。

答え①記憶が戻った勇者に問い詰められ賢者は蛇蝎の如く嫌われる
答え②世を儚んで僧侶の魂を弔う修道院コース。結婚?ハハッ
答え③ハンサムな賢者は冴えた解決策を思いつく

3になるといいね(棒読み)

繰り返すが本作は、”それでも”「名作」である。僧侶はある意味チートだが弱い武器で強敵と戦い抜き、
パーティーの好意的な相手の記憶からは消され、民間人から嫌われたりすらするがそれでも腐りも曲がりもせず人界を守った。
ブッダメンタルな。ブログコメントでも聖人の行跡では?とか言われたりする。
そんなわけで僧侶への読者好感度は高い。

……はっきり言って、こんな内容でレベルの高いものを下手に真似たら一発でコメント欄は総スカンだろう。
主人公はなぜ苦難に耐えるのか。主人公にどこまで苦難を与えるか。嫌なキャラの嫌な行動をどう描写するか。
描き方を間違えたら不愉快だと思う人間のブーイングだけが溢れかえるか、何の評価もされない当然の結果ですエンドかだ。

ざまぁ前提ならすごくクソみたいなやつが出ても最後は笑えるかもしれないと期待ができる。
だが主人公の聖性を頼りに苦難を与えると、主人公やその仲間(好意的な相手)への共感がクズへの怒りに変わる。
ひのきのぼうという「ざまぁなし、主人公虐要素あり、報われてるか?」なSSは実在する。
が、やはりちょっとこれを主流にするのは難しすぎる気がする。

◆『中央アフリカから来た男』

19世紀末~20世紀前期の英国人SF小説家、歴史家のH.G.ウェルズが自著「タイム・マシン」で主人公に語らせた例え話。

  • 現代(19世紀末)のロンドンに中央アフリカの山奥から一人の男がいきなり連れて来られたら?
  • 当時の英国の社会システムや最新の技術をどれだけ理解出来るだろうか?
  • 彼が聡明な男で親切な案内人が現物を見せながら丁寧に説明すれば、彼は相当の水準まで理解するかもしれない
  • しかし、彼が故郷の仲間に物証も使わずに英国の最新技術を理解させる事はほぼ不可能だろう

 中央アフリカから来た男は「現物を見せながらの説明」というプロセスである程度の再検証性を担保されているが、故郷の仲間への説明には再検証を行うのに必要な現物サンプルを使う事が出来ない。
 男の言葉が正しかったとしても、仲間には再検証性が担保されていない疑似科学と見分けがつかないし、自分達が見た事が有る物レベルに落とし込んでの想像が精一杯だろう。
 「タイム・マシン」では「現代人同士でも現物を見せながら説明をしないと他の文化の技術なんて理解出来ないのに、異世界を案内人も無しに理解しろって無理な話だよ」と異世界の全体像をぼかしている。
 其れを言ったら、「全知全能、少なくとも人間より遥かに知識も知能も優れた神からの預言も預言者が神からの助言を基に周りの人間のお頭に合せて例え話をしているだけだよ」となってしまうのだが・・・。


◆異世界≒だいたい「人」がいるっぽい

異世界モノらしさ、を定義づけるファクターとしてもう一つあるのは、
恐らく「友好的で、かつ主人公グループではない集団などが存在する」ことであろうと思われる。

これは逆説的に無人島モノを見てみると分かる。

異世界でサバイバルする作品

アニメ「無人惑星サヴァイヴ」は上述のように「別の惑星で高度技術を用いる」要素がある話だが「火星のプリンセス」のような異世界モノらしさは薄い。

これはなぜかと言えば、個体では現地宇宙人もいるが集落レベルの知性体は現地にいないからである。
このため「神のように崇められる」どころか「集団の一部として称賛される」という要素すらなく、物語の大半は漂流した生徒達の身内の描写になっている。
これの類似例としては小説『突変』があり、「地域レベルで異世界『裏地球』との転移・交換が頻発する地球」という設定ながら、
「裏地球」に知的生命体がいないため、登場人物たちが出会うのは「先に転移していた、元の世界の人々」と「異世界の動植物」だけというサバイバルものに近い作りになっている。


これを置き換えて考えてみると


主人公はファンタジーの世界へ転移してしまった! 言葉の通じるエルフ? ドワーフ? いないよ。偶然近くにいた野盗はどっかにいるはず。
ウガウガしか言わないゴブリンとかトロールとかオンリーの世界で、モンスターを殺して剥いで食べ、強盗を警戒しただひたすらひとり泥臭くも逞しく生き延びるサバイバルが、今始まる……!


舞台設定だけは紛れもない異世界である。が、こんな作品が世にいくつもあるだろうか?
少なくとも火星のプリンセス≒宇宙開拓史≒MARのように、SFや宇宙モノと一定の共通性や互換性のあるファンタジー作品の例は少ないと考えられる。


楳図かずおの漂流教室は十五少年漂流記などのサバイバルものに近いと言われるが、集団を持ち知性や文化もある「未来人」と称する生物が出る。
が、彼らは敵対的であるし、また学校にいた大人の関係者の中には子供たちを支配しようとしたり、殺しに来る「敵」もいる。

「サハラ 死の砂漠を脱出せよ」は、広大な砂漠に墜落した飛行機に乗っていた者たちが脱出を試みる様を描いたサバイバルものである。
対して漫画「王家の紋章」は、古代エジプト文明の学者を父に持つ少女が古代エジプトにタイムスリップさせられ、
その知識を用いて現地の王などに保護やら恨みやらを受けつつ彼らと生活しながら生き残っていく物語。


こうしてみると全般的に「主人公(ら単一グループ)vs敵対的な周囲や環境」というだけでは根本的に「サバイバルもの」の性質が強くなりすぎるのだろうと思われる。
トウェインやバロウズの描いた「異世界(環境)での無双・活躍」のようなイメージを「異世界でサバイバルしている」作品に対して読者も作者も共有している感じは見受けにくい。

要するに「主人公に対して友好的なものと敵対的なもの」の両者を以て「世界」があるとでも言うべきだろうか?

敵対的性質オンリーの場合、知性体がいてもそれは「動く障害物」であり「生きるために対策すべき邪魔者」となる。
その中で主人公グループの方針対立による内ゲバが起きたり、その解決のために交渉を試みたり・・・(この辺はだいたい漂流教室に見られる)
こういうひたすら生きるための努力にフォーカスされると「異世界性」というものがどうしても希薄になるのだろうと思われる。


とはいえ異世界を旅するという作品もなくはないし、藤子Fの短編「みどりの守り神」では、
知性体ではないが動物の治療や食事に役立つようになっている植物が出て異世界感を持っていると言えなくもない。
この辺りはやはり描写の重心の問題もあるのだろう。

◆異世界での言葉

※この節の内容については人工言語の記事も参照することをオススメします

ネットでは「異世界に行ったのにすぐ言葉が通じるのはなあ」という否定意見がある。
しかしこれもまた、考えてみれば読者の理解が求められる部分である。

言語学ガチ勢などが本気で言葉を習得するまでの物語、カタコトが通じるようになり徐々に友人などが出来て・・・
という作品があれば、それは立派な異世界モノだろう。だがそればかり掘り下げようとしたら異世界モノ=言語学モノになってしまう。
そうなれば「トールキン得にしかならないだろ!いい加減にしろ!」と反感を持つ読者も出てきかねない。
架空世界創作の界隈の用語ではこのような「作り込むほど売れなくなる」現象は「商精反比」と呼ばれている。

作る側としても人工言語や架空言語を作るには専門的な知識が要る上、にわかに競技人口も多い(例えば後述する架空言語「アルカ」を題材にしたシェアードワールドやそのフォロワーないしフォロワーのフォロワーたる所謂「架空言語界隈」, あるいはそうした界隈から距離を置きつつも地学的な現象からのアプローチや自主制作映画等のメディア化にも積極的なアルティジハーク語をはじめとする中野智宏氏による創作物群, 他、海外の創作者など)ため学問的に自然な言語を作って自作品に組み込み、更に平均的な完成度にしようとすることは至難の業である。
知識に関して例を挙げれば言語学者のJ・R・R・トールキンは指輪物語に登場するアルダの言語を作るのに13歳から作り始めて81歳で亡くなるまでの68年を費やしているし、
19130の語彙を持つ日本最大級の人工言語・アルカは作者セレン・アルバザードが他の全ての創作活動にかける時間を捨てて22年の歳月を経て製作している。
専門知識を手に入れるための資金や時間だけでも膨大な量に上るため、作品作りと言語の創作を両立させることは至難の業なのだ。

さらに言えば、異世界の言語を作ってしまうと
今度は「人がいて人の使う言葉を喋れるような世界に行ってる時点でかなり確率低いところを引き当ててる筈なのに、なんで言語だけは違うの?」という問題も出てくる。

故に言語の超速理解や翻訳前提が多いことにも「仕方ないね」「突っ込んではいけない」「こまけぇことはいいんだよ」の精神がある程度は必要なのだ。
「意思疎通はできても、異世界の文字は読めなくてそこから何かのネタになる」という展開などもあるので作者たちも考えていないばかりではないはずである。

具体例としては、TRPG『異界戦記カオスフレア』で、「異世界からの来訪者がやたら多い世界なので、世界を覆う『結界』に自動翻訳機能がついている」として言語問題を解決、
「『結界』がおかしくなると言葉が大変だよ?」(翻訳機ある来訪者も多いけどね)と言う話もしたことがある。
『十二国記』の『月の影 影の海』では最初主人公が普通に日本語で異世界の言葉を理解していたが、後に日本からの他の漂着者達との出会いで「本来は日本語が通じない(漢字での筆談でもかなり大変)」と知り、それが異世界転移の背景の伏線となっていた。
ちなみにこの世界には「不老で再生力の高い身体と言語に不自由しない感覚を得る『仙籍』」というシステムがあり、続編『風の万里 黎明の空』では小間使いではあったが『仙籍』を得た日本人も登場している。
電撃文庫→電撃の新文芸の作品『Bebel』ではこの「翻訳前提」が話の核となっており、当初異世界でも普通に言葉が通じることに疑問を持たなかった主人公が、
後半にて「舞台世界にある特殊な言語取得法則とその揺らぎ」と地球の言語事情を知った異世界人からの『ならなぜこの世界の言葉が法則外のはずの主人公に通じたのか』と2つの問題に直面し、それを解いていくことになる。

他には、漫画「ドリフターズ」では『先に来訪していた人物が日本語↔現地語のほんやくコンニャク的なのを作っていた』という形で解決が図られている。
当初は主人公の一行は、半年かけて異世界言語を片言ながら習得した仲間が通訳する事で異世界人との意思疎通を行っており、
その仲間が居ない時は当然言葉は通じないため、身振り手振りや現地民に「タスケテ(助けて)」と発声する事を強要する*3といった強引な方法を取っていた。
後に主人公らに先駆けて異世界に来た人物が上記のアイテムを主人公らに配ったことでようやく解決したのである。
これは「異世界では言葉が伝わらないのが普通」と「とはいえ同じ問題を何度もやっていては話が進まない」という指摘を同時に解決するものでもあると言える。
また本作では異世界の文字はひらがなをマヤ文明の文字のように変形させたような横書きの文字として形容されており、
異世界人の台詞には吹き出しの中に日本語と同じ文章が併記されている。

こうした異世界の言語考証の問題に真っ向から立ち向かった作品として、
ガチの言語学マニアが書いて書籍化までこぎ着け、それなりに売れた『異世界語入門 〜転生したけど日本語が通じなかった〜』という例がある。
この作品では、主人公が転生した異世界で日本語が通じず、言語学の知識を用いて主人公が現地の言葉や文化に慣れていく様子が、異世界転生もののフォーマットに落とし込まれた上でクローズアップされて描かれている。
この作品の人気度合いを見ると、この手のガチな要素に関心を寄せる読者が潜在的に一定数存在する(=必ずしも「トールキン得」とは見なされない)のだと考えられるが、
この作品自体が異世界での言葉に関する問題提起をセールスポイントにしており、むしろこうした宣伝が読者の興味を引いている側面が大きいと言えよう。

変わった例だと過去に地球人が大量に転移してきたので異世界でも普通に地球の言語が通じる、というものがある(もっともそれは日本語や英語ではなく古代のエジプト語やメソポタミア語だったり地球の各言語を混合したものだったりするわけだが)。
ゲーム「ことのはアムリラート」の舞台となる異世界では定期的に地球から転移して来る者がいるので主人公がやってきた時点で「ユリアーモ」という地球の各言語を基にしたリンガ・フランカ言語(共通語)が成立しているという設定。

その他SF考証的な部分

言語問題などのような『ツッコミどころ』と言われるものは、例えばジャガイモ警察と評されるような、考え始めるときりがない分野でもある(異世界or地球から未知の病原菌がもたらされるなど…)。

一応言語以外の部分にも触れてみれば、たとえば地質や気候、植生等と、建築物、食物、衣服等との関係性や、
倫理観、文化の果たす機能、重力、時差、暦などが挙げられる。

例えば瞬間移動によって長距離を移動すれば、地面が球状なら時差が発生するし、
月が二つあるなら少なからず地球の軌道に影響を及ぼしている筈である。
出自が母系である社会は存在するが、女性が社会的な権力を男性より持つ未開社会は存在しない。

不確定要素は無数にあるが、完璧でないにせよ(あるいはまったくの出鱈目であるにせよ)
こうした事象に読者をうまく納得させられるような解説を加えていく必要があるのだ。
(一例を挙げると、上記文中に出てくる「宇宙開拓史」では舞台となる異星の二つの月の運行が潮汐作用に影響を及ぼしており、二つの月が重なると大潮になるということがはっきりと描写・説明されている)

ここで、そもそも異世界への転移という現象や、多くは魔法という科学では説明のつかない技術が存在している時点で、
この種の科学的な常識が異世界でも通用するのかという疑問は当然存在する
(事実、『十二国記』に登場する異世界では水平線が見えるにもかかわらず地球が平面だと言われており、こちらの世界の常識が通用しないことが示唆されている)。

異世界モノの主人公の多くが現代の科学技術を持ち込むため、
結果世界観にまで科学のメスが入ってしまうのは致し方ないと言えるかもしれない。

また言語にしろこの種の考証にしろ、あった方がそれっぽさが出ると考える読者層が少なからず存在することは
『異世界語入門 ~転生したけど日本語が通じなかった~』の書籍化からもうかがえる。

結論としては「できる人はやればいいが、やってもやらなくても(売り上げはどうあれ)完成度に違いはない」ということだろう。


◆異世界と活躍の関係性

このように、「異世界モノ」には「活躍モノ」のファクターが混じりやすいのだろうと思われる。
それは異世界の友好的存在との交流を描くものであり、故に異世界モノを異世界モノたらしめるための不可欠な一面であるからだ。


「異環境での活躍」は「俺TUEEE」的になりかねない要素を孕んでいるところがある。
「白人酋長モノ」は正にそうした点を批判されているものであり、オタ文化に限った事ではない宿痾である。
しかしこれらの作品全てがそのような性質を持つと見るのも早計である。


岩明均の漫画「ヒストリエ」では、主人公が文化を教え指揮する村に攻め入った敵将が、
「貴様ら蛮族はこのような詩も知らんのだろう!」と言うと「知ってるよ、○○だろ?」と作者名を言い返されて驚愕するシーンがある。
前述の「日食? 知ってる知ってる(マヤ並感)」のようなもので、本当に知性や文化性が低レベルなら覚えようとすらしない、
覚えられないだろうが村人はごく普通に返答でき、知らんだろうと言った側の傲慢さと間抜けさが浮き彫りになっているシーンである。

また先発作品な『船乗りクプクプの冒険』で、原始的そうな住人に対してある人物が「これが現代の技術だ!」とやったら、
「いや、自分ら科学力有るけどあえて原始的に暮らしてるだけなんで」とそれ以上の技術でやりこめられた。

上述したノーゲーム・ノーライフでも(内政/NAISEIするのが主眼の作品ではないとはいえ)、
知識は供与するが具体的なところは元からいる官僚に任せた方がいいだろうと言っていたりする。

このように、渡来者の主人公が現地の「無能な」「蛮族の」人間に何かを与えて「すげー!」と言われるだけで、さすが主人公というような描写の作品ばかりではないとは言える。


逆になろう系などネット界隈では「召喚勇者に適当にモノを与えて魔王に特攻させよう」といった悪辣な王なども結構出ていたりする。
彼らが敵として無能なまま狩られる(カタルシスの道具でしかない)ケースもあるが「惰弱な現地人にただ崇拝される強者」という所へのメタではあると言える。

聖戦士ダンバインのアの国のドレイクなどは、こうした「渡来した者=頼ったり崇めるべき力ではなく道具」という立場をとった者の古い例。
ふしぎ遊戯でも、主人公の友人は本来従う者であるはずの七星士のひとりに「レイプ(実際は未遂)され見捨てられた」と思い込まされ、異世界から来た巫女としての力を利用される。
この「召喚・渡来存在を利用」した上の二人は描写的にも能力的にも普通に有能な部類の悪役であったりする。

騙された地球の人間もまた人格面に大きな問題がある場合があり、ゲームや小説で描かれている様なチート系主人公に自分が選ばれたと歓喜し、何の疑いも無く自身を召喚した悪党達の言葉を鵜呑みにして悪事に荷担*4。そして最終的に用済みとして切り捨てられるか、または主人公側によって断罪される状況に追い込まれる。
改心して主人公達と和解し償いの為に戦う展開*5もあるが、最期まで頑なにそれを認めようとしないなど、騙した悪党達ですら辟易する程の愚かさを露呈する展開*6も少なくない。
『悪役令嬢モノ』では主人公のヒロインとなった転生キャラが数多く登場しているが、本当にゲームの世界に転生した所為もあって上述の転移者達以上に周りをよく見ていない愚者に成り下がり、周囲の人々を、あくまでも「キャラクター(NPC)」としてしか見なかった事で孤立して自滅する展開*7がほぼ定番となっている。

ダンバイン(1983)より後になるが、悪党による召喚ネタは海外の例が関係性の項にもある「ランドオーヴァー」シリーズ(1986)に見受けられる。

悪い宮廷魔術師「国からはモノを持ちだせない……そうだ! 金持ちで王に合わないやつに王位売って追い出してまた売って無限ループだ!」

クリスマスカタログ「魔法の王国売ります!」(1巻タイトル、某TRPGでは「売国奴」のスキル名)

主人公「辣腕弁護士だったんだが、妻に死なれてしまってな……新しい事にも挑戦してみるか、と思い買ってしまった。今ではこの国の窮状を救いたいと思っている」
魔術師「ええ……なんでこんな有能な上に適応できるやつ来てるんですかね……追い出さなきゃ」
つまり悪の魔術師が金儲けループコンボしてたら、条件に合わない王候補を引いてグワーッ!が物語のスタート地点である。


本来の主題と違う活躍要素


「異世界で主人公が活躍するのいいよね……」は、本来それが主題ではない作品をモチーフに制作されているケースも存在する。

スウィフトの「ガリヴァー旅行記」は、本来は当時のイギリス社会等を元に描いた風刺小説。結構な長編で、○○の国編が計4つ存在している(3つ目では帰国時日本に立ち寄ってもいる)。
が、「小人の国に流れついた主人公が敵艦隊相手に無双」という序盤のシナリオがネタにされるケースが結構ある。

ドラえもんでのび太が上のエピソードを読んで「そういう(小人のいる)星に行こう!」と言い出してドラえもんとのび太が現地小人の迷惑になる話
「めいわくガリバー」は、ある意味ではモロに異世界モノの揶揄・風刺とも取れる。
藤子Fは同じように巨大宇宙人が第二次大戦期の地球は日本に来て、米国艦隊相手に無双するという話もSF短編として描いている。

2010年にもアメリカで1章が映画「ガリバー旅行記」として制作され、この映画では異世界から主人公が(一回捕まってたりはするが)後で英雄として迎えられる。
また、スター・ウォーズなどを自分のオリジナル作品として語って称賛される(後でバレたけど)という、
「自分のものでもない知識などで利益を得る」というシーンがある。
興業的には米国ではヒットせず、海外展開で製作費以上には儲けた。評論家の評価的には余り高くないようである。


「オズの魔法使い」はドロシーと仲間たちが体の特徴などによって互いに助けとなる話だが、
2013年の「オズ はじまりの戦い」はサーカスの魔術師が「オズの国」へ飛ばされ、手品のトリックや彼のいた当時のアメリカでの技術知識を現地の住民に伝え
協力を得ることで戦いに勝利している。単純に主人公を称賛する話ではなく、ドリフターズのドワーフのように多くの現地職人らが働く感じであるが。
こちらは米国で興業的に製作費を上回っており、評価もまあまあくらい。


上は「異世界などで主人公の知識等が活かされる事は主題ではない」作品の派生でありながら、主人公が活躍したりそれを望むという特徴がある。
このような例は、やっぱ受け手も作り手もこういうの好きなんすね〜的な、需要というか普遍性のようなものの存在を感じさせるところがある。


◆異世界と主人公の関係性


「異世界」とは基本的に「主人公の世界」とは違う・関係のない世界として描かれる。
だが「異世界」と「主人公」ないし「主人公の世界」に最初から関係性を持たせ、異世界転移に必然性を持たせるケースも多く存在する。

例えば『リダーロイス・シリーズ』(コバルト文庫)は序幕こそ現代日本が舞台だが、
主人公が異世界の王子と言う『貴種流離譚』なので主役と彼女以外現代的要素は少なかった。

古い例だと『ナルニア国物語』では、舞台となる「ナルニア」と主人公達のいる「20世紀の英国」は同じ『皇帝』の作った世界であり、
ゆえに聖書に登場する「アダムとイブの子孫(たる人間)」が物語のキーポイントになりえた。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『クレストマンシー』シリーズでは『異世界が認知された魔法世界』と『異世界や魔法を知らない世界』が入り混じっていた。
テリー・ブルックスの『ランドオーヴァー』シリーズでは、主人公が異世界の国「ランドオーヴァー」の王位を「買う」ことで王となっている。
それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』における「現代」と「未来」は、厳密にいうと「互いにタイムパラドックスが起こらない世界」で、並行世界移動に近い。

これらの例だと「異世界を行き来する手段」や「並行世界の仕組み」等がある程度解明されており、それゆえに世界観の関係性が必要とされている。
また『魔法騎士レイアース』原作版では、「何で異世界なのに『マジックナイト』なんて英語があったんだ?」と言う疑問をキャラが抱き、終盤で「作り手が同じ」な事が明かされている。
このように「2つの世界」の類似性から、世界の謎に迫るという作品も存在する。


◆異世界への行き方

ではどうやって異世界へと登場人物たちが誘われるのか?というものも各種異なる。

『火星のプリンセス』では「臨死状態の時意識だけが遥々火星へと転移する」という、それこそ「夢物語」のような生き方であった。

対して『ナルニア国物語』の「ライオンと魔女」では「居候していた家のクローゼットが世界間を繋ぐ通路だった」という、より「違う場所へ行く」雰囲気が強いものとなり、
他のナルニア作品では「異世界から強制的に召喚される」・「絵が門の代わりになる」・「アスランを呼んでいたら近くの扉が門になる」・「魔法の指輪を使う」と各種パターンを取りそろえ、
「クローゼット」に関しても「実はナルニアからの種で生えた木で制作」として「通路」となった必然性を理由付け、最終巻では現実世界で死んだから渡れたという『火星のプリンセス』に近いものになっていた。

このように異世界への行き方には大きく分けて
1:異世界へのゲートをくぐる
2:意識不明状態で幽体離脱の如く異世界へ行く
3:異世界へ行ける道具・乗り物等を使う
4:異世界の住人から呼び出される

の4パターンがある。
このうち2の変種に「貴種流離譚」・「転生もの」の要素を合わせて生まれたのが、「異世界転生モノ」と思われる。

また変則的な例としてはしては外国文学『ネシャン・サーガ』がある。
同作では「異世界に棲む主人公」の冒険を「主人公と同じ名を持つ地球の病弱な少年」が夢を通じて体験し、時に主人公に対して助言するという形式で進行していた。
ところが後半になって「病弱な少年」が突然異世界に転移し知らぬ間に主人公と同化、以降「主人公」は「病弱な少年の記憶を持った異世界人」となった(「病弱な少年」は地球では行方不明扱い)。
「病弱な少年」が異世界に降り立った時や地球での扱い等の描写は「異世界転移」とも取れなくもないが、異世界の住人たちは皆「病弱な少年」を普通に「主人公」として扱っており、「異世界転生」とも取れる。
だったら元の(「病弱な少年」を他人として認識していた)「主人公」の人格はどうなったのかという疑問が残るが。

元の世界と異世界の行き来が選択できる場合、「どちらの世界で生きるか」と葛藤する展開もお約束である*8
最初は転生だと思って死んだ前世のことは忘れていたが、物語後半で実は帰れることがわかり…というパターンもある。

また「死にそうなショックによって転移」の場合もあくまでも転移先は生身の世界であり、死後に閻魔を相手に地獄の国盗りを企てた人
実行した人を異世界モノに分類する人はまずいない(単にその作品の本題ではないからかもしれないが)。

ミヒャエル・エンデの小説『はてしない物語』では、小説の世界・ファンタージエンに入り込んでしまった主人公が、現実世界とファンタージエンが相互に悪影響を及ぼしている状況を打破し、自らも成長して戻ってくる過程が描かれる。

昨今の『異世界転生もの』などは、トラックによる事故・病気・老衰による死や原因不明によって優れた知識や能力を持ったまま異世界にいくケースが多く、
いずれも共通することは、『主人公には元の世界に戻る手段ないし、当人にその意思がない』こと。
よくもわるくも「自分が活躍する・自分を必要としてくれる人がいる世界」で人生を過ごすこととなる。

アニメ『バトルスピリッツ 少年激覇ダン』では逆に、異世界に行き成り上がった男が、異世界の王から過ぎた野心を見抜かれ、得たもの全てを失って元の時代に戻されるという展開もあった。

◆異世界と自分の世界の融合

作品の中には、最終的に異世界と地球が融合する・大規模で邂逅するという話も見られる。
ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』『バトルスピリッツ 少年激覇ダン』など。

今まで主人公達しか知らなかった異世界が、地球の常識を揺るがし、主人公たちがそれに関わるというカタルシスのある展開ということも。

ただ、こうした作品は必然的に政治・経済の分野にも精通していなければ、ツッコミどころ満載や無理やりな展開になりがちなため、
作者の力量が問われる話でもある。

◆異世界にいる人が地球に来る

異世界に地球にいる主人公がいく話は上記のように多々あるが、当然ながら逆に異世界にいる人が地球に来るという話もある。
日本の有名作品で言えば、M78星雲・光の国から地球のために宇宙警備隊員が何人も来ている。
ただコメントで異世界的ではないと指摘があったが、原因は彼らが同一宇宙の異星人である事よりもむしろ
「活躍の分断」にあるのではないかと考えられる。
異世界モノにおいて「活躍」さらにはそこから発展する「友好的存在との交流」というファクターが重要である事は
前述されている通りだが、この場合はそうした要素が薄めなのだ。

なぜなら光の巨人=怪獣を倒す者≠変身する前の隊員、というのが一般認識であり、要するに異世界モノによくあるような
「主人公が凄いパワーで強いモンスターをやっつけて周囲に称賛される」というような流れが作られていないのである。
構造的には先達のこの人も同じ。
もっとも目立ちたくないから活躍を隠そうとして内密に強いモンスターを倒して称賛は身内のヒロインからのみ受ける、
みたいなタイプの作品もあるが……。

「怪獣を討つ光の巨人すごいですね。ところで、隊員の中に怪獣が出たらいつもいない人がいるそうですが。いらない子では?」

上記作品の中には隊員がこんなバッシング記事に傷つけられ「もう変身するのやめようかな」という精神状態にまで
追い詰められた描写のある媒体も存在するという。うん、活躍隠すとか昼行燈ってレベルじゃねーぞ。カワイソス

なお近年はイケボが付いて、満員電車を「精神の修行にはもってこい」と言うシーンがあったりするなど
異世界人っぽい「異文化をなんかズレた見方してる」的な台詞があったり、喋るようになった事で少しだけ異世界あじは増えた。
といっても主人公や他の光の巨人以外とは軽妙にトークする訳ではないので、その辺やっぱり限定性がすごく強く異世界性は低めだが。
シュワ?シュワシュワワ?シュワ? >日本語でおk

ちなみに「別の星から来て高い能力(大体は科学力)があるキャラクターがメイン級」の作品だと
星からヒロインがやってきた「うる星やつら」や、タイトルまんまだが星ごと吹っ飛んで全住民が宇宙に散在する難民と化した国の王家が地球に移住する「ウメ星デンカ」など昔の漫画にも該当作品はなくもない。
が、ラムたちが科学力を発揮すると基本はトラブルになってドタバタギャグ状態に陥るのであって、
あたるもラムに今わの際まで惚れたなど言わない。

また『十二国記』シリーズのエピソード0にあたる『魔性の子』は、ある少年が異世界から自覚無しにえらいものを連れてきてしまったせいで起こった悲劇と、現実より未知の彼岸にこそ望郷の念を抱いてしまう主人公を描いた作品。
少年は異世界に関する記憶を失い欠落感を抱いているのに+して異常な怪異のせいで人々に恨まれ、最終的に地球での居場所を殆ど無くした所で迎えが来て記憶が戻り、異世界のものを何とか宥め共に再び異世界に。
そして途中で自分の憧れを「実際に何かがあった少年とは違う」と先輩に一刀両断された主人公は、最後に異世界の実在と少年も異世界生物だという事を告白されるも、渇望空しく隔絶を知り取り残されるという、「異世界への憧れの光と影」を描いたかなりビターな話である。
只後のシリーズ展開を見るに、言葉の通じない異世界の荒廃した国に、一般人で都合のいい憧れしかない主人公が行けたとしても足手まといになった公算が強いので、少年が独りで帰還した事は双方によってましな選択だったろう。

近年ならば『はたらく魔王さま!』では、勇者に敗れ世界征服に失敗し現代日本に逃亡した魔王が、
人間が生きていくうえで不可欠な『働く』ことを知るため、アルバイトをして出世を目指し、人間世界の在り方・人間の導き方を学びなおそうとする話となっている。

他作品として金色のガッシュ!!等があるが、やはり地球で地位を築くとかが主眼ではないためやや異世界あじは薄い感はある。
ワールドトリガーも主人公らは十分濃いのだが群像劇的側面が結構強めな上、異世界に拉致された人々を取り戻すというむしろ逆の目的に虎視眈々と牙を研いでいる。

【媒体別】

異世界モノは様々な媒体で存在している。ここでは日本語媒体のものを掲載。
サイトやイベントを利用する際は利用規約・ローカルルールを守らないとBAN等の原因になる。

◆商業的なもの


小説

ファンタジーを題材にした小説(幻想文学)は純文学・ジャンル小説を問わず存在し、当然ながら異世界を題材にしたものもある。
特にホラージャンルでは「行って帰ってくる」という話が多いため、必然的に異世界モノになりやすい。

純文学でいえば泉鏡花の『天守物語』などは主人公が妖怪の世界へ招かれる話であるし、
志賀直哉の『城の崎にて』は現実世界での話ではあるが、精神的な意味では別世界と見ることもできるかもしれない。
古い例ではダンテ・アリギエリの『神曲』が有名であり、これは主人公が天国・地獄・煉獄を旅するものである。

SFやオカルトにおいては上記に述べたスペース・オペラやVRの他にも、秘境冒険談や、平行世界、時間移動、異次元、サイバースペース、はたまた神や妖怪の住む常世を題材にしたものがある。
フレドリック・ブラウンの並行世界SF『発狂した宇宙』は、1949年当時のSF雑誌にありがちな設定を風刺しながらも、主人公を活躍させるエンタメ性があり、さながら現代でいう「このすば」のようである。
新しい作品に目を向ければ、宮沢伊織『裏世界ピクニック』のように都市伝説を題材にしたものや、ジェフ・ヴァンダミアの『全滅領域』などホラー要素を加えたものもある。

ファンタジーではミヒャエル・エンデの『遠い旅路の目的地』のように、異世界に主人公の意識が大きく反映されたものもある。
エンタメ性を重視したものでは、ウェン・スペンサーの『ティンカー』などが挙げられる。

ライトノベルでは富士見ファンタジア文庫で女子高生が「未来の並行世界」で活躍するSF『それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』や主人公の男性が異世界での召喚獣役を兼業するバイオレンスファンタジー+学園格闘コメディの『召喚教師リアルバウトハイスクール』、
電撃文庫だと少年少女が危機的な状況の並行世界へ招かれる『時空のクロス・ロード』、富士見ミステリー文庫で『マルタ・サギーは探偵ですか?』と平成前半から異世界モノは存在したが、
2020年現在では狭義のジャンルとしての『異世界モノ』はweb上で連載されたものが書籍化されている場合が多い。

児童文学では、例えば小学校低学年向けではふるたたるひ『おしいれのぼうけん』やルース・スタイルス・ガネット『エルマーとりゅう』、
高学年向けではルイス・キャロル『不思議の国のアリス』、一般小説『魔性の子』を起点に少女向けライトノベルとして開始した小野不由美『十二国記』が挙げられる。

漫画・アニメ

実写で表現できないことが表現できる分、異世界を題材にした漫画やアニメは無数に存在するものの、
ラノベ的な意味での異世界モノはオリジナルでは少なく、
大抵は小説の漫画化・アニメ化が殆どである。

ラノベタイプの異世界では、オリジナル作品では平野耕太の漫画『ドリフターズ』などが挙げられる。

アニメではたつき監督の3DCGアニメ『けものフレンズ』が有名であり、これは主人公のかばんちゃんがアニマルガール達の暮らす世界で目覚め、ほかの「けもの」にはない人としての性質や技能を活かして障害を乗り越えていく。

純粋にファンタジー世界へ行って帰ってくるタイプの話であれば、アニメオリジナル作品では宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』などが挙げられるだろう。

実写

実写では『BALLAD 名もなき恋のうた』や『JIN -仁-』のような原作付きのものが異世界モノと呼ばれている。(ここで挙げられたものは『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』、『JIN -仁-』の実写化である)。

また、そうでなくても異世界はファンタジーやSFを描写しなければならず、特撮やVFXを用いなければならないため、
表現媒体の制約から時間遡行がテーマになっていることが多い。

ミュージカル等の場合、衣装や書割りなどによって異世界を表現できるため、オリジナルでは現実とは違う世界に行って戻ってくる要素がしばしば用いられる。

ゲーム

一般人視点でストーリーを楽しんでもらうため作品内の場所等に疎いキャラクターが主人公になることがある他、所謂「お祭りゲー」では単に流行に倣って異世界モノを取り入れている場合もある。

FINAL FANTASY Ⅹ』では、主人公が異世界に行くところからストーリーが始まる。
『DISSIDIA FINAL FANTASY』シリーズでは、各ファイナルファンタジーのナンバリングタイトル等の主人公が別の世界に呼び出され、一堂に会する。

ソーシャルゲームでも、例えば『ディズニー ツイステッドワンダーランド』のように一人称となるキャラクターが他のキャラクターとは別の世界から来ている場合もある。
また逆に、『きららファンタジア』のように様々な作品のキャラクターがひとつのファンタジー世界へ呼び出されることもある。

◆個人が自由に投稿・頒布できるもの


小説家になろう・アルファポリス・カクヨム

基本的な小説サイト。「なろう系」と言われたらこのあたりを一括りにして指していることが多い。
「なろう」では更新頻度が重要視されるのに対し、カクヨム では完成度が重視されるなど、サイトごとに毛色の違いがある。
基本的には主人公に感情移入できるように作られているか、作者の思想がキャラクターに反映されていることが多い。
また多くの場合主人公はかなりの強さを持っていたり、特殊な能力を持っていたりする。
「なろう系」のファンタジーはひとくくりに「ナロタジー」と呼ぶこともあるが、近年では異世界モノではないハイファンタジーも台頭してきているため一概に異世界モノ=ナロタジーではない。その他、ナロタジーに出てくるヨーロッパ風の異世界のことを「ナーロッパ」、ナロタジーの典型的な主人公のことを「ナローシュ」(<なろう主)などと呼ぶ。これらは蔑称同然と化しており、毒者*9や対立煽りの愉快犯らの口癖になっている。
「チート」「魔力」といった、通常とは若干異なる語法があり、個人によって大きく用法が異なるものもあれば、逆に濫用すると批判をくらう単語もある。

異世界に生きたまま移動することを「転移」、死んでから異世界に行く場合を「転生」、神様の手違いにより死んだ主人公が異世界で蘇るものを「神様転生」と呼び分けている。

これらのサイトでは企業が新人賞を設けていたり、ヒットしている作品にスカウトが入ったりする。
このようにして「商業化」が行われた場合、サイト側の規約や商用化権等の企業の規約から個人の手を離れてしまうリスクはあるものの、
賞金や商業での連載を目当てに多くの作家が作品を投稿することが多い。
その中で特に商業化の割合が高いのもこれらのファンタジージャンルであり、
現在ではサイトでの評価が必ずしも売り上げに結びつかないと認識され始めてはいるが、
こうしたジャンルから商業化が行われていることは多い。

因みに、異世界モノ以外で主流なファンタジージャンルは「追放系」と「婚約破棄」である。

商業化を狙うなろう作家志望のことを蔑みを込めてまたは自称として「ワナビ」と呼ぶことがある。というのも、なろう作家は「誰でもなれる」と思い込んでいる浅はかな志望者(もちろん、流行を察知し、毎日同じ時間に面白い作品を上げ続けなければならないため、誰でもできるわけではない)はごまんとおり、加えてこうした無料で読める小説サイト自体がそのギャンブルや頭を使うことを嫌う読者の特性上テンプレを遵守した作品以外受け付けない所謂「魔窟」なこともあって、そうした場所で自分の個性を(技術もなく)活かそうとする無謀な挑戦者を嘲笑する意味合いが強い。

Arcadia・ハーメルン・Pixiv小説・ドリームノベル・占いツクール

主に二次創作が行われているサイト。他のサイトでは二次創作が原則禁止されているか極端に制限されているため、二次創作ではこれらのサイトが用いられることが多い。
前三者では所謂男性向けも多いが、後二者では主に夢小説等が扱われている。現実世界から来た主人公が作品内世界で冒険するパターンや、別々の作品同士のクロスオーバーもある。

ケータイ小説・魔法のiらんど

主に女性向けの恋愛モノを扱っている小説サイト。独自の文体をもつ。上記二者と比べて異世界モノの規模はそれほど目立っていない。
魔法のiらんどでは二次創作も許容されている。

各種BBS

5ちゃんねるをはじめとする電子掲示板(BBS)には一次創作や二次創作の小説をコメントによって投稿する専用の板がある。
有名なものではニュース速報VIP(通称VIP板)がある他、
やる夫スレのように、版権キャラクター等をAAにしたものに会話させるという特殊な方法を取るものがある。
またオカルト板では「きさらぎ駅」のような異世界を題材とした怪談が語られることもある。
なろうとは違い収益にならない上に出会いもないので、完全に個人の趣味で成り立っているといっても過言ではない(さらに言えば商用化権が5ちゃんねるに還元され、誰でも自由利用が可能となってしまう)が、
ファンタジーモノではゴブリンスレイヤーのようにやる夫スレからキャラクターを差し替えて書籍化することがある。

個人サイト

自分のサイトで小説や漫画を連載することも可能である。
上記のサイト群が台頭する前はエヴァや魔術士オーフェンの二次創作などで賑わっていたらしいが、現在ではサイトをスマホに対応させなければならないなど個人でサイトを立ち上げるハードルが上がっているためあまり主流ではない。

オリジナルのものでは人工言語「アルカ」を題材にしたシェアードワールドへ転移する小説「紫苑の書」などがある。
またアンディ・ウィアーの小説「火星の人」も元々は作者の個人サイトに掲載されていたが、これも見方によっては異世界モノになるかもしれない。

Pixiv・ニコニコ漫画

漫画を投稿することができる。
異世界モノの漫画自体がややニッチではあるが、特にPixivではR-18でファンタジーが扱われることもあり、
アマチュアによる投稿も多い。

Twitter

主に漫画が投稿される。
商業漫画の一部や再販の見込みがない同人誌が投稿されることがあるほか、
アマチュアでも気軽に漫画を投稿できたりと敷居が低い。
「漫画が読めるハッシュタグ」などで検索すると一次創作漫画全般が出てくるが、異世界モノだけを検出するタグは今のところない。

Youtube・ニコニコ動画

異世界を題材にした怪談を読み上げた動画のほかに、アニメのキャラクター等をファンタジー世界で戦わせる架空戦記モノがあり、これは文字や絵によって表現されることが多い。
また、はるふりのボカロ曲『異世界チートハーレム』のように異世界を題材にした楽曲もある。
ニコニコ動画には、ニコニコで使う分なら自由に使える素材集であり、素材主にも広告収入が還元される「ニコニ・コモンズ」があるため、そこでの立ち絵やBGM、効果音を借りての動画製作が容易という利点がある。
間違ってもニコニ・コモンズの素材使った動画をyoutubeに投稿するなよ!?絶対にだぞ!

同人誌

漫画や小説を個人で出版し、イベントで頒布したり、友人に配ったりする方法。Pixiv同様エロが多い。
サイトのサービスが終了してもデータが消えてしまう危険がないが、焼失・破損等の危険がある。
それなりに資金と労力がないと作れないためある程度の覚悟と狂気を要する。

同人ゲーム

RPGツクール等の専用のソフトウェアを使う場合と、ある程度自分で作る場合とある。
特に前者の場合、公式でゲームを共有できるようにしている場合もある。
「RPGツクールDS+」のように比較的仕組みが簡単なゲームを作る場合、典型的な異世界モノが用いられることがある。

その他のサイト

例えば、SCP Foundationでは異世界を題材にした記事がある。

【各作品の例】


  • クレヨン王国シリーズ
夢のクレヨン王国』の原作となった『クレヨン王国シリーズ』は最初「地球の人間が現実の問題を投影した異世界へと誘われる(あるいは夢見たり異世界発の生き物や品に遭う)」異世界モノだったが、
日本の少女とクレヨン王国王族の恋物語を軸にした『月のたまご』シリーズ以降では『クレヨン王国』サイドのキャラや風土が個性化、クレヨン王国内で完結する話やクレヨン王国の人がさらに違う世界や地球へ旅する話が描かれアニメのベースになった。
しかしそのせいで、第1作冒頭の「クレヨン王国のカメレオン総理の元に主人公のクレヨンの擬人化存在が集まる」という描写が半ば死に設定化
一応擬人化クレヨンはこの後も出てくる話があるが、基本は「総理と人型種族『クレヨン』の王国民から選ばれた各色を象徴する大臣たち」設定に落ち着いている。

高町なのは八神はやては、「現代日本に来た異世界人に魔法を学び高い適性を発揮、スキルを活かして異世界移住・就職」という経緯を辿っている。
但し舞台が異世界ミッドチルダの『魔法少女リリカルなのはStrikerS』以降の作品では、強い地球人がいてもメインが異世界出身者なためあまり「異世界モノ」とは扱われていないし、実際の描写も魔法関係を除けば「月が二つあるのが当然」「成人年齢が違う」など、なのはやはやてがいた世界との違いが軽く説明された程度であった。

【参考文献】

山北篤『現代知識チートマニュアル』『軍事強国チートマニュアル』
ルイス・ダートネル『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』
ライアン・ノース『ゼロからつくる科学文明: タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』
ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』
「F-files図解」シリーズ(新紀元社)
祖父江孝男『文化人類学入門』
勝田有恒&山内進&森征一『概説西洋法制史』


【余談】

  • 異世界モノでは元の世界で死亡して転生することが多いのだが、この際の死因が交通事故かつ大抵の主人公がトラックに轢かれて死ぬ…というイメージが強いためそれを皮肉った作品が出たり、海外の読者から「日本ではトラックに轢かれる人がそんなに多いのか?」と思われたりしているとか。
    もっとも以前に小説家になろうにおける異世界転生作品で調査した人によれば、トラックによる轢死例は突出したものではなく、死因が不明だったり過労死や突然死など直接的には他人を巻き込まない例も相当数に上ったという。
    小説家になろうやアルファポリスなどが誕生する前は、二次創作でトラックに轢かれて転生する小説が多かったため、その頃に抱かれたイメージの産物だと推測される。



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最終更新:2023年09月18日 15:53

*1 あるいはその人物と何らかの強い関係を持ったり、その人物のアイデンティティを示す行動の中に自分の存在を組み込んだりする

*2 行き来する方法の都合で人力で運ばねばならず、主人公は途中で力尽きてしまったが力持ちの知人が協力してくれた。

*3 主人公が敵襲を迎え撃つにあたり「現地民に助けを請われた」という既成事実を作るため。当然、異世界人も「タスケテ」の意味は分かっていないので、ただ言わされるままに「タスケテ」と言っただけである。

*4 異世界を物語の舞台と同列に解釈し、そこに生きる人々を同じ人間として見ていない場合がほとんど

*5 『ありふれた職業で世界最強』等

*6 『王女殿下はお怒りのようです』、『転生したらスライムだった件』等

*7 『自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。』、『私は悪役令嬢なんかじゃないっ!! 闇使いだからって必ずしも悪役だと思うなよ』等

*8 『火星のプリンセス』では主人公は火星と地球を行き来できるようになるが、全く葛藤せず火星での生活を選んでいる。

*9 読者から転じた蔑称で、錯者の対義語。作品に対するモンスタークレーマーか作者やファンに対して知識マウントを取る者が該当する。