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【男の子の育て方 対談連載vol.21】映画『バービー』が描いてくれた男女平等社会での「男はどうする?」

男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。

【男の子の育て方 対談連載vol.20】スマホのおかげで、別々の学校に進んでもずっと絆で繋がることができる男の子たち。その一方で…

女性の自立は、男性を解放し「僕は僕でいい」と自己肯定することにつながる

太田さん(以下敬称略) 映画『バービー』をご覧になりましたか。大変面白い映画でした。一度観ただけでは、細かな情報まで拾いきれませんでしたが、仲間と語り合いたくなる作品です。

田中さん(以下敬称略) 観ごたえのある映画でした。

 映画の予告を見たのですが、私はてっきり女子高校生が好きそうなキラキラした映画かと思っていました…。可愛いピンクの世界がちりばめられたような…。そして一方で、原爆投下をモチーフにしたファンアート「バーベンハイマー」もニュースになりましたよね。核兵器開発に関わったロバート・オッペンハイマーを題材にした映画『オッペンハイマー』との合成画像が投稿されて。

太田 私もあれを見て、最初は観る気が失せたのですが、、、ある漫画家さんが『バービー』を観て発信したツイートは見ましたか?
「なんか強烈なフェミニズム映画だった。男性を必要としない自立した女性のための映画。こんなの大ヒットするアメリカ大丈夫なの?」という批判。それを見て私は俄然、観たくなって…(笑)。

 確かにそれは観たくなりますね。

田中 私もそのツイートは見ました。この映画のポイントは、女性が差別されていない世界にいる人にとって、女性差別がある現実社会はどう見えるのか、ということです。バービーは女性差別を経験したことがなく、自分自身が理想の女性だと思っていますが、そのまま現実世界に来てみると、子どもたちから「お前なんて大したことない!」と言われてショックを受けます。さらに、バービー人形を作っている会社のトップや役員は男性ばかり…といった矛盾もさらけ出されます。普通に暮らしていると男女の不平等はわかりづらいものですが、もともと不平等のない社会からやって来ると、とても違和感があるというようなお話です。現実社会では、まだまだ女性が不利益を被っていることがわかりやすく描かれています。
この映画はアメリカやヨーロッパで大ヒットしていますが、一方で日本では、その漫画家の方が書かれたツイッターのようなリアクションが出てしまう…。どうしてうまく理解できないのかと感じます。
「男性学」の研究者として、僕は『アナ雪』の映画以来ちょっと不満があって…。というのは、女性の自立を描くのはもちろん大事なことなのですが、【男はどうする?】といった話が描かれていませんでした。僕は【女性が自立していく時に男性はどうする?】という課題が絶対に重要だと思っています。女性が自立するのは必要なことですが、【男はこれから支配者でなくなったら、どう生きてゆくの?】というのがわからなかった。その点、『バービー』ではフェミニズムが女性解放だけでなく、男性にとっても解放につながるということが映像として写し出されている。『アナ雪』」と比べても一歩進んでいるのではないでしょうか。それに対して否定的なツイートがあること自体が問題です。

太田 『バービー』では、現実社会の「あるある」性差別ネタがたくさん戯画化されて詰め込まれています。思わず吹き出してしまうようなことも描かれているのですが、そういったことに日頃から苦々しく思っていないと笑い飛ばせないと思いますね。今回のツイートの話そのものが、バービーの世界から見たリアルワールドの話として映画に出てきてもおかしくないくらいです。
映画の宣伝では‟フェミニズム映画“とは打ち出していない感じですよね。おそらくこの漫画家の方は、ポップでキッチュなオシャレ映画と思い込んで観に行かれたのかもしれませんね。“フェミニズム映画と大々的に言ってしまうと、鑑賞するのもあらかじめフェミニズムに関心がある人たちだけになってしまうのでしょうし…。こんなツイートがあったということは、ある意味では広い層を映画館に動員できたということで、マーケティングの成功とも言えるでしょう。

田中 ちょっとネタバレになってしまいますが、、、映画では「バービーランド」も現実社会のように男性支配の世界に変えてみるのですが、その結果、争いが絶えなくなってしまい、〈本来、これは自分のやりたかったことか?〉と空しくなります。男性優位社会は、男性にとっても空虚なものと考え、そこでマッチョな登場人物のケンは「僕は僕でいいんだ!」と自己肯定できるようになります。『バービー』は男性を解放してくれる「男性学」のための映画です。

太田 この映画は、実はバービーとケンのダブル主人公ですよね。映画のレビューでは「こんなに男性のことを考えてあげなくても良いのでは?」といった感想もありましたが、そう思わせるぐらい、ケンにもフォーカスを当てています。

 ケンは“筋骨隆々の男前”ですが、そんな男の理想像が覆されたりするということですか?

田中 そうなんです。そこが良い点です。金髪で筋肉ムキムキでハンサムな白人男性は、かつては憧れの存在でした。僕たち日本人は、なかなかあのような容姿には近づけないものです。ある意味で、彼らが社会の頂点でした。ですが彼ら自身、社会の頂点になったものの、その結果『で、だからって何なの?』ということに本当は気づいているのですが、それを言ってはいけないのが男のロマン、男の幸せだと自分にも言い聞かせてきたのかと。カッコいいクルマに乗って、自分の権力を誇示した仕組みで会社を牛耳り、トップに立ち、〈俺は満足なんだ!〉と。映画では結局、それをケンが削除してしまいます。10年前の『アナ雪』では描かれていませんでしたが、今回は【これからの時代、男性はどうするのか?】というテーマに対する素晴らしいアンサー映画になっています。

太田 私のところには、とても多くの離婚訴訟が来るのですが、家族を養って「家長」であることにこそ自分の存在意義みたいに思っている男性は、妻から離婚を申し入れられた時の動揺と落ち込みがひどい。自分の中の何かが揺らがされるぐらいのとんでもない状態(アイデンティティクライシス)になる方が多いです。その流れで考えると『バービー』は、この家父長制が強い社会の中で、今まで男性自身だって本当はハッピーじゃなかったよね、ということに気付かされる映画だと思います。

田中 太田さんが語っていることは本当に示唆的で、〈男としてやるべきことをやっている〉〈男として期待されていることを十分に果たしている。だから妻は満足しているはずだろう〉と勝手に思い込んでいるのですよね。そういう男性たちは、たぶん妻の意見を聞かないし、聞いたとしても言われていることが全く理解できないのです。

太田そうなんです! 「オレは社会的に成功して、男として役目を果たしているのに、どうしてなんだ!」という気持ちなのでしょうね。ですので、『バービー』はぜひ男性に見てほしいですね。大人が見るべき映画です。本当にいろいろな人と語り合いたくなります。

 子ども向けではなく、むしろ男性向けですか?

太田 はい。私は子ども向きの映画ではないと思います。ある程度、考えられる年齢でないと十分理解できないかもしれません。ただ、小学校高学年の女子が面白がって観ていたという話も聞きました。高校生の女子がキラキラ映画を期待して観に行って「思っていたのと違かった…」とがっかりして帰ってくることもあるとか。また、海外メディアの話では、カップルで観に行って、それぞれの意見をぶつけ合い、別れて帰ってくる人たちが続出したとか(笑)。

田中 僕もカップルや夫婦で観に行くことを勧めたいですね。お互いのジェンダー感が正直よくわかります。

取材/東 理恵

太田啓子
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわる投稿が反響を呼ぶ。昨年、SNSの投稿をきっかけに出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。

田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では7歳と3歳男児の父。

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