仁藤 相手が何歳であっても、弱みにつけこんでのその行為は性搾取であり、女性に対する人権侵害だという意識がないんです。北欧やフランスなどでは性行為のために人を買う行為を犯罪行為とし、買われている側のすべての人を罰することなく、そこから抜け出すためのサポートを行うというアプローチが採用されています。そうした国と比べると日本の状況は絶望的ですし、先進国とは思えない人権意識の低さだと言わざるを得ません。

 

小林 性売買から脱するためのサポートを国が用意するというのは素晴らしいですね。

仁藤 韓国でも脱性売買の取り組みが進んでいて、全国に36の性売買被害相談所と脱性売買女性のための18の自活センターがあり、インターンシップで生活費を稼ぎながら、職業訓練をしたり、大学進学のサポートもある。しかもすべて国家予算で賄われています。日本ではそうした女性福祉の予算はほとんどないのが実情でしたが、2022年5月に女性支援新法(2022年5月に成立した新法で正式には「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」。都道府県に対して「女性相談支援センター」の設置を義務づけるなど、女性の人権尊重や福祉の増進を目的に掲げ、1956年に制定された「売春防止法」を根拠にした枠組みを抜本的に改める。2024年4月に施行)が成立したことで、少しずつ変化があるかもと期待もしています。

小林 法律を変えていくのは重要なことだと感じます。新法では性売買だけでなく、その背景にある女性が抱える多くの困難について官民が一緒に考え、適正なサポートをしていくことが盛り込まれていたので、希望も感じます。一方で、根本的に私たちの人権意識を成熟させていく必要性も絶対にありますね。

仁藤 残念ですが日本では性風俗や性売買が当たり前のこととして認識されています。男性同士の会話で普通に性風俗店の話題が出たり、女性が「浮気するくらいなら風俗に行って」なんて言うこともあります。中高生が気軽にポルノアニメやAVを視聴できたり、学園祭でメイドカフェを開いたりするのも普通のこととして受け入れられる。そのどれもが女性に対する人権侵害だという認識を、どうしたら持っていけるのか、それが課題です。

小林 カジュアルに人権や男女平等が踏みにじられることが当たり前になっている。そんな社会にいると、私自身もそのおかしさに長く気づけなかったし、感覚が麻痺しても仕方ない……。

仁藤 だからこそ当事者の声に耳を傾け、現実を知ってほしいんです。性売買以外にも女性が搾取されている場面は日常に多々あるはずで、そこに意識を向けると、当たり前だと流していたことが「やっぱりおかしい」と思えてくる。そういうことに異を唱え、怒りを表明することから始めてほしいです。

小林 性売買と聞くと、どうしても「自分とは関係ない」と思ってしまう人も多いかもしれない。でも、人権侵害や男女差別の構造がその地続きにある。この男性優位の社会の中で、私たちが傷ついたり尊厳を奪われたりしたとき、気づかないふりをしたり、笑ってすませたり、自分を責めてしまうことは、決して無関係ではないし、他人事じゃない。

仁藤 女性全員が当事者である。そういう連帯が世論を動かして、政治や法律を動かす力になる。私はそう信じています。

小林 つい「頑張ってください」って言いそうになるけれど、ちゃんと自分ごととして捉えて、この社会を変えていかないとですね。日常の「おかしい」に気づいたり、その気持ちをシェアすることからでも始められる。

仁藤 みんな、もっと怒っていいんです。「仁藤さん、また怒ってるよ」なんてよく言われますけど(笑)、私はみんなでちゃんと怒ることは大切だと思うし、そういう気持ちを話して、分かち合える場所を作っていきたい。おかしいと思っているのはあなただけじゃないよって、伝え続けていきたいんです。

Yumeno’s One day Schedule
8:00 起床。女の子たちからのLINE相談に対応。
10:00 相談者の少女と一緒に弁護士と面談。
11:00 事務所へ。児童相談所の職員に挨拶。
11:30 厚生労働省の職員とオンラインミーティング。
13:00 シェルターを退居する少女の引っ越し手伝い。
14:00 少女に付き添って病院へ。
15:00 少女とカレーランチ。
16:00 女の子たちからのLINE相談に対応。
17:00 議員会館で陳情書提出。
18:00 事務所に戻って、厚生労働省の資料をチェック。
23:00 帰宅。〈Colabo〉で少女たちに作ったおでんを持ち帰り、夕食。

●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Illustration:Erika Kobayashi Text & Edit:Yuriko Kobayashi

「FRaU×SDGsプロジェクト」の
会員になりませんか?【登録受付中】

2030年のゴールに向けて多くの方に「SDGs」を知ってもらい、“ご自身にできることを見つけてほしい”“アクションにつなげてほしい”そんな願いからスタートした「FRaU×SDGsプロジェクト」。

このプロジェクトの会員の皆さまには、SDGsにまつわるさまざまな情報、今後開催予定のイベント告知、FRaU誌面やFRaUwebの企画参加のご案内などをお送りしています。FRaU主催のイベントに優先的にご参加いただくことができたり、サステナブルグッズの会員限定プレゼント企画に応募できたり、さまざまな特典もご用意。(※新型コロナ感染拡大の影響で、現在はオフラインイベントは開催を見合わせておりますが、オンラインイベントを予定しています)

さらにメールマガジン登録された方には、最新トピックス満載のメールマガジンを毎週配信。イベント告知などはイチ早くお届けします。年齢、性別などの条件はなく、登録も無料。ご興味のある方は、会員登録ページよりご登録をお願いします。

SDGs会員について詳しく知りたい方はこちら▼
https://gendai.ismedia.jp/list/special/frau_sdgs