小林 当事者運動というのは〈Colabo〉の最大の特徴で、素晴らしいと思う点です。その形はどのようにして生まれたのですか?
仁藤 私自身、10代の頃に家族との軋轢(あつれき)から家に居場所を失って、繁華街をさまよったりホテルを転々としたり、“難民女子高生”化した経験があるんです。「支援してあげるよ」と言われると気がひけるし、わかりっこないでしょとも思う。だから「してあげる場所」ではなく、同じ目線で、一緒に考えられる場所を作りたいと思ったんです。
小林 どんな女の子たちと出会いますか?
仁藤 先日は家出をして数ヵ月間、街で声をかけてきた男の家を転々としていたという10代の女の子が来て、もしかしたら妊娠したかもしれないと。すでにお腹が大きくて……。翌朝すぐに一緒に病院を受診して、今はシェルターで体と心を休めてもらっています。
小林 心細かったでしょうね……。
仁藤 バスカフェ以外にも全国の女の子たちから毎日のように相談がLINEで寄せられます。性風俗店をやめたいけど借金があって抜け出せない、客にレイプされてもアフターピルを買うお金がないとか。
小林 そういう少女たちに対して「家に帰れば? 昼の仕事をすれば?」とか自己責任ですませようとする社会の風潮や圧力もあると思いますが、そうはいかない現実がある。
仁藤 そうした少女の多くは、親からの虐待や経済的困窮、精神疾患や知的障がいなど、厳しい状況に置かれた末に路上に出る以外の選択肢を失っています。そこには悪い大人がたくさん待ち構えていて、「泊まる場所ないの? うちにおいでよ」と声をかけてくる。それまで大人から冷たい対応をされてきた女の子にとって、そういう男は「殴ったりしないし、まだマシ」と思えるんですね。それで男の家を転々として、性被害に遭ってしまう。
小林 性風俗店などの勧誘に乗ってしまうのも、それしか生きていく選択肢がないから。そう思ってしまうほど切羽詰まっている。
仁藤 そのとおりです。夜の歌舞伎町を少女が一人で歩いていたら、あっという間にAVや性風俗のスカウトが寄ってきます。あと個人で女の子を買う買春者も普通にいます。
小林 追い詰められた女性が性を売り買いする世界に身を置かざるを得なくなる。それは貧困や格差、虐待など多くの問題が背景にあるのに、そこにはスポットが当たりづらいと感じます。「自分で選択してやっているんでしょ」とか「お金をもらっているんだから仕事でしょ」など、女性たちが「好きでやっている」という見方も根強くある気がします。
仁藤 まさにそれが大きな問題で、性風俗店で働いて体も心もボロボロになった女性に対して、「じゃあやらなきゃよかったじゃない」と言ってしまったら、そこに行き着かざるを得ない状況を作った社会の責任に対する視点が抜け落ちてしまう。そんな状況に陥る人がいること、その受け皿として性産業という選択肢が用意されていること、それをどうにかしないといけないのに、女性ばかりが責められてしまう。それが日本の現状です。
小林 なのに「女性を買う」買春者や、「女性を売る」業者は、何の責任も取らないし、責められることもないって……なぜ!?
仁藤 日本には売春防止法という法律がありますが、女性が公共の場で男性を誘うなど売春の勧誘行為があった場合には女性に罰則が科される一方で、女性を買った買春者側には何の罰則もありません。
小林 それって……私は納得いきません。そもそも、買春行為が明るみに出た男性が「未成年だとは知りませんでした!」と弁明するような事態も、「18歳以上なら法律で罰せられないのだから、何が悪い!」って気持ちがあらわれている。