見えづらい社会の問題をテーマに、作家の小林エリカさんがゲストと対話し、世界を変えるヒントを探るこの連載。第2回はさまざまな事情で路上に出る女性と、それを取り巻く性産業のあり方。その根本にある「女性の人権」を、一般社団法人〈Colabo〉代表の仁藤夢乃さんと考えます。

小林エリカ(こばやし・えりか)
1978年東京都生まれ。作家・漫画家。目には見えないもの、歴史、家族の記憶などから着想を得て、丹念なリサーチに基づく史実とフィクションからなる小説や漫画、インスタレーションなど幅広い表現活動を行う。著書にシャーロック・ホームズと父の生死をめぐる小説『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)、絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)などがある。

仁藤夢乃(にとう・ゆめの)
1989年東京都生まれ。中高生時代に街をさまよう生活を送った経験から夜の街での声かけやシェルターでの宿泊支援など、主に10代女性を支える活動を行う。明治学院大学国際平和研究所研究員。第30期東京都「青少年問題協議会」委員。著書に『難民、高校生』(筑摩書房)『当たり前の日常を手に入れるために性搾取社会を生きる私たちの闘い』(影書房)などがある。

●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。

女性の体を売り買いする。
あなたはそれに、賛成ですか?

仁藤夢乃さんが代表を務める〈Colabo〉は、東京を拠点にさまざまな事情で行き場をなくした女性を支える活動を行う団体。夜の街をさまよう女性たちは性風俗店からの勧誘など性搾取の被害に遭う危険を避けて通れない。でもそれって女性だけの責任なのだろうか?

 

小林 仁藤さんに初めてお目にかかったのは〈Colabo〉が主催した企画展を取材したNHKのETV特集『私たちは買われた~少女たちの企画展』の挿し絵を描かせていただいたのがきっかけでしたね。性搾取の被害に遭った少女たち自らが声を上げて伝えた体験や実情を、そこで私は初めて知りました。

仁藤 ありがとうございます。

小林 まず初めに、〈Colabo〉が生まれた経緯や活動内容をお話しいただけますか?

仁藤 〈Colabo〉は2011年、私が大学生だった頃に立ち上げた団体で、「すべての少女に衣食住と関係性を。困っている少女が暴力や搾取に行きつかなくてよい社会に」を合い言葉に、主に10代女性を支える活動を行っています。週に数回、夜から早朝にかけて新宿・歌舞伎町にバスを設置して移動式カフェを開催し、食事や生活用品、妊娠検査薬などを無償で提供しています。同時に夜の街を巡回して少女たちに声をかけるアウトリーチ活動やシェルターでの宿泊支援、住まいの提供、公的機関への同行なども行っています。

小林 声かけ活動をするスタッフの多くは、バスカフェを利用したことで〈Colabo〉とつながった元利用者の女性たちだそうですね。

仁藤 はい。彼女たちにとって夜の街にいる少女たちは「少し前の自分」。だから気持ちがよくわかるんです。少女たちの中には「大人たちにあきらめられた」と感じる経験をしていたり、「自分が悪い」と思い込んで声を上げられない子もいます。そんな子たちに対して、補導や指導といった上からの姿勢ではなく、「食事も服も無料で、泊まれるところもあるから、よかったら来ない?」と同じ目線で語りかける。それができるのは当事者経験がある彼女たちだからこそだと思います。