【推しの子・再】   作:メロンペン

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環境

B小町が解散して1年が経った。アイは24歳になり世間のイメージはアイドルタレントのアイから、マルチタレントのアイに認識は変わったが、仕事や人気に特に悪い影響は出ていない。

アイ以外の芸能界残留を決めたB小町のメンバーは、解散して数ヶ月くらいは仕事が思ったように上手くいかず焦ったり不安を抱えていた。だが俺の個人的な人脈を使ったり社長達による十分なフォローがあったお陰で、今ではB小町だった頃よりは控えめだが、それぞれのタレント業をそつなくこなしていた。

 

 

「いや~、やっぱり頼りになるね雨宮先生」

「ホントホント、一時は引退も考えてたんだけどね」

「まだソロ活動して1年目だぞ。ここからが正念場だから頑張れよ」

今日は月に1度の苺プロ合同食事会。スケジュールやプライベートの都合で参加不参加は自由だが、今日は久々にアイの休日をきゅんぱん達と休みを合わせる事が出来た為、B小町同窓会っぽい食事会となった。

 

「ま、なんだかんだで1年間頑張ったよね。雨宮先生、本当にどうもありがとう」

「俺にばかり礼言ってないで社長にも言えよ。最終的に皆に本当に向いてるかどうか判断して、それぞれに仕事を振り分けたのは社長なんだからさ」

事務所の一室を使っての慰労と懇親を兼ねた食事会。参加してるのはアイを含めた元B小町メンバー5人と俺、それから社長夫妻とルビーとMEMちょの計10人だ。

 

「分かってま~す。でも、お礼を言いたくても食事会の会場を事務所にしちゃうケチな社長はちょっとね」

「B小町の頃はレストランだった時もあったのに、安く扱われてるよね」

「参加費0円の食事会に参加しておいて贅沢言うな。デリバリーとは言えそれなりの店の料理用意してやってんだぞ」

元メンバーに謗言を受けながらも、社長はそれが言葉通りの意味では無いと分かっている為、気分を害したりはせずに逆に内心少し嬉しそうだ。

 

「MEMちょちゃんのチャンネルも20万人届きそうなんだよね?これからも私達の宣伝よろしくね」

「MEMちゃんは私達の後継者になるんだもんね。アイドルデビューしたら推してあげるね」

「ありがとうございます。頑張ってレッスンを続けます」

元B小町のメンバー達とMEMちょの仲は良好だ。元メンバー達が自分達の妹分として可愛がってる姿を見ると、MEMちょの自信回復にも繋がっているので参加させて良かったと思う。

 

 

「なんか良いよね。こういうのがアットホームな職場って言うのかな?」

「ま、求人誌に載ってるアットホームの意味を真に受けた人が想像する光景ではあるな」

家庭的でまるで自宅にいるようにくつろげる職場環境は本来地雷案件なのだが、そういう意味では今の苺プロは極限られた例外だと言えるだろう。

 

「10年前の私がこの光景を見たら、まるで別世界に見えるんだろうな……ふわぁ」

「大丈夫か?昨日は撮影で帰りが遅かったんだし、疲れてるんなら早めに帰るか?」

「ううん、平気。私の体調管理は一番信用してる人がしてくれてるし」

そう言ってアイは俺の肩に頭を預けると目を閉じた。眠ってはいないがやはり少し疲労が溜まっているのだろう。暫くこのままにさせてリラックスさせてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、やっぱりあの二人ってそういう関係ですよね?」

「まあ、分かっちゃうよね。あれで外だと全然バレてないってのが不思議だよね」

「それだけ私達が信頼されてるって事だろうけど、そう考えると雨宮先生の演技力も凄いよね」

MEMちょがママとせんせの関係に気付いたみたい。まあ薄々そうじゃないかなって気付いてる感はあったけど、MEMちょなら誰かに漏らす事はしないって信頼出来る。

 

「あの二人も身内の前だと安心するんだろ。だが、公表時期が来るまでは死んでも秘密にしろよ」

「あはは、まだ長生きしたいですから絶対言いません」

「MEMちゃん相手に脅迫しないで下さい。パワハラで訴訟されますよ」

ママとせんせの関係は元B小町のメンバーとMEMちょも知ったけど、私がアイの子供だって事はバレていない。もしかしたらママとせんせは、信頼出来る相手限定だけど自分達の関係を匂わせる事で、私とアイの関係に目が向かない様にしてるのかもしれない。

 

「そう言えば、この前ドラマの現場で五反田監督から次の映画でルビーちゃんを子役として使わせて貰えないかって、社長に聞いてみて欲しいって言われたんですけど、ダメですか?」

「本人がその気が有れば構わないが……どうするルビー?」

別にどっちでもいいけど、監督にはママやB小町のメンバーに仕事を振って貰ってる恩が有るし、たまには子役の仕事をするのもアイドルレッスンの気分転換には丁度良い

 

「私はやってもいいよ。たまには役者もしないと演技力が鈍っちゃうし」

「いいなぁ~。私もいつかは映画のオファーを、やってもいいなんて言える女優になりたいな」

そう言われて改めて自分が凄い嫌味な台詞を言ったと自覚したから、誤魔化す為にテレビを点けたら先輩が出てるドラマが映った。

 

「あ、また出てるこの子役。重病で泣ける天才子役だっけ?」

「それ古いって、今はピーマン体操を踊る天才子役だよ」

先輩のキャッチフレーズは重曹を舐める天才子役だって言おうとしたけど、先輩の演技が少し気になってテレビの方に視線を向けた。

 

 

「よく考えたらこの子も長く売れてるよね。もしかしたらアイちゃんよりも出てる番組多いんじゃない?」

「ドラマとか映画もメインじゃなくても脇役で出たり、歌番組やバラエティー番組でも見ない事無いもんね。私もこの子の半分くらいで良いから映画やドラマに出たいな」

確かに、先輩はテレビで見ない日は無いくらい色んな番組に出てるけど……。

 

「何言ってやがる。俺に言わせればこの有馬かなって子役は番組に出すぎ……いや、出しすぎだ。子役は売れる時に売りまくるのが業界の悪習だが、事務所はスケジュールの管理ちゃんとしてんのか?」

社長が言ってる通りだと思う。先輩の演技は普通に見てれば天才子役って言われる演技力を維持してるけど、良く見ると細かい動きや表情がぎこちない。

睡眠不足は魅力が3割ほど落ちるって前の私の時に先輩が言ってたけど、今の先輩はその状態なのかもしれない。

 

「仕事が無いのも辛いけど、多すぎるってのも考え物だね」

「何かいいストレス発散方法でも有れば良いんだけどね。子役の子だとホストクラブなんて通えないだろうし」

「え?きゅんぱんさん達ホストクラブ通ってるんですか?」

MEMちょが意外そうな目で元B小町のメンバー達を見始めた。私の知ってる25歳のMEMちょもホストに本気になりそうなくらい通ってたんだよって、言えるなら言ってみたい。

 

「ここだけの話、前に1回行ったけどお金はかかるし、話はそこまで楽しく無いしで時間とお金を無駄にしただけだったわ」

「あからさまに褒めてあげてます感があったよね。よく考えたら苺プロには0円で指名できるホストがいるんだし、わざわざお金払ってまで行く価値ないよね」

「0円で指名できるホスト……あ、そういう事ですね」

MEMちょの視線に釣られるように、この場に居る全員の目がせんせの方に向いた。

 

「あ、あれ?そこは誰がホストだって言うかと思ったけど。結構真剣に怒ってます?」

「ん?ああ、いや別に……少しテレビに集中してたから」

せんせも私と同じで先輩の演技が気になってるみたい。

先輩は別の事務所の子役だから苺プロから先輩の扱いに関して口出しは出来ないだろうし、先輩の事務所がスケジュールを見直してくれる事を期待するしかないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなちゃん、今度また新しいドラマのオファーが来てるんだけど、大丈夫だよね」

「はい。だいじょうぶです。がんばります」

この前のドラマを見直したら納得出来る演技をしてなかった。もっと頑張らないと。

 

「えっと、それから映画の宣伝を兼ねたバラエティーの収録が急遽決まったけど」

「だいじょうぶです。がんばります」

私が必要だと言ってくれてる。宣伝だって頑張らないと。

 

「取り敢えず今の所決まってる仕事はそのくらいかな?かなちゃんが頑張ればまた新しく仕事が決まるかもしれないから頑張ってね。」

「良かったわねかなちゃん。今日はかなちゃんが好きな物食べに行きましょうね」

良かった。私が頑張れば、皆に見て貰えて、頑張ったねって褒めて貰える。もっともっと頑張らないと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも……ほんの少しだけど……ちょっとだけ眠たい。


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