時には“やり過ごすこと”も大事だと気づいた。自分を理解し、経験を積み重ねた先に見つけたストレスの手放し方 丨世界メンタルヘルスデー特別企画│Awarefy has loaded

    時には“やり過ごすこと”も大事だと気づいた。自分を理解し、経験を積み重ねた先に見つけたストレスの手放し方

    株式会社ウツワ

    ハヤカワ 五味 / GOMI HAYAKAWA

    世界メンタルヘルスデー特別企画「起業家メンタルヘルスインタビュー powered by Awarefy

    株式会社ウツワ

    ハヤカワ 五味 / GOMI HAYAKAWA

    世間で脚光を浴びることも多く、憧れの存在として見られやすい起業家。実は、彼らは一般の人より精神疾患になる確率が高いと言われています。

    華やかなイメージとは裏腹に、資金調達や組織づくり、人材採用など、リーダーとしての「強さ」を求められることも多く、メンタルの問題を公にしづらい構造になっていることが、その要因の一つと言えるでしょう。

    そこでAwarefyでは、世界メンタルヘルスデーに際して「起業家のメンタルヘルス」をテーマにした特集を企画。代表の小川が、第一線で活躍する起業家の方々にお話を伺っていきます。

    今回取材したのは、起業家でありファッションデザイナーのハヤカワ五味さん。現在、自ら立ち上げた株式会社ウツワを運営しながら、バイオベンチャーの株式会社ユーグレナでブランドマネージャーを務めています。

    大学在学中に起業して以来、女性の悩みに寄り添う事業を精力的に展開してきたハヤカワさんは、ご自身のメンタルヘルスのケアにも力を入れているとのこと。日々実践している対処法やルーティンについてお聞きしました。

    インタビュイープロフィール

    ハヤカワ 五味(はやかわ・ごみ)さん

    1995年、東京都出身。高校生の頃からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツ類のデザイン・販売を行う。多摩美術大学グラフィックデザイン学科入学後の2014年8月にランジェリーブランド「feast」を立ち上げ、Eコマースを主に販売を続ける。2019年からは生理から選択を考えるプロジェクト「ILLUMINATE」を立ち上げ、2022年よりユーグレナグループにジョイン。現在は、はたらく女性向けの妊娠・出産を考えるブランド「SOLUME」のブランドマネージャーを務める。

    インタビュアープロフィール

    小川 晋一郎(おがわ・しんいちろう)

    神奈川県出身。2008年に新卒でリクルートに入社し、リクナビの営業、データサイエンティストとして6年間従事。2014年には株式会社ビズリーチへジョインし、1人目PdMとして転職サイト「ビズリーチ」に従事した後、新卒採用事業部の事業部⻑としてOB・OG訪問サービス「ビズリーチ・キャンパス」をローンチ。その後2018 年3⽉に株式会社Hakali(現 株式会社Awarefy)を創業。

    「最悪死なない」保険があったから、起業家を続けてこられた

    小川:ハヤカワさんは、大学1年生のときに起業されていますよね。学生時代から起業家として戦ってきて、きっと想像以上の困難があったと思いますが、特に大きなストレスを感じた経験について教えていただけますか?

    ハヤカワさん(以下、ハヤカワ):私の場合、大きなストレスの要因は「お金」と「人間関係」の2つに分類できるなと思っています。まずは、起業後の資金繰りですよね。10代から自己資金で起業しているので、「会社のお金=自分のお金」であり、お金が減るのは自分自身のHPが削られていく感覚でした。私は実家も金銭面では頼れなかったので、後ろ盾がないというのも苦しかったですね。

    小川:自己資金での起業となると、私生活にも直結してきますもんね。そうした大きなストレスがかかったときは、何か身体的に反応が出ますか?

    ハヤカワ:お金に関するストレスがかかると、動悸が止まらなくなります。少し血の気が引いて、足や手の感覚がなくなって、視界がやや歪んでいくような感じですね。そういえば、起業後に福本伸行先生の漫画『カイジ』を読み直したときに、焦るとグニャ~って人が歪んで溶けるような表現が出てくるのを見て、「なんて的確な表現なんだ」と思いました。今でもそのシーンを見ると動悸がします(笑)。

    小川:当時の記憶と紐づいてしまっているんですね(笑)。でもそうしたお金の問題って、すぐに解決するものではないですよね。そのときは具体的にどのように対処したのでしょうか。

    ハヤカワ:お金を借りたり、自分の個人収入として計上していたタレント“ハヤカワ五味”としての売上を会社に貸し付けたりして、なんとかやりくりしていました。「起業家が芸能活動やSNSをやる必要はないのでは?」という論調もありますし、私としても大枠は賛同です。でも私の場合は、当時芸能活動をしていなかったらきっと、その時点で起業家としては退場していたと思います。逆に言えば、自分自身が稼ぎ頭になって会社を立て直せるし、最悪死なないという保険があったから続けてこられただけというか。

    小川:それも大きな武器であり、一つの戦い方ですよね。同じ起業家でも、決して簡単に真似できることではないと思いますし。

    ハヤカワ:とはいえそれはカンフル剤のようなものなので、経営する上では超当たり前だけど、アパレルの特性上なかなか難しいような基本的な部分を整えました。たとえば、キャッシュフローシートをきちんと引くとか、いざとなったときに借りられる金額を把握するとかですね。保険があるとわかっているだけで、かなり安心感があるなと思います。

    私はパニック発作持ちなんですが、そのトリガーが「見通せないこと」なんです。たとえば電車が突然止まって、いつ動き出すかわからない状況で閉じ込められているというのはすごくきつい。だからこそ、「こうすれば大丈夫」「最悪これがあるから大丈夫」というお守りを持っておくことが、ビジネスでも私生活でもかなり重要だなと認識しています。

    小川:なるほど。お金に関してはきちんと仕組みを整えて、ある程度先を見通せるようになったことで、余計な焦燥感を持たずに事業をできるようになったと。もう一つの「人間関係」のストレスに関しては?

    ハヤカワ:正直、社会人になって人間関係で揉めるなんて想定していなかったんです。でも実際にはハタチを過ぎても、意外と小学生の頃と変わらず揉めるときは揉めるんだなと。「何でこんなひどいことを言われるんだろう」ということも結構ありましたし。

    ただ自分で新しく会社を立ち上げたり、周りの人にも相談したりしていくなかで、社会には本当に多様な人がいて、それぞれの目的や思惑があるということを実感しました。25歳くらいまではなかなか折り合いがつきませんでしたが、一緒に仕事している人も同じ価値観の人ばかりではないし、人は予期できないものなのだと再認識してからは、ようやく腹が決まった気がします。

    「手放す手段」がお守りになる。時にはやり過ごすことも大事

    小川:たしかに、ビジネス上でもどうしたって合わない人はいますし、人は予期できないものだと客観的に捉えられるかどうかは大きいかもしれませんね。ハヤカワさんの場合、メンタル面で「自分はこうなるとまずい」と自己認知していることはありますか?

    ハヤカワ:私の場合は、一つのストレス要因でパンクすることはほとんどありませんが、想定しづらいトラブルが3〜4つ重なるとダメなんです。昔から人に執拗に絡まれたり、トラブルに巻き込まれたりすることが多くて(笑)。そうした自分では解決できないかつ、いつ終わりが来るかもわからないアンコントローラブルなことがいくつも重なると、めちゃくちゃ身体に反応が出ます

    小川:それは……想像するだけでなかなかしんどいですね。具体的にはどんな症状が?

    ハヤカワ:一番クリティカルに出るのは、自律神経と消化器ですね。自律神経は数年前から自覚していましたが、心拍数が1分あたり130〜150回の頻脈になって、気持ち的にも焦ってくるんですよね。夜も寝付けはするけれど、金縛りにあったり悪夢を見たり……。体温が上がって、数日微熱が続くのもわかりやすい症状ですね。

    あと最近気づいたのは、体重が落ちるなと。しっかり食べているにも関わらず、痩せていくんですよ。でも、大腸や胃の検査をしても異常がなくて。

    小川:たしかに、ストレスがかかっていると、胃の運動機能が低下して消化不良を起こしてしまうと言いますよね。

    ハヤカワ:消化器もやる気がなくなっちゃうんでしょうね(笑)。体温が上がるから消費エネルギーも上がって、消化機能が落ちて痩せていくという。痩せるまでいくと、人から見てもげっそりしてるねと言われてしまうので、なるべく気をつけています。本当はもう少し手前で、自覚的になれたらいいと思うんですけど。

    小川:それだけ症状が重なると仕事にも影響が出るでしょうし、何より気持ち的にしんどいですよね……。コントローラブルな部分に関しては、きっとご自身で解決できる感覚もあるし、実際に解決して乗り越えてこられたのだと思いますが、今お話いただいたようなアンコントローラブルな問題が重なってしまったときは、具体的にどうやって対処していますか?

    ハヤカワ:その問題に対して自分でも執着しはじめてしまったり、反芻でぐるぐる考えてしまったりするので、とにかく距離を取るようにしています。たとえば以前、トラブルを4つ抱えていたときは、2つを友人に、残り2つを弁護士に相談して任せることで、自分から切り離しました。

    アンコントローラブルなことって、友人に相談しても「たいしたことないじゃん」と言われるケースもあるんですよね。そのときは「じゃあやってよ」とお願いして任せちゃいます。実際に友人が対処するかしないかは別として、自分でも「任せてるからいいや」と思えるし、実質一旦ステイの状態にできているので結構アリだなと。

    小川:なるほど、そういう切り離し方もあるのか……。興味深いです。

    ハヤカワ:おまじない程度に、厄払いや縁切り神社に行ったりもしますね。私の場合は、神頼みが一番効果がある気がしています(笑)。ただ結局は「いったんここでおしまいにしよう」と自分の中で手放すことが大事だと思うんです。そういう手段をいくつか持っておけるといいですよね。

    小川:面白い。もしまたトラブルが重なっても、「こうすれば大丈夫」というお守りにもなりますね。

    ハヤカワ:そうですね。あとは、やり過ごすことも一つの手段だと思います。最低限やるべきことだけをやっていったん置いておくと、案外数日経てば気持ちがラクになっていたり、トラブル自体が解決していたりすることってあるじゃないですか。

    私自身、自分の書いた日記を後から俯瞰して読み返してみると、何でこんなに荒れていたんだろうと思ったりして。逆に言えば、何かあってもいったん一週間やり過ごせばきっと大丈夫だろう、というのがだんだん掴めてきたんですよね。今まではすぐに問題を解決しなければと考えていたけれど、トラブルによってはひとまずやり過ごす、という手段を得ることができたのは、すごく大きいなと感じています。

    心身をヘルシーに保つために。背負いすぎないこと、リズムを守ること

    小川:「やり過ごす」。そのコマンドを持っておけると、かなり気持ちがラクになりそうな気がします。ここからはもう少し手前のお話になりますが、そもそもストレスを溜めないために、日々意識していることやルーティンとしてやっていることはありますか?

    ハヤカワ:いくつかありますが、人間関係において「ほどほどに他人でいる」というのはかなり意識しています。たとえば友人と話していて、何か思うことがあったとしても、「まあいろいろな人がいるよな」と頭の中で納得させて、変に踏み込みすぎないように心掛けています。

    悩みを相談されたときも、取り返しがつかなくなることだったらもちろんすぐに止めますが、私が良し悪しを判断することではないなと思ったらただ話を聞くだけにする。相手の課題まで自分が背負いすぎないように、人との距離感はほどよく調整していますね

    小川:共感力が高いと、背負いすぎて苦しくなってしまうという話もよく聞きます。適切な距離感を保つのは、自分の心を守る上で大事なことかもしれないですね。相手が大切な人だとしても、最終的にはその人自身の課題ですし。

    ハヤカワ:そうなんですよね。あとは持病の特性上も含めて、生活リズムを崩すと体調が悪くなることを知っているので、絶対に守るようにしています。必ず夜0〜1時くらいまでには就寝して、7時間は睡眠時間を確保します。それは増やしたり減らしたりしないし、もしそれで朝起きれなくなったら体調が悪いというシグナルなんですよね。

    そういった自分の中でわかっていることを「notion」にテキストでまとめて、パートナーに共有するようにしています。こういう兆候があったらたぶん薬を飲み忘れているから飲ませてほしいとか、症状がここまで出たら病院に電話してほしいとか。

    小川:なるほど! それはすごい。自分の取扱説明書みたいなものですか?

    ハヤカワ:そうです。今までは口頭で「こうなったらこうしてほしい」とお願いしてきたのですが、なかなか必要なときに実施されなくて(笑)。

    小川:難しいですよね(笑)。

    ハヤカワ:一から説明するのも大変だし、お互いにとってマニュアル化しておくのが一番いいなと思いました。「このときはこの友達に連絡したらなんとかなる」みたいな細かいことも全部書き出しましたね。

    まずは“マニュアル”をつくるところから。特に揺らぎの多い時期には日記を

    小川:ハヤカワさんがご自身と向き合って見出してきた対処法は、きっと多くの人にとってもヒントになるだろうなと思います。最後になりますが、読者の方に向けてメッセージをお願いできますか?

    ハヤカワ:まさに今お話したことの流れで、「こういうときはこうなる」という自分のマニュアルをつくっていくことから始まると思います。私は自分のメンタルを左右するシグナルやトリガーがすごく明確に見えているおかげで、周りの人に説明するのもラクだし、社員やスタッフとのコミュニケーションもしやすいなと感じています。

    さらに言うと、そういう自分の特性は、後出しではなく事前に伝えておく方が、チームの心理的安全性にも繋がるなと。たとえば急に機嫌が悪くなったスタッフがいたとしても、「申し訳ないけれど、極度に疲れるとイライラしてしまう傾向があります」と事前に言われていたら、周りもとりあえずそっとしておこうとなれますよね。

    小川:たしかに。もともと共有されていれば、お互いに必要以上に気を遣わなくて済むし、サポートし合える部分もありますよね。

    ハヤカワ:はい。これはビジネスに限らず、友人やパートナーとの間でも役立つことなので、ぜひ自分と向き合ってマニュアルをつくってもらえたらと思います。もう一つおすすめしたいのは、心の揺らぎが多い時期に日記をつけること。起業家の場合、たとえば複数の資金調達が重なると気持ちの面でも追い込まれますよね。

    一度しんどくなるとそれが永遠に続くような気がしますが、過去の記録を見返せばそうではないことに気づけるんです。前回落ち込んだときも一週間くらいで戻れたな、みたいに。感情のアップダウンは誰にでもありますし、今苦しいのもその一部だと思えるかどうかはすごく重要だと思うので、自分の感情を記録していくのをおすすめしたいですね。

    (ライター:むらやまあき)

    対談を終えて

    大学時代から表舞台で活躍し続ける五味さんも、やはり最初からなんでもできていたわけではなく、試行錯誤の中でご自身なりの対処方法を徹底的に磨き込まれてきたのだなと感じました。プライベートで自分のマニュアルを作ってパートナーと共有されている方は初めてお会いしましたが(笑)、でもすごく合理的だし良い方法だと感動しました。しんどくなってから作ろうとしても遅いので、我々も元気なときに備えて置くことが大事ですね。(小川)