おことわり:本連載は今回が最終回です。日本作家の作品および2017年10月以降刊行の翻訳作品のレビューにつきましては、年末刊行予定の書籍版をお楽しみにお待ちくださいませ。
なお、本連載は書籍版刊行のタイミングで(第1回を除き)公開を終了いたします。
【掲載方式について】
- 刊行年月の順に掲載します(シリーズものなどをまとめて扱う場合は一冊目の刊行年月でまとめます)。のちに新版、新訳にした作品も、掲載順と見出しタイトルは初刊時にあわせ、改題した場合は( )で追記します。
例:『子供の消えた惑星』(グレイベアド 子供のいない惑星)
また訳者が変わったものも追記します。 - 掲載する書影および書誌データは原則として初刊時のもののみとし、上下巻は上巻のみ、シリーズもの・短編集をまとめたものは最初の一冊のみとします。
- シリーズものはシリーズタイトルの原題(シリーズタイトルがない場合は、第一作の原題)を付しました。
- 初刊時にSF分類だった作品で、現在までにFに移したものは外しています。書籍化する際に、別途ページをもうけて説明します。
例:『クルンバーの謎』、『吸血鬼ドラキュラ』、《ルーンの杖秘録》など - 初刊時にF分類だったもので現在SFに入っている作品(ヴェルヌ『海底二万里』ほか全点、『メトロポリス』)は、Fでの初刊年月で掲載しています。
ディーン・クーンツ『デモン・シード[完全版]』Demon Seed, 1973, 1997
公手成幸訳 解説:瀬名秀明
装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2004年10月
グレッグ・イーガン『万物理論』Distress, 1995
山岸真訳 解説:訳者
装画:L.O.S.164 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2004年12月
シオドア・スタージョン『時間のかかる彫刻』Sturgeon Is Alive and Well…, 1971
大村美根子訳 解説:大森望
装画・装幀:森山由海
2005年1月
フィリップ・K・ディック『ドクター・ブラッドマネー 博士の血の贖い』Dr. Bloodmoney, 1965
佐藤龍雄訳 解説:渡辺英樹
装画:浅田隆 装幀:Wonder Workz。
2005年3月~
エドモンド・ハミルトン『反対進化』『眠れる人の島』日本オリジナル編集
中村融/編訳 解説:編者
写真:L.O.S.164 装幀:岩郷重力+T.K
2005年6月
アン・ハリス『フラクタルの女神』The Nature of Smoke, 1996
河野佐知訳 解説:乙木一史
装画:D.K. 装幀:Wonder Workz。
2005年9月
ジュール・ヴェルヌ『地軸変更計画』Sans dessus dessous, 1889
榊原晃三訳 解説:牧眞司
装幀:Wonder Workz。
2005年9月
マイケル・マーシャル・スミス『みんな行ってしまう』What You Make It, 1999
嶋田洋一訳 解説:訳者
装画:笹井一個 装幀:中村マサナオ
2006年3月
中村融/編訳『地球の静止する日 SF映画原作傑作選』日本オリジナル編集
解説:添野知生
写真:NASA/Suomi NPP 装幀:東京創元社装幀室(K6SK)
2007年5月
フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』The Penultimate Truth, 1964
佐藤龍雄訳 解説:牧眞司
装画:森山由海 装幀:Wonder Workz。
2008年3月
J・G・バラード『クラッシュ』Crash, 1973
柳下毅一郎訳 解説:訳者
写真:アフロ カバーフォーマット:松林冨久治 装幀:東京創元社装幀室
2008年10月~
ロバート・チャールズ・ウィルスン《時間封鎖》Spin / Hypotheticals, 2005-
茂木健訳 解説:訳者、ほか
写真:L.O.S.164 岩郷重力+Wonder Workz。
2009年3月
J・G・バラード『楽園への疾走』Rushing to Paradise, 1994
増田まもる訳 解説:訳者
写真:Richard Laird/ゲッティ イメージズ カバーフォーマット:松林冨久治 装幀:東京創元社装幀室
2009年4月
ヴァーナー・ヴィンジ『レインボーズ・エンド』上下 Rainbows End, 2006
赤尾秀子訳 解説:向井淳
装画:瀬戸羽方 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2009年10月
中村融/編訳『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』日本オリジナル編集
解説:編者
装画:鈴木康士 装幀:東京創元社装幀室
2010年2月
デイヴィッド・アンブローズ『リックの量子世界』The Man Who Turned into Himself, 1993
渡辺庸子訳 解説:訳者
装画:瀬戸羽方 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2010年5月
フィリップ・K・ディック『未来医師』Dr. Futurity, 1960
佐藤龍雄訳 解説:訳者、牧眞司
装画:瀬戸羽方 装幀:Wonder Workz。
一九五四年に雑誌に掲載された中編を書き延ばし、ジョン・ブラナーのSlavers of Spaceとカップリングで出版された作品。作品発表当時は未来だった二〇一〇年代の優秀な医師パーソンズが、自然生殖と医療が禁止され、誰かが死ぬと人工的に新たな人間が生み出される平均年齢が十五歳という超管理社会の二四〇五年に時間移動する。ここでは人種が完全に融合し、障害者や病人などの弱者が速やかに排除されることで平等で健全な社会が実現したとされ、禁じられた高度な技術を持つパーソンズはレジスタンス運動に巻き込まれる。未来に迷い込んだ主人公を通してディストピア世界を案内する前半と、北米先住民の子孫が英国の侵略者を待ち伏せし、歴史改変を企む時間移動から始まりどんどん複雑になっていく因果律がラスト前に一気に解決される後半のコントラストが鮮やか。よくある設定の強引な組み合わせではあるものの、次々どんでん返しが起きるスピード感のある展開で一気読みできる長編だ。生と死に関する独特の思弁や、アメリカの人種差別社会の生み出す憎悪に関する洞察など、ディックらしい暗さがあちこちに見られるのも隠し味として楽しめる。(渡邊利道)
2010年6月
ジョン・ブレイク『地球最後の野良猫』The Last Free Cat, 2008
赤尾秀子訳 解説:訳者
装画:吉岡愛理 装幀:東京創元社装幀室
2010年10月
マイクル・フリン『異星人の郷(さと)』上下 Eifelheim, 2006
嶋田洋一訳 解説:訳者
装画:加藤直之 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
十四世紀半ばのドイツ、上ホッホヴァルト。寛大な領主のもと平穏に暮らす村に、ある日異変が起きた。まるで雷が落ちたように辺りが帯電し、火災まで起きたのだ。村の教会で主任司祭を務めるディートリヒ神父は、異変の後始末をするなかで、村はずれに住みついた異形の人びとに出会う。異変は、彼らの到来によるものだったのだ。紆余曲折ありながらも、神父を中心とした村人と異邦人の交流は深まるが、ペスト禍の到来により暗雲が立ち込める。「中世ヨーロッパに宇宙人がやってきていたら」というアイデアを、ひたすら実直に具体化することで、丁寧に細工を施された工芸品のような逸品にしあがった。この物語に更なる華を添えるのが、歴史学者と物理学者のカップルを主人公とする現代パート。環境要因からシミュレートすれば必ず存在するはずの位置に村がないという発見から、上ホッホヴァルトにたどりついた歴史学者が、さまざまな資料の断片から何が起きていたのかを再構築していく。このパートと、メインの歴史叙述パートとの噛み合い方が最高で、物語の輝きを幾重にも高めている。第四十二回星雲賞受賞も納得だ。ところで物理学者パートの意味は? それは是非、読んで確かめていただきたい。(林哲矢)
2011年5月
ロバート・チャールズ・ウィルスン『クロノリス―時の碑―』The Chronoliths, 2001
茂木健訳 解説:堺三保
装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2011年8月
J・G・バラード『殺す』Running Wild, 1988
山田順子訳 解説:柳下毅一郎
写真:iStockphoto/Thinkstock、Hemera/Thinkstock カバーフォーマット:松林冨久治 装幀:東京創元社装幀室
富裕層の家族が暮らす、周囲とは隔絶された清潔で安全な超高級住宅地パングボーン・ヴィレッジ。万全のセキュリティで守られていたはずが、突如三十二人の住人が惨殺され、大切に育てられていた子供たち十三人が行方不明となる。集団犯行説や軍事訓練のミス、国際テロリズムなど、ありとあらゆる可能性が挙がるなか、内務省から事件の分析を依頼されたドクター・グレヴィルは、刑事とともに事件現場となった家々を検分してまわり、ある真相に気づく――中盤で犯人が明かされるように、バラードの主眼は推理ではなく社会病理の解剖にある。事件の朝、犠牲者たちに何が起きたのかを、証拠を参照しつつ細部まで刻々と再現していくドクターの淡々とした言葉は、事件の背景となった愛情豊かな環境で逆説的に生じた緊迫状態を空恐ろしいほどに際立たせる。この病理がこの一件では留まらないであろうことが示唆されて終わるが、提示されたテーマは『コカイン・ナイト』や『ミレニアム・ピープル』などの作品へ引き継がれていく。本書の四年前には、若者がある標的に自爆テロをしかけようとする事件について同じドクターが綴る短編「攻撃目標」(『J・G・バラード短編全集5』収録)が書かれている。(酉島伝法)
2012年11月
ロバート・チャールズ・ウィルスン『ペルセウス座流星群 ファインダーズ古書店より』The Perseids and Other Stories, 2000
茂木健訳 解説:香月祥宏
装画:鷲尾直広 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2013年1月
E・ハミルトン、H・カットナーほか『太陽系無宿/お祖母ちゃんと宇宙海賊 スペース・オペラ名作選』日本オリジナル編集
野田昌宏/編訳 解説:訳者、牧眞司
装画:鈴木康士 装幀:東京創元社装幀室
2013年2月
フィリップ・K・ディック『空間亀裂』The Crack in Space, 1966
佐藤龍雄訳 解説:牧眞司、訳者
装画:岩郷重力 装幀:Wonder Workz。
2013年7月
中村融/編『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』日本オリジナル編集
解説:編者
装画:鈴木康士 装幀:東京創元社装幀室
『時の娘』に続く、中村融編の時間SFアンソロジー第二弾。いずれも邦訳書籍には初収録となる七編を集める、言わば〝埋もれた名作〟集。マイクル・ムアコックの表題作(一九六四年)は、遠未来の地球を舞台に、アザラシに似たけものにまたがって旅をする主人公〝向こう傷のブルーダー〟が、時間認識の変容を通じて〝時を生きる種族〟となるまでの物語。巻頭には、ロバート・F・ヤングの楽しいアラビアンナイト風タイムトラベル冒険ロマンス「真鍮の都」(六五年)を置き、任意の過去の情景を撮影できるタイムカメラをフィーチャーした(A・C・クラーク&S・バクスター『過ぎ去りし日々の光』の元ネタのひとつでもある)T・L・シャーレッドの名作中の名作「努力」(四七年)で最後を締めくくる。本邦初訳は、《改変戦争》シリーズに属するフリッツ・ライバー「地獄堕ちの朝」(五九年)と、これは懐しいミルドレッド・クリンガーマン(「無任所大臣」の著者)による時間ロマンスの佳品「緑のベルベットの外套を買った日」( 五八年)の二編。他に、L・スプレイグ・ディ・キャンプの「恐竜狩り」(五六年)、ロバート・シルヴァーバーグ「マグワンプ4」(五九年)を収める。(大森望)
2013年10月~
ピーター・ワッツ『ブラインドサイト』『エコープラクシア 反響動作』Blindsight / Firefall 2006-
嶋田洋一訳 解説:テッド・チャン、訳者、ほか
装画:加藤直之 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2014年3月
ロバート・F・ヤング『時が新しかったころ』Eridahn, 1983
中村融訳 解説:訳者
装画:松尾たいこ 装幀:東京創元社装幀室
2014年4月
ジョー・ウォルトン『図書室の魔法』上下 Among Others, 2011
茂木健訳 解説:堺三保
装画:松尾たいこ 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2014年6月
フィリップ・K・ディック&レイ・ネルスン『ガニメデ支配』The Ganymede Takeover, 1967
佐藤龍雄訳 解説:牧眞司
装画装幀:岩郷重力
2014年8月
ガース・ニクス『銀河帝国を継ぐ者』A Confusion of Princes, 2012
中村仁美訳 解説:訳者
装画:緒賀岳志 装幀:常松靖史[TUNE]
2014年9月
キム・スタンリー・ロビンスン『2312 太陽系動乱』上下 2312, 2012
金子浩訳 解説:渡邊利道
装画:加藤直之 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2014年10月
ジェフ・カールソン『凍りついた空 エウロパ2113』The Frozen Sky, 2012
中原尚哉訳 解説:訳者
装画:鷲尾直広 装幀:常松靖史[TUNE]
2014年10月
ロバート・F・ヤング『宰相の二番目の娘』The Vizier's Second Daughter, 1985
山田順子訳 解説:訳者
装画:松尾たいこ 装幀:東京創元社装幀室
2014年11月
アンドリ・S・マグナソン『ラブスター博士の最後の発見』LoveStar, 2002
佐田千織訳 解説:訳者
装画:片山若子 装幀:波戸恵
2014年11月
中村融/編訳『黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選』日本オリジナル編集
解説:編者
装画:鈴木康士 装幀:東京創元社装幀室
2015年2月
ラヴィ・ティドハー『完璧な夏の日』上下 The Violent Century, 2013
茂木健訳 解説:渡邊利道
装画:スカイエマ 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2015年3月
チャーリー・ヒューマン『鋼鉄の黙示録』Apocalypse Now Now, 2013
安原和見訳 解説:橋本輝幸
装画:鷲尾直広 装幀:常松靖史[TUNE]
2015年4月
オシーン・マッギャン『ラットランナーズ』Rat Runners, 2013
中原尚哉訳 解説:訳者
装画:田中寛崇 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2015年5月
ジェニファー・アルビン『時を紡ぐ少女』Crewel, 2012
杉田七重訳 解説:訳者
装画:鈴木康士 装幀:大野リサ
2015年5月
フィリップ・K・ディック『ヴァルカンの鉄鎚』Vulcan's Hammer, 1960
佐藤龍雄訳 解説:牧眞司
装画装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
2015年6月
ジョーン・スロンチェフスキ『軌道学園都市フロンテラ』上下 The Highest Frontier, 2011
金子浩訳 解説:訳者
装画:加藤直之 装幀:常松靖史[TUNE]
2015年8月
ロバート・チャールズ・ウィルスン『楽園炎上』Burning Paradise, 2013
茂木健訳 解説:大野万紀
装画:新井清志 装幀:岩郷重力+Wonder Workz。
第二次世界大戦が起こらなかった二十一世紀が舞台の侵略SF。通信技術の飛躍的な発展をもたらした地球を包む〈電波層〉が人類を巧妙にする支配する巨大な集合知性体で、それに気づいた人々は知性体が差し向けた緑の体液を持つ擬似人間に襲撃され壊滅。生き残りの少女たちが仲間を求めて逃げる旅のパートと、〈電波層〉と対立すると自称する知性体の擬似人間の来訪を受けた昆虫学者のパートがカットバックして物語が進んでいく。前半は冷戦期の侵略SFそっくりに展開するのだが、真実に気づいた人々が疑心暗鬼に陥って性格が歪み人間関係を拗らせていくさまは、陰謀論とフェイクニュースが蔓延する現代に通じる人間の愚かさを痛感させられる。また、集合知性体への洞察を深めていく昆虫学者が、異質な知性の生態に単純な支配や抵抗の観念が当て嵌まらないと懊悩するのも、いかにも現代SFらしい。登場人物の、逃避行の中で拗らせた人間関係がさらに複雑に変化していく心理的な機微を丹念に描き、それによって少女と昆虫学者が最終的に選択する決断が招く解放された世界をひたすら重苦しいものに染め上げていて、作者の陰鬱な人間観を味わうことができる。(渡邊利道)
2015年10月~
ジョン・ヴァーリイ《〈八世界〉全短編》日本オリジナル編集
浅倉久志、大野万紀訳 解説:山岸真、ほか
写真:L.O.S.164、NASA/JPL/Space Science Institute 装幀:岩郷重力+W.I
2015年10月
スティーヴン・タニー『100%月世界少年』One Hundred Percent Lunar Boy, 2010
茂木健訳 解説:訳者
写真:L.O.S.164 装幀:岩郷重力+T.K
2015年11月~
アン・レッキー《叛逆航路》Ancillary Universe, 2013-
赤尾秀子訳 解説:渡邊利道、ほか
装画:鈴木康士 装幀:岩郷重力+W.I
2015年12月
ガレス・L・パウエル『ガンメタル・ゴースト』Ack-Ack Macaque, 2012
三角和代訳 解説:訳者
装画:鷲尾直広 装幀:岩郷重力+W.I
2016年5月~
ギャビン・スミス《帰還兵の戦場》Veteran, 2011-
金子浩訳 解説:訳者
装画:新井清志、ほか 装幀:WW+W.I
正体不明、コミュニケーション不能の異星人との六十年あまり続く戦争から帰還し、予備役となった元特殊部隊のサイボーグ兵士ジェイコブは、地球に潜入した異星人を抹殺するようにクソ上司に命じられるが、十八歳の娼婦モラグは瀕死の異星人を庇って、彼は和平のために来たのだという。命令に背いてジェイコブがモラグや昔馴染などと平和のために奮闘する第一部と、星間戦争終結後、戦争で大儲けしていた秘密結社がエイリアンの超技術を奪取しコロニー星系を制圧、太陽系へと侵攻するのをジェイコブたちが迎え撃つ人類間戦争の第二部で構成される全七巻のミリタリーSF。環境破壊と超格差社会のために荒廃した地球のディストピア的描写に加え、主人公が戦争のトラウマをどっさり抱え鬱屈した中年男で、モラグと恋に落ちるのだが世代間ギャップからかロマンティックな関係もどちらかといえば始終イライラしっぱなしで全然明朗快活といかないのがいかにもイギリスSFらしい。緻密な細部描写が満載の戦闘場面は極めて濃厚で、荒野を爆走する移動都市や体長二四〇センチの魔神の姿をした海賊王、全知全能の超AIのサイバー戦など、次々登場するガジェットも魅力的だ。(渡邊利道)
2016年5月
イアン・マクドナルド『旋舞の千年都市』上下 The Dervish House, 2010
下楠昌哉訳 解説:訳者、酉島伝法
装画:鈴木康士 装幀:岩郷重力+W.I
2016年7月
J・G・バラード『ハイ・ライズ』High-Rise, 1975
村上博基訳 解説:渡邊利道
写真:iStock.com/JohnDWilliams カバーフォーマット:松林冨久治 装幀:東京創元社装幀室
2016年8月
キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』At the Mouth of the River of Bees, 2012
三角和代訳 解説:訳者、橋本輝幸
装画:緒賀岳志 装幀:岩郷重力+W.I
2017年3月
ダリル・グレゴリイ『迷宮の天使』上下 Afterparty, 2014
小野田和子訳 解説:橋本輝幸
装画:Z2 GG 30 装幀:岩郷重力+W.I
2017年5月~
シルヴァン・ヌーヴェル《巨神計画》The Themis Files, 2016-
佐田千織訳 解説:渡邊利道、ほか
装画:加藤直之 装幀:岩郷重力+W.I
2017年7月
キャリー・パテル『墓標都市』The Buried Life, 2014
細見遙子訳 解説:訳者
装画:K,Kanehira 装幀:岩郷重力+W.I
旧文明が滅んだ〈大惨事〉から数百年、地下都市リコレッタで、一定以上過去の歴史や科学の研究が規制される中、高級住宅街において歴史学者が殺害された。捜査官マローンと洗濯娘ジェーンは、事件と裏にある陰謀に巻き込まれていく。
ヴィクトリア朝期の文化・文明をベースにした未来の管理社会の描写は本当に活き活きとしている。マローンとジェーンのダブル主人公は、後者が前者への情報提供者になるという体裁を取りつつも、基本的には別個に動き、怪しげな人物と出会い、深みに嵌っていく。マローンが狷介な官憲、ジェーンが手に職付けた元気な若者と、キャラクターの描き分けも上手い。
ストーリー面では先の読めなさが特徴だ。殺人事件の謎を解くミステリ仕立ての作品かと思いきや、徐々に違う方向に逸れて、最後は冒頭からは予想できない地点に行き着く。終盤では重要だった登場人物をあっさり退場させすらする。キャラクターを使い捨てできる作家は有能と相場が決まっている。
本書は三部作の一作目であり、単体でも物語に一定の決着を付けるものの、一部を中途半端な状態で放置し、世界の謎にも肉薄しない。筆力は確かなので、続篇が邦訳されさえすれば楽しめるはずなのだが。(酒井貞道)
2017年8月
ジョー・ウォルトン『わたしの本当の子どもたち』My Real Children, 2014
茂木健訳 解説:渡邊利道
装画:丹地陽子 装幀:波戸恵
2017年9月
レイ・ヴクサヴィッチ『月の部屋で会いましょう』Meet Me ㏌ the Moon Room, 2001
岸本佐知子、市田泉訳 解説:渡邊利道
装画:庄野ナホコ 装幀:波戸恵
おことわり:2006年9月~ 刊行のフィリップ・リーヴ《移動都市クロニクル》につきましては、編集部の手違いにより書籍版への掲載とさせていただきます。