pixivは2023年6月13日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴
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自信なんていつもなかった。
わたしなんかが隣に立って良いような人間じゃないって、だって、どう見たって釣り合わないんだもの。
本当にわたしは彼女なのだろうかと疑問に持つことだってあるし現に今もそうなのだから。
会って、ちょっとしたデートをして、やることをやって。
わたしは彼が全部全部初めてなのだ、これが普通のお付き合いなのかも正直よくわからない。
だから付き合っていると思っているのはわたしだけで本当はただの遊び相手でセフレでしかないんじゃないかって。
情緒が安定していないせいでさっきからこんなことばかり考えてしまう。
今日は左馬刻さんが家に来る日だった。
だが朝からいかんせん体調がよろしくない。
下腹部が異常に重く、月のものであるのは確かだ。
朝ごはんを軽く食べてゴミ出しをし、いつもならここで職場へ向かう為に着替えを始めるところだが腹痛と体のダルさに耐えられない為有給を消化した。
薬を飲んでスマホからメッセージアプリを立ちあげ、見慣れた名前を探す。
スマホの明かりすら眩しく不快に感じるとは今月はだいぶ重症らしい。
左馬刻さんとのトークルームに今日は会えません、ごめんなさい。と簡潔に文字を打つ。
彼は長ったらしい文章は嫌いだ。
これくらいで丁度いいだろう。
連絡だって早めに入れた方が今後の彼の予定だって決めやすいはず。
家に来てもらっても構わないがわたしが今こんな状態で彼の相手を出来る訳がないし、彼に無駄足を踏ませて不快な思いはさせたくない。
だったら来てもらわない方がいいんだ。
会いたい気持ちを押し殺しわたしは布団を被り再び眠りについた。
ピンポンピンポンとチャイムを連打される音で目が覚めた。
枕元にあったスマホの電源を付けると時刻はもうすでに16時になっていた。
そんなに寝ていたのかと自分自身に引いたが眠気には勝てるはずもない。
鳴り止まないチャイムにさすがに恐怖を覚え始めた頃ガチャっとドアノブが回される音がした。
いつもの癖でゴミ出しをした後そのまま鍵を締めるのを忘れてしまったようだ。
得体の知れない恐怖から逃れるため布団を深く被り身を潜める。
「おい、なんだ居んじゃねえか。」
「え、さ、左馬刻さん…?」
「いるならさっさと出てこい、つーか鍵開けっ放とか女の一人暮らしなんだから気をつけろや。」
「あ、はい、ごめんなさい…。」
布団から顔を出すとそこに居たのは会いたくてたまらなかった左馬刻さんがいた。
左馬刻さんは顔を出したわたしにスマホの画面を突き付けてきた。
そこに映るのはわたしとのトーク画面。
「なんだこれ、あ?」
「え、えっと?」
「お前会社にも行ってねえだろ。」
「は、はい…。」
「会えない理由はなんだ、ちゃんと言えや。」
「えっと…、その、体調、良くなくて、だから、無理、です…。」
「だったら最初からそう言え。」
「ごめんなさい…。」
左馬刻さんがなぜこんなにも不機嫌なのかわたしには全く理解出来なかった。
やっぱり手間を掛けさせてしまったからこんなに不機嫌なんだろうか。
「で、どこが悪いんだよ。」
「え?」
左馬刻さんは自分の手のひらをわたしの額に当ててきた。
「熱は、ねえか?でもなんか体温たけえな。」
「あの、左馬刻さん…。」
「結局どこが悪いんだ。」
「えっと、その、」
「なんだよ、早く言え。」
「せ、生理痛で…。」
「ああ、だから俺様が来るまでずっと寝てたって訳か。何回電話したと思ってんだよ、くそ。」
「え、電話?」
スマホをよく見てみると左馬刻さんから尋常じゃない程の着信履歴が残されていた。
「気付かなくてごめんなさい…。」
「薬は?」
「朝飲んだきりで、」
「なんか食えるか?」
「え、え…?」
「食欲ねえのはわかるけどなんか腹に入れとかねえと薬飲めねえだろ。」
人の家の冷蔵庫を勝手に漁る左馬刻さんの後ろ姿を呆然と眺める。
「なんか食いてえもんとかねえのか、コンビニ行ってくるからよ。」
「さ、左馬刻さん!」
「あ?」
「わたしもう大丈夫なんで、その、帰ってもらって、大丈夫、です…。」
「…はあ?」
「これ以上左馬刻さんに迷惑かけるわけにいかないですし、それに、」
「なんだよ。」
「わたし、今日出来ないんで…、別の人のとこ行かれた方が…、」
「お前それ本気で言ってんのか。」
ただでさえ低い左馬刻さんの声がいつもより低くなった。
ああ、またわたしなにか間違ったこと言ったんだ。
でもなにがダメだったのか全然わかんないや。
左馬刻さんの顔を見ることが出来なくて俯いたまま無言を貫くしかなかった。
それに苛立ったのか左馬刻さんはベッドに座るわたしの目の前に座り無理やり顎を掴んで上を向かせた。
「おい。」
「はい…。」
「お前は、俺に、他の女抱けっつうのか?他の女で抜けってか?あ?」
「え、えっと、だってわたし今日左馬刻さんの相手出来ませんし…。」
「お前には俺様が生理痛で参ってる自分の女放っておいて他の女抱きに行くような男に見えてんのか?」
「ち、違っ…。」
生理特有の情緒不安定が今まさに襲ってきて涙が溢れてきた。
嫌だなあ、また左馬刻さんのこと困らせる。
「ったく、泣くんじゃねえよ。」
「ご、ごめんな、さい、」
左馬刻さんはわたしを抱きしめると背中をさすってくれた。
涙を止めようとするが一度決壊してしまったダムをそう簡単に戻すことは出来ない。
「具合まだ悪いんだろ。」
「悪い、です…。」
「なんか食えんのか。」
「食べ、たくない、」
「じゃあ、もっかい寝ろ。」
「は、い…。」
そのまま一緒に横になった左馬刻さんの胸元に頭を押し付けると背中をさする逆の手で頭を抱え込まれた。
「迷惑、かけて、ごめんなさい、」
「別に迷惑なんて思っちゃいねえよ。」
「でも、わざわざ来てもらったのに、出来ないから、」
「…あのなあ、お前には俺様がそんな万年発情期にでも見えてんのか?」
「だって、会う度、してたから、」
「好きな女目の前にして抱かねえ方が無理な話しだろう。」
「好きな、おんな、」
「ああ。」
「わたしのこと、ですか…。」
「お前以外誰がいるっつうんだよ。」
「左馬刻さん、わたしのこと、好きなんですか、」
「好きじゃなかったらわざわざ会いに来たりしねえだろう。」
「左馬刻さんが、わたしを、好き…。」
困らせたくないのにまた涙が溢れてきた。
ああ、わたしはちゃんとこの人に愛されているんだ。
「なんで泣くんだよ。」
「嬉しい、から、」
「そーかよ。」
「左馬刻さんは、わたしの、どこが好きなんですか…。」
「はあ?なんだよそれ?」
「情緒不安定なんで、許してください。」
「あー、お前の好きなとこな、」
左馬刻さんは恥ずかしげもなくわたしの好きなところをつらつらと上げていく。
聞いているこっちが恥ずかしくてしょうがない程にたくさんわたしの好きなところを言ってくれた。
「まだ聞くか?」
「もう、大丈夫、です…。」
「やっと泣き止んだじゃねえか。」
あんな小っ恥ずかしいことを聞かされて涙なんて引っ込んでしまったがまた別の意味で泣きそうになった。
「どうだ、まだつれえか?」
「しんど過ぎて死んでしまいそうなんで左馬刻さんぎゅってして下さい。」
「なんだ、急にわがままな女になったな。」
「ごめんなさい。」
「わがままな女は嫌いじゃないぜ。」
そういうとわたしの額に軽くキスを一つ落とした。
「治ったら覚えておけよ。」
「…覚悟しておきます…。」
そのまま左馬刻さんはわたしを抱きしめてくれた。
その体温が心地好くてまた眠気が襲って来た。
ああ、まだ左馬刻さんと話していたいのになあ。
瞼が完全に閉じる直前、左馬刻さんから10ヶ月止めてやろうかなんて小さな呟きが聞こえた気がしたがそれには気付かないフリをして瞼を閉じた。
左馬刻さんが言うと冗談に聞こえない。
そのままわたしは左馬刻さんの温かい体温に触れながら眠りに落ちた。
次起きた時、一番に見る顔が左馬刻さんだなんて、なんて素敵なことなんだろう。