(右から2番目)franky代表取締役CEOの赤坂優氏 (一番右)franky取締役COOの西川順氏
(右から2番目)franky代表取締役CEOの赤坂優氏 (一番右)franky取締役COOの西川順氏 画像提供:franky
  • マンションの一室で昼寝をしたり、近況を話す日々
  • アパレルブランド「WIND AND SEA」の成功が新事業に生きる
  • 医療系の事業も断念、僕らにしかできないブランドをつくる
  • 2021年にかけて複数プロダクトを展開予定

「自分は次に何がやりたいのか。いろんな事業テーマを考えてみるものの、腹の奥から突き動かされるものがなく、あまりやる気がしない。自分はもう起業できないのかもしれない。起業家としての選手生命が終わったのかな、とも思いました」

新たな挑戦を前に感じる悩みや不安——franky(フランキー)代表取締役CEOの赤坂優氏は当時の記憶を呼び起こし、このように振り返る。

赤坂氏は西川順氏(franky取締役COO)と共同で恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs(ペアーズ)」を手がけるエウレカを創業した人物だ。2015年にエウレカをIAC傘下のMatch Groupへ売却した後、2017年10月に取締役を退任した。

そんな赤坂氏が新たなスタートを切ったのは、取締役を退任した翌月のこと。2017年11月に西川氏と共同で新会社・frankyを立ち上げた。

すぐに新たな挑戦に踏み出したが、肝心の事業テーマが決まらない。いくつかアイデアを考えてみるものの、腹落ちせず断念。それを繰り返す日々が続いた。

立ち上げから約3年——ずっとステルス(人目に触れないように)で事業の準備を進めてきたfrankyだが、ようやく事業の片鱗が見えてきた。

写真右奥で炎を上げるのが「EcoSmart Fire」 画像提供:メルクマール
写真右奥で炎を上げるのが「EcoSmart Fire」 画像提供:メルクマール

frankyは10月29日、バイオエタノール暖炉「EcoSmart Fire(エコスマートファイヤー)」を展開するメルクマールを買収したことを明かした。

メルクマールが手がけるバイオエタノール暖炉はサトウキビを原料とした専用燃料「e-NRG(エナジー)」を使用することで、燃焼にともなう煙や煤を排出しないため、煙突や換気設備が不要な暖炉だ。高い暖房効率を実現し、燃焼時に発生する水蒸気により乾燥を抑えた心地よい空間をつくってくれる。テーブルタイプや置き型、バーナー組み込み型などさまざまタイプがあることから、自宅だけでなくホテルやレストランなどでも利用されている。

今回の買収を機に、赤坂氏は「既存チャネルの強化に加え、新規でデジタルの強化を進めつつ国内だけでなく、韓国や台湾、シンガポール、東南アジアなど、アジア地域への販売も2021年中を目処に進めていく予定です。EcoSmart Fireを通じて、火のある生活がより日常になる未来を作っていきたいと思っています」と抱負を語った。

frankyは今後、EcoSmart Fireの販売を軸のひとつとして、ステイホーム時代の“おうち時間”の豊かなすごし方をテーマに、複数のDNVB(Digital Native Vertical Brand)のプロダクトやサブスクリプションサービスの企画・開発に本格的に取り組んでいくとともに、国内における人材採用も強化していくという。

マンションの一室で昼寝をしたり、近況を話す日々

メンバーともfrank(率直)な関係でいたいし、社外ともfrankな関係でいたい。そして社会やお客さんにとってfrankyな存在でいたい——そんな思いから“franky”という社名の会社を立ち上げた赤坂氏。会社という“箱”は用意したが、事業という“中身”を模索する日々が続く。

「当時から現在の事業アイデアも頭の片隅にはあったのですが、本当にその事業でいいのか決め切れておらず……。正直、何がしたいのか分からない状態での会社設立でした。そのため、まずはゆっくりと事業テーマを探すことにしたんです」(赤坂氏)

マンションの1室を事務所として借り、そこにデスクとホワイトボードを搬入。西川氏と一緒にホワイトボードに日夜、事業アイデアを書き出していった。

「カメラ・家電のレンタルサービスや配送のマッチングプラットフォームなど、スケールしそうな事業アイデアはたくさん出るんですけど、お互い腑に落ちなくて。全然事業をやるモチベーションが上がらなかったんです。いま振り返ってみると、2人とも会社をやれるメンタリティではなかったんだと思います。心の準備ができていないのにアイデアばかり先行してしまった結果、時価総額がどれくらいになりそうか、今のトレンドは何かなど、成功から逆算してしまっていたんです。そのときに起業は『起業しよう』と思ってするものではなくて、何か無性にやりたいことがあるからするものなんだと感じました」(赤坂氏)

エウレカ時代は「ヒットするウェブサービスを作りたい」という思いに突き動かされ、結果的にPairsを開発。今や累計会員数が1000万人を突破するサービスになっている。そんなサービスの立ち上げ経験があったからこそ、なかなかウェブサービスを作るモチベーションが上がらずにいた。

結局、マンションは昼寝をしたり、コーヒーを飲みながら近況を話したりするための場所として使われることになった。

「これまでを振り返ったり、自分の人生を見つめ直して、残りの時間を考えたり。自分たちの心が準備できるまでの時間として、会社のことだけでなく、プライベートのことや、自分のやりたいことを考えるなど、お互いの考えを擦り合わせることができたのは振り返ってみて、すごく良かったなと思います」(赤坂氏)

アパレルブランド「WIND AND SEA」の成功が新事業に生きる

それから数カ月が経ったタイミングで、赤坂氏は数々の人気ショップやブランドのディレクションを手がけてきたスタイリストの熊谷隆志氏と知人の紹介で出会う。

それがきっかけとなり、赤坂氏はストリートファッションブランド「WIND AND SEA(ウィンダンシー)」の経営に2018年6月から関わることになる。具体的にはShopifyを使ってオンライン販売をスタートしたり、旗艦店を東京・駒沢から中目黒に移してリニューアルオープンしたりするなど、ブランドの舵取りを行った。

東京・池尻大橋にあるWIND AND SEAの店舗 画像提供:WIND AND SEA
東京・池尻大橋にあるWIND AND SEAの店舗 画像提供:WIND AND SEA

「当時、『アパレルで絶対成功したい』という強い思いがあったわけでなく、そろそろ自分が興味を持っているものに動き出さないと、いたずらに時間だけが過ぎていってしまう。そんな危機感からWIND AND SEAの経営に関わることにしたんです」(赤坂氏)

10年ほどインターネットビジネスに関わってきた赤坂氏にとって、アパレルブランドの経営は初めてのことだったが、このときの経験が現在のfrankyに生きているという。

「全くバックグラウンドの異なる人たちと一緒に会社をやる経験や、洋服をつくるメーカー側に回ることの楽しさに触れた気がします。僕らのようなインターネット領域にいた人が、色々な業界の人たちと力を合わせることで出来ることがあるんだなと感じました」(赤坂氏)

現在、WIND AND SEAを運営するエリオットはfrankyの100%子会社となっており、赤坂氏は週に1度、会議に参加するといった関わり方をしている。

医療系の事業も断念、僕らにしかできないブランドをつくる

WIND AND SEAをやりながらも、事業テーマを模索する日々は続く。2019年に入った頃には広尾のマンションから離れ、ミクシィのインキュベーションオフィスを間借りし、そこで本腰を入れられる事業テーマは何か、と考え続けた。

「その頃には西川さん以外にもサポートしてくれるメンバーがいて、エンジニア、デザイナー、人事、PM(プロジェクトマネージャー)が関わってくれていました。さすがにそろそろ何か決めないといけないと思い、中国のコーヒーチェーンLuckin Coffee(ラッキンコーヒー)を視察しに上海まで行って事業検討したり、遠隔診療をベースにした医療クリニックを検討したりしていました」(赤坂氏)

どちらの事業もリサーチを重ねていったが、実現に至らず。医療系の事業に関しては話も進んでいたが、最終的には話がなくなり、再び振り出しに戻ることになった。

「いま振り返ってみると、当時から心のどこかに『自分は医療系の事業をやるタイプの人間じゃないな』という思いもあったんです。それで自分の中では踏ん切りがついて、年末年始に『自分がやりたいことをやろう』と決めた結果、浮かんできた考えが『僕らにしかできないブランドをつくる』というものでした」

「デザイン性の高いものをつくって、きちんと流通させて、世の中を美しくする。商品づくりから購入体験、商品との日常までをデザインし、外面だけでなく、機能性や体験=UXもデザインする。そういうブランドをゼロから自分たちでつくり、またまたすでに存在しているけれど埋もれているものを発見して育てていく。その2つが自分のやりたいことだったんです」(赤坂氏)

2021年にかけて複数プロダクトを展開予定

その考えをメンバーに伝えたところ、全員が納得し、2020年1月から本格的にfrankyの事業活動がスタート。やりたい事の実現に向けてアポを入れ、人と会う日々が続いた。

事業の準備を進める過程で、新型コロナウイルスの感染が拡大していった。ただ、赤坂氏によれば緊急事態宣言が発令されるよりも前に、パートナーと組むことができていたため、中国での生産だけはスピードが低下したものの、ほかはほとんど影響がなかったという。

その一方で、世の中は外出が禁止され、飲食店は休業を余儀なくされた。また旅行にも行けなくなり、企業はリモートワークを推奨し、自宅で働くことが当たり前となった。

「こうした生活様式の変化と共に“豊かな暮らしの追求”が加速したと思います。その結果、frankyの事業テーマの中に『豊かな暮らしをサポートする』が加わり、そのテーマの実現に向けて、いろんなブランドやサービスをつくることを決めました」(赤坂氏)

そんなfrankyの第1弾事業となるのがバイオエタノール暖炉の販売だ。もともと、赤坂氏は4年ほど前からEcoSmart Fireのユーザーで、ユーザーとしてとして取材を受けたことをきっかけにメルクマールの社長と親交を深め、買収の話に至ったという。

「EcoSmart Fireは既存の販売チャネルもまだまだ広げられますし、新規でデジタルの強化もできる。またアジア市場も開拓できていないので、そこも狙える。まだまだ成長させていく余地は十分にあるな、と思ったんです」(赤坂氏)

画像提供:メルクマール
画像提供:メルクマール

実際、Shopifyでショップを9月に開設し、オンライン販売を開始してみたところ、単価が30万円以上であるにもかかわらず、すでに1カ月で15台ほど売れている。

「ホテルやレストランなどで商品の実物を見たけれど、住まいの近くで購入できる場所がなかった人たちが、オンラインで購入してくださっているんだと思います。それを考えると、日本国内にも潜在顧客はたくさんいるので、オンライン販売にも大きな可能性を感じています」(赤坂氏)

EcoSmart Fireの海外展開については2021年中を目処に台湾・韓国・シンガポールで販売を開始する予定だという。

また、EcoSmart Fireの販売と同時並行でfrankyは2020〜2021年にかけて、“生活をより豊かにするブランドをつくる”をテーマとして複数のインテリアプロダクトを出す予定だ。

「いま、さまざまなプロダクトデザイナーや、建築家、写真家、工場関係者など、各領域のプロフェッショナルの人たちとチームを組んでいるので、いくつかのブランドとウェブサービスを順次ローンチをしていきたいと思っています」(赤坂氏)