令和3年(ワ)第2776号 東京地方裁判所民事第34部
原告 田附裕樹
原告訴訟代理人 弁護士 中峯将文 山川哲弥
被告 NTTコミュニケーションズ株式会社
被告訴訟代理人 弁護士 松田真
令和2年5月29日
バーンラック警察署長への飲食接待、贈賄を自ら暴露する田附裕樹。「タラバ蟹を食わせて10万バーツもかかった」って自慢していましたよね。 #汚職事件 #賄賂
令和2年8月31日
バーンラック警察署長に接待でタラバ蟹食わせて、お会計10万バーツおごってやったと自慢していました。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
第2 事実及び主張
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件各情報の発信者情報該当性)について
中略
本件各ログインの際の通信から把握される本件各情報は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項の発信者情報に該当する。
2 争点2(権利侵害の明白性)について
(1) 認定事実
前記機認定事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事情が認められる。
ア 原告は、タイにおいて、マッサージ店である本件店舗のほか、「俺の26」と称するマッサージ店及び「Sexy Club F1」と称する女性が接客するバー(以下、本件店舗及びこれらを相称して「本件各店舗」という。)を運営しており、上記「Sexy Club F1」は、バーンラック警察署の管轄区域内に存在する(甲13、21)。
イ 本件各店舗については、これらを利用したとする者による体験談を掲載した日本語によるブログ記事等が、インターネット上に多数存在する。その中には、➀本件店舗において、掲示された料金により、いわゆる本番行為を含む性的サービスを受けたとするもの、②本件店舗では避妊具が用意されており、本番行為を含む性的サービスを受けたとするもの、③「俺の26」の女性従業員と日本人男性らとのツアーにおいて、日本人男性らが、それぞれ指名した女性従業員から本番行為を含む性的サービスの提供を受けたとするものがある。また、これらのブログ記事において、原告は、タイにおける有数の著名な日本人であると評されている。
なお、タイにおいて、売春は違法であり、原告及び本件各店舗が、売春あっせんの営業を許可されているという事情はない(乙2、3、5(資料11)、乙7)。
ウ タイにおいては、平成28年頃、マッサージ店に対する捜査(その際、所轄警察署は捜査機関から除外された。)により、女性120人が売春の疑いで検挙されるとともに、警察署等に対する贈賄リストと見られる帳簿が発見されたと報道されるなど、警察関係者による汚職が社会問題となっていた(乙1(別紙4頁)、乙3、乙5(資料8~10)、乙6)。
エ 原告は、平成28年5月28日頃、Twitterにおいて、「昨夜のバンコク・スリウォンにて、「この男、猥褻につき」Tシャツを着て、バーンラック警察の署長と一緒に、北海道産のタラバガニ!いただきます」と記載したツイートを投稿した。同ツイートには、原告が、蟹が乗せられた皿を手に持ち、男性4人と飲食店で会食している写真が添付されている(甲5、乙1(資料1))。
オ 原告は、令和元年9月14日ごろ、Twitterにおいて、「バーンラック警察の署長(俺の隣のお方)とも親睦を深める会!」と記載したツイートを投稿した。同ツイートには、原告を含む男性4人が飲食店で会食をしている写真が添付されていた(乙1(資料1))。
(2) 原告の社会的評価の低下について
本件各投稿、別紙発信者情報目録記載の通り、いずれも原告の氏名を記載した上で、原告が、バーンラック警察署長と会食し、カニ料理等の食事代100,000バーツを負担したと自慢していたという事実を摘示するものである。これを一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として見れば、原告が、警察署長に対し、贈賄と評価しうる高額な飲食接待をしたとの印象を閲覧者に与え、原告の社会的評価を低下させることが明らかであると認められる。
これに対し、被告は、本件各投稿について、一般の閲覧者は憶測に基づく真偽不明の投稿との印象を抱くに過ぎないと主張するが、本件各投稿が上記のように具体的な事実を摘示するものであることに照らすと、これにより原告の社会的評価が低下することは否定されず、被告の主張は採用できない。
(3) 違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情の有無について
ア 本件各投稿の公共性、公益目的について
上記(2)で認定説示したとおり、本件投稿は、原告が、タイの警察署長と会食し、高額な食事代を負担した旨の事実を摘示するものである。原告が、本件各店舗を運営し、タイで有数の著名な日本人と評されていること(認定事実ア、イ、)、タイにおいて警察関係者による汚職が社会問題になったこと(同ウ)を併せ顧慮するとと、本件各投稿は、そのような著名な店舗経営者と地元の警察当局が不正に癒着している可能性を示唆するものであって、公共の利害に係るものであると認められる。
また、本件各投稿は、その内容上、原告個人を揶揄、中傷する意図がうかがわれなくもないが、上記のような本件各投稿が対象とする事実の性質や原告の属性に鑑みると、本件各投稿が専ら公益を図る目的で行われたことを直ちに否定することはできない。
イ 摘示された事実のうち重要な部分の真実性について
(ア)本件店舗で就労していた男性(以下、「本件男性」という。)は、本件契約者からの照会に対して、➀本件各店舗では、原告の指示により、毎月、警察関係者に対する贈賄が行われていた。②上記贈賄は、本件各店舗において、客として女性従業員との本番行為や従業員の不法就労等が行われているのを黙認してもらうためのものと推察されると供述している(甲17、21、乙1(別紙資料5))。
(イ) そこで、上記(ア)の本件男性の供述の信用性について検討する。
まず、上記認定事実イによれば、本件各店舗では、本番行為を含む性的サービスの提供が組織的に行われ、売春あっせんに当たる違法な営業が行われていたことがうかがわれる。これに対し、原告は、本件各店舗で本番行為は行われていないと主張し、原告及び本件店舗の従業員はこれに沿う供述をする(甲13、17、21)。が、これらの主張や供述を客観的に裏付ける証拠はなく、上記の点を否定することはできない。そして、本件各店舗のうち1つがバーンラック警察署の管轄区域内に存在し(認定事実ア)、タイでは、平成28年頃当時、警察関係者による汚職が社会問題となっていた(同ウ)。
これらの点に照らすと、原告には、バーンラック警察署長に対し贈賄行為をする具体的な動機や背景があったいえるところ、原告が、平成28年頃に、バーンラック警察署長とカニ料理を提供する飲食店等で会食したことは、原告自身が投稿したツイートからも明らかである(同エ、オ)。上記会食において、原告は、太田と称する知人に誘われたものであると供述している(甲21)が、上記のような原告とバーンラック警察署長との関係性を踏まえると、会食の経緯や目的について合理的かつ説得的に説明されているとは認め難い。
本件各店舗で原告の指示により警察関係者への贈賄行為が行われていたとする上記(ア)の供述は、以上のようにこれと整合する事情が複数存在することに照らすと、相応の信用性があるといえる。本件男性が原告を逆恨みしている可能性があることその他原告の主張及び供述を踏まえても、この点を直ちに否定することはできない。
したがって、原告は、バーンラック警察署長に対して定期的な贈賄行為をしていたことがうかがわれ、上記会食の際に高額な食事代を負担して飲食接待したとする点についても、上記贈賄行為の一環として、これが真実であるとうかがわせる事情があるといえる。
(ウ) 原告は、タイにおける飲食店の相場等に照らし、食事代で10万バーツを要することはあり得ないとか、原告が贈賄を自慢したことはないとも主張する。
しかし、上記(2)で説示したとおり、本件各投稿は、原告が贈賄に当たりうる高額な飲食接待をしたとの印象を閲覧者に与える点で、原告の社会的評価を低下させるものである。そうすると、本件各投稿において摘示された事実のうち重要な部分は、原告が警察署長に対して高額な飲食接待をしたとする点であって、食事代が10万バーツであったとする点や、原告が贈賄を自慢していたとする点は、補助的又は周辺的な事情にすぎないと解する余地も相当程度ある。
したがって、(イ)で認定した事実から、本件各投稿について、摘示された事実のうち重要な部分が真実であることをうかがわせる事情があるといえる。
ウ 小括
上記ア及びイで認定説示したとおり本件各投稿は、公共の利害に関する事実に係るものであって、専ら公共の利益を図る目的で行われたことが否定できず、摘示された事実のうち重要な部分が真実であることをうかがわせる事情がある。したがって、本件各投稿について、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないとはいえず、原告の名誉権を違法に侵害することが明らかであるとは認められない。
3 結論
以上によれば、原告請求は、その余の点(争点3)について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第34部
裁判官 池上裕康 印