天彗のエストレラ — 蒼き血涙と竜征王の戴冠 —

夢咲ラヰカ

プロローグ

 かわやに行きたくて目を覚ましたエストは、寝ぼけ眼をこすりながら寝室を出た。孤児が揃って寝ている部屋を出ると、ひんやりとした廊下には魔力を練り込んだ蝋燭が灯っていて、青い光を放っていた。

 石造りの廊下を進んでいると、エストは途中の扉が半開きになっているのを見咎める。

 それが妙に不自然で気になった。この教会のシスターたちは神経質な者が多い。ドアを半開きにしたまま出ていくなどあり得ないのだ。

 胸騒ぎがした。見なかったことにしろ、と本能が囁くのを聞いた。けれどどうしようもない好奇心が、エストを突き動かした。


 ドアを開けて中に入る。

 薄暗い部屋にもやはり魔力ロウソクの火が灯っていて、それに照らされるようにシスターが一人いる。


「シスター?」


 エストはその人影に近づいた。

 その人はエストがよく懐いている、姉のように慕っているハーフエルフのシスターだった。


「どうしたの?」


https://kakuyomu.jp/users/RaikaRRRR89/news/16817330665179361102


 シスターは宙吊りになっていた。首に括られたロープは天井の梁に回されており、修道服の裾から伸びる脚には盛れた尿が滴っている。

 エストにはそれがなんなのかわからなかった。いや、わかりたくなかった。


「っ、ひ……」


 それがエストが初めて見た死体だった。

 尻餅をついて奥歯をかちかち鳴らす。怖いというよりあり得ないという感情の方が大きく勝っていた。


「どうしたのかね」


 司祭ローエルが入室した。エストは青ざめた顔で司祭を見て、泣きついてシスターを指差した。彼も息を呑んで「なぜこんなことを……」と震えた声で漏らした。


 それからのことはよく覚えていない。

 けれどエストはこの一件で教会に不信感を抱いたのは事実だ。

 そうして間も無くしてエストは教会を飛び出し、ハンターとしての人生を歩み始めることになるのだった。

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