日本放送協会会長 稲葉延雄様
私たちは、女性と子供の人権と安全を求めるために活動している市民団体です。以下に、貴放送局に対する私たちの強い抗議の意思を表明させていただきます。
1
貴放送局は、公共放送でありながら、トランスジェンダー問題については一貫して、一部のLGBT活動家の言い分だけを無批判に放送し、放送法の第1条に定められた「放送の不偏不党」、および第4条に定められた「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という規定に真っ向から反する態度を取り続けています。
たとえば、本年7月11日に、経済産業省の50代の男性(戸籍は男性のままで未手術)の「トランスジェンダー」が、職場における女子トイレ使用制限の違法性を訴えた裁判の最高裁判決がありましたが、それに関するNHKの記事は次のようになっています。
「トランスジェンダー “女性用トイレの使用制限”違法 最高裁」(2023年7月11日)
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230711/k10014125111000.html)
この記事は、未手術の男性が職場と同じ階の女子トイレを使用することに対する女性職員の不安や尊厳については一言も報じておらず、性的マイノリティの権利が守られたという姿勢に終始するものです。そして貴放送局は、この判決を基本的に是とする側の学者や識者にのみ取材をし、被害を直接こうむる側の女性職員や、この裁判のもう一方の当事者である経産省に対していっさい取材をしていません。
実際にフリージャーナリストの斎藤貴男氏が経産省幹部に取材したところ、「周囲の女性職員は困惑している。自分の方が別のトイレに行くと言っている」「原告の職場には非正規の女性職員が多いので声を上げられるとは思えない」と答えたそうです(斎藤貴男「『経産省トイレ裁判』が残した課題」、『文藝春秋』電子版、2023年9月26日。https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h7035)。
また、今年の9月27日に、性同一性障害特例法の手術要件の撤廃の是非をめぐる最高裁大法廷の弁論が行なわれましたが、この裁判をめぐるNHKの報道は終始、手術要件を人権侵害であるとし、その撤廃を要求するLGBT活動家の主張を無批判に放送するものでした。たとえば、弁論前日の以下の記事がそうです。
「“戸籍の性別変更に手術必要”は憲法違反か 27日最高裁で弁論」(2023年9月26日)(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230926/k10014207021000.html)
この記事では、手術撤廃を求める側の主張については、小見出し付きで、そして何枚もの写真入りで、延々と紹介されているのに対し、手術要件が撤廃されたら圧倒的に被害をこうむることになる女性や子どもの立場からの意見についてはまったく報道されていません。かろうじて、「一方、別の個人や団体からは『手術要件は社会に信頼されるためで、要件がなくなれば混乱が起きる』などとして懸念を示す声もあります」と一言触れられているだけです。その別の個人や団体が、女性団体、あるいはトランスジェンダーやレズビアンを含む当事者であることさえ触れられていません。これほど一方的な報道があるでしょうか?
9月27日の弁論について報じた以下のNHKの記事も同じです。
「戸籍上の性別変更要件 最高裁で初弁論 前日に異例の『審問』も」(2023年9月27日)
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230927/k10014208211000.html)
この記事においても、やはり、手術要件の撤廃を求める側の意見だけが紹介され、手術要件の撤廃で被害をこうむる側の意見はまったく報道されていません。最も直近の事例としては、以下の記事があります。
「“性別変更には手術必要” 当事者など 最高裁に違憲判断求める」(2023年10月5日)
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231005/k10014216411000.html)
この記事では、手術要件を無くすべきだという一部活動家の主張を、インタビューを交えて詳しく取り上げおきながら、それとは異なった主張をするトランス当事者がいること、また当事者を含む多くの団体が手術要件撤廃に反対する署名活動を共同で実施し、1万5000筆を超える署名を集めて最高裁に提出したことについてはまったく無視されています。この手術要件撤廃反対署名については、『夕刊フジ』などが報道しましたが、貴放送局は完全に黙殺しました。
「戸籍の性別変更、再び憲法判断へ 手術要件めぐり最高裁 撤廃反対派「男性器のある『法的女性』あらゆるスペースに入れてしまう」(2023年10月1日)
(https://www.zakzak.co.jp/article/20231001-TFHYTE2P3BP45LMW24XD547C2Y/)
どちらの問題も最高裁まで争われ、国論を二分する大問題であるにもかかわらず、公共放送である貴放送局が一方の側の意見しか報道しないのは、まったくもって異常であり、明らかに、放送法に定められた「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という規定に反するものです。またそれは、女性と子供の安全・安心を著しく脅かす行為でもあります。今年の6月に成立したLBGT理解増進法の第12条には、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」との規定がありますが、貴放送局の放送は、この規定にも著しく反するものです。
2
次に、性について考える特別番組「松本人志と世界LOVEジャーナル」が10月17日にNHK総合で放送されることになっている問題についてです。松本人志という人物は、買春の常習者であることや(売春防止法で買春は違法)、子供を性的対象にしていることを公言してきた人物です。また、番組上で他のタレントにセクハラ発言をしたり、ある著作では、「自分の娘が輪姦されてもしゃあない、それは自分もやってきたことやから」という趣旨の発言をしている人物でもあります。また同番組に松本といっしょに出演している呂布カルマというラッパーに関しても、多くの性差別発言を繰り返し、女子風呂覗きなど性加害を容認するような発言をしている人物として問題にされています。これらの発言についてはすでに、ネットなどで大きな話題になっています。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6520a2ade4b09f4b8d402af3
https://news.yahoo.co.jp/articles/9c26e907bddabf53c558cc89bd8c8fcdf9107a64
(※現在は記事は消えています 元記事は https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2310/05/news120.html )
このような人物が、公共放送である貴放送局において、よりにもよって性を考える特別番組を持つことに、心からの驚きと恐怖を感じます。これは、貴放送局が、事実上、子供への性加害や買春を奨励しているとみなされても仕方がないでしょう。
出演者もさることながら、番組の内容も問題です。ある記事によると、「『セルフプレジャー(マスターベーション)』特集も展開する。スタジオでは驚きの進化を遂げている世界の最新のアダルトグッズや、女性を中心にブームになっている“聴くポルノ”を体感」となっており、性教育ではなく、むしろポルノや性産業を推進する内容となっているようです(https://natalie.mu/owarai/news/543611)。これが公共放送のすることでしょうか。これはまた、放送法の第4条に定められた「公安及び善良な風俗を害しないこと」という規定に真っ向から反するものです。
* * *
以上のことから、貴放送局が、公共放送でありながら、女性と子供の安全・安心、女性の人権と尊厳を二の次、三の次にしていることは明らかです。私たちはこのことに強く抗議をします。人口の半分以上は女性です。その女性の権利と尊厳を踏みにじる貴放送局の態度には心からの怒りと絶望を感じざるをえません。
貴放送局は、そのサイトにおいて、わざわざ放送法の重要部分を抜粋して掲載し(https://www.nhk.or.jp/info/about/broadcast-law.html)、放送法の第1条、第4条を掲げています。これらの規定に真っ向から反する放送を繰り返し行なっている現状は、言語道断です。
同じく同サイトには、日本放送協会(つまりNHK)に関する放送法の規定(第3章)も掲載されていますが、その第81条には、「協会は、国内基幹放送の放送番組の編集及び放送に当たっては、第4条第一項に定めるところによる」とあります。つまり、日本放送協会に対して、わざわざ「第4条第一項に定めるところ」にもとづいて「放送番組の編集および放送」を行なうよう義務づけているのです。この規定に真っ向から反する編集および放送を続けている貴放送局は、放送法の基本理念を踏みにじっているだけでなく、日本放送協会としての基本原則をも蹂躙していると言わざるをえません。また、同81条にはさらには、次のような規定があります。
「豊かで、かつ、良い放送番組の放送を行うことによって公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように、最大の努力を払うこと」
自分の買春経験、子どもへの性虐待願望、性加害行為の肯定などを吹聴しているタレントを中心にして、「性を考える」特別番組を編集して放送することが、いったいいかなる意味で、「豊かで、かつ、よい放送番組の放送を行う」ことになるのか、なぜそれが「文化水準の向上に寄与する」ことになるのか、私たちにはまったく理解できません。日本放送協会は放送法に基づいて存在している公的機関であり、今回のことは、NHKの存立そのものを危うくする行為であると言わざるをえません。
トランスジェンダー問題における偏向した報道姿勢をただちにやめ、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という放送法第4条の原則を守ってください。そして、常習的な買春者であり性加害発言を繰り返しているタレントたちを、よりにもよって性について考える番組に起用するのをやめ、「公安及び善良な風俗を害しないこと」という放送法第4条の規定を守ってください。そして、81条の「文化水準の向上に寄与するように、最大の努力を払う」という原則に立ち返ってください。
2023年10月9日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃