飛ばされてベルゼルグ城   作:全ての道はところてんに通ず

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注意:今回の話は虫、およびわりと気持ち悪い表現があります。お食事中の方は、ご注意下さい。

追伸:評価が赤になりました!これも皆様のご支援あってこそです!本当にありがとうございます!


六話 魔王軍邂逅

「...全然帰ってこないな、司書の人」

 

俺はアイリスにお茶を出しながら、そう呟く。

今現在、俺達が蔵書室に待機している時間は約1時間半である。もうそろそろ戻ってもいい時間だと思うのだが、

 

「もしかしたら、今回の魔王軍の襲撃はかなり大規模な物なのかもしれませんね」

 

案外あっさり言うものだ。

しかし、ここは国の首都なのだが、そんな所が夜間襲撃を仕掛けられるとか、もしかして戦況ってこっちが押され気味なのだろうか。

日本からのチート転生者が多くいてもまだ魔王軍が倒れていないところから見るに、魔王軍は相当に強力らしい。

転生者には、もっと頑張って欲しい。

チートはかろうじてあるにしても、スキルも、魔法も使えない奴が何を言っても仕方がないとは思うが。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

そんな俺の考えが顔に出てしまったのか、アイリスが不安そうに俺に尋ねる。場所と時間は違うが、出会った頃と同じ質問。俺があの時から全くと言っていいほど成長していないことを感じさせる。

 

「大丈夫だよ。さっきはちょっとショックだったけど、今はそれほどじゃないし、スキルとか魔法が無くても、まぁ、なんとかやってけるって」

「私は何が大丈夫なのかとは言ってないのですが」

 

気まずい沈黙が広がる。アイリスからの視線が痛い。

しかし、もうどうしようもないことなのだ。魂の不具合、そんなものを直せるのはもう神しかいない。しかし、魔王軍討伐に神が参加しないところから見るに、この世界には神が現界できない。もしくは、何かのデメリットがあるのだろう。であれば、俺が魂を修復できる可能性は限りなく低いと言うことになる。だから、もうこれは仕方ないのだ。

 

「...セイヤ様、あなたに、なにかしたいことはありますか?」

 

アイリスが突然、そんな事をきいてくる。

 

「したいこと?....したい事ねぇ....」

 

「はい、なにかありませんか?」

 

...したい事といわれても、俺には今、なにも無いんだよなぁ....。

もともと、俺は魔王を討伐するために異世界に来たわけじゃない。手に入れたチートを使って、あの駄女神に奪われた人生を、今度こそ楽しく謳歌したいだけだったんだ。

しかし、その夢は、またもやあの駄女神のせいで消え去った。今更、何をもって生きればいいんだろう....。

 

「アイリスにはあるのか?何かしたい事」

 

「私ですか?そうですねぇ....」

 

「お?もしかして俺に聞いておいて、アイリスもやりたいことはなかったりするのか?」

 

「いえ、そうではなく!そうでは無くてですね!」

 

アイリスは、腕をワタワタとさせながら俺の言葉を否定する。

 

「私には、国のことしか考える余裕はありませんでしたから」

 

そして、少し寂しそうにそんなことを......。

.....そうだよな。この子はいくら俺より年下だったとしても、一国の王女なのだ。今までロクなワガママも言わず、自分のことより、国のことを考えて生きてきたんだろう。

だったらーー

 

「アイリス、俺、やりたいこと一つあったわ」

 

「そうなんですか!ぜひ聞きたいです!」

 

アイリスは、興味津々とばかりに目を輝かせている。

 

「俺はーー

 

そして俺が口を開いた、その時。

突然、空間に穴が開く。そして、そこから大量のモンスターが現れる。彼らはゴブリン、スケルトンなど、さまざまな種類がいるが、その中にただ一人、明らかに人間であろう奴が混じっていた。フードを被っているため顔は確認できないが、このモンスターの中でさえ凄まじいまでの威圧感を放っている。どうやらコイツが、この集団のリーダーらしい。

 

「初めまして、俺は魔王軍の幹部が一人ーー

 

そして、その男が何か言う。その前に、

 

「アイリス、攻撃」

 

「『エクステリオン』!」

 

ーー人憑きのシュレイブニルでぎゃああああああああー!!」

 

不意打ち気味に攻撃を叩き込む。攻撃を受けたシュレイブニルと自称していた奴は、アイリスの攻撃を真正面から食らい、身体中から黒い煙を噴き上げてふらついているが、持ち堪えている。

それを見たアイリスが叫ぶ。

 

「セイヤ様!変です!私の攻撃が全く効いていません!」

 

いや、結構効いていた気がする。ぎゃーって叫んでたし。

 

そんな彼は、よろめきながらも。

 

「自己紹介の時は攻撃はしないものだろ!お前たちには常識ってものは無いのか!....まぁ良い。俺は人憑きのシュレイブニルという者だ。魔王様の命令で、お前を殺しに来た!」

 

そう言ってアイリスを指差す。どうやら、コイツはアイリスを殺しに来たらしい。...だったら遠慮はいらないな。

 

「本来だったら俺くらいのレベルであれば、お前程度など簡単に殺せる。しかし、俺は慎重な性格なんだ。だから俺は仲間を連れて来た。まずは小手調べにコイツらを差し向け、そのあと、俺がじわじわと嬲り殺しに....」

 

「アイリス、もっかい」

 

「分かりました!『エクステリオン』!」

 

「アバアアアアアアアアアア!」

 

何か言いかけていたシュレイブニルが悲鳴をあげ、まるで体についた火を消すかのように、地面をゴロゴロと転げ回る。

 

アイリスが慌てた様子で、

 

「セイヤ様!やっぱりおかしいです!あの人に私の攻撃が全く通用しません!」

 

いや、アバーって言ってたし、かなり効いている気がするが。

 

「じゃあ、もう一回」

 

「『エクステリオン』!」

 

「ちょ、ま、いやああああああああ!!」

 

「もう一度」

 

「『エクステリオン』!」

 

「ひょえええええええええええ!!」

 

「もう一本いっとくか」

 

「『エクステリオン』!」

 

「じぬううううううううううう!!」

 

アイリスの攻撃を何度も食らい、シュレイブニルはぼろぼろになっている。身体中から煙が上がり、出現した時に着ていたローブは、今やただの布切れとなっている。取り巻きのモンスターに関しては、アイリスの攻撃の余波で消え去っていた。

というか、コイツ黒髪ってことは、俺達と同じ転生者じゃねぇか。何でそんな奴が魔王軍にいるんだろう。まぁ、俺が気にする話じゃ無いんだが。

 

すると、プスプスと黒い煙を上げていたシュレイブニルが立ち上がる。

 

「よし、アイリス、やーー

 

「いい加減にしろやああああ!!ボケがああああああああ!!」

 

シュレイブニルは、堪忍袋の尾が切れたかの様に、そう叫ぶ。

 

「ふざけんなよテメェら!人が話をしているのにポンポンポンポン!いい加減にしろや!!」

 

完全に余裕そうな態度がなくなった彼はそう言って何かの魔法で剣を作りだすと、それを構え、こちらへと駆け出してくる。

ヤベェ!不用意に怒らせたからかアイツの顔めっちゃ怖い!

 

「アイリス!俺の合図でもう一回!」

 

「駄目です!もう魔力が!」

 

見れば、アイリスは地面に膝をついている。肩で息をし、剣を握る手も震えていた。

どうやら今まで打っていた技は、かなりの魔力と、ついでに体力を消費させる物らしい。

俺は、そんなアイリスを庇うように前に出ると、全身に強化を施し、シュレイブニルと相対する。

 

「....へぇ?次はテメェが俺の相手をするのか!」

 

「ああ、次の相手はこの俺だ!同じ転生者だからって容赦はしないぞ!」

 

俺は奴の振るってきた剣を躱して、空いた右脇腹に拳を入れる。しかし硬いな!拳から伝わってくる感覚がまるでコンクリートだ。しかし、怯んでいるところからみるに、ダメージは与えられているらしい。

それなら、攻撃の手を緩める必要はないだろう。

 

「オラオラオラオラオラオラオラ!!」

 

「くっ!このっ!ちょこまかと!」

 

俺は奴の剣を躱しつつ、さらに追撃を行う。

すると、奴は空中に無数の剣を作り出し、俺に向かって降り注がせてくる。

 

「あぶなッッ!!」

 

俺は身体のパワーを足に集中させると、バックステップを行い、それを躱す。

 

「はぁ、はぁ、多少は強いなオマエ...。アイツの言う通りだわ」

 

奴はそう言って肩をすくめる。というかコイツ、俺のこと知ってるのかよ。そうなると、この城には誰か魔王軍に繋がった奴がいる事は間違いないだろうな。アイツって言ってるし。

 

「だが、オマエは俺の敵じゃねぇ!取るに足らないザコなんだよ!」

 

「そうかいッッ!!」

 

俺は足に集中させたパワーを使い、自分の足元を蹴り地面を割ると、その破片を、奴の顔めがけて蹴り飛ばす。もちろん殺すつもりではない。たとえ奴がどれだけ自分の身を固くしているとしても、脳までもをガードできるわけじゃない。であるならば、奴の頭に衝撃を与え、脳震盪なり起こさせてやればいいと思ったからだ。

しかし、予想外のことが起きた。奴の頭に当たったその破片は、そのまま奴の顔を破壊し、そのまま貫通していく。凄まじい量の血が、奴の頭からこぼれ落ちる。

 

「え....な....」

 

どういうことだ。確かに俺はあの破片を全力では蹴らず、奴の強化した頭に脳震盪を起こさせるくらいの強さで蹴ったはず、奴が強化を解除したのか?一体何のために?というかどうしよう。敵とはいえ、人を殺してしまった。

 

『そら、スキができた』

 

俺が予想外の状況に混乱していると、頭を失ったはずの奴が喋りだす。

そして同時に奴の姿が俺の視界から消える。

 

「!? どこにーー

 

『ここだよ』

 

真後ろから声がする。振り向くといつのまにか奴はそこにいた。

コイツ、こんなに早く動けたのか!

 

『俺が速くなったって思っただろ。違う、違うぜそれは、オマエの反応速度が遅くなったんだよ』

 

「どういうことゲッハァッッ!!」

 

『人の話は最後まで聞くもんだぜぇ!常識ってもんが無いのかよ!』

 

奴に腹を蹴られ、俺の身体は二回ほど地面をバウンドする。

しかし、その痛みで俺は気づく。どうやら、あまりの動揺に俺は身体強化を切ってしまったらしい。

 

『転生者って変な存在だよなぁ。こんなに強い力を持っているのに、精神の方がまるで育ってない。俺が唯一強化してない頭を失くした瞬間、みんなお前みたいな反応をするんだぜ?チグハグだろ?』

 

お前だって転生者だろ!俺はそう言おうとする。

しかし、俺の目に入った光景は、その言葉を失わせるのに十分すぎるものだった。

奴の首から、首の二分の一ほどの太さのムカデが這い出してくる。

 

「....まさか」

 

『お?やっと気がついたかよ。そう、コイツは俺の身体じゃない、お前と同じ転生者の身体だぜ』

 

ムカデが笑う。コイツは、よりにもよって転生者の死体に寄生して意のままに操っているのだ。そのあまりに残酷な事実に呼吸が乱れる。

 

『だが今回の戦闘で随分とこの身体はぼろぼろになっちまったからな。いくらスゲー強い防御スキルがコイツにあっても、コイツはもう使い物にはならねぇよ。だからーー今度はお前の身体を使ってやろうかな?』

 

ムカデの身体から血管のような物が大量に突き出し、俺の身体を掴んで持ち上げる。俺を持ち上げるその身体が、俺の死を幻視させる。

 

「ダッ、ダメッッ.....!!」

 

すると、そこにアイリスの悲鳴が走る。

 

「あなたの目的は私です!だったらセイヤ様は関係ないでしょう!その人を離しなさい!」

 

『オイオイオイ!随分とまぁ健気なお嬢ちゃんじゃねぇか!』

 

ムカデは、俺の身体を離すと、アイリスの方へと身体を向け、ニヤリと笑う。

 

『だが、それを決めるのはお嬢ちゃんじゃねぇ。コイツだぜ』

 

そう言うと奴は再び俺の方へと身体を向ける。

 

『おい、セイヤ...とか言ったか...俺と取引をしないか?』

 

「...どういうことだ」

 

『何、簡単なことさ。お前は今後、俺達魔王軍の活動に一切逆らうな。この条件を呑んでくれるなら、俺はここでお前を殺さないでやる』

 

つまりコイツは暗にこう言っているわけだ。

俺にアイリスを殺すのを見逃せと。

 

「セイヤ様、ベルゼルグの王族は強いんですよ?私は大丈夫です。だから...」

 

『ほら、王女様もこう言ってるぜ?』

 

アイリスがそう言うのを、ムカデは嗤笑する。

俺はアイリスの目を見る。アイリスの目には11歳とは思えないほどの強い勇気が感じられたが、それと同時に深い絶望も感じ取ることができた。

そんなアイリスを見た俺はーー

 

 

 

 

「...あの子を見捨てれば...本当に俺の命は、助けてくれるのか...?」

 

その言葉に、ムカデは笑う。

 

『ああ、約束するよ。王女様の命と引きかえのギブアンドテイクだ』

 

「...そうか」

 

その言葉を聞いた俺は、握手をするように奴の手を掴む。

 

『おっ?そうかそうか、見捨てるのか!所詮人間はそんなもんだ!ここ一番で誰かを見捨てる醜いーー

 

「だが断る」

 

『は?』

 

俺は握っていた手を握り潰すと、強化した全力の拳を奴の胴へと叩きこんだ。




シュレイブニルはアイリスのエクステリオンを大量に受けて、あの強さです。

やっと戦闘描写が書けて、大変にホッとしております。ラブコメ?ラブコメは浜で死にました(真顔)

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