飛ばされてベルゼルグ城   作:全ての道はところてんに通ず

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そろそろ話を進めたい気持ちと、もうちょっと現状の表現をしたい気持ちとが合わさっています。ご注意ください。


四話 30代独身の女性に、恋愛のマウントをとってはいけない。それが気遣いというものだ

次の日。

俺はコンコンという、聞く者を不快にさせない大きさのノック音が聞こえ、柔らかな天蓋付きのベッドから目を覚ます。

 

「セイヤ様、お目覚めでしょうか。朝のお食事をお持ち致しました」

 

ドアの外から聞こえてきたその声に少しの間混乱するが、俺は昨夜のことを思い出す。

そうだった。俺は今日からこの城に暮らすことになったんだった。

 

「あっ、大丈夫です。もう起きてます」

 

そう返事をすると、失礼しますという返事と共に、執事服にキッチリと身を包み、片目にモノクルをつけている白髪の老人が、ワゴンのようなものを押して入ってくる。

 

「おはよう御座いますセイヤ様」

 

彼の名前はセバスチャンだろう。名前を聞かなくても分かる。絶対セバスチャンだ。雰囲気がそう言ってる。

 

「おはよう御座いますセバスチャンさん」

 

「ハイデルでございます」

 

ハイデルさんらしい。

 

「本日の朝食はレッサードラゴンのベーコンに目玉焼き、新鮮なキャベツをふんだんに使った野菜サラダでございます。付け合わせのパンはお好みの物をどうぞ。野菜サラダはきちんと〆たキャベツの他に今朝、農園の方で採れたアスパラガスを使っています。アスパラガスは攻撃力が高いので、反撃を受けないようご注意下さい。」

 

そう言いながら、彼は俺の部屋にあるテーブルに料理を配膳してくれる。

 

「何か食材のことで気になることはありますか?」

 

「すみません、パン以外全部気になります」

 

しかし多い、多いよツッコミ所が。レッサードラゴンのベーコンってなんだよ。ドラゴンって俺の記憶が正しければRPGでもボス格のやつじゃ無かったか?あときちんと〆たキャベツって何?〆てないキャベツがあるの?極めつけはアスパラガスが攻撃力高いってなんだよ!アスパラガスが攻撃してきて、しかもそれが致命傷になりかねないの!?

そう心の中で叫ぶが、当然答えは返ってこない。

まぁ、何もかもを気にしていたらおちおち飯も食えない。ここは異世界、多少元の世界と違うことが起きたって不思議じゃないだろう。

とりあえずまずは無難なところ、目玉焼きから食べてみよう。

そう思い、俺がフォークで目玉焼きを刺すと。

 

「キュー」

 

「いや、なんでよ」

 

思わず声に出してしまいハイデルさんに不思議そうな顔をされるが、こっちはもうそれどころじゃない。目玉焼きが、目玉焼きが鳴いた。何かがおかしい。何かが決定的に間違っている。

サラダはなんか蠢いてるし、どうして俺食事ごときにこんな神経すり減らさなきゃいけないの?助けて!神様!仏様!

...だが駄女神、テメーの助けは要らん。

 

 

 

 

「へくちっ!」

 

「どうしたアクア?風邪か?」

 

「外は寒くなってきましたからね。帰ったら暖炉に火をつけましょうか」

 

「私の上着を貸そう。何、心配するな。私的にはむしろご褒美だ!」

 

「違うわよ!誰かが私の噂話をしてるの!これは過去からのメッセージね!女神である私の目は誤魔化せないわよ?」

 

「「「......」」」

 

「...早く帰ろう。寒さのせいでアクアが壊れた」

 

「そうですね」

 

「そうだな」

 

「なんでよー!」

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこんな明らかに生態とかいろんなところが違うのに、味は前の世界と変わんないんだよ。しかも美味しいし。納得いかない、すっごく納得いかない」

 

無事料理を完食した俺は、使った料理の皿をハイデルさんへと返し、料理に対しツッコミを入れる。

 

「というか、食べちゃった後で聞くのもなんなんですけど、なんで俺はこんな高待遇を受けてるんですか?俺って確か、アイリス...様の護衛として雇われたんですよね?」

 

やばい、今まで人相手に様付けなんてしたことないからすっごい違和感がある。

 

「それについての説明も含めて、あなたにアイリス様からお話があるそうです。案内は...そうですね。彼女にしていただきましょうか」

 

そう言って彼は一旦部屋を出て、しばらくすると誰かを連れてきて再び部屋へと戻ってくる。

 

「部屋までは彼女に着いて行くと良いでしょう。ではお頼み申し上げますーー

 

 

クレア様」

 

アカーン!!その人アカン!チェンジ!チェンジお願いします!もっと愛想の良い子でお願いします!!

そんな俺の心の声は、残念ながらハイデルさんには届かない。

 

「それでは私はこれで。城内で何か困ったことがあったら、遠慮せず、なんでも相談してください」

 

じゃあ今!今相談させて下さい!今スゲェ困ってるんです!ハイデルさーん!!

 

しかし、ハイデルさんはそんな俺のサインに気づくことはなく、別の仕事へと行ってしまう。その途端、部屋の空気が戦場と遜色ないほどピリついたものへと変わっていく。早急にハイデルさんには戻ってきて欲しいところではあるのだが、贅沢は言ってられない。そのまま、彼女に道案内をしてもらうしかないだろう。

 

「えっと...じゃあ、お願いします」

 

「.....」

 

「あの...?」

 

「...付いてこい」

 

「あっ、はい!」

 

どうしよう。まったくと言って会話がない。というかどんな会話をすれば良いかが一切分からない。しかも俺コイツに嫌われてるから!

しかし、これから仕事をする中でわだかまりは最小限にしておくべきだろう。何より、このままだと俺の胃に穴が開きかねない。よし、何か言おう、いくぞ!

 

「...アイリス様って可愛いらしいですよね」

 

...何言ってんだろ俺。違うだろ!この状態でそれは違うだろ!やばい、やらかした!完全に言葉選びを間違えた!

 

「あの、いや、違うんですよ、今のはえっと、言葉のアヤって奴でその、慰められた時にですね、月明かりに照らされた顔が、そのー、そう!美しく!美しく見えただけです!他意は無いです!はい!」

 

もう俺はなにも喋らない方がいいんじゃなかろうか。言い訳するほど、どんどん積みへと追い込まれているような気がする。きっとクレアもカンカンに怒ってーー

 

「ーーてる」

 

「え、あの、すいません、やっぱ怒って「アイリス様の可愛らしさはッッ!!!私の方が分かってるッッ!!!」

 

ええええええええええ!?そっちぃ!?

 

「私はアイリス様が生まれた頃からずっと仕えて来た!私くらいの忠臣ともなれば、アイリス様が週にどれだけ背が伸びたか、アイリス様が日に何回あくびをしたか、アイリス様が食事の際に何回ピーマンを横に除けようとしたかまで全て!全て把握している!貴様ごときより、私の方がアイリス様の可愛さを100倍、いや、1000倍分かっているんだ!!」

 

「怖ぇ!怖ぇよ!」

 

あぁ、この人は駄目な人だ。というか多分、俺に最初やたら突っかかってきたのも、これが原因なのだろう。端的に言うなら、この人はアイリスの狂信者なのだ。

 

「そういう訳で貴様はこの私に楯突く敵ィッッ!敵とみなす!」

 

「どういう訳だよ!」

 

結局、俺はクレアに案内されている間、ひたすらにアイリスに関してのマウントを取られる羽目になった。ただ、案内はしてくれたので根は良い人なんだろうか?コイツのことがより一層よくわからなくなった俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。セイヤさん」

 

「おはようございます。アイリス...様」

 

クレアにひたすらマウントを取られつつ、目的の部屋へとたどり着いた俺は、中で待っていた王女様とぎこちない挨拶を交わす。そして、アイリスの隣にはいつものようにレインさんがいるため、彼女にも会釈をする。...返してくれた。ちょっとだけ空気が和んだ気がした。

 

「えっと、今日は何で俺を呼ばれたんですか?仕事の依頼ですか?」

 

「まぁまぁそう急がずに、紅茶でもどうぞ」

 

そう言ってレインは、俺に紅茶を入れてくれる。この高待遇も謎なんだよなぁ...。昨日通された部屋もそうだし、今日の朝食も、今のこの状況もおかしい。

 

 

「それで今日あなたを呼んだ理由なんですけど...あなたが国の判断でクビになったことの報告をしようと思って」

 

「ブッフゥッッ!」

 

あまりにスケールのデカいクビ宣言に、思わず紅茶を吹いてしまう。え、何、俺まだ何もしてないのにクビになったの?しかも国の判断で?イジメかな?労基はどこだ?訴えてやる。

 

「えっと、どういうことですか?」

 

俺は混乱しつつもそう彼女に説明を促すと、彼女は以下のことを説明してくれた。

どうやら、昨日俺が寝た後に開かれた会議で、アイリスの近くに男がいるのが自分たちにとって不利であると考えた貴族連中(ロリコンもいるかもしれない)が、俺が魔王軍の手先では無いかという疑惑を理由に俺がアイリスの護衛となることを反対。

それに対し、レイン達は俺の持っている力が城の防衛力を高めると発言。議論になったという。

結果、俺の立場は王女の護衛ではないがこの城を一部の制限を除き自由に歩き回れる客人という、よくわからない状態になっているらしい。

 

「貴族連中の一部は常にアイリス様の権力を狙っているのだ。まったく度し難い!」

 

そう言ってクレアは憤慨している。いや、でもあんたアイリスの権力は狙ってないけどアイリスの身体は狙ってるだろ。そっちもだいぶ度し難いよ。言わないけどさ。

 

「そういう訳であなたの立場は一応、現段階は客人ということになっています。客人なので、公式な場でなければ余計な礼儀作法や気遣いはいりません。たまに町の防衛に参加していただくことがあるかも知れませんが、それ以外は自由に過ごしていただいて構いません」

 

「まぁ、そういうことなら分かりました」

 

貴族連中の癇癪で決まったことだからすごい癪だが、結果としては俺の都合のいい方へと舵が切られたのだ。喜ぶべきだろう。

 

「よし、では、私は貴様が了承したということを上に伝えてくる。レイン、それまでアイリス様の警護は任せたぞ」

 

クレアはそう言い残して部屋から立ち去った。

 

「えっと、では戻ってくるまで何をしましょうか?」

 

俺がそう聞くと、その言葉を待ってましたとばかりに王女様が口を開く。

 

「では、外の話を!お城の外の色々な話をお願いします!」

 

どうやら、王女様はお城の外のことが気になるらしい。ただ、俺はそもそもこの世界の住人ではないから、きちんと伝えきれるかどうか分からない。それに、下手なことを話して王様とか偉い人にバレたら、冗談抜きで首が飛びそうだ等々、どんどん悪い方向に考えが巡っていく。

 

そんな俺の心配を見透かしたのか、王女様が微笑みながら。

「お父様は今、将軍やお兄様と共に魔王国との最前線となる街へ遠征に行っております。多少のことなら誰も咎めませんし、それに今であれば、不敬だと言う人も居ません。言葉遣いも、友人に話しかけるようなもので構いませんよ」

 

そう部屋のソファーに腰掛けながら言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレアが、さまざまな報告やら手続きを終え帰って来る。

「失礼します。....アイリス様、先程、いろいろな手続きを済ませて参りました。これで一様は彼が客人であると言うことが認められたので、報告を....」

 

俺が彼女達に話している創作話が、まさにクライマックスというところに。

 

「そしたら、先生は言ったんだ『だっ、駄目よセイヤくん!私達、先生と生徒で...』だから俺は耳まで赤くなった先生の首に手を回すと、そのまま.....っ!」

 

「わっ、わぁッッ///」

 

「そっ、そのまま.....っ!?そのまま、どうしたのですか.....っ!?」

 

「そのままどうした!アイリス様に何を何を教え込んでいる!ぶった斬られたいのか貴様はぁぁぁぁぁ!!」

 

クレアは、俺の話を前のめりになって聞いていた王女様を庇うように俺の前に立ち抜剣する。

 

「あんたに聞きたくもないマウント取られた仕返しだよ!後、この話はアイリスに是非にと言われたから何も問題はない!」

 

「貴様!アイリス様を呼び捨てにするな!王女様と呼べ!それと、先程のアイリス様への口の聞き方はなんだ!不敬だぞ!そしてレインは早く正気に戻れ!この状況をおまえが止めなくてどうするんだ!!」

 

「いったぁ!!」

 

クレアがレインの頭を叩く。スゲェ痛そう。

 

「待ちなさいクレア、セイヤ様には私から友達と接するようにと言ったのです。そ、それよりもセイヤ様、あなたは....!あなたは、耳まで赤くなった先生に、一体何をしたんですか!?」

 

「アイリス様、いけません!この話は聞いてはいけない話です!おい貴様!アイリス様にそのような話を吹き込むんじゃあない!!と、というか、おまえその年齢でなんてことを!!ハレンチだぞ!!」

 

俺はそんなクレアの叫びを紅茶を飲むことでスルーすると、

 

「まぁ、嘘ですが」

 

時間が止まったかのように、彼女達が固まる。

 

「まったく、そんな作り話に子供のアイリスはともかく、いい大人のクレアさんがいちいちそんな過剰反応しないでくださいよ」

 

「待ってください、セイヤ様!もしかして今までの話って全部作り話だったのですか!?」

 

「だって!クレアにひと泡吹かせてみたくて!」

 

後、アイリスがスゲェ過剰に食いつくから楽しくなっちゃって!

 

「....できるもん」

 

「「え」」

 

ふと気づくとクレアの様子がおかしい。いや元々おかしかったんだけどね?

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!!私だって本気になれば彼氏くらいできるもん!バカ〜!!」

 

そう言ってクレアは走り去ってしまう。なるほど、さっきのいい大人発言が原因か。どうやら、それ関連の話はクレアにとっては地雷らしい。

結局この日は俺がクレアの代わりを務め、1日仕事をする羽目となった。

その日の給料は、後でクレアに3割増しで請求した。反省はしていない。後悔もしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、一応私もいい大人なんですけど....」

 

ゴメン、素で忘れてた。

 

「ひどいッ!!」




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