pixivは2023年6月13日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴
pixivは2023年6月13日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴
「うわ、最悪…」
金曜日の夜、仕事から帰ってきて疲れた体を一刻も早く休ませるためにお風呂に向かった。シャワーをした時に毎月くる、あの違和感を感じてよく見てみたら綺麗とはとてもじゃないけど言えない赤色が流れていた。
(朝からお腹痛いってなってたのはこれか…予定日まだ先だからって油断した)
身体が冷えないようにしっかりと温めてからお風呂を出る。身体を拭いてパジャマを着て、スキンケアとドライヤーを済ませた。そして、生理痛が酷くなる前に薬を飲む。これでマシになることを願うしかない…
そこでふと思い出した。明日の予定について、だ。
すぐさま手帳を取り出してパラパラとページをめくり、明日の予定が書かれてるページを開く。
(うわ待って、嘘でしょ…)
今日の翌日、つまり土曜日の記入欄に《銃兎さんとデート》と書かれている。
「明日が一番のデッドデーなのに…」
私は2日目と3日目が一番痛みやだるさ、所謂生理痛が重くなる日だ。具合が悪い中、銃兎さんとのデートを心と体の両方から楽しむことができるかと聞かれたらはっきりと「YES」なんて言えない。
(…仕方ない、連絡しよう)
スマートフォンのメッセージアプリを開いて、銃兎さんとのトーク履歴を開く。
私》ごめんなさい、体調があまりよくないので明日のデートいけなさそうです…別の日でも大丈夫ですか?
と、送った。いくら大人な銃兎さんでも「生理なので」と言われるのは気分が悪いだろうと思い、嘘ではない「体調が悪い」と送った。
私の心の中はブルーだった。久しぶりに銃兎さんと会えると思っていたのに、生理痛に邪魔されるだなんて…こういう時だけ女に産まれなければ良かった、だなんて思ってしまう。
大きなため息をついていると、ピコン!とスマートフォンの方から鳴った。
銃兎さん》もし貴方の迷惑にならないのであればお邪魔したいです 体調が悪いのであれば、何もできないでしょうし
と返ってきた。
どうしよう…私は会いたいから来て欲しいところではあるけれど、銃兎さんに大きな迷惑がかかってしまう。しかも、風邪でもなく女の子の日だから情緒不安定になったり酷くわがままになることが眼に浮かぶ。これは銃兎さんに絶対に迷惑がかかる。
私》会いたいのでそれは嬉しいですが、銃兎さんに迷惑がかかってしまいそうなので大丈夫です!お気持ちだけ受け取ります
送信ボタンを押して、返信を待つ。すると、すぐに既読がついて『私は貴方のことを迷惑だなんて一度も思ったことありません 私も貴方に会いたいので、お邪魔させてください』と来た。
おおっとこれは…意外と強引な…珍しい…こんなに強引になるってことはものすごく会いたいって思ってくれてたりするのかな?いやいや待て待て、普通に考えてあの銃兎さんだよ?いくらウサギだからってないないない。
でも、せっかく来てくれるって言ってるし、あんまり断ってもアレだし!私も会いたいって言ってくれてるし!うん!!いいであろう!!
最初に決めていた「迷惑をかけたらダメ」という考えなんてあっという間になくなり「じゃあ待ってます!久しぶりに会えるの、とても楽しみです」と送って、私は布団に潜った
独特の酷い痛みから逃げるように、私は眠りについた。
* * * * * * *
ピンポーン、と部屋のインターフォンが部屋に鳴り響く。
「んぁ…?なに…」
寝ぼけ半分の頭で必死に現状を理解しようとする。だけれど体の重だるさにも邪魔されてなかなか理解できない。
すると、またピンポーンとインターフォンが鳴った。誰だ?と思いながら重い体を引きずってドアに近づく。
やっとドアにたどり着き、ドアを開ける。そこにはものすごくイケメンなメガネの男性が立っていた。
「……え、あれ?ん?銃兎さん?」
「…おはようございます」
ドロドロと出る血ではない、別の血がサーっと引いていく気がした。今ので目が一気に覚めた。
「あ、や、あ、おはようございます…」
今すぐここから逃げ出したい気分になった。銃兎さんが来るのを知っていたのにも関わらず爆睡して、メイクどころか髪の毛もボサボサのパジャマ姿。誰がどう見ても寝起きの姿だとわかる。恥ずかしい。
「…ごめんなさい、寝てました」
「だろうと思いました。家に入っても?」
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
ドアをもう少し開けて、銃兎さんを迎え入れる。だがその時にお腹に激痛が走って前屈みになってしまった。
「っ…たた…」
お腹を抑えながら動こうとする。だけれど、体は痛みに耐えられていないために動けない。早く銃兎さんを部屋に連れていかないといけないのに。
(やばい、どうしよう…どうしようどうしよう)
冷や汗もブワッと出てきた気がした。焦る気持ちと痛み、銃兎さんからの視線も感じて今の私にはいっぱいいっぱいの状態だった。
動けない私を見た銃兎さんは、すぐに私を抱き抱えて部屋の奥に進んだいき、ベッドに降ろした。
「ありがとうございます…迷惑かけてごめんなさい…」
「謝らないでください。わかっていますので、ゆっくり休んで」
そう言って銃兎さんは荷物を置いたと思ったら台所に向かった。
(…生理ってわかってるやつだよなぁ、この感じ)
ホッとした気持ちと、謎の気恥ずかしさに襲われる。銃兎さんは多分、こういう時になにをしたらいいかをわかっているんだ。
台所から戻ってきた銃兎さんに水と薬を差し出される。その薬は痛み止めだった。
「飲めば少しは変わるかもしれないので飲んでください」
水と薬を受け取りながら頷く。受け取って飲んだことを確認すると、銃兎さんはまた台所の方に戻っていった。
(…何してるんだ?)
袋を破く音と食器の音、そして水の音が聞こえる。何かを淹れてる…?
ポットとマグカップを持ちながら銃兎さんは戻ってきた。ほんのりといい香りがして、ポットの方を見ると小さなお花などがたくさん入っていて、とても綺麗である。
だけれどこれはなんでしょう?と聞かれても答えられるものではなかった。頭にはてなマークを浮かべると、銃兎さんが説明してくれた。
「ハーブティーです。気休めかもしれませんが」
少し蒸らしたものをカップに注いでもらって、受け取る。銃兎さんが「ハーブティー」だなんて言うと怪しさ満載ではあるが、今はそういうわけではない(と思いたい)から大丈夫であろう。
口に含むと、ほんのりとした甘さとカシスの香りがして、気分が少し落ち着いた。
少し冷ましながらちらっと銃兎さんの方を見ると、目が合った。気づかなかった。ずっとこっちを見ていたんだ…
「…あんまり見ないでください。こんなボロボロな姿」
「たまにしか見れないので、今の内に見ておこうかと思いまして」
…いい性格してらっしゃるわ、このお方。
グイッとハーブティーを飲み干して、コップをサイドテールに置いた。布団に潜り込んで、手をボフボフと布団に叩きつける。これになんの意味があるかと聞かれたら、手を握って欲しいという意味があると答える。普段なら自然と繋いでたり腕を組んだりするが、今は状況が違う。
私はベッドの横に座っている銃兎さんに甘えたくて、構って欲しくて仕方ない。迷惑が、とかそんなこともちゃんと頭には入っていたが、さっきほど重要視していない。ただの言葉として頭にあるのみだ。
「はいはい」といって、やれやれとも言いたげに手を握ってくれた。
銃兎さんの細長い、綺麗な手が好き。男性の綺麗な手、と言われたらこういう手!と言えるほど綺麗な手をしている。たまに痛々しい傷がついてる時もあるけれど。
銃兎さんの手にホッとしていると、だんだんと眠くなってきた。やばい、寝るわけにはいかん。
デートに行けなくなった上に出迎えが遅くなったり準備ができてないという、だいぶひどいことをやらかしてる。それでも薬を持ってきて、ハーブティーも買って淹れてくれたりした。そんな中、痛みから逃げたい、寝たい、という欲望が出てきてしまった。もっといえば、抱きしめながら寝て欲しいとまで思ってしまう。こんなによくしてもらってるのに、そんな中「抱きしめられながら寝たいです」だなんて言ったら流石に呆れてしまうかもしれない。
だけれど、どうしても三大欲求の1つである睡眠は我慢できない。目が半分くらい閉じてる感覚だ。
うとうととしているのを見た銃兎さんは「私のことは気にせず、寝てください」と言ってくれた。
「でも…よくしてもらってる…のに、寝る…のは…」
「いいから、寝てください」
「…呆れたりしない? 寝てしまっても」
「しませんから、安心して寝てください」
なんなんだ、この人は。寝ていいって言ってくれている。普通だったら怒ったり、呆れたりするはずなのに全てケアしてくれる。
…これなら、もう一つくらいわがままを聞いてくれるだろうか。
「わがまま…いいですか…」
ぼやっとした頭で、おぼつかない口調で聞いた。だめと言われたら手だけで我慢しよう。手を繋いでもらってるだけだ満足するべきなのだから。
「なんですか?」
「…ぎゅー、しながら寝た…いです」
一瞬驚いた表情を見せた銃兎さんだったが、すぐに穏やかな表情に変わった。
「いいですよ、もう少し奥の方に動いてくだされば」
いいのか…こんなわがままに付き合ってくれるの…
ぽろぽろと涙が出てきた。情緒不安定すぎて笑えてくる。普通の人ならこんなことで泣かないだろう。けれど、今の私にとっては嬉しくて仕方がないことだった。
布団に入ってきた銃兎さんは指で涙を拭きながら頭を撫でてくれた。涙を拭いた後、優しくぎゅっと抱きしめながらも頭を撫でてくれている。
「ありがとう…ございます…」
「いいえ、早くよくなるといいですね。おやすみなさい」
「おやすみ、です…」
考えてみたら、薬の副作用に眠くなりやすいと書いてあった。ハーブティーを飲んで体も温まり、睡眠を欲したのだろう。全て銃兎さんの計算通りで、眠くなって甘えることも予想通りだったのかもしれない。
(ありがたいなぁ…)
起きたらお礼をしなくちゃ、と思いながら夢の世界に入った。
私の彼氏には全てお見通しなのかもしれない。
めっちゃ甘くしたかったのになんか違うものができてしまった気がするので、いつかまたリベンジします…
銃兎さんのキャラが最近迷子です()
楽しんでもらえると嬉しいです。