「さまざまな葛藤を乗り越え、打ち明ける決意ができました。それは僕がゲイであることです」。約2000人のファンの前でそう語ったのは、AAAのメンバーであり、ソロ活動も行う與真司郎だ。今年7月26日にLINE CUBE SHIBUYAで行われたファンイベントで、これまで伝えることのできなかった與自身のセクシュアリティについて初めて公の場でカミングアウトを行なった。涙を見せながら話す與の姿に、応援や祝福の声や拍手が溢れ、この日から彼の新しい人生がスタートした。それから約2ヶ月が過ぎ、現在はアメリカ・ロサンゼルスで生活する與に、これまでどう自分のセクシュアリティと向き合ってきたのか、カミングアウトの決意、そしてこれからのことについて伺った。
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京都府出身の與は幼い頃から周りと自分は何か違うと感じながら過ごしていた。当時はインターネットが普及していなかったのもあり、自分自身のことを知るのには時間がかかったという。
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「テレビや雑誌を見ても、ストレート(異性愛者)であることが当たり前だったから、同性に惹かれる自分は人とは違うとずっと感じていたし、とにかくバレないように誤魔化し続けて生きていました」
中学校を卒業すると同時にエイベックスに所属し、親元を離れ芸能に専念することで、自身のセクシュアリティについて向き合うことから一度距離を取ることができていたという。そして2005年にAAAのメンバーとしてデビューし、日々グループの活躍を目標にメンバーとともに走り続けた。しかし年齢を重ねるにつれ、自分がどのように生きていたいかを考え始め、日本という場所では自分らしく生きられないのではないかという不安が與に生まれ始めた。
「AAAにはメンバーもいたし、たくさんのファンもいました。avexという大きい会社もあったし、家族もいる。僕のセクシュアリティをオープンにして生きることは、自分だけの話ではないとずっと思っていました。特に日本では顔も名前も知っている人がいる環境なので、プロフェッショナルな芸能人として、隠れて生きていかないといけないと感じていて、それが苦しく感じ始めた20代前半の頃に海外に行くことを視野に入れ、英語を学ぼうと決意しました」
その後初めて1人で訪れた地がロサンゼルスだった。そこで目にした「男性同士が道端で周りを気にせずキスしていた」景色に與は大きな衝撃を受けたと話す。それは当時日本で暮らしているなかでは、見ることのできない景色であり、テレビですら“お笑いとして消費されない同性愛者象”はあまり見ることができなかったことを考えると、アメリカでの景色は與にとってショックでもあり、希望にも感じたことだろう。
「今だったらいろんな映画やドラマのなかで同性愛シーンっていっぱいあるし、それに共感できたら『ゲイってなに?』と調べることができるけど、当時はそれが何もできなかったんです。だからその景色を見てすぐに勇気を持てたり、カミングアウトしようとは思えなかったけど、『自分は1人じゃないんだ。おかしいわけじゃないんだ』と気づくことができました」
その後2016年からAAAの活動と並行しながらロサンゼルスとの二拠点生活を送っていた與は、2021年のAAAの活動休止をきっかけにロサンゼルスに本格的に拠点を移した。誰もが年齢やセクシュアリティ関係なくフラットに話している様子に衝撃を受けながらも、アメリカに住み始めた当初は「AAAの活動もあったので、当事者コミュニティともなかなか出会えず悩んでいた」という。しかし、徐々に信頼できる友達ができ始め、メンタルヘルスについてや自身のセクシュアリティについても與自身が受け止め、肯定できるようになっていった。
徐々に家族やアメリカに住む友人にカミングアウトを行い、ありのままの與真司郎を生き始めていたが、ゲイであることを公にカミングアウトをするかは長い時間悩んでいた。その大きな理由はファンを傷つけてしまわないかという不安からだった。「カミングアウトすることで、ファンのみなさんを傷つけてしまうんじゃないか、甥っ子や姪っ子が僕のセクシュアリティが原因でいじめられるんじゃないか、お仕事をしているスタッフさんが困惑するんじゃないか、その結果キャリアがなくなってしまうんじゃないかと、このカミングアウトが自分だけで決められることではないなと感じていました」。そんな不安のなか、彼を解放させる原動力となったのも、またファンの存在だった。
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「僕にはファンとの思い出が本当にたくさんあるんです。ファンのみんなを近くで感じられることが僕はすごい幸せで、直接いろんなことを共有し合うことが大好きなので、トークショーも長く続けてきました。ここまでファンのみんなと絆を築いてきたのに、僕が怖いがために面と向かって伝えないのは、自分が今までやってきたことや伝えてきたことと矛盾してしまうなって感じたし、自分の口から伝えないと、違った形で認識されてしまう可能性もあるなと感じ、SNSや本ではなく、顔を見ながら直接カミングアウトしようと決めました」
「あんなに緊張すること一生ないんじゃないかな(笑)」と話すように、與自身ギリギリまで不安や恐怖と隣り合わせで過ごしていた。しかしファンからの反応は想像していたよりも肯定的なものばかりだった。「英語、韓国語、中国語、スペイン語…世界中からコメントやDMをもらったんです。『人生が変わった』『自分も家族にカミングアウトできました』など、たくさんのメッセージをもらって、今では本当にカミングアウトをしてよかったなって思います」。もちろん、なかにはネガティブな意見も届いたというが、それは「しょうがない」と與は語る。
「ファンのみなさんのなかには『本当に好きだけど、まだ受け入れることができません』っていう人もいました。でもそれはしょうがないと思うんです。受け入れられないかれらが悪いわけじゃないし、ゲイである僕が悪いわけでもない。僕がこのセクシュアリティを望んだわけではないので。でも今ではゲイであることに誇りを持っています。そのおかげでたくさんの友達に出会うことができました。このことを受け入れるまでに時間がかかるのは仕方がないと思うんです」
自分自身、他者のセクシュアリティを受け止めるのに時間がかかることは、與自身が長い期間自分自身を受け止めることができなかった経験があるからこそ、よく理解できるのだろう。そんな昔の自分に「時間はかかるけど絶対に分かってくれる人はいるから、焦らなくていい」と伝えたいと話す。
「日本で暮らしていたときは、ここからずっと抜け出せないんだって感じていたんですけど、一歩自分から動いて外に出た時に、全く違う世界が広がっていました。自分が苦しんでいる環境から抜け出す勇気を持つことが大切ですね」
自身の決断によって世界を広げ、ありのままの自分を取り戻した與は、カミングアウトと同時にソロ名義の新曲『Into The Light』をリリースした。「That voice inside my head telling me I was wrong(自分が間違っていると言い聞かせてきた)」「Now, I feel like who I’ve always been for the first time(でも今は本来の自分を取り戻せたような気がするんだ) 」と歌うこの楽曲はまさに彼が長い間過ごした暗闇から光の差す方へ進んでいく、過去、現在、未来を表している。カミングアウト(Coming Out)することで、光の方へ進んでいく(Coming into the light)という、ゲイであることを誇りに思えるようになった與だからこそ伝えられるメッセージだ。
「自分は1人なんじゃないかと思うことって、LGBTQ+の方だったら一度は感じたことがあると思うんです。僕自身もそう感じていたけど、同じように感じる人や、受け入れてくれる人は必ずいるし、そんな人と出会えることで人生は変わっていけるということを曲を通して伝えたかった。自分の性のあり方に悩んでいる人たちだけに限らず、今何か一歩を踏み出せない人がこの曲を聴いて、共感してくれたり、希望を持ってくれたら嬉しいです」
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同楽曲の収益の一部は、日本で初めて常設のLGBTQ+センターを運営するNPO法人プライドハウス東京と、性的マイノリティがありのまま生きられる社会を目指し教育事業とキャリア事業などを行うNPO法人ReBitに寄付される。こうして、自分自身のカミングアウトだけでなく、今を、これからを生きる性的マイノリティに還元されるかたちを選んだのには「自分自身も小さい頃にたくさん悩んできたから」という與の思いがあった。
「自分が小さい頃に感じてきたことが、少しでも減ったらいいなと思ったんです。今できることを考えたときに、まず当事者コミュニティを直接支援している団体に寄付することにしました。実際、日本で暮らすLGBTQ+当事者の方々と喋る機会がまだなくて。アメリカの現状は分かってきたんですけど、自分が生まれ育った国の現状を知らないっていうのが不思議な感覚です。なので、もっと勉強して、日本のLGBTQ+を取り巻く現状を知っていきたいですね。そのために自分も含めて当事者同士で話す機会が必要だと思っているし、その時を楽しみにしています」
ありのままの自分を受け入れた先に、他者へと目を向けることができるのは、多くの人たちの愛や支援のおかげで今の與が存在するからだろう。日本出身のアーティストで自身の性のあり方をオープンにし活躍しているアーティストはまだまだ少ないのが現状。そんななかで新たな道を切り開くことになる與は、今後も「人を幸せにしていきたい」と語る。
「自分らしく生きていくことで、自分を受け入れられなかった時には想像もできないことがたくさん起こると実感していて。1人でも多くの人が自分らしさを受け入れ、1人ではないと感じられることをアーティストとしても、1人の人間としても届けていきたいです。人が幸せでいてくれることが、自分の幸せっていう風に強く思っています。みんなで助け合いながら、楽しく生きていきたいですね」
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未だ日本では同性婚の法制化が進まず、今年6月には実質差別を容認し増進させる懸念が残るLGBT理解増進法(LGBT差別禁止法とは異なる)が施行されるなど、性的マイノリティ当事者の声が届かない現状に苦しむ人たちも多い。そんな日本で生きる当事者に向けて、與は最後に「自分を信じて生きて」とエールを送った。
「何度も言うけど、あなたは本当に1人じゃない。今は孤独を感じているかもしれないけど、勇気を出して今いるところから一歩踏み出してみることであなたを理解してくれる人が絶対にいるし、その人と出会うことを諦めないで。自分を見失わずに、信頼できる人を見つける人探しの旅に出てみてください。きっとあなたの人生が大きく変わるはずだから」
自身のセクシュアリティを涙しながらカミングアウトした與の姿を見て、性的マイノリティのなかでも男性特権を持つゲイ男性ですら、自分のセクシュアリティを受け入れることに時間がかかり、マジョリティに“受け入れてもらう”側であることを改めて突きつけられた。與のカミングアウトが多くの人に衝撃を与えた事実は、日本の異性愛規範や、アーティストが個人のストーリーを語る機会が奪われ続けてきたことを浮き彫りにしたように思う。彼の行動はこうした現状に変化や気づきを与え、誰もが自分の性のあり方によって孤独を感じることのない未来へと歩みを進めることになる。そんな未来を目指して、私たちも共に歩んでいきたい。
Credits
Starring Shinjiro Atae
Interview & Text Kotetsu Nakazato
Editorial Director Kazumi Asamura Hayashi
Photography Yoshimasa Miyazaki
Styling Taiji Goto
Hair and Make-up Maki Sato
Interview & Text Kotetsu Nakazato
Editorial Director Kazumi Asamura Hayashi
Photography Yoshimasa Miyazaki
Styling Taiji Goto
Hair and Make-up Maki Sato