9月30日に行われた「小沢健二 東大900番講堂講義」に行ってきた。同大学の副産物ラボ(中井悠研究室)が主催する「影響学セミナー」の一環として、「イメージの影響学」を講じるのだという。
当日は「思い思いのパーティーに向いた格好」というドレスコードがあり、懐中電灯などのライトを持参すること、とされていた。当日まで講義内容は全く明かされず、ライブを含む「アトラクションのような講義」とだけ聞かされていた。100Pを超えるオリジナルの教科書を使った講義はいったい、どんなものだったのか?
小沢健二が東大900番講堂講義で問題提起したこと「情報イナフな世界の中で我々は何を信じればいいのか?」
9月30日、シンガーソングライターの小沢健二が、自身の母校である東京大学駒場キャンパスの900番教室で講義を行った。三島由紀夫の伝説的な討論会の会場としても知られる、歴史ある講堂で繰り広げられた「アトラクションのような講義」とは、どのようなものだったのか。ワーキングマザーとしての情報発信で知られる一方、元フリッパーズ・ギターの二人(小沢健二と小山田圭吾)の活動を追いかけてきたライター、kobeni氏がレポートする。
この講義の直前にオンエアされた麒麟・川島明氏のラジオ番組「土曜日のエウレカ」最終回にゲスト出演した小沢健二は、講義を予告しながら学生時代を振り返っていた。東大駒場キャンパス在学中にフリッパーズ・ギター(最初は5人編成だが、その後小山田圭吾とのデュオになる)としてデビューした小沢は、アーティスト写真を撮られたその瞬間から、周囲によってパブリック・イメージをつくられていくことへの戸惑いを感じていたという。
その一方で大学では、「イメージの消費とは何か、イメージの経済的意味は」といったことを学んでいたそうだ。そうしたことを学びながら、自らがイメージを消費される実験対象のような存在だと感じるというのは、確かに貴重な体験だったに違いない。学生時代の知見をベースとして、現代に至るまで、「イメージ」がいかに人々の思いや行動に影響を与えるかについて、彼が学んできたことを「面白おかしく授業という形で伝えたい」と語っていた。
このように書くと、マスメディア論のようなものを想像されるかもしれないが、実際はそうではなく、もっと「大元」に迫ろうとするような講義だった。私たちが見ている世界は、いかに実際のそれと乖離しているか、信じられているものが実はいかにあやふやか、体系立てられているようで実はいかに混沌としているか、といった問いかけが、データや文献、日常的な具体例に基づき展開された。
そこで疑問視される(「必ずしも絶対的な真実ではない」と指摘することであって、「反対する・否定する」とは異なるので、そこはご留意頂きたい)のは、「科学」や「デジタル化された情報」、「西洋哲学を基にした考え方・物事の捉え方」などである。
具体例をひとつ挙げてみよう。
絶滅した緑色のモヘア
私たちは「デジタル化」について、「コピーして全く同じ内容を再現できる」とか、「全てを数値に置き換えられる」などと信じ込んでいる。たとえばパソコンの液晶モニターに使われている「RGB」は、Red・Green・Blueの三色をそれぞれ0から255までの256レベルでコード化し合成することで「全ての色を表現する」という表現手法だ。
しかしこのRGB色域では、「緑色の再現がかなり弱い」のだという。教科書の中では、紙の上に印刷された美しいグラデーションカラーチャートの上に、「RGBで表現できない色域」が隠れるシートを被せられるようになっており、ページをめくると緑色の淡いグラデーションの部分がかなり見えなくなってしまう。これについて「緑色の淡いモヘアの服はもうこの世から絶滅しているのではないか」と彼は話す。
確かに、iPhoneなどのスマホ液晶画面で再現不可能な色の服を販売する勇気が、今のメーカーにあるだろうか? スマホで見られない=この世に存在していないと同義、くらいに情報化された社会、「情報イナフ」な社会が今ではないか、と考えさせられる。
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