9月30日に行われた「小沢健二 東大900番講堂講義」に行ってきた。同大学の副産物ラボ(中井悠研究室)が主催する「影響学セミナー」の一環として、「イメージの影響学」を講じるのだという。
当日は「思い思いのパーティーに向いた格好」というドレスコードがあり、懐中電灯などのライトを持参すること、とされていた。当日まで講義内容は全く明かされず、ライブを含む「アトラクションのような講義」とだけ聞かされていた。100Pを超えるオリジナルの教科書を使った講義はいったい、どんなものだったのか?
小沢健二が東大900番講堂講義で問題提起したこと「情報イナフな世界の中で我々は何を信じればいいのか?」
9月30日、シンガーソングライターの小沢健二が、自身の母校である東京大学駒場キャンパスの900番教室で講義を行った。三島由紀夫の伝説的な討論会の会場としても知られる、歴史ある講堂で繰り広げられた「アトラクションのような講義」とは、どのようなものだったのか。ワーキングマザーとしての情報発信で知られる一方、元フリッパーズ・ギターの二人(小沢健二と小山田圭吾)の活動を追いかけてきたライター、kobeni氏がレポートする。
iPhoneの先祖はジャカード織⁉
また「情報をデジタル化する=全てを0と1の信号に変える」という行為の起源も説明された。コンピューターが登場する前、情報の記録は「パンチカード」で行われていた。見た目はマークシートのようなもので、穴の位置や有無から情報を記録するものだ。
それよりもっと遡ると登場するのが「ジャカード織り機」だ。ジャカードはよくカーテンの布とか校長室の椅子とかに使われている、なんかちょっと派手な、あれである。デジタル化の起源はなんと、布の模様を反復生産するための仕組みだったのだ。
コンピューターの起源とも言える?ジャカードにちなんで、今回の講義&ライブグッズにはジャカード織のバッグがあった
「iPhoneの大元になっているのは、あのカーテンの模様のやつ」と思うと、iPhoneが水に弱いのもなんとなく許せる気持ちになってくる(だって元は布だし)。また一方で、美しい夕焼けを見た時に、iPhoneカメラで撮影したらぜんぜん美しくなくて、「まあ、そうだよね…」と、写真を撮ったこと自体を後悔し、あらためて目に焼き付けようとカメラを下ろす、あの瞬間を思い出したりも…する。
なんでも分割管理したがる西洋文化
小沢健二は、長い沈黙を破り2010年に音楽活動を再開したが、音楽以外にも、執筆活動や「朗読」という形で様々な表現を行なってきた。その中には「西洋的思考だけを唯一の解と思ってはならない」というテーマが繰り返し出てくる。
それは約20年前に渡米し、長きにわたりアメリカに生活拠点を置きながら、南米、インド、アフリカなどのグローバルサウス諸国にも長期滞在した経験によって培われたものだ。今回の講義でも、西洋哲学の基礎となったプラトンの思想や、「divide and conquer(分断して統治せよ)」という概念について、疑問が投げかけられた。
どんな事象でも「絶対的に」「永遠・不変に」「規定ができる」「分割できる」「再現できる」という考え方自体、西洋的な価値観であって、それが場合によっては「デジタル化」や「科学」を盲信することにもつながっているのだ、と。西洋的思考というのは、世界中に当たり前のように蔓延しているため、もはや「西洋的」なものとは意識されないほどだ。指摘されないと、疑いもしない「常識」も多い。
しかしそれらは非常に危険なものだ、なぜなら「絶対」などこの世にないからだ、と彼は説明する。そして法科学の世界で「科学的」として人々が信じていた分析方法が、「非科学的」と簡単に変わってしまう事象や、デジタルツールであるSNSが暴走した結果、ヘイトスピーチによって少数民族の虐殺が助長される事態にまで至ってしまった、ミャンマーのロヒンギャ問題の例などが紹介された。
関連記事
小山田圭吾の”いじめ”はいかにつくられたか――活動再開の背景にあった女性ファンの「集合的知性」
小山田圭吾が炎上した”イジメ発言”騒動。雑誌による有名人の「人格プロデュース」は罪か?
小山田圭吾はなぜ炎上したのか。現代の災い「インフォデミック(情報感染拡大)」を考える
「音楽も自由競争がなかったら発展しない」圧倒的に嘘や見せかけがばれるようになった日本の音楽芸能。BE:FIRSTを手がけたSKY-HIが目指す「芯のあるエンタテインメント」
マネジメントのはなし。#3
新着記事
「あなたがなんとかしてくれるんですか」ひきこもり、不登校、家庭内暴力に翻弄される家族の叫び。そのかたわらで支援センターから脱出し自死を選んだ少年もいる現実
『ブラック支援』#2
【こち亀】定価15万円の高級駅弁も食べた覚えなし…「いちいち覚えてる方が気味悪いだろ!」
“絶対的エース”マルケスの離脱で、歴史的な低迷が続くホンダにさらなる試練【MotoGP】
知らない男たちが突然に家に入り、ひきこもり女性を拉致。民間の自立支援センターによる「暴力的支援」の恐怖。「引き出し屋」と呼ばれるその実態とは
『ブラック支援』#1
「星」を急激に下げた食べログ運営会社に店に対して3840万円の賠償命令。なぜグルメ雑誌・サイトは信用ならないのか「九州の人はバリ固ラーメンをさほど頼まない」
『過剰反応な人たち』#3