9月30日に行われた「小沢健二 東大900番講堂講義」に行ってきた。同大学の副産物ラボ(中井悠研究室)が主催する「影響学セミナー」の一環として、「イメージの影響学」を講じるのだという。
当日は「思い思いのパーティーに向いた格好」というドレスコードがあり、懐中電灯などのライトを持参すること、とされていた。当日まで講義内容は全く明かされず、ライブを含む「アトラクションのような講義」とだけ聞かされていた。100Pを超えるオリジナルの教科書を使った講義はいったい、どんなものだったのか?
小沢健二が東大900番講堂講義で問題提起したこと「情報イナフな世界の中で我々は何を信じればいいのか?」
9月30日、シンガーソングライターの小沢健二が、自身の母校である東京大学駒場キャンパスの900番教室で講義を行った。三島由紀夫の伝説的な討論会の会場としても知られる、歴史ある講堂で繰り広げられた「アトラクションのような講義」とは、どのようなものだったのか。ワーキングマザーとしての情報発信で知られる一方、元フリッパーズ・ギターの二人(小沢健二と小山田圭吾)の活動を追いかけてきたライター、kobeni氏がレポートする。
SNSは人を殺戮させてしまうテクノロジー
ここでまた、先のラジオ番組のトーク内容を紹介したい。パブリック・イメージと「素の小沢健二との乖離を感じなかったか」と川島に聞かれた小沢は、
「『フリッパーズ解散した』どうのこうのとかっていうと、僕と小山田っていう本人に目が向くわけですけど、大体のことは周り、周りの大人によって起こる」
「(芸能界、音楽ビジネスなどの周囲の大人について)その人たちは見えないことになっているんだけども、本人たちにとってはめちゃくちゃでかいことなんですよ。彼らはイメージを作るとか、表(おもて)を作っていくみたいなことに夢中になっていて。表面を取り繕っていくというか。それがすごい気になりました」
と語っていた。
一方的につくられたイメージの暴走は、SNS時代になってますます加速している。ロヒンギャの大量虐殺について、「SNSは人を殺戮させてしまうテクノロジー」だと語る小沢健二の説明を聞きながら、私は2021年に起きた小山田圭吾の炎上事件を思い出していた。
詳細は集英社オンラインの片岡大右氏の記事を読んでいただきたいのだが、あの大炎上の大元の原因は、まさに小沢健二が述べる「イメージ」そのものだった、と言っても過言ではないと思う。炎上の起因となった90年代の2つの雑誌の記事自体、それぞれの担当編集者が小山田に特定のイメージを押し付けようとしてつくられた部分が大きい。
しかしなにより、2021年夏に大炎上した際のSNSにおける、「イメージ」によって増幅された「悪意」の広がり方は凄まじかった。ある関係者が、小山田の炎上直後に配信イベントで「誰かが夜道で刺されるかもしれない」というようなことを言ったが、本当にそのくらいのことが起きそうだった。ミャンマーの虐殺はこの国でも全く他人事ではない。
こうなってくると、もう(SNSを内包した)iPhoneを「元は布だし」とか、簡単に許せるものではないように思えてくる。「元は布の柄かよ⁉」である。あまりにchaoticな危険物すぎて、みんな携帯電話は一週間に1回くらいしか触れないものにした方がいいのではないか、などと考えてしまう。
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