よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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11話 初めての学食

 教室に着くと、すぐにクラスメイト達から声を掛けられ昨日の件を尋ねられた。

 先生は何も質問に答えなかったと伝えると、すぐに情報は伝播し、各々が自分たちの推測について考えを交わし始める。

 

 ざわざわと教室各所で議論が交わされるのだが、やはり初日に目立ってしまったせいか、護と有栖に意見を聞きにやってくる者が多い。

 

「やっぱりポイントって下がるのかな?」

 

「クラス間の順位は、テストの成績で決まるのか?」

 

「二人って付き合ってるの?」

 

 何故か関係ない質問が混ざっていることもあるが、二人は一つ一つそれらの質問に答えていく。

 そして、ホームルームが始まる少し前、つまりほとんどのクラスメイトが揃っているタイミングで、葛城から全員に向かって呼びかけがかかった。

 

「皆、聞いてくれ。放課後少し時間をもらいたい。これからのことについて、一度クラス全員で話し合いたい。

 勿論強制はできないが、できるだけ残れる者は残ってほしい」

 

 話し合いの場を持つことが決まったからか、皆は今話すこともないかと思ったのかもしれない。

 以後、議論の熱量は下がり、会話は趣味や何の部活に入るかなど、親睦を深める内容へと変わっていった。

 

 もっとも、話す内容が変わっても、護と有栖に対する注目度はやはり高いためか、積極的に話しかけてこようとする者は後を絶たなかった。

 

 授業の合間の休み時間も護は辟易しながらもそれらに対応したため、あっという間に時間が過ぎていった。

 そして訪れた昼休み。

 

「よ、五条。一緒に学食いこうぜ」

 

 護に話しかけたのは、金髪を後ろで纏めた男子生徒、橋本正義(はしもとまさよし)だ。

 一見するとヤンキーのようにも見える風貌だが、社交性は高いらしく、空気の読み方が上手い。

 

「あー、わるい橋本君。俺、今日はコンビニでパンでも買おうかと」

 

 いざという時のため、ポイントを残しておきたい立場として、学食よりはコンビニでパンでも買った方が安いだろうとの判断。

 

「おいおい、せっかく立派な食堂があるのに初日からパンかよ」

 

 そんなことを言う橋本だが、別に学食へ向かう生徒が全てではない。

 半分以上の生徒は食堂に向かっているようだが、中にはパンや弁当を持ってきている者もおり、コンビニで何か買おうと話している声もチラホラ聞こえる。

 

 ふと、そこで隣の席の有栖からも声を掛けられた。

 

「そうですよ、護君。せっかくですから、ご一緒に食堂で食べませんか?」

 

 そう言った有栖を、面白そうに眺めながら、橋本は護の肩に手を置いた。

 

「ほら、お姫様からのお誘いだぞ。王子様」

 

「そういうの、やめてくれって」

 

 休み時間中も、有栖との関係を邪推する声は多かった。

 そのたびに護はやんわりと否定していたのだが、有栖の方はそれを面白がって「さぁ、どうでしょうか」などと、曖昧な言葉で濁していたため、未だに二人の関係を疑う者は多い。

 

「……わかった。行くよ」

 

 しばし悩む素振りを見せる護だったが、あまり固辞して雰囲気を悪くさせるのもどうかと思い、了承することにした。

 

 肩に置かれた手を軽く払いながら、席を立つ。

 

「うし、じゃあ行こうぜ」

 

 橋本がそう言うと、護は二人と一緒に食堂へと向かう。

 学食へ到着すると、やはり結構な数の生徒で混み合っていたが、食堂自体が広いため座る席はすぐに見つかった。

 焼き魚定食を購入して席に着くと、隣には有栖が座り、向かいには橋本が座り込んだ。

 席に着くなり、橋本は自分のエビフライ定食を頬張って目を輝かせた。

 

「お、旨い。やっぱ一流の高校はシェフの腕もいいのかね」

 

 護も自分が頼んだ食事に口をつけると、その言葉に同意した。

 

「確かに、旨いな」

 

「ええ、確かに」

 

 そうして三人は料理に舌鼓を打ちながら、しかし各々が周囲に対して観察するような目を向けた。

 

「結構いるな。山菜定食頼んでるやつ」

 

 最初にそう切り出したのは橋本。 

 山菜定食というのは、この学食の中で一つ異彩を放っていたメニューのことだ。

 料金0ポイントで注文できるそれは肉や魚が少しも使われておらず、成長期の高校生として進んで食べたいと思わない内容のメニューだった。

 

「ほとんどは上級生の方のようですね」

 

「やっぱ、ポイント変動は確定的か」

 

 橋本がそう言うが、護と有栖にとってその点はすでに結論が出ているため、今更な話である。

 

「五条はよく気付けたよな。あの先生の話だけで」

 

「偶然気付いただけだよ。実際有栖さんもわかってたみたいだし」

 

「そうですね。ただ私は護君ほど核心を突いた推測はできませんでしたが」

 

「二人とも大したもんだって。俺なんかそんな可能性、全く考えなかったからな」

 

(やけに持ち上げてくるな)

 

 護としては当たり前の指摘をしたつもりだったのに、それがこれほどの騒ぎになって、周りから感心したような視線を向けられるのだから、どうも落ち着かない。

 

「で、結局二人って付き合ってるのか?」

 

「また、それ?」

 

 今日何度目になるかというその問いに対し、護は橋本を鬱陶しそうに見やる。

 

「付き合ってない。なんだって皆そんなこと気にするかな」

 

「そりゃ仕方ねぇさ。花の高校生活。特に五条も坂柳も、単純に見た目が良いから目立つしな」

 

 二人のやり取りを横目に、素知らぬ顔で食事を進める有栖に護は苦情を投げかけた。

 

「有栖さんも、面白がってないで否定してくれない?」

 

「おや、護君は私と噂になるのは不満ですか?」

 

「お、坂柳の方はまんざらでもない感じか?」

 

「フフッ、さぁ、どうでしょう」

 

「また、そういうこと言う……」

 

 護としては有栖が何を考えているのか、いまいち読めなかった。

 出会った当初は、手駒として欲している雰囲気がありありと伝わったが、カフェの一件以降その雰囲気はなりを潜めている。

 

 まさか、本当に惚れたという訳でもあるまいと、護は有栖の意図を測りかねていた。

 

(無難な線としては、親しい関係とアピールして、周囲――特に葛城に対してけん制しているってとこだけど)

 

 今朝の話を信じるのであれば、有栖が護に求めているのは友人として立ち位置であるが、単純に仲良くなりたいにしては現在の距離の詰め方は露骨というか雑すぎる。

 

(いや、むしろ距離感を測っているのか?)

 

 時おり、有栖からは何か試しているような視線を感じる。それは値踏みするものではなく、護がどのような反応をするか、観察しているかのような感覚。

 

(……友達少なそうだもんなぁ)

 

 あるいは、有栖自身どのような距離感で接していいのか分からず、今も探り探りなのかもしれない。

 そう考えると不気味さも薄れ、多少は微笑ましく思えてくる。

 

「……なんでしょう。何故かとても失礼なことを考えられてる気がするのですが」

 

 さすがに鋭い。護の視線から思考を感じ取ったらしい。

 

「いや別に。とにかく、惚れた腫れたの話は勘弁してくれ。そういう話は苦手なんだ」

 

「おいおい、今時硬派気取んのは流行んないぜ?」

 

「生憎と、流行に振り回される趣味もないんだよ」

 

 と、そこまで話したところで、突然スピーカーから音楽が流れてきた。

 

「本日、午後5時より、第一体育館の方にて部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日――」

 

 そのアナウンスを聞いて、橋本は直前までの会話のことは意識からなくなったのか、すぐに話題を切り替えた。

 

「5時からか。クラス会議もそんなには掛からないだろうし、行けそうだな。お二人さんはどうすんだ?」

 

「俺はやめとくよ。部活に入る気はないから」

 

「でしたら、私もやめておきましょう。人込みは得意ではありませんので」

 

 確かに有栖の身体能力では、あまり人が集まるところに近づくのは、危険が大きいだろう。

 ただ、護としてはその言い回しが気になった。

 

「……その口振りだと、俺が行くなら行くように聞こえるんだけど」

 

「そうですね、私としては護君が一緒でしたら安心できますから」

 

(それは、ずるい言い回しだろ)

 

 それは聞きようによっては、行ってみたいけど護が行かないから我慢すると、言っているように聞こえてしまう。

 こちらの罪悪感を煽るような口ぶりに護が眉をしかめていると、有栖は面白そうにクスクスと笑った。

 

「フフッ、冗談です。今のところ、私も部活動には興味がありませんから」

 

「ああ、そう」

 

 実際に揶揄っているとわかってはいたが、護としては玩具にされているようでどうも面白くはなかった。

 

 そんな二人のやり取りを見ていた、橋本から呆れたように声がかかる。

 

「……やっぱ、お前ら付き合ってるんじゃねぇの?」

 

「付き合ってない」

 

 どこをどう見たら、そう見えるのかと、護は食事を口に運びながら、淡々と否定した。

 

 

 


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