よう実×呪術廻戦   作:青春 零

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10話 銀髪少女と登校

 1日目の夜が明けて。

 護は起きてすぐ、身支度を整えると、学生寮の自分の部屋まで転移してから部屋を出た。

 

(そういえば、今日はあの娘大丈夫なのかな)

 

 登校にあたって有栖のことが頭をよぎるが、すぐにその心配を振り払う。

 理事長からよろしくと言われてはいるが、別に甲斐甲斐しく世話をしろとは言われてない。別に護は有栖の保護者ではないのだ。

 彼女の身体能力は生来のものであるらしい。それを考えるなら今更登下校の心配をするなど、かえって失礼になりかねない。

 

(もう登校してるかもしれないし、待つこともないか)

 

 そのようにエレベーター内で結論付けた護だったが、そんな彼の思考はエレベーターを出てすぐに無駄になった。

 

「ごきげんよう、護君」

 

 学生寮のロビーの中。置かれたソファーに腰掛ける、有栖の姿がそこにあった。

 

「……おはよう。誰かと待ち合わせ?」

 

 他の友人ができたことに対する期待が3割。残り7割、諦めに近い感情を抱きながら、護は有栖に問いかけた。

 

「はい。護君とご一緒に登校したかったので」

 

 あっさりと、その期待は儚く散った。

 別に護は、頼られるのが嫌なわけではない。しかしこのままだと、いつの間にやら付き人のようなポジションに収まってしまいそうで、嫌な不安が湧いてくる。

 

 とはいえ。今は目の前の有栖である。

 

「そうかい。もしかして結構待ってた?」

 

「ご心配いただかなくても、先ほど来たばかりですよ」

 

 気を使っているのか本当なのか、その心情を悟らせない柔らかな微笑み。

 どちらにしても本人がそう言うならばと、護も特に気にせず言葉を返した。

 

「そ、じゃあ行こうか」

 

 立ち上がろうとする有栖に対し、まるでそうすることが当たり前であるかのような、自然な動作で手を差し出す。

 

 その手に対し、一瞬だけキョトンとした表情を浮かべる有栖だったが、すぐに笑みを浮かべ直すと、礼を言いながらその手を取った。

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 そうして、有栖の動作に合わせたゆったりした速度で歩き出す二人。

 

「そういえば護君。今のうちに話しておきたいことがあるのですが」

 

「……なに?」

 

 道中、ふと有栖の方から話が振られ、護は僅かに警戒心を抱きながら返事をする。

 

「今日、おそらくは放課後にでも、葛城君が昨日の件についてクラスで話し合いの場を持とうとするはずです」

 

「だろうね」

 

 放課後はさっさと見回りに行きたい護としては、内心で面倒くさいと思いながら同意した。

 

「その際、護君にも話を聞こうとするでしょうが、退学に関しての会話だけは誰にも伝えないでほしいのです」

 

「構わないけど、理由は?」

 

「現在Aクラスの方達は、クラス間で競い合う可能性について考えてはいても、発生するペナルティに関してはそう重くないと楽観視している筈です」

 

「……そうかもな」

 

 他のクラスメイトの視点で考えてみれば、確かに騙まし討ちのようなことをされた状況であるが、そうは言っても入学初日に10万も配るような学校だ。

 現在の待遇の甘さから、そこまで重い罰則が発生するとは考えていないだろう。

 

「けど、それなら猶更教えた方がいいんじゃないか?」

 

 退学を取り消す方法が存在する。それを教えれば、場合によってはペナルティの内容に退学が含まれている可能性があると、自ずと想像できるはずだ。

 

「護君、情報の価値とはしかるべきタイミングに明かしてこそ発揮されるのですよ。

 現在、これは新入生の中で、私たちしか持ち得ない武器になります」

 

「……具体的に、有栖さんは何がしたいの?」

 

「そうですね……まず、おそらく今回の話し合いですが、内容としてはさほど面白味のあるものにはなりません。

 せいぜい生活態度に関する注意喚起と、現在の情報を他クラスに漏らさないように箝口令が敷かれるくらいでしょう」

 

 そこまでは想像に難くない。情報が足りていない現状、とれる行動指針はそれくらいだ。

 これ以上、学校のシステムに関する掘り下げを行っても、無駄足に終わることだろう。教師陣が口を塞いでいる以上、上級生達も同じように口止めされている可能性が高い。

 

 護もおおよそ同じような流れになるだろうと予想はしていた。だからこそ、実のない話し合いに対して億劫さを感じていたわけだが。

 

「問題は、他クラスに対する箝口令です。護君は、これが守られると思いますか?」

 

 そう問われて、護はしばし考えてから返答する。

 

「……難しいかもな。他クラスに友人ができた場合、口を滑らせる可能性はある」

 

 クラスの人数は全員で40名。護と有栖、後は口が堅そうな葛城も問題ないとしても、残るは37名だ。

 仮に他クラスに友人ができ、その友人が湯水のようにポイントを使っていたとする。そこで忠告してしまう者がいないと、断言することはできない。

 

 Aクラスの生徒は全体的に真面目な生徒が多い印象だが、ペナルティに関して軽視している状況では「ここだけの話」という風に、友人に助言してしまう者もいないとは言い切れない。

 

「その通りです。明確な指導者の下に統率されているならば、問題はないでしょう。しかし今の段階で、指導者をたてるのも難しい」

 

「だろうな」

 

 まだ入学して二日目。互いのことをほとんど知らない状況で、自分たちのリーダーを決めろというのは無茶な話だ。

 ここまで話をすれば、護も有栖が何をしようとしているのか薄ら大枠が見えてきた。

 

「ようは、信頼できる人材を選定したいってとこ?」

 

「流石ですね。これだけのお話で分かっていただけるとは」

 

 おそらく学校のシステムが明らかになるとするなら、来月の二度目のポイント支給日だろう。

 それまでの1か月間を、有栖はクラスメイトの試金石に使うつもりだ。

 誰がどのように行動するかを見定め、有用な人材にのみ情報を共有し、結束力を高める。

 

 そうして自己の派閥を形成するというのが、有栖の狙いだろう。

 

 問題は、それを知ったうえで護がどうするかだが。

 

「……有栖さん、先に言っておくよ」

 

「はい、何でしょう?」

 

「俺はリーダーが誰だとか、クラス間の競争がどうだとか、そういうことに興味はないんだ。

 ただ俺としても退学はしたくないから、ある程度はクラスにも協力する。

 けど、それ以上のことはあまり俺に求めないでくれ」

 

 護にしてみれば、有栖の行動は勝手にやってくれというのが、正直な感想だ。

 しかしながら、有栖の方からはどうも護を手元に置こうとしているような気配が感じられる。

 こうして自らの計画を明かしているのも、信頼を得るためのパフォーマンスに見えた。

 

 だから護は念押しすることにした。

 

「君には、俺が頼られれば何でもするお人好しに見えるのかもしないけど、俺はそこまで善人じゃない。

 従順な手駒が欲しいなら、他をあたってくれ」

 

 足を止めて有栖に向き直ると、その瞳を真っすぐに見つめながらそう言った。

 すると、有栖は普段浮かべているような不敵な笑みではなく、どこか寂し気に見える儚げな笑みを浮かべた。

 

「護君は少し誤解していますね」

 

「誤解?」

 

「昨日言ったでしょう。お友達として、と。私はあなたを手駒とは思っていません。

 そのように見えたのでしたら謝罪しましょう。私自身、無自覚のうちに甘えてしまったみたいです」

 

 普段胡散臭い笑みを浮かべている有栖だが、護は今の言葉から嘘の気配は感じなかった。

 これが演技だとするなら大した役者だろう。少々警戒が過ぎたかと、何ともばつの悪い表情を浮かべる護。

 

「……いや、分かっているならいいよ。俺こそ悪い、少し疲れて気が立ってたから言葉がきつくなったかもしれない」

 

「フフ、気にしていませんよ。しかし疲れですか、何かあったのですか?」

 

「いや昨日の夜、あ――」

 

 ――兄が、と言おうとして、思い出す。

 つい普通の学校にいる感覚で話をしようとしてしまったが、この学校は外部との連絡を遮断している特殊な学校。

 兄と話した、なんて明かせるわけがない。

 

「あ、兄が夢に出てきて」

 

「お兄さんですか?」

 

 一瞬動揺した護の様子に有栖は首を傾げたが、護はできるだけ平静を装って、話を続けた。

 

「うちの兄は子供っぽい性格でね、夢の中までバカ高いテンションで話してくるから、どうも気疲れしてさ」

 

 我ながら苦しいと思いながらも、護はどうにか話をでっちあげる。

 

「はぁ……」

 

 何やらおかしなものを見るような有栖の目に、護はなんだか居た堪れない思いをしたが、幸いにも有栖はそれ以上、話を掘り下げることはなかった。

 

(いや、気抜きすぎだろ俺)

 

 らしくもないミスをしてしまったと、内心で自らに叱咤の声を掛ける。

 これ以上、余計なことは言わない様にと護は口を閉ざす。

 そしてしばらく、黙って歩き続ける二人だったが、ふと有栖が思い出したように声を上げた。

 

「ああ、そういえば、先ほど私が護君を善人と思っていると言っていましたが、それも誤解です。

 人の善意、全てを否定する訳ではありませんが、私は完全な善人などいないと思っていますから」

 

「ふぅん」

 

 随分と擦れた考え方だなと思いながらも、まぁ個人の価値観は人それぞれかと、特に気にした風でもなく言葉を返した。

 

「それじゃあ有栖さんから見て、俺はどんな人間?」

 

 客観的に見るなら、当たり前のように人助けを行う護の在り方は善人のそれであるが、護自身は自らを善人と評する気はない。

 別に気にすることでもないが、なんとなく有栖が自分をどう見ているのかが気になったので、そんなことを問いかけた。

 

「さて、それを理解できるほど、私達は関係を築けていませんから」

 

「それもそうだ」

 

 いくら、有栖の洞察力が優れていると言っても、出会って1日2日でその人の内面が全てわかるというなら、それは超能力者だ。

 

(呪術師が超能力者とか言うのもおかしな話だけど)

 

 そんなことを考える護の横で「けど……」と有栖が続きを口にした。

 

「けど、そうですね。印象だけを言わせていただくなら……護君は、先ほどお兄さんを子供っぽいと言っていましたが、私の目には、護君が子供のように見えました」

 

「は? 俺ってそんな我儘に見える?」

 

 言われた言葉に、割と本気で心外そうな表情を浮かべる。

 

「フフッ、そういう意味で言ったのではありませんよ。

 ただ、そうですね……いえ、やはりやめておきましょう」

 

「そこまで言われると、気になるんだけど……」

 

 思わせぶりなことを言いながら途中で口を噤んでしまう有栖に、護はジトッとした目を向けた。

 

「所詮、私が感じただけの印象ですから。うまく言語化できるものでもありません」

 

「……ああ、そう」

 

 どうも話す気はないらしい。

 護としても、どうしても気になるという訳でもない。

 それ以上、この話を掘り下げることはなく、二人は黙って学校までの道を歩く。

 

(俺が子供、ね……)

 

 所詮知り合って間もない少女が抱いた印象。

 気にするほどでもないことの筈だ。しかし何故か先ほどの言葉は、護の中にしこりのように残るのを感じた。

 

 

 




 どうも、インテリっぽい会話って、やっぱり苦手です。考えていると頭が痛くなる。
 何かおかしなところがあったら、申し訳ありません。

 一応、原作1巻の範囲に限っては、大まかな流れは大体考えました。
 あくまで予定ですが、多分、原作からかなりずれた展開になるので、そのうち原作ブレイクのタグも増やそうかなと思っています。

 投稿ペースはどうなるかな。暖かくなって仕事が忙しくなってきたので、少し遅れがちになりそうです。
 できれば2、3日に1回は投稿したいところでありますが。

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