うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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カフェ俺

 

 

 ムヒョヒョヒョ♡

 そろそろ正午を迎えようとした頃、自宅を出てバイクを走らせていると、街の至る所が人で溢れかえっていることに気が付いた。

 何かあったかなと逡巡するのも束の間、その答えはデパート外ののぼり旗に記されていた。

 

「新春初売りセール……あぁ、そういえば元日なのか」

 

 そういえば、という言葉を無意識にヘルメットの中で呟いてしまうほど、あまり実感が伴っていない。

 よく考えれば昨晩の淫猥全身ソーププレイを行ったのが大晦日当日であり、なんとかスゴ味で最悪の事態だけは回避したものの、結局は疲れからか新年を祝う事もなくそのまま就寝してしまい、やよいと樫本先輩も今朝にほんのり顔を赤らめながら家を出ていったため、正月を思わせるイベントが皆無だったのだ。

 タマモクロスを見送る際に『よいお年を』と発言したこともここでようやく思い出した。

 

 どうやら俺は貴重な年末年始の休暇の大半を、怪物との戦いやショタ化お姉ちゃんハーレム等で消費し、冬()()であるにもかかわらず全然休めていないらしかった。

 これでは冬休みというより冬働きだ。ホッ♡ 怪異への憤りで少しばかりイグッ♡

 

「はぁ、今年の冬は特に忙しかったな……餅もまだ食ってねえし」

 

 秋川家の都合でワチャワチャしていた年末年始も過去にはあったが、今回はそれを遥かに凌駕する忙しなさだった。

 ワガママを言っていいのであれば、コタツに入ってぬくぬくしながら雑煮をつついていたいところだ──が、そうは問屋が卸さない。

 

「……まあ大変だったのは俺だけじゃないしな」

 

 真冬の鋭く刺すような寒風を首に感じて身震いしつつ呟いた。

 俺一人があり得ないレベルで苦労した、で終わる話ではないのだ。

 たくさんの人々を巻き込み、現在はその事後処理でてんやわんやしているものの、結局これもいずれやらなければならない事であり、他のクラスメイト達のように正月というイベントを楽しむ暇は俺にはまだ無い。

 世間一般で言うところの()()()()()()へ戻るにはまだ早い、ということだ。

 

 メジロマックイーンを始めとする、この府中に残って俺を探してくれていた有志たちへの連絡は一応一本入れておいた。

 ウオッカ、ライスシャワー、アグネスデジタルにゴールドシップと、電話をしてきた俺に対しての反応は皆様々だったが、そこに安堵があったのは間違いなかった。

 特にウオッカちゃん辺りが普通に泣きそうになってた事も考えて、これから改めて顔を出して謝罪と感謝を伝えに行かなければならないのは確実だ。責任取ってお嫁さんに貰うのでね、よろしくね。

 

 ちなみに山田に会うのは一番最後に決めている。

 どうせウマ娘たちより自分を優先させたらあいつバチクソ怒るに決まっているので。

 とりあえず一旦電話だけは済ませておいた……が、ウマ娘の皆に顔を出したら、なるべく急ぎで会いに行くつもりではある。早く二人で話したいね親友。

 

 

 それから、まず誰よりも最初に会いに行くべき人物も決まっている。

 俺に対して明確な好意を抱いてくれていると判明したライスシャワーや、体を張って一緒に会場を守ってくれたデジタルたちと直接顔を合わせなければならないのは当然だが、それでも他の誰よりも優先して会うべき人物がいる。

 こうして正月にバイクを爆走させているのも、その少女の家を直接訪ねるためだ。

 

 大勢の人々で賑わう街の中心を抜け、目指していた閑静な路地に到着すると──そこに彼女はいた。

 

「っ!」

 

 休業中の張り紙が貼られている扉に背を預けて待っていた彼女は、俺のバイクの駆動を聞くや否や顔を上げた。

 ここは極端に人通りが少ない路地だ。

 見える範囲では、彼女の他には誰もいない。

 数か月前に()()()()()()()()()()()()たちが働いている喫茶店がある、と話題になった場所ではあるが、その店自体が休みとなると、やはりここはほとんどの人が寄り付かない裏路地になるらしかった。

 

 端に一旦バイクを停め、ヘルメットを脱ぐ。

 すると俺の顔を認識したその少女は、件の喫茶店を離れてこちらの方へ駆け寄ってきた。

 

「──葉月さんっ」

「うおっ……」

 

 挨拶をする暇など無かった。

 そのまま、俺は彼女を抱き留めた。

 

「よかった……無事で、本当に……っ」

 

 こちらの胸に顔を埋め、黒い髪の少女はひたすらに「よかった」と繰り返す。

 人の気配が少ない路地裏とはいえ往来で抱き合うのは些かマズいのではと思わないワケではないものの、現在の彼女の心境を想えばそんな事はあまりにも瑣末であった。

 

 ──暫し口を噤む。

 まだ言葉でやり取りするには早すぎると考え、俺は彼女のくびれた細い腰に手をまわし、あまり力を込めず静かに抱き返した。

 

「……ん」

 

 そこで一つ気がついた事があった。

 彼女の身に着けている服が些か冷たいのだ。

 

「……マンハッタンさん、外で待っててくれたのか」

 

 事前に尋ねることは伝えてあり、実際約束の時間の五分前に到着したわけだが、それでもこの少女は遠目で見た段階でも既に家の外で俯いていた。

 自宅を出てすぐであれば、ここまで身体が冷えているハズはない。

 どう考えても俺がここへ来るよりも更に前から、彼女はこの木枯らしが吹きつける寒空の下で一人待ち続けていたのだ。

 

「寒かったよな。遅くなってごめん」

「……っぃ、え」

 

 少女は──マンハッタンカフェは返事を返そうとして、一度喉を詰まらせた。

 焦らせないよう優しく背中をさする。

 急がなくていい。落ち着いて話してくれたらそれでいいのだ。

 そんな俺の態度を察したのか、彼女は数回ほど静かな呼吸を挟み、ようやっと顔を上げてくれた。あら近い。良い匂い。

 

「……私が、勝手にしたことです、から」

 

 そう言いながら見せた表情は、まだどこか陰りのある不安そうな色をしていた。

 こうして実際に触れ合っていても、マンハッタンは明らかに寂しげだ。

 今はこんなにも近くにいるにも関わらず、心の距離は未だに離れているように感じる。

 

「──ッ!」

 

 そこで俺はマンハッタンの頬に湿布が貼ってあることに気がついた。

 

「マンハッタンさん、その湿布……」

「あっ……こ、これは、以前の怪異との戦いで……平気です、特に痛みなどはありませんので……」

 

 彼女は努めて平気そうに振る舞っているが、それが誤魔化しであることは当然俺にも分かっている。

 

 ──傷だ。

 俺が姿を消したあの日から、彼女はずっと一人で傷つき続けていた。

 心が砕け立ち直れなくなった友人の代わりに。

 勝利者としての振る舞いを世界に求められ続ける戦友の代わりに。

 自分を危険から遠ざけるために、一人の男と共に無謀な闘いに身を投じてこの世界から消え去ってしまった、最も大切な()()の代わりに。

 

「──」

「っ! っ、は、葉月さん……っ!?」

 

 今一度、改めて彼女を抱擁した。

 あくまで受け止める形だった先ほどとは異なり、今度は自ら少女をその腕に抱いた。

 

「ありがとう、マンハッタンさん」

「えっ……」

 

 そこにあるのは誰かの為に自らを犠牲にできる、そんな誰よりも強い少女への、ただ純然たる感謝のみだった。

 

「俺たちがいない間、この街を護ってくれて……ありがとう」

「……っ!」

 

 言いながら改めて腕に力を込める。

 嬉しさや罪悪感など、胸中に渦巻く全ての感情を混ぜて一つにし、抱擁に込めた。

 強く確かに、抱きしめた。

 そんな俺からの少々いき過ぎた感情表現を受けて、マンハッタンカフェは──

 

「……葉月、さん……」

 

 拒絶することなく、そっと俺の背中に手をまわし、彼女もまた抱き返すことでそれに答えてくれたのであった。絶対に俺のこと好きじゃん今後一生そばにいろ片時も離れるな。

 

「──」

 

 十秒か、一分か、どれほどの間彼女をギュウ~~~~ッ♡♡♡♡♡♡としていたのかは定かではないが、少なくとも自分たちが満足する程度の時間はハグをしていた。

 なんか空気に身を任せて手を出してしまったが割ととんでもない事してないか俺。この女を娶りたいのは本心ですが……。

 

「あっ、あの……葉月さん……」

 

 ようやっと満足して一旦離れると、マンハッタンカフェは少々モジモジしつつ腕を後ろに組み上目遣いで俺を見つめてきた。ホーム画面。

 

「儀式を……解呪の、儀式を……しましょう……」

 

 その突然の提案に驚きはした──が、それよりも彼女が()()()()()を見せてくれた事を喜ばしく思った。

 ここで再会するより以前の沈鬱に俯くしかなかった状態とは異なり、今のマンハッタンは感情をそのまま表に出してくれている。

 それが嬉しかった。

 それにひたすら安堵した。

 俺もようやく『よかった』と思う事が出来た。

 

「えぇと……理由はいろいろと、あるのですが……と、とにかく」

「人のいない場所へ移動、だろ」

「っ! ……は、はい。その通りです……」

「じゃあ、とりあえずはいつも通り俺の家でいいか?」

「そうしましょう……」

 

 ショタ化して以降ずっと凍り付いていた不安な気持ちが少しずつ溶けていくのを感じる。

 これがいつも通りの流れになっているのは、世間一般の常識で考えると多少はおかしいのかもしれないが、それでもこれが俺の青春の色であり、築いてきた日常の形だ。

 紆余曲折どころの騒ぎではない道のりだったが──やっと俺はここへ戻ってくることができたのだ。

 

 

 

 

 バイクの後ろに彼女を乗せ、ちょっとだけ買い物を挟んでから帰宅しても、外はまだまだ明るかった。

 しかし肝心の部屋自体は真っ暗だ。

 いつも儀式を行うときは夜でも部屋を明るくしていたが、マンハッタンからの要望でカーテンを完全に閉め切っているのだ。

 なんでも『暗いほうがいい』とのことで。えっちなことする前のセリフじゃん。もっと隅々までよく見せろオラッあっごめんなさっ。

 

「葉月さんの身体は……まだ、全快したわけではありません」

 

 そうなの? ショタ化して以降延々と続いてきたエロイベントの数々で俺の情動は全力全開ビキビキですが。昨日やった事なんてもう九割交尾だろいい加減にしろ。

 

「肉体の年齢は元に戻っていますが……先ほどお話しされたように……タマモクロスさんに魂の一部を譲渡していますので、回復速度が遅くなっています。この程度であれば自然回復を待てば治りはしますが……現在の弱っている状態だと呪いが活性化しやすいです」

 

 まくし立てるように説明するマンハッタン。わたわたしててかわいい。落ち着いてゆっくりでいいよ。気絶しろ。

 

「なので……一応保険という形で、今日のうちに呪いの効力を弱めておきましょう……」

「……とりあえず理屈は分かったよ。……で、ちなみになんだが、この呪い自体はあとどれくらいで消滅するんだ?」

 

 以前から気になっていたのだ。

 儀式のおかげで弱まる事はあっても、呪いが無くなる予兆は全く見えてこない。

 このまま女子たちに儀式という名の変態イメプレをさせ続けるのは心が痛むので、できればそろそろコイツには仕事を終えて頂きたい。

 

「クリスマスの戦いでカラスの怪異も相当ダメージを負ったようですし……もしかすれば、残り一、二回程度で消えるかも……と言ったところでしょうか。後でスズカさんやドーベルさんにも共有しておきます……」

 

 後で、というか別に今すぐ連絡してもいいくらいのビッグニュースだが。ついに忌まわしいカラスともおさらばじゃん。お祝いしよう! ハッピーウェディング♡

 

「葉月さん、こちらのペンダントを……」

「サンキュ。よろしくな」

 

 久しぶりに俺は黒い宝石の首飾りを身に着け、既に乳白色の石のペンダントを装着しているマンハッタンの隣に座った。

 

「では……始めましょう……」

 

 そうして随分と久しぶりな解呪の儀式が幕を開けたのであった。ド緊張。

 

「ぅおっ──」

 

 このペンダントを装着して頭がフワフワする感覚も久しぶりだ。ユナイトのデメリットには多少慣れた俺だが、こちらは未だに現役なようで理性の緩みには対抗できていない。

 とはいえ解呪の儀式自体は何度も経験しているのだ。

 俺だけではなくマンハッタンもコレがどういう流れになるのかは知っているので、聡明な彼女の事だからこれを提案した以上は対策案も既に考えてあるに違いない。

 というわけで精神自体は完全に安心しきっている。

 ここはカフェちゃんに全部を委ねますね。よろしくねお嫁さん。

 

「腹部に触れます……体に異常を感じたらすぐにお申し付けください……」

「あ、あぁ。悪いけど今日は頼む」

 

 そう言って深呼吸と共に全身から力を抜き、壁に背を預けてリラックスした。

 これまでの儀式の経験で分かったのは()()()()()()()()という事だ。

 マジで動物園のパンダレベルでボーっと呆けていれば、誰に手を出すこともなく微睡んでいるうちに儀式は終わる。

 

「……この硬いお腹に触れるのも、随分と久しぶりな気がします」

 

 なんか暗い部屋で静かにウトウトしようと思ってたら隣からしっとり囁きASMRが聴こえてきている。どうなってんだよ。

 

「葉月さん……」

 

 耳元でコショコショ話しながら、いつの間にかマンハッタンは俺の左腕に抱きついていた。おぉピッタリ密着隙間なし。これだと肩も凝るし男もみんな発情するでしょう。悪辣で非常識。

 

「ど、どうした?」

 

 まだギリ残っている理性を振り絞って、様子のおかしいマンハッタンに声をかけたものの、彼女は離れることなく俺の左腕にくっ付いたままシャツのボタンの隙間から手を入れて腹部を触り続けている。

 確か、呪いを吸い出す白ペンダントを装着している方にも、多少は悪影響があって理性が緩むという話があった気もするが、それにしたってまだ始めてから五分も経っていない。一体どうしたのだろうか。

 

「……ごめんなさい。……本当は、もっとしっかりした姿を……態度を……見せるつもりだったのに」

 

 耳元に囁かれている俺は横を向くことができず、されるがまま彼女の突然の独白を聞くしかない。ちなみにその間も腹筋を柔らかい指が撫で上げています。葉月タワー屹立、スタンバイ。

 

「あなたの代わりに府中を護って、私に任せて大丈夫だと、そうハッキリ言いたかったのに」

 

 耳が孕むようなカフェ・ヴォイス。全身から香る甘い匂いと腕に伝わる肢体の柔らかさ。こんな猥褻な身体でメス・フェロモンを地球全土にバラマキやがって……徹底的にイかせて確実な妊娠を我が物に……イケ! イケ!

 

「ごめんなさい……あなたを待つ間、ずっと、ずっと不安だった。……寂しかったんです」

 

 マンハッタンカフェは尚も少々シリアス風味を効かせた語りを続けているが、俺はクリスマスから今日までほぼ一秒たりとも一人きりになる時間がなく、スケベシーン満載のおねショタADV(今春発売予定)でマックスボルテージに達した欲情を発散することができていないため、正直ほとんど話が入ってきていない。

 

 なので、聞き取れたのは()()()()()というワードだけだった。

 だが、それだけでも十分だった。

 

「──ありがとう、マンハッタンさん」

 

 口から出たのはオメェ本当に子供作る儀式おっぱじめるぞという性欲に敗北した獣のセリフではなく、非常に凡庸で素朴な感謝の言葉だった。

 このギリギリ状態の自分がそれを口にできた事には、俺自身も驚いた。

 

「…………えっ?」

 

 それを受けた少女は困惑した。じゃあここからは俺のステージだ。我こそが戦国一の種付けおじさんである! 来るべき激アクメの下準備をせよ!

 

「寂しい、って言ってくれてありがとう。……正直に言うと、俺も戻ってくるまでは不安でいっぱいだったんだ」

 

 隙あらば自分語り。おい心して聞け! 総てを知るこの世界の語り部の言葉をな。愛してる。そしてマンハッタンカフェは嫁に貰われたとさ。めでたしめでたし。子供の人数はもう少し考えさせてください……来週までには提出するんで……。

 

「……自分の弱さを見せられる相手って、そんなに多くないだろ。だから今日まで無駄にカッコつけてたんだが──やめるよ」

 

 ペンダントを言い訳にはしない。

 彼女が弱さを見せるという勇気をもって接してくれたからこそ、俺も自らを曝け出す覚悟ができたのだ。おっぱい。

 

「マンハッタンさんが言ったように、俺も寂しかったんだ。心細かった。()()()もどこかへ消えて、本当の意味で一人になってようやく自覚できた。……俺は全然強い人間なんかじゃないって」

「……そんな、葉月さんは決して……」

「別に自分を卑下してるわけじゃないんだ。ずっとこのままでいるわけにはいかないだろうが……今だけはコレでいいって思ってる」

 

 天井を見つめながら、一拍置いて俺は続けた。

 

「こうして隣にマンハッタンさんが居てくれてるから」

「……!」

 

 なんかいろいろ言ってるけど髪の匂いと手の感触を楽しむことにもリソースを割いています。そろそろ本当にタワーが建設されてしまうかも。バトルフロンティア。

 

「謝る必要なんてないよ。むしろ、弱さを見せてくれてありがとう。おかげで俺も寂しいって言えるし……マンハッタンさんも寂しいって思ってくれているからこそ、そんなきみが今一緒にいてくれているこの状況がたまらなく嬉しいんだ」

 

 自分でも何言ってんのかワケ分からんが、思考能力を奪われている以上はフィーリングで喋る以外に方法はない。ちょっと太ももの上で手のひら休ませてね。うおっスッゲすべすべ。交尾向きの身体……よしと……。

 

「弱くていい、寂しくていいんだ。お互いの存在を必要としよう。強くない部分は、一緒に補い合っていこう」

「……葉月、さん」

「ずっとそうしてきたんだろ? ()()()と」

「──ッ!!」

「仲間外れは寂しいからさ、俺も入れてくれよ」

 

 そして百合に挟まる男を宣言した。罪状的に終着点は断頭台かしら。こ、ころさないで……ぷるぷる……。もじ……もじ……♡ だぽんっ。

 

「寂しいから、ちゃんとアイツの事も迎えに行こう。なんつーか……俺たち、やっぱ三人じゃないと」

「…………はい」

 

 マンハッタンは小さな声で返事をすると、俺の肩に体重を預けた。これはA判定も近いな。

 

「はい……そうですね……」

 

 噛みしめるように呟いたその声音は、今日見せていたあの不安げな色でもなければ、逃げるように縋る熱もなく、ただ心から安心を実感するものであった。生意気な女だ。路傍に咲く花のように美しい。

 

「……きっと、あの子も待っていますから」

「あぁ。……アイツが俺と一緒になってから、引き剥がしてばっかでごめんな」

「いいえ、葉月さんだからこそあの子は傍にいるんです。葉月さんとなら……私も、一緒にいたいと思えますから……」

 

 ここまでの俺の発言も危うかったけどカフェちゃんのそれもだいぶ告白のセリフではないかしら。あっつぅ……好き好きオーラでほっかほかだな。そんなんで平和が守れるのかよ? 秩序が守られるのか!? ブチ娶るぞウマ娘。慌てなくていいよ僕だけのマイハニー♡

 

「……すまん。そういや帰ってきてから暖房をつけるの忘れてたな」

「構いません……こうして隣にいるだけで……とても温かいですから」

 

 アレちょっと興奮気味かな? エッチだね。度を越えた密着もいいね。ワシの形にフィットしているね。困ったもんだ。

 

「なぁ、マンハッタンさん」

「何でしょうか、葉月さん」

 

 ふと隣を見ると、もうそこには安堵しきってふにゃけた笑顔になっているマゾ雌しかいなかった。密着対話ってよくアクメを伴っちゃうんですよね~落ち着いて全部アクメしましょうね~。

 

「ペンダント……もうとっくに容量一杯になってるけど」

「はい……そうですね……」

 

 不思議なことに儀式が終わってもマンハッタンは離れない。腹筋に触れていた手は、徐々にスーッと上へ上がっていき、遂に俺の頬に添えられた。

 俺の肩は完全に彼女の胸元と密着しきっており、冷静に感じ取ろうとすればマンハッタンの心臓の鼓動をも肩で感じることができる状況だ。重要文化財指定。

 

「まだ、触れていたいので……こうしています……」

「……っ」

 

 というかめっちゃ普通に興奮しちゃった。

 喉の奥が乾く感覚を覚えた。

 臍の下というか、下腹部が熱くなるのを感じる。

 ぞわぞわと全身が小さく震え、欲望としか形容できない巨大な感情が奥底から湧き上がってきている。

 

「──葉月、さん」

 

 マズい、ビーストになる。

 というか雰囲気に身を任せてこのままだとNSFWのCG回収が捗っちゃう。成人向けPCゲーム版発売を記念して特別イラストの描きおろしをどぼめじろう先生に依頼しちゃう。

 

「いま、この瞬間だけは……二人きりです」

 

 ガリレオ。

 でれれ、でれれれ!! この叡智を思わせるハイテンションなBGMが流れ続けている僕の天才的な頭脳による計算が正しければ、このままではマンハッタンカフェは頬に添えた手で僕の顔を自らの方へ向け、熱く蠱惑的な雰囲気に酔い身を任せてキスをしてしまうに違いない。

 そして互いが首にかけたペンダントを理由(言い訳)にして、互いにあの少女の喪失を誤魔化すように、まるで傷の舐め合いのような──蕩ける()()が始まることであろう。実に面白い。

 

「葉月さん……私は……」

 

 なんだってぇ~? 聞こえないなぁ、PDCAサイクルを回していけ? 老いたりとはいえ我が肉体……そんな命乞いは聞く耳を持たんぞ! 恋人化の効果は抜群なようだね。

 

「いま、だけは……」

 

 安心して! クラウドにコピーが大量に保管されているよ! このままイキ潰してやろうか。舐めてんじゃねーぞボケ。どんな宝石も君には敵わないよ。

 

「マンハッタンさん」

「っ? ──あぅっ……」

 

 逆に押し倒し。お前のせいだぞ! こんな魅力的なボディをしているから……。

 

「っ……」

「……一つだけ、いいか」

 

 一拍置いて続ける。

 

「……ペンダントを外しても、同じことができるか?」

「えっ……?」

 

 期待したように赤くモジモジしているマンハッタンカフェに向けて、俺は一つだけ問いかけを行った。

 

 ──これは俺にも以前、一度投げかけられた問いだ。

 

 あの日、間違えようとした秋川葉月に対して、相棒である少女が一度だけ求めた選択だ。

 理性を失っていようが外的要因が何であろうが関係ない。

 俺という存在そのものに対して、その問いは行われた。

 

「少し前だけど俺は……サンデーに聞かれて、答えたよ。もうとっくに答えは出してる」

 

 俺は()()()()

 ペンダント如きに責任転嫁はせず、仕方のない言い訳なんてせず、ヤるときは自分がヤると決めた時だけだとアイツに答えた。

 据え膳食わぬは何とやらとも言うが、そんなものは知らん。

 昔の人間のことわざなんぞ知ったことではない。据えられなくとも俺は俺自身の手で総てを掴む。い、いずれデカパイも……。

 

 だから、あの日に出した答えも、今こうして理性を失っていても違えることはない。

 それは──魂に刻まれた答えだからだ。

 

「マンハッタンさんはどうしたい。助け合うって決めた以上、きみがそうしたいなら俺もそうする。アイツだって文句は言えないだろう」

「……ど、どうしたいか、ですか……?」

「そうだ。なぁなぁで流すのだけは頂けない。アイツがいない今、マンハッタンさんに選択肢を提示できるのは俺だけだろ。だから同じように聞くよ。──ペンダントを外しても、同じことができるか」

 

 あくまでアイツの相棒としての責務で、俺に与えられたあの一度きりの選択のチャンスを彼女にも与えた。

 まぁ俺としては普通にえっちな事はしたいワケですが……魂とか反故にして負けちゃわない? もう意地張るのやめないかい。マンハッタンカフェのマンハッタンミルクを味わい尽くしてカフェ俺を作ろう。イクのは自由だ。何者にも縛られてはいけない。

 ベロチューした~い♡ ベロチュウ:エグ接吻ポケモン。ピンチのときに ほうでんする。

 

「………………はぅっ。……うぅ……っ♡」

 

 そこで何を想像したのか、頬どころか顔全体が真っ赤になったマンハッタンカフェは、いつもこちらの目を見つめがちなミステリアスな普段と違い、緊張に押し負けて顔をそらしてしまった。

 

「すっ、す……すみません。……その、まだ……勇気が出ません……♡」

 

 ちなみに語尾にハートが出てますよ。

 

「……そうか。じゃあ、今日はこれでお開きだな」

「は、はい……♡」

 

 そう言って二人ともようやくペンダントを外し──瞬間、とんでもない羞恥心と自責の念が後頭部をぶん殴ってきた。うわああああああああああイクイクイクイク!!!!!!!!!!!

 

「……ぁわわ」

 

 どうやらカフェちゃんは俺以上にメンタルがやられてしまったみたい。顔から火が出るレベルで恥ずかしいようで、両手でかわいい美人・フェイスを覆い隠してしまった。いや~いつも目の保養にさせてもらってますよ。よろしく卍。

 

「なんてこと……私、なんてことを……」

「ま、マンハッタンさん」

「あうううぅぅ…………」

 

 これはマズい。本当に顔から火が出てゴーストライダーと化してしまう。

 そうだ、こういう時こそ正月というイベントを有効活用すべきだ。気まずい時は話題転換が一番。結婚はディナーの後で。

 

「そうだ、なぁ、儀式も終わったし出かけよう。初詣行こうぜ、初詣」

「こんな煩悩にまみれた私が神聖な領域である神社へ()くのはとても不敬なのでは……」

「い、いや、こういう時こそ綺麗な空気で浄化してもらうべきだよ。ほら、行こう」

「うぅ……葉月さん優しい……手、温かい……すき……」

 

 だいぶバグりまくってるカフェちゃんを半強制的にプライベートな二人きりの空間から連れ出し、浄化の光と思考を冷やす寒風を求めて、俺たちは人々で賑わう正月の神社へと向かった。そして超有名ウマ娘であるマンハッタンカフェの出現によって、逆に初詣に来ていた一般人たちがバグってしまったが必要経費として捉え、賽銭や絵などに勤しむのであった。パンパン。今年こそウマ娘たちを支配する王になれますように。

 

 


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