信頼を失う。これほど、恐ろしいことは無い。だが、この診断が下った以上は、私の言うことは結局証拠が無ければ信憑性の無い戯言でしかないというのが世間の評価になってしまった。 私個人と、裏の隣人夫婦が無言の仲違いをしてもう十数年。私は就職に失敗し、小説家を志していた。無謀だとは思わなかったのが残念だが。 裏の隣人夫婦は今では七十歳を超えたぐらいだろうか。 事の発端は、裏の隣人夫婦の新盆が終わったぐらいから、私が当事無職であることを話題にし、帰郷していた息子夫婦と孫達に話していた。 あの時の夫の方は、「ひ孫の顔も見せられないなんて情けないぞ。俺が親だったら叩き出してる」とまで息子や孫たちに聞かせていた。 それはエスカレートし、風呂に入れば対面する玄関を開けて、外でわざわざ聴こえる声で夫婦で何やら話していた。その声が耳障りなのは言うまでもない。ストーカーのようにそんな日が続く。 私は彼らの声が耳障りで耳栓をして今でも生活している。 ある日、夜中の二時。トイレに起きた私だが、何故かトイレの電気を点けるのをためらっていた。 裏の隣人夫婦に監視されていたら。 お風呂のしつこい茶番劇に信じられないことに私は恐怖を覚えていた。いつでもどこでも裏の隣人夫婦が見ている様な気分に陥り、恐怖した。 さて、トイレだが、夜目になっていたため、電気無しでも便座の位置は分かった。だが、なかなか尿が出ない。これは今でもそうだ。指を噛んだりして力を入れなければ尿が出ないのだ。 この時、あるいはこの時以前に、もう私は既に病気に触れていたのだろうと思う。 さて、話を戻そう。出たいのに出ない。そんな尿と膀胱と格闘していると、不意に声が聴こえた。 トイレの下は裏の隣人宅の庭である。何と、夜中の二時に裏の隣人夫婦の声が聴こえるでは無いか。ガッデム、車のエンジン音までする。私は何とか尿を絞り出し、水を流して部屋へ逃げ帰った。 さて、ここでの行動が良くなかった。私はトイレの窓を開けて、裏の隣人宅の庭を確認すべきだったのだ。当然、そんな時間に起きて私を狙っているとは九割九部考え難い。もし、窓を開けていたら、そこには闇が広がるだけで誰も居ないという事実に安堵したことだろう。 そうしなかった私はベッドに潜り込んだ。裏の隣人の声は聴こえて来る。実際には、裏の隣人夫婦の口癖で、夫の「なぁ?」と、妻の「ねぇ?」だけが連続で聴こえてくるだけだった。その声は唐突に止むことになる。これもまた、おそらくは幻の声によって。 「うるさいですよ! 何時だと思ってるんですか!?」 あの時窓を開けなかった私は、裏の隣人夫婦が夜中に待ち伏せして入浴中にやるような騒ぐ嫌がらせをし、それを近所の誰かが注意したのだと信じ込むと同時に、裏の隣人夫婦が私のせいで狂ってしまったと思い込んでしまった。そして本当は病んでいるのは自分なのに裏の隣人夫婦が病気であると思い込んだ。 私は何がきっかけでその病名を知っていたのかは知らないが、裏の隣人夫婦は「統合失調症」になったのだと思ってしまった。それも私のせいでだ。もう、声は聴こえなかった。私は部屋を出て階段で両親が起きるのを待っていた。 起きて来た両親に事情を話す。後々、ここで母は私の異変に気付いたようだが、父が曖昧だったようだ。結局病院には行かなかった。 さて、入浴中の陰険夫婦漫才は続き、私の心は蝕むところさえ無いと思ったが上書きするように蝕んだ。 そんなある日、裏の隣人夫婦が我が家の台所前で隣人と斜め向かいの隣人、つまりうちのお隣さんに私が無職であり、無視しようねと告げていた。そしてうちの隣の奥さんには私が何か言っていたら報告してくれと依頼していた。これは事実であった。試しに外で大げさに思いつめてみたところ、お隣さんは裏の隣人妻に報告し、二人で笑っていた。 近所からも信頼を失い、あるいは敵になったと知り、私は激しく落胆した。 庭で犬をだっこしていた。どうしようもない不安に襲われる。世界が裏返ったような気がし、行き交う人々が裏の隣人夫婦がそれぞれ頼んだ仕事仲間達で、私のことを見張っているのだと思い込んだ。 入浴中の陰険夫婦漫才は続く。 疲弊した私の心に決定的な追い打ちを掛けたのは、寝ているときの身体の痺れであった。裏の隣人夫婦による電磁波攻撃だ。と思い込んだ。攻撃は二晩続いた。 止めておけばいいのに、ネットで調べる。すると、同じ被害にあっている人がいるではなか。これがやはり良くなかったのだが……私が読んだそれは、〇〇学会による集団ストーカーに悩まされているという、病気の人の日記であった。私はこの日記を信じた。「〇〇学会のハイテク攻撃」電磁波攻撃がこれにあたり、裏の隣人夫婦も学会の一員で、隣の奥さん方も学会の仲間なのでは無いかと結論付けた。 この時は五月だった。父は単身赴任でいない。母と夕食を取ろうとした時、テレビのスイッチが入った瞬間、外で電磁波が一斉に鳴り出した。結局それは五月に鳴くバッタの一種であることは後に確認済みだ。バッタの鳴き声は、いや、音は私が慎重に近づき手にした物をおり曲げた瞬間に止んだ。その手に握られていたのは園芸用の支柱であった。裏の隣人夫の工作だと思い込む反面、こんな私にもまだ正気が残っていた。ついに私は自覚した。私の方が病気なのでは無いかと。だって握っているのはただの支柱である。 母に告げ、詳しい親類に今の病院を紹介してもらう。 心療内科と名乗るが、精神科だ。 まだこの時期は心療内科はあまり人がいなかった。 医者の診察の前に臨床心理士による聞き取り調査があった。私は耳栓のボトルを見せた。噛み傷だらけの耳栓のボトルは、全て排尿のために力を入れて踏ん張るため、固いそのボトルを噛んでいたのだ。 「これは酷い」 臨床心理士さんの言葉が忘れられない。 医者と対面したが、まだ病名ははっきり告げられず、うつ病の薬を出されるだけであった。 だが、私は何となく自分の病名が分かっていた。ネットで検索すれば羅列されて出て来る。 なかなか病名を告げない医師に私は尋ねた。 「私は統合失調症なのですか?」 医者は肯定した。ホッとしたのも束の間、当然、薬が増えてしまった。不眠症にもなり、眠りに誘う薬も処方された。 後々思ったが、クリニックのため入院設備が無いのが痛いところだ。服薬と自宅療養で治らないのはこの十数年の時が証明してくれている。 裏の隣人夫婦は最近は陰険夫婦漫才を止め、自分達の会話を私が盗み聞きしてるとして近所に再び吹聴に回っている。トイレに入れば音を立てて窓を締め、風呂でも外で音を立てるようになった。ついでにまだ無職だと思い込んでいるらしくそれも近所に伝えていた。その役目を嬉々として担うのは声のデカい妻の方だ。 加害者のくせに被害者面する裏の隣人夫婦は高齢とはいえ、許せない。 たぶん、パンデミックの影響で孫が今の今まで姿を見せに来ないため、私と言う存在が羨ましいのでは無いかと考えるようになった。例え裏の隣人夫婦が寂しいという身勝手な理由で私をここまで追い詰めたというのなら、呆れるだろう。 だが息子と嫁だけは一度帰って来た。その時の入浴中に、風呂の隣にある裏の隣人の車の戸を何度もバシンバシン嫁に笑わせて開け閉めさせるという行動に出た。ここまで来ると、裏の隣人夫婦がまともだとは私も思わなくなった。彼らも彼らで何らかの精神疾患なのではないだろうか。暴力的でしつこいまでに付き纏う音によるモラルハラスメントがそれを証明している。 私は結婚できないとは思うが、結婚できない限り、実家から出て行くつもりは無い。というよりも、母が車の運転ができないので私が運転するしかない。主治医から運転の許可は出ている。父親もそのつもりで無理やり私に車を買い渡した。 これからも裏の隣人夫婦はモラルハラスメントを止めないだろう。 最近、身体のストレスが凄まじく、裏の隣人夫婦をどうにかしてやりたいと思うようになったが、それは勿論間違いである。最大の復讐、報復は、私自身が幸せになることである。フルタイムで働くことがその一つである。孫の方は弟に任せた。 ストレス……このストレスをどうにか良い方向に活用できないか、それが最近の悩みでもある。 今はたくさんの薬の作用と副作用で辛い日々を送っている。困っているのは例えば鼻息が裏の隣人夫婦の声に聴こえることだ。正気でそれを受け止めているため、本当に酷い時よりはかなりマシになったとは思う。 裏の隣人夫婦は二人でいるから強気で行動に出られるのだ。だから、神様、二人などと欲張りません。どちらか片方に死を与えてくれないでしょうか。一人で騒げるほど彼らの肝は太くない。せっかく道であっても言いたいことを言わず、そそくさと家へ引き上げる態度を見れば明らかだ。不満があるなら一つぐらい言ってくれれば良いのに、結局彼らは正面から言わない。 そうそう、集団ストーカーの件は通院後、心配することは無くなった。今は鬼籍に入られてしまったが、とある探偵さんが、統合失調症の人の依頼が多いことに立ち上がり、ブログで集団ストーカーなど無いと、力説してくれたその記事を見て私の心配の種は払拭された。本当に感謝している。 ここまで読んで下さりありがとうございます。精神保健福祉手帳三級、障害者雇用でしか道は無いですし、ハローワークの障害者雇用の賃金を見ても一人ではとても暮らしていけないのも知りました。今の仕事も勿論、仕事ではあるが、賃金と言う言葉には値しないほどの報酬で、自分の葬式代ぐらいは稼ぎたいものである。 それにしても毎日辛いのは何故だろうか。人の声や音に過敏になり、家にいるのに緊張し、気の抜けない日々。毎日死にたくなる。
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遊馬遊
画家のゴッホも統合失調症ではないかと言われてますね。私も知人(イギリス人)に幻聴が聞こえる人がいて、幻聴を抑えるためにアリピプラゾール10mlを処方されてます。その人も症状が酷い時はほぼ起こり得ないような事を過度に心配してるように見えます。私も外に人がいる時のトイレはしずらいです
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遊馬遊
2023年9月30日 16時22分
Lance(ランス)
2023年9月30日 18時21分
ゴッホも統合失調症とか噂は聴いたことがあります。知人に統合失調症の方がいるのですね。私は主力の統合失調症の治療薬はロナセンです。なるほど、ほぼ起こり得ないことを心配するのですね。参考になります。そして嫌がらせじゃなくとも外に人が居るとトイレしづらいのですね。
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Lance(ランス)
2023年9月30日 18時21分
遊馬遊
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2023年9月30日 16時16分
《あの時窓を開けなかった私は、裏の隣人夫婦が夜中に待ち伏せして入浴中にやるような騒ぐ嫌がらせをし、それを近所の誰かが注意したのだと信じ込むと同時に、裏の隣人夫婦が私のせいで狂ってしまったと思い込んでしま…》にビビッとしました!
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遊馬遊
2023年9月30日 16時16分
Lance(ランス)
2023年9月30日 18時17分
ホント、私はお人よしだなとも思いました。彼らの体調の心配するんなんて本当にもう……。
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Lance(ランス)
2023年9月30日 18時17分
遊馬遊
ビビッと
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2023年9月30日 16時15分
《さて、ここでの行動が良くなかった。私はトイレの窓を開けて、裏の隣人宅の庭を確認すべきだったのだ。当然、そんな時間に起きて私を狙っているとは九割九部考え難い。もし、窓を開けていたら、そこには闇が広がるだ…》にビビッとしました!
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遊馬遊
2023年9月30日 16時15分
Lance(ランス)
2023年9月30日 18時16分
この時、弱気と恐怖に負けていなければ、また人生違ったのかなともずっと思って後悔してます。
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Lance(ランス)
2023年9月30日 18時16分
板谷空炉
加害者には加害者意識が無いんですよね。彼らには嫌がらせをするしか娯楽が無いのでしょうか…?だとしても人の人生狂わせてますよね。
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板谷空炉
2023年9月30日 18時41分
Lance(ランス)
2023年9月30日 19時29分
そうですね、加害者意識が無くて、他人に勝手に期待して、そうならなかったら憤る。というのがモラルハラスメントをする人の特性らしくて、迷惑な存在です。いつも家に居て外歩いたりもしないみたいです。そんなに元気ならあなたも働けば良いのにと思います。そうですね、人生狂わせてます。
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Lance(ランス)
2023年9月30日 19時29分
よしけん
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よしけん
2023年9月30日 19時11分
Lance(ランス)
2023年9月30日 19時32分
ありがとうございます。彼らが隣にいると思うとそれだけでストレスです。被害者面した今は向こうもそうなのでしょうけれど。
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Lance(ランス)
2023年9月30日 19時32分
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