しかし、ケイズ氏は、今後イヌとパンパスギツネの交雑種が見つかる可能性は低いと考えている。これまでもイヌとパンパスギツネは近くで生息していたのに交雑種はこの1例しか見つかっておらず、生まれたとしても遺伝学上のリスクが高いからだという。
ドッグシムのようなまったく新しい動物では、生存に有利な変異を徐々に重ねながら数百万年かけて進化した種よりも、「うまく機能しない遺伝子を持つ可能性が高いのです」とケイズ氏は話している。
交雑で生まれた動物は、健康上の問題や生存に不利な特徴を持つことが多い。たとえば、パンパスギツネは草原で身を隠すのに好都合な明るい色の毛をしているが、ドッグシムの毛は黒だった。
ドッグシムは2021年11月に州営動物保護施設マンテネドゥーロ・サンブラスに移送された際には健康体だと伝えられていたが、2023年3月に死亡した。死因は現在も不明だ。クレッチマー氏らは、論文発表前に写真を入手しようと8月に同施設に連絡するまで、ドッグシムが死んだことを知らなかった。
ブラジル、リオグランデ・ド・スル州の環境・社会基盤事務局の声明によれば、同州はドッグシムの死について調査中だ。
ドッグシムが残したものとは
ドッグシムが偶然の産物であるかどうかは別として、ドッグシムが発見されたことは重要な問いを投げかけている。
「異なる進化の道を歩んできた異種間の交雑は、野生動物保護にとって大きな脅威になりかねない」。クレッチマー氏らは論文でこのように書いている。
現在のところ、パンパスギツネは生存を脅かされてはいないが、この現状が変わる可能性もある。また、ドッグシムのような交雑種が新たな病気や弱点となる遺伝子を持ち込むことで、パンパスギツネの将来的な生存の見通しを暗くし、在来の群れに影響を及ぼすことも考えられる。
ドッグシムの発見を取り巻く複雑さと謎はさらに研究する価値があるとして、クレッチマー氏らは論文で次のように書いている。「交雑が野生動物の遺伝、生態および行動に及ぼす影響の研究は、この種の保全を改善するために不可欠となるだろう」