効果的なプレイの方法
この実験で重要なことは、ただゲーム機を渡してテトリスをやってください、と言われるわけではない点だ。
最初に、被験者はとりわけ悪い記憶のかけらを思い出すよう求められる。それからゲームをはじめるが、このときブロックが画面で落ちはじめる前に頭の中でその向きを変えてみるよう促される。また、10~20分ほどの十分な時間をとってゲームに取り組むようにする。
これまでのところ、ホームズ氏の実験はすべてこの手順で行っている。結果を出すためにはこの手順が重要であると、研究者たちは考えている。
「トラウマの記憶の侵入は、これまで治療が非常に困難でした。それが頭にこびりついているのには理由があるからです。脳が警告モードに入り、あなたを守ろうとしているのです。それを変えるのは、とても大変です。ただゲームをするだけなら、その間は嫌な記憶を忘れてストレスを軽減させてくれるかもしれませんが、この先ずっとフラッシュバックが起こらないという保証はありません」
とはいえ、ホームズ氏の研究の手順を踏むことなく、自分でテトリスをプレイするだけでも、害にはならないだろうし、それで気持ちが上向きになる可能性もある。
カナダ人セラピストのモーガン・ポメルズ氏は、不安症や過覚醒に悩む患者の気持ちを鎮めるために、テトリスをすすめている。セラピーの時間にテトリスを使っているわけではないが、普段の生活の中で何かつらい記憶がよみがえってきたときや頭に画像が浮かんだときに使える一つの選択肢として提案している。
「対処法の一つとして準備しておくものだと言えますが、テトリスは多くの人にとって、とても助けになっているようです。特に、一部の症状を経験するときに視覚的要素が非常に強い患者の場合、たとえ数分でもゲームに没入すれば、安全な気持ちになり、気分が落ち着きます。そして、現実世界に戻ってきたときには、穏やかな状態で周囲の状況を適切に把握できるようになるのです」
ただし、テトリスにしても、そのほかのどんな対処法にしても、セラピストの代替にはならないと、ポメルズ氏は指摘する。この意見にはホームズ氏も同意しており、フラッシュバックに苦しんでいる人は、まず専門家に相談し、証拠に基づいた治療を受けるべきだと話す。いずれはテトリスも証拠に基づいた治療になる可能性はあるが、研究はまだ臨床的な証拠集めの初期段階にある。
臨床試験は今も続けられており、研究者たちは将来的に、フラッシュバックに対するテトリスの長期的な効果を調べ、脳の中で実際に何が起こっているのかを理解したい考えだ。さらに、薬物依存症やうつ病など、トラウマ以外の症状に関連して現れる侵入記憶の軽減にもテトリスが有効かどうかを調べたいという。
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