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新しい顔を見せた映画の有名なシーン
 朝鮮の映画界に消しがたい足跡を残した女優オ・ミランさん。金日成賞と人民俳優の称号を受けたオさんは多数の映画で、農村の婦人や人民軍軍人、娘から母親の役にいたるまで様々な役を見事に演じた名優でした。



 「民族と運命」という劇映画のシリーズが作られる前まで、オさんは劇映画「桔梗の花」のヒロインのように、主として温厚で内気でありながらも芯の強い女性、善良な役を演じてきました。
 しかし、オさんは「民族と運命」の第9部から第13部まで出演し、そこで従来のイメージを払拭した新しい顔を見せました。



 オさんの役は権謀術数に長け、美貌を武器に南朝鮮の反民族傀儡分子のパク・チョンヒの「信頼」と「寵愛」を手玉に取る政治娼婦でした。
 これまでの役とは正反対の悪役はオさんに不慣れなものでした。けれども、オさんはひたむきな態度で思索し、努力して、等身大の演技を披露しました。
 観客に深い印象を残したのは第12部での「銀の馬車」喫茶店のシーンでした。
 ヒロインは権力の維持のためなら、往年の「忠臣」を容赦なく撃ち殺すのもためらわないパク・チョンヒに幻滅を感じ、余りにも信じきっていた自分を空しく思います。それでへべれけになるまで酒を飲み、「銀の馬車」喫茶店に来て歌でそれを紛らそうとします。



 雨水に濡れて乱れた髪、いつも傲慢に頭を上げて歩き回っていた姿は跡形もなく、いまにも倒れそうによろめく体、ぐでんぐでんになってもなお酒を飲み続けるヒロイン。
 汚らわしい世の中への幻滅と心の中の鬱憤を晴らそうと、ステージに上がって歌手のマイクを奪い取り、歌を歌い終えたヒロインはぐったりと跪き、こうべを垂れます。



 はにかみやで、内気なイメージで通用していたオさんが、維新独裁者に寄生して暮らしてきた人生への虚無感やるかたないヒロインの堕落した役をあまりにも迫真の演技で見せたので、みなはびっくり仰天しました。
 そのうえ、オさんが演じた酔っ払って歌を歌う女性の役はそれまでの劇映画ではまったく見られなかったもので、酒の大好きな男の人も脱帽するほどのものでした。
 平素、下戸だったオさんにとって、酔っ払いの女性の役は荷が勝ちすぎるものでした。
 これまで泥酔した男性は多く見たものの、酔っ払った女性など見るどころか、想像すら難しいものでした。
 寝ても覚めても演技のことだけに没頭していたオさんは一つのことに気づきました。
 以前、一部の俳優は酔っ払いを演じるとき、体をふらつかせるだけで、ドロンとした瞳は演じなかったのです。
 それで、オさんは酔いが回ってドロンとした目を演じるため、トレーニングを重ねました。
 自然な演技を編み出すため、飲めない酒にも挑戦し、家の鏡の前で何回も繰り返して練習して、悪役を鮮やかに演じ上げました。
 映画は封切られるが早く、大ヒットしました。
 悪役にキャスティングされたことで、イメージダウンになりかねないものかと懸念していたオさんでしたが、それ以来、より幅広いファンを獲得しました。