【おまけ4】なぜラノベからSFジャンルがほぼ消えたか

 これ、非常に暗い話になるがいいか?


 まぁまずSFの書き手がSF小説を買ってないという要素が真っ先に挙がるな。これは「おまけ3」で言った事だから省略しよう。でももっと重要な要素がある。


 巻末のラノベ年表を見てみよう。そう、1975年~2002年頃まで実は普通にライトノベルにSFジャンルはあったし流行していた。それどころか男子向けライトノベルの記念すべき第一巻目は朝日ソノラマ文庫の小説版『宇宙戦艦ヤマト』(1975)である。つまり男子向け初のラノベはなんとSFジャンルだったのだ。そもそも朝日ソノラマ文庫ってSFジャンルに強いラノベレーベルなんだしね。

 でね、SFが流行する条件ってのは……

 ・経済が順調に成長している事

 ・未来に希望が持てる社会である事

 ・現実の技術が大幅にかつ着実に進んでいる事

 なんだ

 だから経済が低迷してても1995年にIT革命が発生したおかげで未来に希望がまだ持てた。よってSFジャンルは廃れなかった。


 が、

 いつまで経っても日本に宇宙時代はやってこないしロボットの時代はやってこない。中華人民共和国ではもうドローンタクシーに無人配送ロボットという次元にまで到達してるのに日本人は「ハイテク」に興味を持たなくなったんだ。「失われた10年」(2001年)あたりから子供も大人も「科学」というものに絶望し始めて行った。


 昔は逆だったんだ。「未来」に憧れたわけ。そんな国、日本だけなんだ。他所の国見てみ? 科学やSFに興味も持ってるし日々SFを「現実」にしようと頑張っている。でも「失われた32年」の日本じゃ碌にテクノロジーの進歩が実感できない上に経済成長が32年も止まってるからSFに興味を抱けるはずがないんだ。


 例えば「火星に移住して人類がより豊かになる」とか「再生医療導入で平均寿命123歳!? そんな俺は40歳の少年」といった当たり前のSFがラノベジャンルから消えた。年表見ると2002年に萌えブームが発生したとあるね。読者はもうこの頃から目の前の2次元エロばかり興味を持って未来に全く興味を抱かなくなったんだ。「今だけ・金だけ・自分だけ」という人間のクズ化現象が発生した。ラノベを中年層にターゲッティング変更したのもこのころからだ。「今だけ」だから当然SFジャンルに興味を抱くはずがない。SFとは未来世界が主題のお話なんだし。読者は未来よりも目の前の性欲に興味が行ってしまったという事だ。


 というかラノベ以外のジャンルからもSFが絶滅危惧種になった。


 本来は少年ほどメカに興味持って「空飛ぶドローンで世界が変わった」などの近未来SFを小説投稿サイトに書いてもいいし、本来はそういったものが青少年層ほど売れるべきだ。しかし1991年の学校の写真と2023年の学校の写真を見てみよう。PC室と心理相談室以外全く変わってない。要はインターネットとスマホとパソコンを抜いたらこの国はバブル期から全く進歩してないんだ。それどころか心理相談室を設置して不登校児を対応せねばならぬほどこの国の児童はもう子どもの段階で未来に絶望してるわけ。心理相談室の普及は20世紀末からだったと記憶している。


 これが1951年と1991年との比較じゃ全くの別世界に日本は変わったからいかにこの32年間の日本が異常か分かるかい? そもそも1951年の学校だとまず木造校舎で卒業生の約70%が中卒で集団就職したか自分の親の農家の跡継候補になって農林水産業の従事者になって、自家用車はまだほとんど無いという時代だ。農村に都市ガス・プロパンガスなどなく竈でご飯を作っていた時代だ。どうだ? SFジャンルが何で衰退したかよく分かるだろう。本来なら30~40年で国も社会もまるで別の世界になるのが普通なんだ。近代や現代という時代は。


 ――そうなんだよ、この国は『学校』自体がもう全く進歩してない


 世が世なら令和の今ならハイテク機器で授業のはずだよ。でも君の教室にある電子黒板はカバーが被ってて教師は教壇に立って黒板で相変わらずチョークで書いてるだろ? 酷いのになると先生が黒板にチョークで書いた文章を児童・生徒がタブレットで写真を撮るという本末転倒なICT教育を行っている。タブレットをデジカメか何かだと思っているらしい。

 下手すると夏になると毎日のように猛暑日が来る時代なのに「クーラーを使う者は軟弱者」とか言いながら教室にクーラーすら付けさせてくれない馬鹿な教育委員会がいまだにこの国にはあちこちにあるわけ。こういう教育長は私なら昭和63年(1988年)年あたりに年号をセットして強制タイムワープをさせたいのだが……現実の世界ではタイムマシーンは無いから老害のたわごとに耐えるしかない。そんな国でSFラノベ??? 無理無理。


 ――そして日本国に科学の決定的敗北が襲った事実を忘れたとは言わせない


 そうだよ!! 2011年3月12日に福島第一原発が爆発した。これは単に日本国という国の威信が墜落しただけでなく「科学」というものに対する「敗北」を意味するんだ。このような科学が敗北した国でSFジャンルを書くのは極めて困難なのは言うまでもない。


 ということでディストピアSF小説すらも売れなくなった。ディストピアSFというのは科学技術に対する未来への警告だ。しかし福島第一原発が爆発したことによってディストピアが現実になってしまった。今がディストピアである以上ディストピアSFを書いても「だから何?」となるほど今の日本人は異常な感覚に落ちてしまった。なお福島第一の廃炉には約40年かかるというからあと30年ほど廃炉作業をしなくてはならない。ゆえに「ディストピアSF世界を見たければ福島第一とその周辺に行け」と言われるのがこの国の現実だ。


 私はラノベの衰退に「SFの衰退」が一枚かんでると思ってる。そしてSFの衰退は日本の破滅的な現実が要因とにらんでいる。


 さて児童文学はどうだろう。逆にちらほらとSFジャンルが復活してないか。少年少女ってたくましいだろ? こんな絶望的な日本となってもやっぱり青少年って未来に希望を持ってるしそういう本を本当は読みたいんだ。ということは児童文学でSFジャンルが活気づくとますますラノベジャンルは衰退すると私はここで予言する。


 ――子供が読みたいのは夢と希望と未来のお話なんだよ。分かる?


 それにSFジャンルって教育的効果も高いしね。


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注釈


※1:なお拙著はオンラインゲーム世界をラノベ化したものを「SF」とは認めない。それを認めたら乙女ゲームの世界に転生したものも「SF」になってしまう。でも現実にはそれは「異世界恋愛」というジャンルだ。同様にオンラインRPGゲームの世界に転生した系のものは単なる「異世界転生」ものにすぎない。『サイエンス』『フィクション』である以上SFジャンルには科学的考察要素がなければそれはSFジャンルとは呼べない。


※2:「SF警察がSFジャンルを衰退させた」というのはたぶん嘘だと思う。そんな声など無視すればいい。たとえば「宇宙空間なのになんで声が伝わるんだ?」とか。細けえことはいいんだよ。


※3:『月とライカと吸血姫』(ガガガ文庫:牧野圭祐)が2022年に第53回星雲賞日本長編部門を受賞した。ラノベSFは完全に死んではいない。突っ込まれる前に先に書く。しかし同時にレアケースとも記述しておく。


※4:電子黒板普及率は毎年の『GIGAスクール構想』に関する白書を参考の事。2022年現在の普及率は約85%と言われている。同時になんと「常時電子黒板を使わない」と答えた教委も85%あったことから電子黒板は「無用の長物」と化した。だから常時電子黒板にカバーが被っているのである。結論から言うと『GIGAスクール構想』は失敗でありそれは「無かったもの」となっている。巨大映像なら既存のプロジェクターでいいしそんなものは昭和末期にもう既にあったものである。つまりこの国の学校は昭和末期と比べてPC室以外何も進歩していない。


※5:SFジャンルの復興にはもっと教育的要素特に中・高理科の教育に資するものを添加することが肝要と考える。これは「おまけ5」に繋がっていく話でもある。同時にSFの敷居と読者対象年齢をもっと下げた方がいい。


※6:「SF小説を読みたければNASAの論文でも読め」などのSF作家の発言は児童文学系SFジャンルの大否定であり、この手の意見に私はここで抗議する。SFは研究者のための小説ではない。もし「SFとはそのようなものだ」と言うのであればあなたが文学という世界から去っていただきたい。どうぞ、アカデミックの世界で科学技術論文を存分に書いてください。同時にSFというジャンルを子供の手に返してください。本来、SFというジャンルに最も近い場所に居たのは小・中・高校生のはず。証拠に日本ではまだ「ジュブナイル文学」という概念すらもほぼ無かった時代に筒井氏は『時をかける少女』を1965年に『高一コース』に連載し、小説化し(1967年)、映画化(1983年)までなされた。筒井氏は「SFというものは中高生が中核になって読むべきものだ」と理解していたに違いない。そして驚くべきことに1960年代に無意識でライトノベルを書き上げた人物ということにもなる。


※7:『宇宙戦艦ヤマト』というのはご存じの通り「コスモクリーナーD」で地球上の放射能汚染を除去して地球を救うという有名なSFアニメである。しかし、日本の現実は真逆の結果となった。しかも最悪なことに男子向けライトノベルの記念すべき第一巻目は朝日ソノラマ文庫の小説版『宇宙戦艦ヤマト』という部分がラノベ界にとって非常に皮肉な結果となった。願いと結果は真逆となった。2023年現在の科学技術力では「コスモクリーナーD」はもちろん不可能であるし……それどころか「コスモクリーナーD」に類する物を小説の世界でもいいから作ろうという気概さえも日本は失ってしまった。だから東日本大震災の翌年にあたる2012年に突如ラノベ界に異世界転生ブームというものが起きた。要は現実逃避というものが大人の読者を中心に起きてしまったということだ。なお福島第一はメルトダウンではなくもっと深刻なメルトスルーのレベル7事故なので本当に約40年間で廃炉出来る保証などどこにもない。2023年現在での科学技術の水準では……。

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