無国籍者とは、国籍を持たない人々である。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、世界における無国籍者数は、120万人に上るとされている。
しばしば、無国籍者という概念と難民は混同されるが、無国籍者の多くは国境を越えたことがないため、難民とは異なる。世界人権宣言[en]は、全ての人が国籍を持つ権利を有することを保証し、独断的に人々の国籍を剥奪することを禁じている。それにも関わらず、さまざまな理由によって無国籍者が存在している。その主な要因は、性別、人種、宗教上の差別である
一般的に、無国籍者は、さまざまな形による人権侵害や、教育、雇用、医療、そして政治参画等の基本的人権がないことに悩まされている。
国籍を持たないことは、アラブ圏では珍しくない。他国で国籍を認められていないパレスチナ人は、無国籍者の最も良い例である。また、イスラエルに住んでいる者で、イスラエル市民権の登録を行わなかった者は国籍を持っていない。この他、クウェートやその他の湾岸国家に存在するビドゥン(国籍を持たない、の意)、アルジェリアのサハラ難民[en]、モーリタニアの黒人少数民族[en]も、国籍を持たない人々の例である。
イラクやオマーン等では、父親が同国の国籍を持っていない場合、子どもが母親と同じ国籍を取得することを禁止している。このような国内法も、無国籍者となってしまう主な理由である。
無国籍者問題は、あまり注目されていない。しかし、一部の活動家はソーシャルメディアを使って国籍を持たない人々の問題を強調し、無国籍問題に民衆の関心を集めようとしている。クウェートでは、ビドゥンが置かれている苦境を明るみに出すために、オンライン上での発言が重要な手段となっている。グローバルボイス執筆者のMona Kareem[en]はBidoon Rights Blog[en]を創設し、クウェートでビドゥンが置かれている状況を記録し始めた。
エジプトでは、アルジャジーラのレポーターであるAbdullah Elshamy氏が、シナイ半島東部のAzazma民族を訪問した時の詳細な様子をTwitterで共有している。
Elshamy氏は次のようにツイートしている。
彼は次のように付け足した。
彼は続けた。
Azazma民族は ネゲヴとシナイ砂漠の間にある地域で、エジプトとイスラエルの国境をまたがって分布している遊牧民族である。シナイに暮らすAzazma民族は3000人から5000人とされている。イスラエルによるシナイの占領が終わった後、エジプト側に暮らしていたAzazma民族(の一部)はエジプト国籍を取得できると期待していた。しかし、彼らは「通行証明書」を持たされただけで、国籍不明となってしまった。
ブロガー兼詩人のAshraf AlAnanyは、 2008年、「Azazma、国境の民族? 民族の国境?」というタイトルでブログ記事 を投稿した。Azazma民族の歴史やイスラエルとの複雑な関係、そして、彼らが無国籍状態へと追いやられる原因とも言えるエジプトに対する忠誠心の欠如などの難しい問題について考えた。
AlAnanyは次のように書いている。
Elshamyは、Azazma民族を訪問した際に撮った写真を公開した。
シェイフ(首長)の一人が、通行証明書を見せる様子。写真は@abdullahelshamy がTwitterで公開したもの。
Azazma民族の子どもたち。@abdullahelshamyによる写真。
しかし、エジプトの無国籍者はAzazma民族だけではない。エジプトや他のアラブ諸国に逃れたパレスチナ人たちは、市民権を与えられず、もともと持っていた市民権も無くしてしまったために、彼らの多くは無国籍である。この他に、少数のアルメニア系の人々が無国籍である。また、エチオピア人とエリトリア人の混血の子どもも国籍を持っていないことがあり、彼らの一部はエジプトに保護を求めて移動してきた。
近年まで、バハーイー教徒[en]は、政府がバハーイー教の信仰を認めていなかったため、出生証明書や国のIDなどを取得できなかった。2008年には、行政裁判所がバハーイー教徒は信仰を申告することなく、書類の発行を受けることが出来ると規定した。これは、彼らの統合に向けた歴史的な一歩[en]と考えられた。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、昨年、無国籍問題の解決に向けてキャンペーンを開始し[en]、各国が、無国籍者を減らすための協定に署名することを促した。チュニジア、リビア、アルジェリアを除くアラブ諸国は、この協定に署名をしなかった。