父さんが事故で亡くなってから、明るかった母さんが廃人みたいになってしまって、最悪の事態にならないようにと家族やご近所さんたちでずっと見守ってた。
藤井聡太くんがプロ棋士になって連勝を重ねていったあたりから、テレビや雑誌を見るようになって、藤井くんすごいねーと久しぶりにまともな会話をするようになった。
そのうち、アベマの将棋チャンネルを観始めたり、辞めてた将棋教室にもまた通うようになったり、周りの人との交流も戻っていって、すっかり元気になってくれた。
その頃からずっと藤井聡太くんのことを応援していて、タイトルを取ったときも、昇段したときも、タイトルを防衛したときも、毎回ケーキやご馳走を作ってお祝いしているらしい。
父さんの死後、母さんはずっとソファにぼーっと座っていて、食事はたまに牛乳を飲んだりお菓子をかじったりするだけで、気づいたら仏壇の前で泣いていて、という毎日だったんだけど、最近は仏壇に向かって「聡太先生を勝たせてね」と図々しいお願いをしている。
母にとって藤井聡太くんはいわゆる「推し」という存在なんだろうけど、俺たちにとっては母を立ち直らせてくれた神様みたいな存在。足を向けて寝られない。
八冠制覇を家族総出で期待している。