スパコン超えも「量子シミュレーション」 分子研が実証
分子科学研究所は次世代技術の「量子シミュレーション」で磁性材料中で起きる現象を再現することに成功した。スーパーコンピューターでも計算が難しい現象を再現する潜在力を持ち、機能性材料の設計などに応用できるとみている。
同研究所の大森賢治教授と助教だった素川靖司氏(現在は東京大学准教授)らの研究成果。
量子シミュレーションは、固体中で電子などの多数の微細な粒子が力を及ぼし合って現れる特殊な振る舞いを模擬できる。超電導材料の開発や物流ルート探索などへの応用が期待されている。
研究グループは、それ以上温度を下げられない絶対零度(セ氏マイナス約273度)近くまで冷やした3万個のルビジウム原子を0.5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル間隔で格子状に並べて人工結晶を作成した。
磁性材料に見立てたこの人工結晶を10ピコ(ピコは1兆分の1)秒だけ光るレーザー光で操作し、数百ピコ秒という短い時間に原子間で「量子もつれ」と呼ぶ特殊な相関が形成される様子を確認した。
電子や原子は物理学の理論である量子力学に基づいて波のように振る舞うが、その性質は繊細で、外部からのノイズに弱い。研究グループはレーザーを用いた高精度の操作で、ノイズの影響を受ける前に量子の波の性質を保ったまま超高速でシミュレーションした。
成果は米専門誌フィジカル・レビュー・レターズで発表した。磁気的な機能の起源の解明などを通じ、有用な材料の設計に役立つ可能性がある。