銃撃事件を引き寄せた「統一教会と家族崩壊史」 政府に守られた教団と放置された宗教2世たち

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家族が崩壊したのは山上家だけではない。2003年には全国統一教会被害者家族の会が発足した。家族に食い込んだ宗教の爪痕は、年月を経て、子ども世代(2世)にも影を落とすようになる。

2015年、山上容疑者の兄は自ら命を絶った。重病で働くことができず、医療費も生活費もままならない状態に置かれていた。この時期というのは、統一教会信者2世の精神疾患や自死問題が顕在化し始めた時期である。

霊感商法が社会問題化し、2世の苦悩が深刻化しているにもかかわらず、行政が教団に介入しなかったのは、どうしてか。それは、この教団特有の政治との近さにある。

統一教会は日本で布教を開始した直後から政治に接近し、保守系政治家の歓心を買うような政策を掲げてきた。原点は、教祖・文鮮明氏が68年に設立した政治団体・国際勝共連合だ。

イデオロギー闘争が激しかったこの頃、「共産主義に勝つ」ことを目的とする政治団体は、岸元首相ら保守派の政治家には心強い援軍と映った。勝共連合の名誉会長には右翼の大物、笹川良一氏が就任。宗教団体ではなく、政治団体として日本の支配層に受け入れられてゆく。

笹川氏の息子、笹川堯氏は「うちの親父は勝共連合だから応援したんだ。統一教会を応援したんじゃない」と本誌に語る。良一氏と堯氏は、文氏や妻の韓鶴子現総裁と韓国済州島(チェジュド)へ私的な旅行に行ったこともある。

「ご夫妻とキジを撃ちに行ったんだ。真冬の雪が積もる時期で、私が風邪をひいてしまったら、韓さんが参鶏湯(サムゲタン)を作って飲ませてくれたよ。うちの親父には小豆ご飯を炊いてくれた」

放置され続けた宗教2世問題

銃撃事件後の7月11日、会見を開いた統一教会の田中富広会長は、政治家への支援について問われ「当法人として行ったことはいっさいない」とかわした。統一教会の「賛同会員」だった井上義行参議院議員(現在は退会)も、メディアの質問に「私が選挙支援を受けたのは世界平和連合。統一教会ではない」と弁明した。

「教団と接点があった」と指摘を受けた政治家たちが実際に接点を持っていたのは、国際勝共連合や世界平和連合、世界平和女性連合、天宙平和連合(UPF)といった教団系の政治団体、NGO(非政府組織)団体ばかり。

政治家と教団は互いに「接点はない」と主張するのに、教団の信者は「安倍さんが応援してくれた宗教」と信じ、熱を込める。この構図にこそ「統一教会と政治」の特徴がある。

首相経験者や与党議員が関係を持つ宗教法人に行政が介入するのは容易ではない。霊感商法が社会問題化したのは1980年代だが、捜査機関が教団傘下の企業を摘発したのは2000年以降。それでも教団本部にまでは踏み込まなかった。

行政が教団に踏み込めず、教団が形を変えながら活動を続ける一方、2世問題は放置され続けた。

宗教が絡む戦後最大の事件は1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件だ。オウム事件と安倍元首相銃撃事件には、決定的な違いがある。オウム事件は宗教団体そのものが起こした事件だが、今回の事件は宗教団体に家族を壊された恨みを持つ2世による事件だ。

宗教問題は約30年の間に、教団や信者自身の問題から、教団の教えに苦しむ2世の問題へと拡大した。その質的変化を日本社会は捉えきれているか。今、それが問われている。

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