Armored Core farbeyond Aleph   作:K-Knot

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アンサラー撃破

ざくざくと音を立てながら砂の大地を歩くアレフ・ゼロを見た瞬間、04ノーマル部隊隊員は全員一瞬息が止まった。

 

(アレフ・ゼロだ…!)

 

(ちくしょう!あいつ…リリウム様を!)

 

(馬鹿野郎!俺たちじゃ束になっても勝てねえ)

通信で会話しているのにひそひそ声で話す意味はあったのか、とりあえずアレフ・ゼロはノーマル部隊の存在には気づいておらずに砂に埋もれた街を何か探すように歩き回っている。

 

(!伏せろ)

 

『……!』

 

何かが斬れる音に続いて派手に砂が舞いあがった。

突然紅い複眼をこちらに向けたかと思えば視界を邪魔していた建物を切り裂いたのだ。

直前に隊長が伏せを指示していなかったら見つかっていたかもしれない。

 

(ひっ…!)

 

(う…)

 

『……』

 

(なんだよ一体…)

 

『……』

 

(行っちまった…)

 

(びびったぁ~…)

 

(どうする?)

全機揃って死体の如く砂地に伏せながらひそひそと相談する。

どうするといってもノーマルが束になっても傷一つ与えられないアレフ・ゼロを自分達だけでどうにかできるはずもない。

 

(放っておけ)

同じく死体役に徹しながらも普段と変わらぬ偉そうな口調でそのような事を言う。

 

(隊長?)

 

(いいんですか?)

 

(そうか。あっちには…)

 

「アンサラーがいる」

 

 

 

 

 

『……』

ざくざくと歩きながら指示された場所周辺を探すが一向に『アンサラー』などというアームズフォートは見えてこない。

 

(ネクスト三機がかりで勝てなかったアームズフォートだと…?…もし本当なら…遭遇しない方がいいような気もするが)

各企業の主戦力アームズフォートを悉く破壊してきたが、どれもこれも安心して挑めるような代物では無かった。

ここに来てのオーメル・インテリオルの隠し玉アームズフォート。そんなものが今まで以下だとは思えない。

願わくば出会わずに終わりたいが、どうもそのアームズフォートを破壊しておかないと後々の作戦遂行に差し支えるらしい。

正直、ORCA旅団の目的なんかどうでもいいセレンはもうこれ以上ガロアが怪我しないことを願うばかりである。

 

『……!』

 

「ん?」

激しく風が吹き、砂塵で視界も定まらなくなってきた中でガロアが何かを見つけたらしい。

 

『……』

 

「ネクスト…待て。そのエンブレムは…スプリットムーンか。そのネクストのリンクスが真改だ。…結局、意図を聞けないまま死んでしまったか…」

 

『……』

 

「…ムーンライト…壊れているな。いや、全ての武装がイかれている。一体…どんな化け物と戦ったらこうなるんだ」

その数百メートル東にはさらに二機のネクストが半分砂に埋もれて転がっているのだが、それに気が付く前にセレンとガロアの耳に奇妙な音が届いた。

 

 

……ーン…

 

『…?』

 

「…?なんだ…?」

何やら生き物の遠吠えのような物が風を縫って聞こえてくる。

こんな砂漠で、馬鹿なとセレンは思うが本当に聞こえる。

 

『…?…?』

 

「…!行くのか?」

ブーストを吹かし砂嵐を掻き分け進んでいく。

 

…ーン…

 

『………』

 

「確かに聞こえる…なんだこれは…」

 

……オーン…

 

『……!!』

 

「あれは!?」

砂塵に落とされた微かな影は、布が取れて骨組みだけになった傘のように見える。

だが、傘の骨というには幾つもの棘のような物が中心から生え、伸びた骨にも暴力的な気配のする何かが無数に付着している。

何よりも、人を雨から守る傘にしては大きすぎる。

 

『……』

 

「アンサラー、…か…あんな物が宙に浮かぶとは…」

 

オーン…

オーン…

 

不気味な低い音を発するアンサラーはまた一人獲物を見つけたことを喜んでいるかのようだ。

 

『……!』

 

「やる気か、ガロア…。とりあえず、あんな物が浮いているのに無茶していない訳がない。骨組みを壊していけ」

今やはっきりと見える様になったそれは、ネクストの世界からすれば非常にゆったりした速度で綿毛のようにふわふわと浮いている。

 

(何故…?確かに不気味だがネクスト三機でかかって落とせないような相手か?)

あんな鈍亀ではどんな攻撃も避けられないだろう。

それこそグレネードかロケットあたりを叩き込んでやれば…

 

『!…グ、ゲェエエエエエェ!!』

ビタビタビタという音と共に突然の吐瀉音が聞こえた。

訳も分からぬ突然の嘔吐。

 

「ガロア!?どうし…!コジマ汚染!!奴ら…地上をどうするつもりだ!?」

小一時間もいれば健康な人間でももがき死ぬレベルの重度汚染。

コジマ実験施設の最奥ですらここまでの汚染はないだろう。

 

『……』

 

オーン…

オーン…

 

企業が搾取し殺した者達の怨念のような声が砂漠に響き渡りガロアのバイタルサインが一気におかしくなっていく。

 

『…!』

 

そんな不調を振り払うように、浮かんだままほとんどその場から動かないアンサラーに向けて背部からグレネードとロケットを発射した。

幾らセンスが無くてもあれだけ大きな的が動いていなければ外しようがない。

 

(そうだよ…誰だってそうするのに…何故…?)

セレンの不安は数瞬後に空中で弾けた二つの爆発を見て確信に変わった。

 

「迎撃システムだ!!ダメだ、ロケットとグレネードは効かない!」

叫んだ瞬間に遠くからは骨と見えた巨大な翼から無数のミサイルが放たれる。

豊作に歓喜する蝗の群れのようにアレフ・ゼロにミサイルが迫ってくる。

 

『……!!』

 

「コジマミサイルか…!」

恐らくは真っ直ぐ立ってもいられない程の頭痛と嘔吐感に襲われているのだろうに平常通りに全てのミサイルを撃ち落とした瞬間に緑の粒子が弾け、

とうとうプライマルアーマーが完璧に剥がれてしまった。

 

『…ガッ…カッ、ゲボッ!』

さらにヘッドセットを通して耳に嘔吐の音が響く。

思い切り胃をぶん殴ってもこうはならないというのに。

 

「…ダメだ…退避しろ…」

どさくさに紛れて放ったマシンガンの弾までもが直撃する前に蒸発する様を見てセレンは脊髄が凍り付き汗が冷水になっていくのを感じながら命じた。

 

 

 

 

『退避しろ!聞こえないのか!!』

 

「……」

怖い。勝てる訳がない。

今までの強敵との戦いで怒りや狂気で隠してきた感情、恐怖が一気に湧き上がり臓腑を包む。

やはり自分は間違っていなかった。暴力こそがこの世で最も強い力なのだ。その前にはちんけな戦略やプライドなど命と共に砂となる。

 

「……!?」

役立たずの武器を捨て、さぁ尻尾を巻いて逃げる準備が出来た、と思ったのに何故かムーンライトを起動し構える。

表面上は間違いなく怯え竦んでいる心の底からの声と、ムーンライトからの声がシンクロしたような気がした。『ふざけるな』と。

 

「…!…??」

飛んできたミサイルを転がるように回避し、狙い放たれたレーザーをエネルギーを送りこんだムーンライトで弾き飛ばす。

最初の回避はともかく、今の行動は神技だった。

 

『ガロア?!何をしている!?そこに突っ立てるだけでも寿命が縮んでいくんだぞ!』

 

「……」

ああ、またずれた事言っている。セレンはなんだかんだ自分には甘い。そういうことじゃない。自分の道はそういうものじゃないはずだ。

 

「……」

それにしてもこのブレード。

この前にしてもそうだ。自分で動かしていたと言うよりも、まるでこのブレードが動きたい場所に手を添えて動かしていたような…

 

今もまるで…というか今、生き死にの際にいるからか。

聞こえる。ブレードから恫喝、いや叱咤するかのような声が。

『戦えっッッ!!!!』……と。

このブレードは一体どんな奴が使っていたんだろうか?

 

『耳がやられたのか!?大丈夫か!?』

 

「……」

大丈夫。耳はやられていない。やられていたのは、心だ。

人をここまでさんざ殺しておきながら今更腰が引ける。

そんなこと許される筈がない。

 

 

 

(その道を行くと言うのなら、曲がらないで)

 

 

 

 

「……」

今ここで心が折れたら、曲がってしまう。

何の為に友を殺してまでここに来たというのか。いざという時に尻尾を巻いて逃げる為では無いはずだ。

 

「……」

混濁とした意識の中でやけにブレードを持つ左腕だけがはっきりと感じられる。

だが、勝ち残るのにこれではダメだろう。

 

「……」

やけに色んな事が頭に浮かんでくる。さっきのレーザーキャノンから多分まだ三秒も経っていないというのに。

 

「……ふーっ…」

狭いコックピットの中、ガロアは静かに息を吐いた。

生き死にの際まで久々に来た。通常の神経の者なら失禁して逃げ回っている場面のはずが、ガロアは笑っていた。

好きなんだろうな。命のやり取り、それ自体が。

霞む頭の中でそう思いながら右手の小指と薬指を握り…

 

べきっ

 

思い切り逆方向にへし折った。

 

『何の音だ!?おい!!』

 

「……ッッ!!」

ネクストからのフィードバック等では無く怪我を伴うリアルな激痛がどこかふわついていた意識を身体の中に引き戻し、倦怠感と嘔吐感がどこかへとんでいく。

この痛み。どうせ死ねば痛みもない。死は一瞬で全てを攫っていく。

 

「……」

今一度…この戦場で猛る心を以て勝ち残りたい。

ここに来てガロアの心は激怒とはまた別の感情に駆られて燃え上がっていた。

身体を裂くような魂の高揚は一生のうちに何回も味わえる物では無い。

すなわち、絶体絶命、敗色の濃い敵に相対したときのみだ。

 

ブレードが慟哭するのに合わせて振ると、大した速度も出ていないのにヒュゥンッ、と空を斬る音がした。

 

「……」

ブレードの導く動きに身体を合わせて、今度は思い切り振ると眼に入ってすらいなかったレーザーを弾きとばした。

 

『ガロアっ…!』

 

「……」

のろい。あの毒の空気みたいなのが無ければこいつは全然大したこと無い。

先ほどまでの怯えた心が嘘のようにガロアは空高くに浮かぶアンサラーを見下していた。

 

どちらが王か決めよう。

 

そんな事を何度も思う人生というのはそうそうないのだろう。

自分の前にはあまりにも強大な王たる者が何度も立ちはだかった。

その全てをここまで破壊してきたのだ。

 

「…ふーっ……」

ブレードがカタカタと震えさっさと動かせ、と伝えてくる。

 

「……」

走馬灯の如く、過去の全ての戦いが脳内を駆け巡っていく。

ここまでの経験の中からただ一つ導き出された勝利の鍵がレーザーキャノンがブレードとぶつかり弾ける音と混ざり合う。

勝利の鍵が頭に浮かんだ。その鍵は不思議なことに今まで戦った敵の中で一番弱い者との戦いであった。

 

月光を構える。

先ほどのような硬さも無く、腰も引けていない。

 

「……」

誰一人としてわけ隔てることの無い暴力たらんと覚悟し戦いに臨んできた。

しかしその戦いは苦節に満ち、強者たらんと決意した自分をも飲み込まんとする弱者の大群。

 

千の肯定を以て一の否定を肯定とする。さもなくば消す。

そのおぞましき群れはまさしく幼い時分のガロアを苦しめてきた理不尽な暴力そのものだった。

 

今の自分はあらゆる理不尽を蹴散らす圧倒的な個の力か、負けて死ぬ雑魚かの瀬戸際にいる。

 

「……」

あれはなんなんだ。あの断末魔のような音を上げるデカブツは。

理不尽な暴力を振るう弱者という矛盾が生み出した怪物か。

 

「……」

新体操のリボンのようにくるりと柔らかく廻した月光はその螺旋の角度に寸分の狂いも生じることなく中心へと向かいアレフ・ゼロの機体を紫電の光で覆い隠した。

その電刃が中心に到達した瞬間、本来なら一連の動作で起こったであろう風が一遍に吹き荒れガロアの髪は全て逆立ち、砂地に超自然的な波紋を残した。

 

『……っ!』

 

その理論の極致とも言える動きに敵もセレンも見惚れて、一瞬動きを止めてしまった事を誰が責められようか。

 

「……」

この動きだ。

言葉にすればそうなるのだろうか。

既にガロアは思考をやめて、ひたすらに鍛えた身体とここまで生き残ってきた運命、そして異様に震えるムーンライトに身を任せていた。

 

ぴたりと時間が止まった戦場で、鯨が潮を吹くようにアンサラーがミサイルを吐き出すと同時にアレフ・ゼロは動いた。

 

巨大な弾丸となったアレフ・ゼロは、途中でぶつかった廃ビルを木っ端みじんに打ち砕きながらアンサラーへと向かう。

 

かつて対峙した中で最も弱いと断言できる敵、ノーカウント。

最後に奴の機体を掴みあげて回転しながら地に叩き落としたあの動きを、アレフ・ゼロは柔らかく動く手首による月光の回転をさらに追加して再現していた。

月光がそうしろと言っているかのようだった。

 

呆気にとられていたアンサラーの中身などどこ吹く風、アレフ・ゼロは翼の一つを斬り飛ばした。いや、貫通したと表現するべきか。

ズブッ、とおよそ機械同士がぶつかりあったとは思えない音が戦場に響いた。

 

 

 

 

『……』

 

「ガロア!?何をしているんだ」

映し出される映像は目まぐるしく回転している。見ているだけで気持ち悪くなってきた。

ブレードを起動しながら高速回転し突撃する。

確かに出来ないことは無いのだろうが、誰がそんな無茶苦茶を実践する?

実際、この送られてくるアレフ・ゼロからの映像は人間の目でどうにかなるものではない。

 

『……』

ゾンッ、と不気味な音をたててまた一つ、翼が捥がれた。

 

(か…勝つのか…?)

 

バチィン、と耳がどうしてもいやがる様な高い音が響く。

 

「……う…!」

思わず目を逸らしてしまったが、放たれたレーザーキャノンはアレフ・ゼロを取り巻くブレードの光に弾かれ全く意味を成していない。

追う形となったミサイルはアンサラーの上へ下へと移動するアレフ・ゼロを追いきれずに無様にも自分に当たってしまっている。

 

『……』

 

(か、勝てる!)

セレンがそう思っている間にもアンサラーの上部にあるミサイル発射口が破壊された。

 

(なのに…この感じは何だ?)

勝利をほぼ確信しているのに心の底を舐めるざらりとした紙やすりのような違和感。

 

『……』

次々と翼を切り落としたアレフ・ゼロはとうとうアンサラーの中心へと向かっていく。

 

(そうだよ…これくらい…出来ないことはないだろう)

別に格闘機じゃなくてもそれなりの速度があれば、レーザーキャノンもミサイルも落ち着けば躱せるだろう。

攻撃が出来ないだけで。

 

(…!待てよ…)

ブレードで今ザクザクと斬れているのはいい。

しかしスプリットムーンもブレードを持っていたではないか。それもあのムーンライトを。

 

(何か…誘い込まれているような…)

わざとあの弱点にしか見えない中心部を隙だらけにしている気がする。

 

その時セレンの脳裏に浮かんだ物は万遍なく破壊しつくされたスプリットムーンの残骸。あのような破壊が出来る兵器を、一つ知っている。

点と線が結びついた瞬間、肌は粟立ち、瞳孔は猫科の動物のように開いた。

 

「アサルトアーマーだ!!」

 

 

 

『アサルトアーマーだ!!』

 

「……」

もう遅い。

目の前にある中心部にコジマ粒子が収縮していく。

 

あの残骸を見たときから、思っていた。

自分と武装がそっくりだと。

 

それでいて負けたのは単純に弱かったからなのか、はたまた弱点を突かれたからなのか。

 

今となってはどちらでもいい。月光が教えてくれた勝利の鍵。その最後のピースは右腕に掴んでいた。

コジマ粒子の奔流が襲い掛かる直前にアレフ・ゼロは右腕に掴んでいた最初に斬ったビルの瓦礫を投げつけた。

その直後に荒れ狂う破壊の波が周囲一帯を飲みこんだ。

 

 

「……」

 

『生きてる…のか?』

回転を止めたアレフ・ゼロは投げつけた瓦礫の影で流れに逆らう川魚のようにに身体を伸ばして隠れていた。

 

瓦礫は砂となり、アレフ・ゼロの部位のあちこちからアラートが出ているが、それでもまだ動いている。

アサルトアーマーを潜りぬけたのだ。

 

『ガロア…!』

 

「……」

 

オーン…

 

オーン…

 

命乞いをするかのような唸り声。

地面を這う全てを砂にしてきた暴力の塊が断末魔を上げる。

もうその姿には支配者の威光など欠片も無く、台風の日に引きずりまわされてぼろきれになった傘のようだった。

 

天を背に負い、泣きじゃくるアンサラーをアレフ・ゼロの紅い複眼が射抜いた。

その瞬間アンサラーの乗組員は生まれたことすらも後悔しながらこれから自分がどうなるのかを察した。

 

「……!!」

最大出力の月光は天高くまで伸びて雲一つない蒼穹を裂き、

 

 

ザンッ

 

 

企業の答を真っ二つに叩き斬った。

 

 

 

 

 

 

 

『以上だ。勝手な行動は許さん。ウィン・D・ファンション』

 

「なるほど…大した管理者だ。偉そうに、非戦闘員を守る、そんな格好すらつけられないか」

 

『好きに言うがいい。だが貴様の地位も力も企業あってのものだという事を忘れるな』

 

「……」

会議室のモニターが暗転する。

会議室、とはいうものの人間はウィン一人しかいない。

ローディーもスティレットもいつの間にやら今回の戦争で死んでいたらしい。

ランク一桁で生き残ったのは自分とロイだけ。

独立傭兵のロイには依頼を断る権利もあったと考えれば今回の戦争は完全に企業側の敗北。

降伏も理解できなくはない。

 

「ふん」

ウィンにはどんでん返しの秘策がある。

自分自身でもあまり実行に移したくは無かったがここまで来た以上はなりふり構ってはいられない。

このままクレイドルが地上に降りれば大勢の人間が…いや、格好つけずに言えば家族が死ぬ。

 

(だが…どうする?)

恐らくはネクスト格納庫にたどり着くまでには兵が配置され、ネクストも出撃できないようにされているだろう。

ここからそこまでの道程を無傷で突破するのはあまりに薄い可能性だ。

 

(やるしかないか…!)

使いたくは無かったが大事の前の小事、ホルスターから拳銃を抜き、扉を開けて先ほど兵士が立っていた方に銃を突きつける。

 

「!?」

しかし小銃を携えて直立していたはずの兵士は鼻血を出しながら気絶しており、代わりによく知る男がそこには立っていた。

 

「よう、ウィンディー。さっさと格納庫まで行くぞ」

 

「ロイ!?何故!?」

耳をすませば蜂の巣をつついたような騒ぎが聞こえ、

一際騒がしい左側に目をやれば2mはあろうかという髭面の大男がカラードの兵士を殴り飛ばしていた。

 

「いつだって俺はお前の力になるぜ、って言っただろ。企業もORCAも知ったこっちゃねえが俺はお前の味方だ」

大男に親指を立てながら恥ずかしげも無くそんな事を言うロイの顔には気後れが無い。

 

「すまない…ロイ。力を貸してくれ!」

 

「合点承知!!」

 

ロイ・ザーランドとウィン・D・ファンション一行がカラードで兵士を殴り倒しながら格納庫へと進んでいる頃、ガロアはボロボロのアレフ・ゼロと共に帰還した。

 

 

 

 

「自分で折っただとぉ゙~?」

ボロボロのアレフ・ゼロのコックピットから降りてきたガロアが吐瀉物に汚れていたのはまぁいいとして、変な方向に曲がり赤黒く変色した右手の指を見て顎が落ちた。

 

「……」

 

「バカか!?バカなんだな!?」

残念ながら自分は医者ではないので添え木と包帯で固定するくらいの応急処置しかできない。

静かな医務室で喚き散らしているのは自分だけで、何とも無さそうな顔をしているガロアを前にしていると騒いでいる自分の方が間抜けに思える。

 

「……」

処置が終わり手から顔に視線を移すとにかっ、と笑うガロアの顔。

 

「ふぬーっ!!こんガキャあ!!何を、何を笑っているんだ!!何を!!」

かーっと頭に血が上り怪我人の上、今さっき戦場から戻ってきたばかりだという事も忘れてガロアの両耳を頬ごとギチギチと思い切り引っ張る。

 

「…!…!」

 

「お前が、お前が、この!…お前は…口が利けないから…」

顔の皮を伸ばしていた指からだんだん力が抜けていく。

 

「……」

 

「ネクストに乗っているときは…しょっちゅう指示を無視しやがる…お前は口が利けないから…反応がないと途端に不安になる」

 

「……」

 

「しかし…」

 

(強くなれと言ったのは自分だからな…罪悪感もある)

 

(吹っ切れた…訳ではなさそうだな。ただ進んでいるだけか。己の道だと信じた道を)

 

「お前右利きなのになんで右手の指を折ったんだ?せめて左にしろ」

いや、それも違うけど、と自分に突っ込む。

 

「……」

もちろん言葉で答えが返ってくることも無く、ガロアはただ左手をじっと見ている。

 

(…そういえばブレードはずっと左手に…だからか?)

 

「……」

 

(天下無双だが最強だが知らんが…なるだろうよ。ならなければ生き残れないんだから)

 

「……」

 

(でも…そんなただの言葉に何の意味があるんだ?何故ガロアにあんな物を送った?分からん…)

 

我執が変わり果てた先の言葉の意味をセレンが考え込んでいるとき、この戦争の最終戦が始まろうとしていた。




超級覇王電影弾やんけ!

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