研究装置の製造、開発で研究機関から高い評価を得ている真壁技研。数多くの特許技術を保有し、近年は地元・仙台のみならず、全国各地で営業活動に力を入れ取引先を開拓してきた。経営に予算管理の考え方を取り入れている真壁英一社長と真壁昌宏常務を中心に、計数経営の勘どころを聞いた。

オンリーワンの機械装置で大学の研究活動を支える

真壁技研:真壁社長(前列左)

真壁技研:真壁社長(前列左)

──製造されている機械について教えてください。

真壁社長(以下社長) 主に大学の研究室で使用される新素材開発用の研究装置をつくっています。当社が得意としているのは金属を急激に冷却する急冷技術です。金属が凝固すると結晶ができますが、当社の「液体急冷装置」は金属の結晶粒を微細化し、強度を高めるのに役立てられています。

──大学と進行中のプロジェクトはありますか。

社長 名古屋工業大学と結晶粒の微細化技術に関して共同研究を行っています。2014年には、アルミニウム合金の強度を向上する結晶粒微細化剤を開発しました。研究開発では、溶解した金属に高圧のガスを吹き付けてミクロン単位の粒子をつくる当社の「ガスアトマイズ装置」を使用していただきました。微細化剤は将来的に自動車部品の製造などでの活用を見込んでいます。

──ニッチな領域ですね。

社長 われわれと同じジャンルの装置を製造している会社は、全国に数社あるぐらいですね。商談のときによくバッティングします。

──商談ルートはどのように?

社長 研究開発の成果を自社ウェブサイトに公表するのはもちろん、さまざまな学会に出席してPRに力を入れています。昨年11月の日本機械学会では、先に述べた結晶粒微細化剤の研究について社員が発表しました。市場が狭いぶん、口コミで話題が広がっていくんです。

真壁常務(以下常務) 以前は学会や論文で研究成果が発表されると民間企業が注目し、問い合わせをいただくことが多かったですが、近年は営業活動を通して商談を獲得するケースも増えています。毎月1週間ほど関東、関西圏に滞在し営業活動を行っています。2011年の震災をきっかけに、製品開発部門を設けて研究装置のグレードアップや急冷技術の向上を図ってきたため、営業活動に弾みがつき、お客さまの期待感も高まってきていると感じています。

──震災で足元を見つめ直したと。

社長 リーマンショック以降、大学の研究開発予算が縮小傾向にあったため、自立型の企業に脱皮するべく自社の強みを掘り下げ「急冷技術」に行き着きました。しかし、従来の職人根性だけでは社員は成長できないと考え、「科学性、人間性、社会性」をスローガンに、さまざまな社員参加による会議を行っています。会社案内も一新し、経営計画に基づく経営を実践しているところです。

PDCAサイクルを不断に回し目標達成意欲を植え付ける

──経営計画はどのように立てていますか。

社長 植松会計事務所さんからアドバイスをいただきながら、毎年部門ごとの目標を立てています。販売、技術、製造の各部門が重点目標を決めて、四半期の目標数値に落とし込んでいます。

──計画を発表する場は?

社長 仙台市内のホテルで決算期末である8月末に経営指針発表会を開催しています。社員だけでなく、常務と親しい若手経営者や金融機関の支店長もお招きして、部門長が年間計画を発表します。行動計画を実行することが正当に評価され、仕事のやりがいを生む風土にしていきたいと考えています。

齋藤貴宏監査担当 真壁社長は目標を社員と共有し、かつ社外に宣言してしっかり責任感を持って計画を実行されることを自らに課されています。立てた目標は『FX2』に予算として登録し、毎月社長と常務に目標に対する進捗(しんちょく)を確認していただいています。

──20年以上『FX2』を利用されていると聞いています。

社長 平成3年に社長に就任して以来、活用しています。私自身どちらかというと技術畑の人間でしたが、社長になると財務データを理解しなければなりませんから、損益計算書や貸借対照表の仕組みをよく勉強しました。

植松正美代表税理士 2代にわたりお付き合いさせていただいていますが、先代の社長は総務、経理部門を非常に重要視されていて、管理会計や顧問先企業のニーズを学ばせていただきました。書面添付も長年実践していただいています。

──経理体制を教えてください。

社長 1名の経理担当者が日々伝票を入力しています。業績をくわしく確認したいときに『FX2』の《変動損益計算書》を開いてもらい、勘定科目ごとの取引明細を納得ゆくまでチェックしています。気になったときに即座に原因を追究できるところが重宝しています。

──部門は登録していますか。

社長 現在は全社一括で管理しています。ただ、常務が『FX2』のデータを元に製品別や取引先別、地域別などの詳細な分析資料を作成していて、経営戦略を練るうえで役立てています。

常務 独自に作成したスプレッドシートでは、製品を液体急冷装置、ガスアトマイズ装置など5種類に分け、さらに売り上げも製造、サンプルテストなどに分類しています。地域ごとの売り上げを分析したところ、2015年8月期は海外の売上高が6割を占めました。

──変動損益計算書が経営戦略のベースになっているわけですね。

社長 ええ。期首に立てた経営計画を念頭に置き、月次あるいは四半期ごとに予算と対比し、打ち手を施すというPDCAサイクルを回すのを心がけています。そのためにもリアルタイムの業績を把握できる変動損益計算書の仕組みを理解するのが大切で、幹部社員には植松会計事務所主催の「戦略MG(マネジメントゲーム)セミナー」に参加してもらっています。

──戦略MGセミナーの内容は?

常務 経営者向けのセミナーで、製品開発や設備投資、マーケティングなどいろいろな行動計画をシミュレートして経営を疑似体験でき、非常に勉強になっています。おのずと変動損益計算書や貸借対照表の仕組みがわかってきました。

植松知幸所長税理士 当事務所では、変動損益計算書の考え方を知識だけでなく、ゲームを通じて体得してもらう場として戦略MGセミナーを開いています。セミナーに参加していただくと、計数管理の重要性をいっそうご理解いただけると思います。

TKCシステムでマイナンバー管理も万全

──月次業績で特にチェックしているポイントをお聞かせください。

社長 最も気になるのは売上高や限界利益などの目標に対する進捗度合いですね。画面を眺めるだけでなく、TKCの『月次経営チェックノート』を活用して、業績数値を書き込み1カ月間の行動をふり返るようにしています。

──取引金融機関からの評価はいかがでしょうか。

社長 前期は目標を上回る実績を残すことができ、新規融資の打診もいただくようになりました。経営計画でうたった内容を着実に実行することが信用度を高めるうえで重要だと感じています。

──ことし1月からマイナンバー制度の運用が始まりましたが、従業員の個人番号をどのように管理していますか。

社長 植松会計事務所のセミナーでマイナンバーの管理にはTKCの『PXまいポータル』が最適だと聞き導入しました。個人番号を提出するときに理由を尋ねる社員もいましたが、セミナーで学んだ趣旨を説明し理解してもらいました。

──TKCのデータセンター(TISC)で個人番号を保管する仕組みをどう感じますか。

社長 非常に強固なセキュリティーを備えたクラウド上で安全に保管されると聞いているので、これなら間違いないと思いました。なにより植松先生からお勧めいただいたのが大きかったです。

──今後の事業展開は?

社長 中国市場の取引が増えており、昨年中国に合弁会社をつくりました。大量の受注がある場合は中国で生産し、国内工場ではこれまで培ってきた技術力にさらに磨きをかけ、当社でしかできない製品を手がけていきたいと思います。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社真壁技研
創業 大正8年
所在地 宮城県仙台市宮城野区苦竹3-1-25
売上高 2億5,000万円
社員数 17名
URL http://makabe-g.co.jp/
顧問税理士 顧問税理士 植松正美
税理士法人 植松会計事務所
宮城県仙台市宮城野区鉄砲町中5-6
TEL:022-297-2771
URL:http://www.uema2.com/

掲載:『戦略経営者』2016年2月号